3-14 摩導具調達交渉
「イダテンさん、お久しぶりね。
そちらの二人の方は初めまして、ですね」
武蔵野トラックの本社会議室では、耕平のバングルを使って東京ブランチにいるマリエを呼び出し、摩導ボールによる映像を室内に投影して飯田との会談を行っていた。
「マリエさん、ご無沙汰しております。
本日、原田様にお届けいただきました摩導具の試作品ですが、無事に働くことが確認できました。
このたびは大変ありがとうございます。
そしてこちらが、賢二さんがお作りになられたトラックの玩具を渡したことで、今回のお願いを出す事になる原因を作ったエンジニアの野中です」
「初めまして、野中と申します。
今回は私の無理なお願いを聞いていただきまして、誠にありがとうございます。
これで武蔵野トラックも、なんとか一筋の、いや太い光明が見えてまいりました」
「それは良かったですね。
動いたからには、次は量産のお話しなのね。
問題は、今すぐそのお金を、いや今後も同じかな、その量産品の代金を支払いたくとも、あなた達は支払いに使用する為のパラスを持っていないと言う事ね。
私達もカノ島の工場の発注するためには、あなたが支払うお金が最初の必要ですから、さて困りましたわね。
と言っても、既に工場では量産の段取りに取り掛かっているわけですし...
本当は先払いしていただきたいところなのですが、少なくとも納品までにお金の件は解決したいわね」
「代金として、我々がこれから作る現物のトラックを納品させていただくことにはできませんでしょうか?
あ、遅れました。 私は武蔵野トラック 資材部 部長の徳備準平と申します」
「はい、初めまして。 マリエと申します。
残念ですが、カノ国にはトラックのような車を走らせることができる道路は有りません。
カノ島の交通は、摩導コンピュータですべてコントロールされており、摩導カートと呼ばれる乗り物には、運転するという概念は有りません。
そして、カノ国では摩導で制御された乗り物しか公道を走らせることはできません」
「それは、日本でもその通りです。
日本でも、国の試験を受けて、そこで認定された車でないと公道を走らせることは出来ません。
まあ、日本ではその認証機関は失われましたので、今はだれもが新たな車を作っても、それを咎められたり、検挙される事は有りませんが。
というよりも、車を走らせること自体が急務として求められているので、たとえどんな車で有っても、いわば無法状態で走らせることができるわけでして... ははは」
「支払いに必要なお金としますと、カノ国に対しては、国の通貨であるパラスしか使えません。
日本では円通貨は使えないようですし、場所によってですが、カノ屋のカノンがお金替わりに使われている場合もあるのですよね?
では、これは私からの提案ですが、それでは今回の摩導具の代金として、労働による対価としてお支払いをしませんか?
具体的に話しますと、飯田さんに私の元で働いてもらい、その対価として私が持っているパラスをお給金として支払うわ。
飯田さんは、そのパラスを使って私から摩導具を買います。
そして飯田さんは買った摩導具を、今度は武蔵野トラックさんへカノンを使って売ります。
武蔵野トラックさんの販売先の多くの人により、白い石を集めて頂ければ、カノ屋でカノンに交換できるでしょう?
トラックの代金として販売する農家や工場などの人からカノンで支払いを受けることができるわよね?
これであれば、皆がWin-Winの関係になれると思うのね」
それを聞いて、飯田以外は何とかなると言う事で嬉しそうな顔となった。
「でも、それですと俺にはカノンが貯まり、マリエさん俺に支払うパラスが持ち出しになるのじゃないのですか?
カノ島の工場へ支払うパラスと、私に渡すパラスで持ち出しばかりであって、マリエさんにはインカムとなる収入が無いではないですか?」
「やはり、すぐにそこに気が付く飯田さんは見込んだとおりね。
そして、私が飯田さんに支払う以上に、飯田さんはその働きで私に何かを返して頂くしかないわね」
「本当にそんな事でよろしいのですか?
でも、私がそれを仕入れて自分の会社の武蔵野トラックに売る事になると、私がここの社員であっては面倒なことになりますね?」
「そうね。
私は、マナペブルをカノ国に売る為の秘密のルートを作ってあるので、白い石が集まることだけでそれはパラスと言う利益につながっているの。
それに、私は今回作った摩導具で儲けるつもりはなく、それは武蔵野トラックさんだけではなく、復興の為に様々な会社へ売って欲しいのよ。
なので、ライバルの会社や他の業種の会社にも販売してほしいから、今の会社の立場から離れて私に協力いただけることが望ましいわね。
今回の摩導具試作品の開発費は、私から飯田さんへの転職のお祝いがわりにあげるわ。
だから、武蔵野トラックさんとしては、今回の開発費は飯田さんからの借りと考えて、祝福して彼を送り出してあげて欲しいの」
「おい、飯田! せっかく俺達のトラックがまもなくできそうだと言うのに、一番の立役者のお前が辞めてしまうのかよ」
「ああ、でもそうでもしないと今後の量産品を仕入れられないし、この試作品の代金すら支払えないからな。
出来上がったトラックを売るだけであれば、残った営業マンたちの方が営業成績はもともと良いから、俺みたいに変わった営業をする人間よりも多く売ることができるさ」
「それだって、お前はやらなかったが、までできるとも何も確証がないうちに、架空のトラックを担保に売って来た奴らだろ。
今回はお前のおかげでここまで来たが、一歩間違えれば詐欺集団だぜ」
「それが判っている奴が同期にいて良かったよ。
まあ、それ以外方法が無さそうなので、それが俺の最後のご奉公だな」
「同期としては引き留めたいが、その摩導具を欲しているのはお前じゃなくて俺なのに、俺にもその支払い方法については何も方法が浮かばない。
今頂いたマリエさんの提案は、確かにそれを解決できそうだな。
試作品の支払いを、そしてこれから必要な量産品の支払いを続けていく為にも、それ以外の方法はなさそうだな。
だったら俺達はせっせと白い石を集めて、お前にカノンとして支払うさ。
この摩導具でのつながりは今後も残りそうだから、例えお前がこの会社から離れても、これからもよろしくな」
「おうよ。
俺は湿っぽいのは苦手だから、これは俺の新たな船出だと思って見送ってくれ。
資材部長もそれでいいですよね?」
「ああ、君には会社の荷物を背負わせてしまった申し訳けない。
本来この支払については、君よりも資材部が考えるべきなのに、我々もできる事が考え付かない。
大変申し訳ないが、お願いする」
「部長、これは俺が決めた事です。
あとお願いですが、この件で俺が会社の身代わりで辞めたように伝わってしまうと、よくない評判が後日周りに出るかもしれませんので、あくまで本件は伏せて俺の自己都合による退社としておいてください。
野中も判ったな?」
「そうだな。
そうしないと俺も、俺んとこのエンジニアも、自分たちが使う部品の為に誰かが辞めさせられたなどと聞けば、そこに負い目を感じてしまうからな。
まあ、飯田も元気でやってくれ」
「ありがとう。
では、俺は今日付けで退社するから、これから後についてはよろしくな。
ではマリエさん。 これからはよろしくお願いします」
こうしてイダテンこと飯田天は、マリエの元で働くことになった。
今回はちょっと短めの投稿となってしまいました。
とにかく今忙しくなってしまったため、定期投稿が難しくなっており、次回は少し時間が空くと思います。
リアルの引っ越しの契約が少し不味い方向に動いており、契約自体が無くなるかもしれない事態となっており、そうはいっても今入居している先の建物の解体は来月中に始まるし...
今非常にやばい立場となっています。 安心すると試練は再びやってくる。 ヘルプ・ミー!




