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3-12 商談

 謎の招待状を受け、今いる場所はなんと日本で最も権威がある場所であると言っても良い皇居であった。

 カノ国のマリエと商談を行うことになった飯田であるが、連れて来られたその場所に驚き、通された部屋から受ける重厚な雰囲気に、かなりプレッシャーを感じて焦っていた。


「えっ、あの俺、いえ私が先日城岡高校でお願いした件につきましては、カノ国で現在問題が起きている為に難しいとお聞きしていたので、今日ここで商談をさせて頂ける事だけでも、まず驚いておりまして……

 そして、こんなどこの誰ともわからない相手からの、訳の判らないお願いを受けて頂きまして、誠にありがとうございます」


「だって、あなたそれがすぐにないと困ると、城岡高校でお話しされましたよね」


「はい、それは事実でして、私はそのように考えております。

 言い訳ではありませんが、それについては少し説明させてください。


 ます、私共武蔵野トラックは、自動車の中でも物を運搬する為の自動車であるトラックを作っている会社です。


 ご存じの通り、今世の中から電気が失われ、すべての車や機械などが動いていません。

 電気で動くモーターだけに限らず、内燃機関であるエンジンやボイラーにつきましても、どこかで電気による制御が行われていましたの、機械的な動力源についてはすべて動かなくなっています。

 現代文明において、動く物はほとんどが電気に依存していたからです。


 そして、機械が止まったことにより、この世界では食糧生産も止まってしまい、その為に食糧供給が至急必要とされています。

 今まではこれまでに作り貯えられてきた、米や小麦などで何とか食いつないできましたが、これから秋が来て、そして冬が来ることになります。

 本来秋は多くの農作物の収穫期であり、冬を超える為の食料を蓄えるべき大切な時期です。


 これまで農業従事人口が減ったことと、大型機械を導入されてきた農家でも、これらの農業機械は動きません。


 私は広い範囲を自分の足で走る事で、人口が都心部から農村部へと移動した事を確認しています。

 この秋はこれまでの農業機械に替わり、新たに移住された方が大きな労働力になるものと考えています。

 しかし、例え農作物が収穫されたとしても、その農作物を大量消費地にまで運搬できる方法が無く、食料が作られてもそれを必要とする多くの人の元にまでは食料が届きません。


 私どもは、そのような農家の人達と話しを行い、動くトラックを開発してる間は農家から食糧を分けて頂き、私たちは収穫期の秋までに新たなトラックを農家に渡す約束をしています。

 電気が失われた世界で、多くの製造メーカーでは、物を動かすという方法を今必死で研究しています。


 私は偶然ですが、カノ屋で販売されている走る自動車の玩具を手にすることができ、それを渡した私どものエンジニアがその玩具の仕組みがあれば新たな自動車の動力源になりうることに気が付きました。

 そう、その玩具は摩導という力を使った物のようで、それが持つ力を使う事で大きなトラックすら動かす事が出来るようです。


 そこで、その摩導玩具の仕組みを私どものトラックに組み込まさせていただき、今協力を頂いている農家さん達を、そして私たちのトラックにより物流を再起動させ、復興が出来ないかと考えています。

 その動力となりうる新たな原理や装置を捜し歩いて、営業である私は走っていたのですが、その玩具以外に私達のトラックを走らせそうな方法は、残念ながら今のところ見つかっていません」



「うん。 ありがとう。

 そこまでのあなたの話は、私が受け取っている報告書のとおりで間違いはないようね。

 それで、貴方は摩導具の自動車の玩具が何台ほしいの?」


「城岡高校でお聞きしたところ、あの自動車は手作りであり、お一人の方で作っておられるとお聞きして、それを作るのには多くの時間を要すると言う事をお聞きしています。

 しかし、私どもで必要としていますのは、実際にはその玩具の中で使っている、軸を回転させる部品だけなのですが、数は作るトラックの台数分必要ですので、今後の事を考えるとその方が作れる分はすべて欲しいと考えています」


