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聖獣ですと?

ランチタイムになると、クーを抱いてそそくさと教室を出ようとした私をレンゾ様が呼び止めた。

「あれ?食事は?」

「今日はサンドイッチがあるから、中庭で食べる事にするわ。クーを外で遊ばせてあげたいから」

そう言った私は、脱兎の如く教室を後にした。


「暑っ」

まだ日差しが強い季節だからか、中庭には誰もいなかった。木陰の芝生に座る。

「ええっと……まずは腹ごしらえしようか」

籠の中からサンドイッチを取り出す。興味津々な様子でサンドイッチの匂いを嗅ぐクー。

「クーも食べる?」

『食べる』

とってもいい返事が帰って来た。

「クーは喋れるんだね」

『うん。だって僕は聖獣だから』

ジャムが塗られたサンドイッチに嬉しそうにパクつきながら答える。

「へえ、聖獣なんだ。凄いね……え?聖獣?」

『うん』

聖獣ってさ、確か国の守り神みたいな存在じゃなかったっけ?あれ?私の記憶違いかな?


「ねえ、クーはどうしてケガをしていたの?」

そんな凄いかもしれない聖獣が、一体どういう経緯で我が家の庭に紛れ込んでいたのだろうか。

『んー、なんかね。変な力を感じたから確認しようと思ったの。だけど僕、まだ聖獣として覚醒したばかりだったから力を上手くコントロール出来なくて……狼に襲われてケガしちゃった』

確認しようと住処を出た際に途中で狼に襲われてしまい、逃げまどっているうちに我が家の敷地に入り込んでしまったという事らしい。

「そうだったんだ……」

『でもね、リアの魔力を一杯もらったらね、元気になったんだ。だからお話も出来るようになったんだよ』

「そっか、良かった。元気になってくれて嬉しいわ」

はむはむと一生懸命食べているクーを見つめる。聖獣だろうが何だろうが、元気になってくれたのなら良かった。ジャムまみれの顔になっているクーを笑っていると、またもやとんでもないセリフが飛び出した。

『僕もリアと出会えて嬉しい。契約も出来たし』

耳慣れない言葉が聞こえたような?

「契約?」

聞き返すと、更にジャムまみれの顔でこちらを見る。五尾が嬉しそうにブンブンしていた。

『うん。リアとずっと一緒にいられるようにしたんだ』


知らない間に、聖獣をゲットしてしまった。


「はは……もう知ぃらないっと」

私の現実逃避のレベルが上がった。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 周囲の執拗なまでの接触に嫌気が差し、少し一人になりたくて護衛である二人も置いて中庭に避難して来た。この時季の中庭は、まだまだ暑いせいで誰もいない事が多い。今日もてっきりそうだろうと、確認もせず中庭に通じる扉を開けた。

『笑い声?』

この中庭に通じている扉は、東西に一箇所ずつある。私が使ったのは東側。笑い声のする方には西側の扉がある。

『西側から入ったのか』

私の存在を気付かれると面倒だと思い、中庭から出ようと踵を返した時だった。


「ふふ、もうクーったら、ジャムまみれになってるよ」

楽しそうに笑うその声にドキッとした。早鐘のように鳴り出す胸を押さえながら、そっと声が聞こえる方を覗くと、予想通りの人物がいた。

「ちょっとジッとして」

そう言った彼女は、ハンカチを取り出し魔法でハンカチを湿らせていた。

『水属性なのか』

濡らすことは出来ても、湿らせるなんて高度な技だ。どうやら魔力操作が抜群に上手いようだ。そう思っていると、彼女はハンカチが汚れる事を気にする風でもなく、キツネの顔を拭いてやっていた。


「はい、綺麗になった」

抵抗することなく拭かれていたキツネの五尾が、千切れるのではと思うくらいブンブン揺れている。キツネは自分の飼い主の事が相当好きなようだ。拭き終わったハンカチがふわりと浮かぶ。どうやらクリーンをかけたらしい。彼女は水魔法だけでなく風魔法も使えるようだ。

『流石だな』

今まで知らなかった彼女をこうして知っていく事が楽しい。けれど反面、どうしてもっと早くそうしなかったのかと後悔もする。果たして彼女は自分の事を知っているのかと、それすらわからない。


『過去の自分を殴ってやりたい』

小さな後悔は生まれたが先程まで自分を蝕んでいたストレスが、浄化されたようにきれいさっぱり消えた事を感じながら、暫し同じ空間の片隅で過ごす事にした。


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