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3-10 カノンとマルシェ

 耕平のカートでやって来た薩南高校の有村美穂と城岡高校の山岡有花の二人の生徒会長は、前回と同じく再び耕平の大きな農家の家で会談を行っており、今夜もここで泊まる予定で腰を据えて話し合いを行っていた。

 美穂が無理やり耕平のカートに乗せてもらった行為に対して、耕平を守る立場の会長の有花は少しお冠であり、ピリピリしたムードで会談は始まっていた。


「有村会長、今回の訪問の真の目的は何ですか?

 そろそろ僕達にも貴女の考えている計画を話して頂いても良いのじゃないですか?」


「あら、耕平君。 何の事かしら?」


「聡い美穂さんであれば、今回のような方法を使って我が校への訪問すれば、うちの会長が怒る事はたぶん予想していたと思います。

 ですのでこの訪問の目的は、もう一度城岡高校のマルシェを見たいと言う単純なものではありませんよね?

 会長を怒らせるという大きなリスクの発生が予想される中、それでもここに来る必要がある、そのリスク以上に高い何かの理由があったのですよね?」


「ふふふ、困ったわね。

 そうね。 賢い耕平君には協力をお願いする事になりそうだから、ぜひ一緒に聞いてもらおうかな?」


「美穂さん! 耕平君に負担がかかる事でしたら、その話しを耕平君に聞かせるわけにはいきません!」


「有花さん、そこについては多分大丈夫ですわ。 でも、耕平君には最初に謝っておくわね。

 それでは今回の視察の意味とその最終目的について、お話します。


 今回の訪問目的の一つは、以前こちらで使われていた支払いチケットの仕組みが、今どういう扱いになっているかを確認したかったのですわ。


 私は、送られてくる城岡高校通信を拝見していて、どうしてここが発展できているかを鹿児島でずっと考えていました。

 あなた達が始めたマルシェが、ここの発展の始まりであることは間違いないですわね」


「確かに、山岡会長が始めたマルシェが発展の中心となっているのは明らかです」


「そうですわよね。

 しかし、ここのマルシェのような市場は、城岡高校通信により各地の農業高校でもその後作られているようですが、私たちの学校も含めて、残念ながらここ城岡高校のような発展はできていないのよ。

 そこには、このマルシェに新たに出来た移動しない(・・・・・)カノ屋や、そのカノ屋で売られている商品がキラーコンテンツになっていることは大きいわよね。


 でも、ここの繁栄がこの学校を超えて地域全体にまで広がっているのは、それだけが理由じゃないでしょ?

 今回ここに視察にきて、1つの疑問の答えは確認できました」


「ここのマルシェで何が確認できたのですか?」


「それは、ここで使われているお金の存在です。

 これまで日本のお金として円通貨は、人々はそれを信頼して使用してきました。

 国の責任ではありませんが、今回の大失電により、それらから紙幣や貨幣の通貨としての価値は完全に失われてしまいました。

 そこで、人々の生活を取り戻すために、街の流通経済に、そして国の復興に、だれもが信用でき、どこでも使用できる新たなお金が必要だと私は考えています」


「そうですね。

 早く政府が新たな通貨を発行してくれることを私達も望んでいます」


「あら、本当にそうなのかしら?

 あなた達は政府に頼らずに、それを既に持っていらっしゃいますわよね」


「えっ?」


「そう、それはカノ屋で白い石と交換されているカノンですわ。

 ここのマルシェやこの周辺の町で使うことができるカノンと、そのカノンを自由にやり取りができるカノンカードの仕組みが、ここの地域経済を廻している事を強く感じました。

 どこの店ともわからないようなカノ屋というお店の、それもポイントカードみたいな怪しいカノンカードですが... ですが、そこには強固な信頼感があります。

 いまこのマルシェに来ている人で、いま持っているカノンカードが使えなくなるなどと考えている人はいませんよね?」


「でも、それはカノ屋がここにずっとあるからの話で合って、カノ屋があってこそカノンを使った経済は初めて成り立つモノではないでしょうか?」


「私もいろいろ考えていたのですが、実際に見に来る事ってやっぱり大事ですわ。

 多分ですが、ここにカノ屋が無くなったとしても、多分今後もこのカノンカードはここで使い続けられるのではないでしょうか?

