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またもや失敗

 パウル様は一瞬、私の右足を見てから私に向けて問いかけてきた。

「一体どうしたのです?」

ん?あれ?なんかパウル様のセリフ違くない?思っていたセリフが返って来なくて一瞬、キョトンとしてしまった。私のセリフがそもそも違っていたから?あ、もしかして私が高笑いしてないからか?そんな事を考えている間にも、足首辺りがじわじわ痛みを増してくる。ああ、もうなんでもいい。


私は早く終わらせたくて、次の言葉を発した。

「この子が勢い良くぶつかってきたから、注意していただけですわ」

「……」

ちゃんと本の通りのセリフを言った。軌道修正出来たはず。けれど肝心のシシリー嬢は先程から黙り込んだままボケっとしている。気が動転しているのかどうしていいのかわかならないようだ。そりゃあ、本当にケガをさせてしまったのだから動揺もするか。でも困る。これでは本と違う。やっぱり私の最初のセリフが違っていたからだろうか?今から高笑いだけでもしてみる?

『いや、もう面倒くさい』

軽くキレた私は、手でしっしと彼女を去るように促した。

「もういいから帰りなさい。今度、同じ事をしたら許さないから」

私の言葉にビクッとなったシシリー嬢は、そのまま踵を返して元来た道を戻ってしまった。


『おい、あなたは本を返却するために来たんでしょうが。パウル様と仲良く図書室で話をするんでしょうが』

脳内で突っ込んでみたものの、それ以上何かする気にはならなかった。足首がズクズクと熱を持って来ているのがわかる。とにかく何処かに座りたいと思っていると、ふわりと身体が浮いた。

「え?」

見上げると濃紺の瞳と目が合った。

「足をケガしているのでしょう。失礼だとは思いますが、置いて行くわけにはいかないので。暫く大人しくしていてください」

「いや、でも」

断ろうとすると、睨まれてしまう。

「ケガ人は余計な遠慮をせず、その可愛らしいキツネが落ちて零れないように、しっかり抱えていて下さい」

「あ、はい」

有無を言わせぬ雰囲気に、素直に返事をしてしまった。


連れていかれたのは救護室だった。

「先生はいないようですね。探してきますので少し待っていて下さい」

私をベッドに降ろして、探しに出て行こうとするパウル様を慌てて止める。

「あ、わざわざ呼んでいただかなくて大丈夫ですから」

私が言うと、彼の片眉が上がった。

「しかし……足、痛めてますよね」

「ええ、でも治せるので」

「はい?」

訝し気な表情で私を見る彼に思わず笑ってしまう。

「ふふ、そんなに眉間に皺を寄せなくても……」

「あなたがおかしな事を言うので。光属性ではありませんよね」

「ええ、光属性ではありませんよ。でも大丈夫です」

治療をするため靴を脱ぐと、踝から甲にかけて痛みが走った。

「痛っ」

「大丈夫ですか?」

焦ったように不安げな顔になったパウル様。クールなイメージだが、意外と表情豊かな人のようだ。そんな事を思いながら、痛む部分に右手を当て魔力を放出した。白い粒子がサラサラと意思を持ったように、痛む部分を撫でて行く。そして肌に染み込むようにして消えた。

「光魔法……」

呟くように言葉を発したパウル様は、呆けた顔で粒子が消えた辺りを凝視していた。


最後の仕上げとばかりに、クーがペロペロと私の足を舐めてくれた。

「ふふ、クーも手伝ってくれたの?ありがとう」

「キャン」

試しに足首を動かしてみるともう痛みはない。ちゃんと治ったようだ。ベッドの下に落としていた靴を拾おうとすると、いち早く気付いたパウル様が靴を拾ってくれた。

「ありがとうございます」

受け取ろうと手を出すが、空振りに終わってしまう。


「失礼」

彼は私の足をそっと掴み、なんとそのまま靴を履かせた。

「なっ!?」

「素敵な魔法を見せて頂いたお礼です」

驚いた私に、パウル様は微笑みを向ける。

『意外に気障だ』

冷たい印象を持っていたけれど、どうやら違うようだ。


「もうそろそろ午後の授業が始まりますね。よろしければこのまま一緒に行きましょう。Aクラスですよね」

「……はい」

断る理由が浮かばず了承するしかなかった。ベッドから降りようとすると、彼の手に支えられる。

「そう言えば自己紹介をしていませんでした。私はパウル・オスティア―ゼと申します」

「……ミケーリア・ティガバルディです」

自己紹介なんてしたくはなかったのに。しかもそのまま彼にエスコートをされ教室へ向かう事になってしまう。

「同じAクラス同士。せっかく知り合ったのですから、これから仲良くしてくださいね」

パウル様はニッコリと微笑み、握っている手に力を込めた。いつもの冷たい雰囲気が見当たらない。一体どこに置いて来た?


「あはは……お手柔らかに」

なんだか嫌とは言ってはいけない気がする。嫌だと言ったらもの凄く危険な気がするのだ。私は乾いた笑いを浮かべながら返事をするしかなかった。誰か、助けて。


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