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お兄様

「一体どういう事と、お聞きしたいのはこちらです」

殺気の正体はお兄様だった。スピナジーニ夫人がたじろいだ事で、扉の向こうのお兄様の姿が私からも見える。お兄様の背後の廊下にある明かりの加減が絶妙で、美しい笑みが悪魔のように恐ろしく見えていた。

「こんな夜更けに、何故リアの部屋で騒ぎ立てているんです?聞こえてくる内容もどうでもいいような事ですし。そんな些事をこんな遅い時間に、しかも居候の身であるあなたが、世話になっている公爵家の娘に向かって?一体どういう神経を持っていれば、そんな常識外れな事が出来るのです?ふふ、驚き過ぎて殺気を抑えられませんでしたよ」

「わ、わ、私はシシリーの為に……」

吃りながらも何とか反撃をしようと試みる夫人だが、お兄様の口撃がそれを許さない。更に被せるように続いた。

「シシリー嬢の為に、私の妹の部屋にこのような夜更けに入ったと?随分と娘想いですね。素晴らしい母親だ。では私は、妹想いの兄としてあなたと真っ向から対峙いたしましょう。負けるつもりはありませんよ」

静かに淡々と話す姿が、更に恐ろしさに拍車をかけている。あまりの迫力に夫人が後退りしたのがわかった。

「どうしました?もう言い訳はおしまいですか?」

更に追い詰めようとするお兄様に我慢しきれず、夫人は逃げるように私の部屋から出て行った。お兄様の完全勝利だ。

「ありがとう、お兄様」

お礼を言うとベッドの側まで来てくれたお兄様が、先程までの殺気が嘘のように優しい笑みを浮かべた。

「これくらいどうという事はないよ。さ、もう遅い時間だ。ゆっくり眠りなさい」

「うん、おやすみなさい」

「おやすみ、リア」

そう言って、静かに扉を閉めて去って行ったお兄様。


私は星明りが映る天井を見ながら、本の中のお兄様と本物のお兄様の違いを考えていた。



【シシリーという素晴らしい義妹が出来て、私は幸せ者だ。これから先ずっと、私がシシリーを守って行くよ。ミケーリアからもね】



「随分違うわよね。お兄様に至っては、私がどうこうする前からスピナジーニ親子を煙たがっていたし。一体あの本は何なのかしらね。合っているようで間違っている事が多々あるし。本の通りに動こうとしても、違う結果になるし」

そんな事をとめどなく考えているうちに、私の意識は夢の中へと落ちて行ったのだった。



 翌日。午後になると、スピナジーニ親子はいそいそと外出して行った。

「随分着飾って出掛けたけれど。一体何処へ行ったの?」

親子三人、居間でお茶を飲みながら、お父様に聞くと「お茶会だって」と返事が返って来た。

「え⁉︎あの格好で?」

思わず聞き返してしまう。膝に乗っていたクーが、びっくりして一瞬浮いた。

「父上、夜会の間違いでは?」

「はは、夜会の訳ないじゃないか。まだ午後になったばかりだよ。確かにお茶会だと言っていたよ。その為に服を新調したいって言われたから」

お兄様と目を見合わせる。考えている事はきっと同じだ。

「父上、どうしてスピナジーニ親子にそこまでしてあげるんです?」

お兄様がど直球で聞いた。しかし、お父様の方は当然だという表情をした。

「子爵は親友だったからね。おまえたちの母親を亡くした時も、彼にはずっと励ましてもらっていたんだ。こんな事でいいならいくらでも手助けするさ」

まあ、別にお金に困っている訳でもないからいいのか。お父様を見る限り、あの親子に肩入れしているような素振りもない。私はそれ以上突っ込む事はしなかった。それにしてもあの格好でお茶会かぁ。何処の家のお茶会か知らないが、恥をかくだけだろうな。あんなド派手な格好、他に誰も居ないだろうから。


そんな風に考えていると、お兄様が再びお父様に質問した。

「父上、まさかあの夫人の事を好きだとか思っていないですよね」

父上は、キョトンとしてから大笑いした。

「あははは、まっさかぁ。あいつには悪いけど、よくあんな女性を奥方にしたなって思っているよ。魅力のみの字も感じない」

お父様の答えにホッとするも、まだ安心は出来ない。

「それならお父様。夫人に対して何か策を講じた方がいいわ。きっと今日のお茶会でも、自分に都合のいい事ばかり言いふらしそうよ」

絶対に自分はいずれ、お父様の後妻におさまる予定だとかなんとか言うに決まっている。外堀から埋めて逃げられないようにするなんて事を、平気でやってのけそうだ。けれど、お父様は余裕綽々という表情で笑った。

「それは大丈夫」


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