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もしかして、これが出会い?

 ふと、頬に何かが触れる感触で意識が現実世界に戻る。

「クー?」

クーがすり寄っているのかと思い、閉じていた瞼を開けるとクーは膝でまだ眠っている。

「あら?」

ならばなんなのかと確認しようと顔を上げると、目の前に輝く金の髪が目に入った。


「え?」

私の目の前には身をかがませたアルノルド王子がいた。

「すまない。起こしてしまったか」

頬に触れていた彼の手が離れて行く。私の頬に触れていたのはアルノルド王子の手だったらしい。

「髪が頬にかかっていた。気を付けて払ったつもりだったが……すまない」

「いえ……ありがとうございます」

胸がトクンと鳴る。頬に触れた手の温度が、柔らかいテノールの声が、何故か私の心を落ち着かなくさせた。


「ここが気持ち良くて……いつの間にか眠ってしまったようです。起こして頂いて良かったです」

不可解な心のざわつきを誤魔化すように言い訳と礼を述べると、王子がフッと小さく笑みを浮かべた。

「そうか……まあ確かに、ここは気持ち良いからな」

『うわぁ』

なんとも言えない柔らかな笑みに、心の中で感嘆の声を上げてしまう。そんな表情を見せられたら、世の女性たちは皆アルノルド王子に恋をしてしまうだろう。イケメンの恐ろしさを感じたせいか、首のあたりがゾクッとしてしまう。


すると王子が立ち上がり私の肩にふわりと何かをかけてくれた。自身の上着を私の肩に掛けてくれたのだ。

「陽は暖かくても風は少し冷たい。冷えただろう」

「ありがとうございます。でも、これでは殿下が寒くなってしまいます」

流石王子というのか、気遣いが素晴らしい。でもそれで、王子が冷えてしまっては本末転倒だ。私は上着を返すため肩から外そうとするが、王子に押さえられてしまう。

「私は大丈夫だ。女性であるミケーリア嬢が、身体を冷やすのは良くない」

「……ありがとうございます」

アルノルド王子の優しさに、くすぐったいような気持ちになる。二人の間に少しの沈黙が訪れた。

『何か話をした方がいいの?』

嫌な沈黙ではないが、このまま黙っていると私の心臓の音が聞こえてしまうのではと、そんな風に思っていると後ろから声が聞こえた。


「あれ?どうして……?」

数メートル後ろで、不思議そうに言葉を零したのはシシリー嬢だった。

『やっと来たわね……って、この状況は不味くない?一体どうしたらいいの?』

またもや逆の位置づけになっている事に、やはり早く来過ぎたのかと心の中でだけパニック状態になる。

『今すぐ一度、ここから出るべき?それとも何か彼女に言いがかりをつける?』

あれこれ考えるが、どれも上手い手とは言えず何も出来なくなってしまう。


「君は?」

頭の中をグルグルさせていると、アルノルド王子が彼女に声を掛けた。あれ?そう言えば出会いの場面もそんなつもりはなかったが、私が奪ってしまったのだった。もしかしたら二人はこれが初対面、出会いの場所になるのではないだろうか。思わずシシリー嬢を見つめてしまう。もしかしたら二人の間に、何か感じるものが芽生えたかもしれないと思ったのだ。そこを見過ごさず、いいタイミングで毒を吐けば私の本日の役目は終了になるかもしれない。

「あ、私はシシリー・スピナジーニです」

ニコニコ顔で自己紹介をする彼女に、思わず溜息を吐いてしまう。もうちょい気品を感じさせる挨拶は出来ないのかと、印象付け出来るような挨拶は出来ないのかと、脳内で突っ込む。

「スピナジーニ……」

しかしアルノルド王子はダメダメな挨拶を気にする事なく、呆けたような表情でシシリー嬢を見つめていた。

『これは本気で出会いの場面なのでは?』

そう思った私は、小さく拳を握る。同時に一瞬、胸の中心に痛みが走る。どうやら興奮しすぎたようだ。ジッと見つめられたシシリー嬢は、頬をほんのり染めてアルノルド王子を見つめ返していた。どうやらシシリー嬢も、アルノルド王子に好印象を抱いたらしい。


『これは中々いい感じね。どの辺りでガツンとやってやればいいかな?』

二人の見つめ合いに毒を吐くタイミングを見計らっていると、突然アルノルド王子が声を上げて笑い出してしまった。


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