「うん、そうなってくると、私があなたの話を聞くよりも、作った本人と直接話した方が早そうね。

 ちょっとまってね」


 そう言って、マリエはバングルを操作すると、マリエの前に映像が浮かび上がり、そこには一人の男が映っていた。

 どこからその映像が投影されているのかと探すが、マリエは手を下に降ろしてしまったので腕のバングルから投影されているわけではなさそうだ。

 はっとして少し上を見ると、なぜかこれまで気が付かなかったが、小さなボールのような物がマリエの近くの空中にふわりと浮かんでおり、そこから映像が投影されているようであった。

 そして、少しマリエはバングルを手で押さえて、その映像の相手もバングルを手で押さえ、互いに通信を行っているようであった。


「お待たせしました。 これで、カノ島と会話ができるわ。

 さっきの玩具を作った本人だし、あなたの事情なども既に伝えてあるから、聞きたい事が有ればイダテンさんが直接聞いてね」


『こんにちは。

 僕は新崎(あらさき)賢二と言います。

 そして、この摩導自動車の玩具は僕が作った物です』


 そう言いながら、新崎は手の上に例の自動車の玩具をのせ見せてくれた。


「初めまして。

 うちのエンジニアにその玩具を渡したところ、彼はそれにすごく驚かされていました。

 こんな小さいのに、ものすごいパワーを秘めているのですね」


 まさか製作者本人と話す機会が得られるなどとは考えてもいなかったので、飯田はちょっと興奮しているとともに、会社のエンジニアも連れてこればよかったなと思っていた。


「そうですね。 これは小さくとも摩導具です。

 ただ、これは現在のカノ国で用いられている摩導具とは異なり、摩導具の一部のシンプルな機能だけを使っているものです。

 今のカノ国の摩導具チップから制御機能をはずす事で、カノ国以外の方でも使うことができるようになっています。


 この自動車には、バングルが無くとも回転力を周囲に与える能力とそれをON/OFFするスイッチの2つの機能が組み込まれています。

 制御するバングルを持っていなくとも動かせられるように、その玩具に合わせた条件でタイヤが回転する条件を設定してあります」


「私共も摩導というものについていろいろと調べたのですが、残念ながら昔の資料しか見つけることができませんでした。

 しかしその少ない資料の中で、摩導はカノ国で作られている技術であり、光ったり、回転する摩導具のパイプが参考として紹介されていました。

 すると、この中に有るのが、回転する摩導具なのですね?」


「まあ、もう少し正確に言うと、この摩導具は自分が回転するわけではありません。

 これは、周囲に渦巻くエターナルの流れを発生させ、その渦の中心に回転のフォースを生み出す摩導具です。

 古い資料と言う事は、多分日本で説明会が開催された時に、名古屋の大学で配られた摩導回路を直接書き込んだパイプで、摩導具の原理を紹介するためだけの実用性はない原始的な物だと思います。

 カノ国王宮にある歴史展示室には残っているかとは思いますが、摩導回路などは今のものとは全く異なり、それらを単純に比べることは出来ないと思います」


「私たちは玩具の中で使われていたシールを、私たちのトラックのシャフトの近くに貼り付け、シャフトを回す事で実験的な車を動かしています。

 あの、ひょっとすると、もっと良い使用方法というものがあるのでしょうか?」


『そうですね。 そこまでよく解析されましたね。

 カノ国人以外では、摩導チップをコントロールするコントローラを持っていませんので、カノ国以外で実用的な車に使うのであれば、少なくとも回転数や回転方向の調整が必要ですね。

 しかし、バングルを使わない条件で、それをどうすればうまく操作できるかな?

 玩具みたいに振動を検知しての制御では実際の車だとうまくないな。


 本物の自動車って言うのは見たことは無いけれど、確かエンジンというの中で油を燃やし、その熱で膨張した気体の力を使ってシリンダを回すという原始的な機構で動くと読んだ覚えがあるから、そこは今の回転力を与える摩導具でいいな。

 でもマナクリスタルのエターナルは消耗するから、マナクリスタルを交換できる仕組みがいいな。

 あの玩具で使ったマナクリスタルは小さいので、やがてエターナルは尽きてしまうけど、どうやってマナクリスタルを交換させるかな?

 回転機構はトラックの奥深くに入り込むから、別のコントローラが必要か...

