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私が迷子?

 収穫祭当日。つい先程、一緒に行くはずだったお父様が、大泣きしながら屋敷を後にした。王城から呼び出されたのだ。なんでも王城に結界を張る為の装置が不具合を起こしたらしい。祭りや舞踏会など人の出入りが特に激しい時は、王城全体に結界を張って、許可を得ていない者は入れないようにしているのだ。その装置に不具合が出たとなっては、どんなにお父様が駄々をこねても行かなくていけない。


お父様が行けなくなった事でスピナジーニ夫人も行かないと言い出し、結局、本の通りに三人で行く事になってしまった。

『怖い怖い。お父様が行く事自体がなくなる事になるなんて』

この事実に、私の中に急に恐怖心が生まれた。結果は違っていても、発端は本の通りになるのだ。得体の知れない、おかしな力が働いているようで私は怖くなった。

『間違っても男たちを侍らせて、祭りを楽しむなんてしたくないのよ。私にはそんな趣味はないんだから!』


エントランスに向かうと、兄様と階段の所で一緒になった。お兄様のエスコートで階段を降りる。

「リアはシンプルな服装をしていても美しいね」

「お兄様こそ」

そんな風に互いに褒め合っていると、シシリー嬢がやって来た。

「え?」

「マジか?」

シシリー嬢は勿論だが、彼女の侍女もTPOというものがわかっていないらしい。彼女の出立ちは、ショッキングピンクのドレスに大きな鍔の帽子。帽子にはレースがフリフリだ。

「あのねぇ、そんな派手な格好で街へ行ったら、どうぞ襲って下さいって言っているようなものよ。街に溶け込む格好にしなさい」

呆れながら私が言うと、途端にシシリー嬢がウルウルし出す。

「そんな……初めての三人でのお出かけだから、頑張って支度をしたのに」

「だから、その頑張り方が間違っているって言っているの。そんな格好で行ったらすぐに誘拐されるわよ。身代金要求ならまだしも、他国に売られてしまう可能性だってあるのよ」


強く言うと泣き出してしまった。泣いたからってねえ、私の意見は正しいのよ。

「まあまあ」

お兄様が私たちの間に入ってきた。そして彼女に向き合う。

「シシリー嬢、言い方はきついかもしれないけれど、リアの言っている事は正しいよ。もう少し街に溶け込める服装にした方がいいと私も思う。ほら、私たちだってそうだろう」

そう言ったお兄様は、飾りのないシンプルな黒のシャツに黒のパンツ。こげ茶のワークブーツにマント姿だ。私も濃いめのブルーのワンピースにマント姿をしている。

お兄様がそう言うと、シシリー嬢はトボトボと着替えに戻った。


待つ事15分。戻って来たシシリー嬢は、オレンジ色のワンピースに白いマント。十分目立つが髪の色が黒だからまあ、まだいいだろう。先ほどよりはましだし、これ以上待たされるのも嫌だし。


こうしてやっと祭りへと向かう事になった。


 夕焼けが美しい中、街へ到着する。

「わぁ、もう既に賑やかね」

自然とテンションが上がる。クーも尻尾がブンブンしている。さあ、突入するぞと大きく足を踏み出すと、お兄様に腕を掴まれた。

「リア、万が一はぐれたら真っ直ぐに帰るんだよ。私はあの子を見ていないと。あれは絶対に襲われるか迷子になるか……嫌な予感しかしないから」

そう言っている間にもシシリー嬢は、既に私たちから離れ出している。よく知らないくせに、どうして勝手な行動を取る事が出来るのだろう。ま、迷子にならないと本の通りにはならないのだから仕方がないのかな。

「私なら大丈夫よ。毎年来ているんだし。ここで私に勝てる人なんてそういないでしょうし、クーもいるしね。お兄様とのデートが台無しになるのは嫌だけれど、彼女が問題を起こす方がもっと嫌だもの」

「リア……」

感動した表情のお兄様。感極まったようで、私の頬に数秒間キスを落としまくった。


「早くない?」

あれから2軒程屋台を見た。2軒目で、薄い皮に肉や野菜が巻かれた物を買っている最中にシシリー嬢が消えた。慌てたお兄様が、かろうじて見える彼女の姿を追って行ってしまった。


「家に帰れと言われたけれど……まだ満喫のまの字もしてないし」

クーに買った物を分けながら考える。

「二人で楽しんじゃう?」

『うん!僕もっと色々食べたい』

という事で、クーと一緒に祭りを楽しむ事にした。収穫祭と言うだけあって、他の祭りより食べ物の屋台が多い。私たちは食べられるだけ食べまくった。軽食からデザートまで。クーに至っては、その小さな身体の何処に入ったのだろうかと疑問になる程だった。


『ねえ、僕あれやってみたい』

クーがひとつの屋台の前で止まる。小さな輪を数字の書かれている的に投げ入れるゲームだ。輪に入った数字の合計で、もらえる景品が変わる。

「ふふ、いいわよ」

屋台に入って輪を貰う。

「はい、クー」

そう言って輪をクーに渡そうとすると、後ろから声を掛けられた。


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