 多くの人々が所有していることで、地域の通貨として充分な資金量も担保されているようですので、既に通貨システムとしては出来上がっているようです。

 それと、先ほど廊下を歩いていた所、生徒会の方の話が少し聞こえてきたのですが、カノ屋さんに頼らないでもカノンカードの発行ができるようになったそうですわね」


「あなた、どこでそれを聞いたの?

 でも、近く公開する予定であったからそろそろ話してもいいのかな。

 どこかの教室でその準備を行っていますので、その説明の声が聞こえてしまったようね。


 まあいいわ。 今度私たちは、ホワイトカノンカードというものを導入する事にしました。

 このカードは、まだ何も情報が書き込まれていないブランクカードであり、カノ屋さんのマナペブル交換機を使わなくとも、カノンを利用する最初にカードホルダーとなる所有者の情報が書き込まれます。

 このホワイトカノンカードは私達以外の場所で、既に運用が始まっているようで、カノ屋のオーナーからサンプルとして私達にも送られてきました。


 しかしこのホワイトカノンカードは、カノンカードを持っていない人が、カノ屋に行かなくとも自分のカノンカードが持てると言うだけのものですよ。

 そのホワイトカノンカードも無料ではなく、購入する際にはカノンでの支払いが必要ですので、マルシェを初めて訪れる人はカノンを全く持っていませんので、カードを販売する事は出来ません。

 白い石と呼ばれているマナペブルをカノンカードにチャージする為には、カノ屋さんの前にある機械で行う必要があります。

 ここに白い石を持ってきた人は、カノ屋さんの行列に並んでマナペブルをカノンとしてチャージする事になるので、カノンが全く入っていないカードだけを発行しても、ここに来るお客様のメリットはありません。

 ですので、たとえホワイトカノンカード登場しても、ここのマルシェではそれほど便利になるとは思っていません」


「あなたは本当にそう考えているのかしら?

 それはここに定住したカノ屋があるからこそ、そう簡単に考えていられるのよね。

 もし真剣にそう思っているのであれば、それはとても残念な事ですわ」


「美穂さん、貴女はそれをカノン専用のお財布と考えているのですよね。

 僕の思うところを話してみますが、それは貴方の考えに近いでしょうか?


 カノ屋やここのマルシェで買い物を行う為には、確かに財布であるそのカードに、お金であるカノンがあらかじめ入っている必要があります。


 しかし、どうでしょう。 カノンカードを給料袋と考えると、仕事をした後に、この中にお給料であるカノンを入れてもらえる。

 カノンを持っている店主が、店で働く人にお給料を渡す事を考えると、その時はカノンが全く入っていない財布で有っても構わないわけですよね。

 ここで大事な事は、給料をカノンで受け取る為には、カノン専用の財布が必要であり、誰もがその財布を持っている事により、カノンが共通となる通貨となり得ると言いたいわけですよね。

 何もこれは店に限った話では無く、それさえあれば世の中すべてでお金の受け渡しができる事になる。

 すると、必ずしも白い石を使って毎回チャージする必要はなく、いちど流れ始めたカノンはマナペブルやカノ屋と切り離されて、あとはカノンカードの使い方として、自由に使えるお金になるという事が言いたかったのですね?」


「ふふ、さすが耕平君ね。

 そうですわ。 全部言われてしまいましたわ。

 そのホワイトカノンカードと、すでにカノンを沢山持った方がいれば、そこにカノ屋が無くとも、それだけあれば各地でカノンを使った経済活動が開始できますわ。

 最初はカノ屋が必要条件と考えていたのですが、ホワイトカノンカードであれば私が描いた計画がそれだけで実現できそうですわ。

 カノンカードと言う入れ物とカノンと言う中身を一度に揃えてしまえば、どちらを先に準備するかと言う議論も不要ですわ。

 耕平君は良く気が付きましたわね」


「それは、僕らカノ国の人はそれと似た仕組みで、腕のバングルを財布としてカノ国の通貨であるパラスを使っています。

 ただ勝手に通貨を作るわけにいかないので、カノンと言う新たなポイントを使って、景品と交換する為に作られたシステムがカノンカードだと思っています」


「あら、そうだったのね。

 カノンカードの原形となるようなものが既にあなたのカノ国にはあったのね。

 でも、これってカノ国の摩導具でできているのね?