 うーん、そうじゃないからな、あ、こうすれば、でもそれじゃ...ブツブツ...』


 賢二は勝手に少し考えこんでしまったようだ。


「ありゃ、ダメだわ。

 賢二が賢人モードに入っちゃったわ。


 ごめんなさいね。 彼には良くあることなの。

 思考に入ると、答えが出るまで戻って来ないと思うので、もう少し待ってあげてね」


「あ、私は全く問題は有りません。

 ぜひ力をお借りできればと思います。

 待っている間に何ですが、このカノンカードと言うのは凄いものですね」


「えぇ、それも賢二が作ってくれたものよ」


「ええ!

 そうだったのですか?」


「そうなの、気が付かないうちに私のイラストが隠されて入っていて、本当に参っちゃうわよね。

 まあ、私とは分からないイラストだったのがせめてもの救いだけどね」


「で、凄いカードですよね。

 話しかければイラストのマリーさんがいろいろ答えてくれるし」


「えっ!

 それ、どういう事? まだ何か隠し機能が入れてあるの?」


「あ、すみません! これって一般的な機能じゃなかったのですか?

 カードの表のマークをタッチすると、マリエさんのイラストが出ますよね。

 そのイラストに向かって、『マリー様』というキーワードを付けてこうやって話しかけると答えてくれます。

 先ほどマリエさんの本名がマリーさんだとお伺いして、それもあって私はこのイラストがマリエさんの事だと気が付いたのですが。


 例えばですね、マリー様は何がお好きですか?」


『私は、サツマイモが大好きです。

 今度美味しい焼き芋をご馳走してくださいね!』


 問いかけに対して、カノンカードのマリー様がすぐに答えてくれた。


「いやいやいや、私はそんなこと考えていないけど。 まあ、でも間違ってもいないのかな?」


 マリエは顔を赤くしながらも、そこは正直に肯定したようだ。


『ぷっ! は、ははは。

 確かにそれはマリーさんだ。

 驚いたな。 最初に与えたパーソナルデータから学習されているようだな』


 いつの間にかその会話を聞いていた賢二が、長考から復帰して映像の中から話しかけてきた。

 カノンカードを作っている際、テストと称していくつの質問にマリエは答えていったが、その時の答えがベースとなり、このイラストのパーソナリティが構築されたようであった。


「賢二、これは一体どういうこと?

 私はこんな機能について聞いていないわよ!」


『それは、カードの使い方のガイドが欲しいって言われたから、人口知能が摩導サーバーに入っていて、呼び掛けるとそのAIがヘルプに対応してくれるようになっているんだ。

 沢山配るカードだから、いちいちマニュアル作ったりなんか出来ないので、音声会話ができるような機能を組み込んでおいたんだよ』


「あなたね。

 そのイラストって私である必要があったの?」


『マリーがこれの発注者だよね。

 だったら敬意を表してマリー様のイラストが一番良かったと思うけどね』


 すると、今の賢二の言葉の中にマリー様というキーワードが含まれていたため、AIが応答してきた。


『私はAIですが、人格を持ったマリーです。

 そちらにいるマリーと言う人と、私とは別人です。

 そちらの方は、私の人格モデルが形成される時、一番最初の参考とはなっていますが、それ以降、私はカノ国の摩導サーバの蓄積情報を使って独自に学習をしていますので、既に別人格と考えてください』


「へー、あなたって、私から生み出されたのね?

 じゃあ、このカードのマリー様って、私の妹分なのね!」


『いや、ですので私は私ですって!』


「思ったより、自我が強く出るようになったな。

 でも、確かにマリー様はどことなくマリーを感じさせるな」


「『失礼な、そんな事は有りません!』」


 互いに似ていないと否定するのであるが、それは両者のシンクロ率が高そうなことを逆に周りに感じさせてしまうことになった。



『あ、それでさっきの車の摩導具の件だけれどさ、こんな感じでいいかい?

