とうとう本の通りに⁉︎
どうして私の隣にシシリー嬢が座っているのだろう。
魔術の時間。AクラスとDクラス合同で、席は特に決まっていない。レンゾ様と真ん中より少し後ろに座ると、何故かシシリー嬢が反対の隣に座って来た。
「ミケーリア様、ここいいですか?」
座ってから聞くんかいと脳内で突っ込んでいると、まるでそれを聞いていたかのようにレンゾ様がクスクス笑う。クーは彼女の事が嫌なのか、私とレンゾ様の間に座り直した。そして、何故か後ろにはアルノルド王子、ミアノ様、パウル様が座っている。お兄様以外の主要人物が全員集合状態だ。もしかして、シシリー嬢は既に侍らせ始めているのかもしれない。あれ?これはもしや、私はお邪魔虫?
離れた席に移動した方がいいのか、それともこのままでいいのかと迷っているうちに、授業が始まってしまった。
皆の目の前には、それぞれ3冊の本が並べられてた。
『やっぱりこれなのね』
本の通りに授業は進んでいった。
『クー、このままだとシシリー嬢の魔力が暴発するかもしれないから、いざとなったら逃げるのよ』
そう言う私にクーは、ニッコリとした。
『大丈夫。リアが危険な目に合ったら僕が守るんだもん』
『あら、頼もしいのね』
胸を張っているクーを撫でる。毛並みの気持ち良さを堪能していると、隣から声が聞こえた。
「あれ?全然浮かばない」
シシリー嬢だ。どうやら本を浮かばせようとしているが、上手く行かないらしい。何度も指先に魔力を溜めて放出する事を繰り返している。私は勿論、とっくの昔に並べ終わっている。
そして、事件は起こった。教室内に大きな蜂が迷い込んできたのだ。
「キャー!」
女子生徒の叫びがあちこちから聞こえ出す。勿論、隣でも例外なく叫んでいる。そして魔力を集めていた指先をブンブンと振っていた。
蜂よ。君も【光の乙女は恋を知る】を読んだのかい?そう聞いてみたくなる程、彼(?)は自分のなすべきことをわかっていた。逃げ惑う人々を馬鹿にしたように飛び回りながら、着実にシシリー嬢の方へ向かってくる。
『今日こそは本の内容通りになるのね』
感動すら覚えた私は、すっかり油断してしまっていた。シシリー嬢の振っていた指先には異常な程の魔力が集まっている。明らかに指では制御出来ない膨大な魔力が、指先に集中している。
いよいよ魔力の暴発が、今まさに起ころうとしていた。
「嫌だ!怖い!」
真っ直ぐこちらに飛んできた蜂に向かって、シシリー嬢の指から魔力が放たれる。私に向かって……。
『どうしてなのぉぉ』
『リア!』
咄嗟にクーが私に向かって魔法を放った。まるで保護膜のような物に、全身がくるまれた感覚がした。
「クー」
クーの保護膜のお陰で私は、魔法の直撃から免れる事が出来た。直撃からは。しかし、暴発した威力によって生じる衝撃には耐えられなかったのだ。衝撃をもろに食らった私の身体が奥の壁に向かって吹き飛んだ。
『ギャーッ!ぶつかる』
パニック状態の私には、目を瞑ってこれからやって来るであろう痛みを覚悟する事しか出来ない。私は睫毛が埋まる程強く、目を瞑った。
吹き飛んだ私の身体が、何かにぶつかった感覚がした。けれど、不思議な事に痛みはやって来ない。ぶつかった背中には、ほんのりと温もりすらあった。
「あら?」
ギュッと瞑っていた目を開ける。私の視界には、驚いた表情をしている皆が少し離れた場所に見えていた。
『リア!』
座り込んだ体勢の私の胸にクーが飛び込んできた。
「クー」
『良かった!僕の魔法、間に合ったみたいだね』
「クー、ありがとう」
出来る事なら膜じゃなくて、壁みたいな方が良かったかなぁ、なんて思っちゃうけどね。五尾をブンブンして私の頬にすりすりしている可愛い子にはとても言えない。私は心の片隅だけで、そっと突っ込んでおいた。
「そう言えば……」
どうしてこんな所まで飛ばされたのに、痛みが何もなかったのだろう。そう思っていると自分のすぐ横に、私のではない足が見えた。