 ということは、やはりカノ国人の耕平君の協力は必要なようね。

 そして、このホワイトカノンカードというものを前提にすれば、鹿児島で考えて来た事よりも、さらに面白そうなことができそうですわね...」



「耕平、それって別にカノンじゃなくっても、ポイントを集めると好きな景品に交換できるのって以前もあったよ」


「有希はなんでも集めるの好きだよな」


 そう言って、耕平が部屋の片隅に視線を送ると、そこには何かいろいろ小物で飾られた場所があった。

 どうやらそこの一角は、既に有希のコレクションコーナーとして実効支配されていた。



「お財布にずっしりと入ったお金は、電子マネーよりもたくさん持っている実感があって、私はお金の方が好きだったわ。

 なぜかお金は沢山集めることは出来なかったけどね。

 でも、今となってはどちらも無いわね」


「お金はというものはとても重いものですわ。 それは価値の話ではなく、実際に重量が重いのですわ。

 一枚のお札であれば さほど重みを感じませんが、1枚が、100枚、1万枚と増えていくと、そして札束の山ともなると、とても大きく重い物になりますよね。

 新たにお金を大量に作ることは、それが政府であっても難しく、今のように電気が無いと機械を動かすことができなくて、さらに大量の紙幣や貨幣が作れたとしても、それを全国に展開するだけの輸送能力も失いました。


 それに、私たちの高校ような小さな市場で使うチケットを準備するだけでも大変な作業でした。

 そこでは偽物を排除する必要があり、簡易な印刷技術では誰にでも似たようなものを偽造することができ、発行するチケットの数が増えるにつれ運用はとても難しいと気が付きました。


 城岡高校さんのマルシェが学校以外の近隣の町をも含んで動き出したと聞いて、以前視察した時のポイントチケットに代わる何かがそこで利用され始めたと想像しました」


「そこは美穂さんの言うとおりね。 それで、あなたは何をかんがえているの?」


「お金に換わる何か。 それがカノンとカノンカードであったわけですわ。

 カノンであれば、一人の人が1億カノンを持っていても、それはカード一枚を持つだけで済みますから。

 カノンが広まる為には、だれもがカノンを利用できないと実現できない事ですわ。


 それと、重要な事としてここではカノ屋がある事で、カノンという物の価値がカノ屋の商品を基準として明確になると言う効果もありますわね。

 ここのマルシェで買い物する人にとっては、1カノンがどれくらいの価値を持つというのは、皆さんは自然と理解している事でしょう。

 でもこの常識を周知させる事って、結構大変な事であることはお分かりですよね」


「私も屋台の食べ物の値段はほとんど覚えているわよ。

 でも、毎日新しい物がでてくるから、それを全部食べるのはちょっと大変なのよね」


「有希さぁ。 君は、いつ買い食いしているんだ?」


「あ、やばーい。 自分でばらしちゃった。

 でも、これって私がカート配達して稼いだカノンだから、全部使ってもいいわよね」


「え? 有希は配達でカノンを貰っていたのか?」


「あの、お二人の仕事分を有希さんにお渡ししていますけど」


「有希! 僕はそんな話は聞いてないぞ!」


「ええ、会長! あれ二人分だったのですか?」


「最初にお話ししましたよね。

 耕平君が受け取ってくれないので、貴方が二人分を管理してくださいねって言って」


「ほえ!? そう言われてみると、そんな事も言われたような気もするかな?