 まず、これまでの車のシャーシに貼り付けて車軸を回転させる摩導具は今までと似た感じで回転力だけを与えるけど、それともう一つの摩導具を作るよ。

 と言っても、その手元にあるカノンカードを利用するのだけれど、カードの数字を小さくして、中央に操作用の丸いシンボルを表示させ、それを指で上にスライドすると回転速度を上げる。

 下に下げると逆回転してバックする。

 カードの中央の印を長くタッチすると、回転力が0に戻り、周囲の慣性力を抑えた状態で強制的なブレーキがかかる。


 そして、そのコントローラは操縦席のカードフォルダーに差し込み、それで車の速度を制御する。

 タイヤの回転力を生み出すエターナルは、そのコントローラに入れられたマナクリスタルから発生させて、トラックのフレームを伝わって回転の摩導具に伝えるんだ』


「賢二さん、するとこれまで足で操作していたアクセルとブレーキの代わりに、そのコントローラを手で操作することで速度を調整するのですか?」


『そうだね。

 もしブレーキが必要であれば、摩導具が生み出す回転は機械的なブレーキじゃ止められないから、もし機械的なブレーキを設けるのであれば、摩導具からの回転力を途中で切り離す機構を付けないとだめだと思うよ。

 さっき話したコントローラの強制ブレーキは完全停止となるから気を付けてね。 いきなり速度が0になると、車内の人や物が慣性力で前方に飛んじゃうからね。

 だから強制ブレーキには慣性力の制御も入っているのだけれど、トラックがいきなり止まった時に後ろから追突されないようにね。

 ちなみに慣性力の制御は、摩導カートでも使っている技術だよ。

 

 あと、燃料じゃないけれど、摩導具はマナクリスタルを使って動きます。

 マナクリスタルからエターナルを取り出すと、結晶は少しずつですが小さくなっていきます。


 中のマナクリスタルの残量が判るように、そのカノンカードを用いたコントローラの数字は、今度は中のカノンではなくマナクリスタルの残量を示すようにする予定で、それが0になればマナクリスタルの残りが無く走ることは出来ません。

 マナクリスタルはエターナルを結晶化したものであり、それにチャージするという概念はないので、マナクリスタルを使い切ったコントローラは捨ててしまい、新たなマナクリスタルが入った新しいコントロールカードを買ってもらう。

 従来のガソリンオイルをガソリンスタンドで購入するような感じで運用できるのではないかな?』


「もしそれが作ってもらえるのであれば、それでお願いします。

 しかし、賢二さんの手作りでどれくらいの数が作れますか?」


『ははは。

 ミニカーの時は、玩具を改造するのに送ってくる自動車が毎回異なっていたため、改造に毎回時間が掛かっていたんだよ。

 だけど、今回の物は摩導具だけでよさそうなので、それであれば工場で造れるから、まず一個作れば後はそれを基に量産は出来るよ。

 ところでマリーさんよ、今工場のすべてのラインはフル生産状態でね、確認したらその発注主はどうやら君らしいんだよ。

 今回の生産を、すでに発注を受けてカノンカードの生産にラインが割り当てられてしまっている中に割り込ませちゃっていいのかな?』


「そうね。 今他の工場もすべて押さえてあり、どこもいっぱいいっぱいなので、賢二の使っている工場に割り込みをお願いするしか手は無いわね。

 確か、あそこは小規模対応もできる工場よね?」


『そうだけれど、俺が横から無理やり頼むよりも、発注主であるマリーさんからのお願いであれば、簡単に変更してもらえると思うけどな』


「わかったわ。

 それは私からお願いをしてみますから、賢二はすぐに新しい摩導具の開発にかかってね。

 それじゃお願いします」


「あ、賢二さん、大変な事をお願いして申し訳ありません。

 何とかお願いします」


『じゃ、時間が惜しいから、これでね』

 

 そう言うと映像がすっと消えて行った。

 飯田は価格や納期、そして納品できる数量などを打ち合わせる暇もなく、商談としてこれが本当に成功だったのかは疑問ではあるが、後は、武蔵野自動車では車体を製造し、飯田がお願いしたものがいつかできる事を待つことになった。

仕事の事務所が入っている建物が解体工事となり、5月に引っ越しとなります。

先日新物件の契約がようやく終わったので、引き続き引越し業者やNTTなどと日程調整やら見積もりやら毎日大変です。

引っ越しまで、あと1月を切ったので、その準備でこれまで以上に執筆時間が取れなくなっています。

また、引っ越し後にも諸手続きなどが引き続きある為に、当面は執筆に当てる時間がなさそうです。

そのために、6月までは更新が不定期となる予定です。 すみません。


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