最初の週末
週末。アネリと一緒に街で評判のスイーツをお土産に買ってから屋敷に帰った。
「リアぁぁ、お帰りぃぃ。寂しかったよぉぉ」
目をウルウルさせたお父様が、家令より先に自分で扉を開けて私たちを出迎えた。
「ただいま、お父様……えっと?お仕事はどうしたの?」
今日ってお休みの日だった?不思議に思ってお父様を見つめると、とってもいい笑顔で返事が返って来た。
「そんなの。リアが帰って来る日だから休んだに決まっているじゃないか」
当然でしょ、という顔で話すお父様に、軽い頭痛を覚えてしまう。いや、いや。ダメでしょ。
「お兄様は?」
私を居間にエスコートするお父様に聞くと、またもやいい笑みを作ったお父様。
「ヴィートは仕事しているに決まってるじゃないか」
「あ、そうですか」
後ろから付いてきている家令が、私にぼそりと呟く。
「ヴィート様は、それはそれは恐ろしい形相で、王城へ向かいました」
うわぁ、お父様の命は、今夜で終わるかもしれない。隣でニコニコのお父様を見て、小さく溜息を吐いてしまう。
居間に入ると誰もいなかった。
「あれ?シシリー嬢は?とっくに帰っているはずよね」
私の問いに答えたのは、お父様ではなく家令だった。
「2時間ほど前にお帰りになっております。スピナジーニ子爵夫人とシシリー様のお部屋で、何やら真剣にお話をされているようです」
「へえ、そうなんだ」
あの二人でも真剣に話す事なんてあるんだと、中々失礼な事を考えながら居間に入る。お父様と二人で居間でお茶を飲みながら、学院生活の話をしたり、お父様がどれだけ寂しい日々を過ごしたかを聞かされたりしていると不意に、扉が開いた。
「お帰り、リア」
そこには美しい笑みを浮かべたお兄様が立っていた。
「ただいま、お兄様……お仕事はもう終わったの?」
帰って来るには早い時間だ。一応ではあるが聞いてみると、思っていた通りの答えが返って来た。
「ああ、もう今日はもう終わりにしてきた。リアが帰って来るのに、暢気に仕事なんてしてられないからね」
「わぁ、嬉しいなぁ」
父子揃って仕事を放棄してきた。私の返事が、思わず棒読みになってしまったのは仕方ないよね。
『ま、普段は優秀なはずだから良しとしよう』
もう帰って来てしまっているのだから、考えても仕方がない。そのままお土産を、屋敷の皆に配って私たちもお茶の続きを楽しむ事にした。
「やっぱり自分のベッドは最高ね」
夕食も済ませお風呂に入って、ベッドに大の字になって横たわる。
「お休みなさいませ」
「お休み」と返事をしながらアネリが部屋を出て行くのを目だけで見送った。それにしてもこの1週間は、色々と疲れた。アルノルド殿下とぶつかった時は本当にヤバいと思ったけれど、あれから特に何か言われる事もなかったし多分、ぶつかったのが私だとは気付かれなかったのだろう。そもそも会った事がないのだから、私の事なんて知らないのかもしれない。私だって絵姿を見せられただけだったし。全然、本の通りに進んでない事については、私が悪い訳ではないと思う。頑張ってはいるのだから、その辺は考慮してもらいたい。
「ああ、眠い」
考える事に疲れ始めベッドの心地よさも伴って、意識が夢の中へと落ちようとした時だった。
「ちょっと!」
ノックもなしに、凄い勢いで部屋の扉が開けられた。スピナジーニ夫人だ。
「なんですか?ノックもせずに。失礼ですね」
せっかく気持ち良くなって落ちかけてたのに。彼女の振る舞いにイラッとする。
「あなた!よくもシシリーの出会いを台無しにしてくれたわね!」
「は?なんのお話ですか?」
眠気で頭が回らない中、ガーガービービー言われても何も入ってなんて来ない。
「覚えてないなんて言わせないわ。青竜騎士団長の子息との出会いを、あなたに邪魔されて台無しになったってシシリーが泣いていたのよ!」
ああ、それか。
「私のせいって言われても知りませんよ」
「一体どういう事!?どうし……」
夫人の声が途中で消えた。夫人が慌てた様子で後ろを振り返っている。
私からは見えないが、扉の向こうから恐ろしい程の殺気を感じる。これは多分、と推測する前に声が聞こえた。