 どうりで沢山もらえるなって、そう言っても、なぜかほとんど残っていませんよ...」


「会長、だったら次回から有希に渡すカノンは半分でいいですよ」


「耕平、何を言い出すの。 それはダメ!

 だって、もう何を食べるかは全部決めてあるのだから!

 行列のお店は、予約してあるし...」


 変な所でまずい事、いや美味しい事が発覚する有希であった。

 どうやら貰ったカノンは、既に有希のお腹ですべて消えてしまっていたようであった。


「話を戻しましょう。 これから話すことはこちらに来てからわたくしが考えた事です。


 今回ホワイトカノンカードと言う物が手に入る話を聞きました。

 そしてホワイトカノンカードであればブランク状態で配布が可能できることが前提ですわ。


 各農業高校の代表者を1名、1回に何組かをここ城岡高校に連れてきてカノンカードの運用について研修します。

 ここに来る時には、なるべく多の白い石を集め、持って来てもらいます。

 石集めは全校生徒の規模で行ってもらう事が望ましいですね。

 とにかく集められるだけ多く持ってきて欲しいですわ。


 そして、持ってきた白い石を使って、カノ屋でカノンカードを発行し、その白い石をカードにチャージしてもらいます。

 カノ屋が近くにない高校では、とにかくたくさん白い石が必要です。

 なぜならば、それがこれから各農業高校で運用するカノンの最初の通貨量となりますから。


 その原資であるカノンを使って、たくさんのホワイトカノンカードも持って帰ってもらいます。

 さらに、ここに来る代表以外の方はカノンの価値が判らないと思いますので、カノ屋で参考となる代表的ないくつかの品を見本として買ってもらいます。

 ここのマルシェの買取情報をお教えする事で、実際の見本以上に情報としては価値があるかもしれません。


 あとは、その情報や見本を基に、その地域でのカノンの価値を割り出して、持ち帰ったカノンとカノンカードを高校で催される市場で使ってもらいます。

 最初は、自分の学校の生徒やその家族だけでも良いかと思います。

 そして同じカノンカードが異なる市場で使える事が伝わると、互いの市場同士でやり取りもできるようになると思います。

 そして周辺地域でも仕入れや支払いにカノンカードを使ってもらうようにして、広めることができると考えます。


 こうして、カノ屋がない地域でも、カノンによる経済活動を生み出せれば、日本全体の復興につながるのではないでしょうか?

 政府に頼らずに、日本全体に新たな流通貨幣を広める事、これが私の目標ですわ」


「何か話の規模が大きいですね!」


「でもそうなると、どのくらいのホワイトカノンカードが入手できるかが鍵になってきませんか?」


「ですので、ここはカノ国人である耕平君に頼るしかありませんわ」


「うーん。 僕にそんな事を言われましても、僕がそれを作っているわけではありませんので判らないですよ。

 日本中にばら撒くとなると、百枚とか千枚という数じゃないですよね?

 だとすると、それだけの数を入手する事は無理じゃないですかね?」


「耕平君、うちの生徒会でカノ屋さんをチェックしていますが、新しいカードは一日300枚から500枚程度が発行されているようですよ。

 ほかの場所にもカノ屋さんはありますし、カノ屋さんでは特に一日のカードの発行枚数に制限は設けられていませんし、そこそこの数はカノ国に在庫されているのではないかしら」


「そうですか。 それではちょっと聞いてみます」


 そう言うと、耕平は自分のバングルに手を当て、目をつぶって黙り込んでしまった。


「あら、耕平君どうされたの?」


「しっ! 今彼は摩導通信をしていますので、お静かに」



「あ、美穂さん。 それで予想ではどれくらいの数が必要になりそうですか?」


 通信をしながら、耕平は途中で質問をしてきた。


「最初は各校千枚かしら。 全部の高校が最初から参加するかはわからないけど、とりあえず30万枚以上は欲しいわね。

 しかし、多分それじゃ足りなくなって、すぐに追加が必要になると考えますわ」


 それだけ聞くと、耕平は再び沈黙した。


「はい、では。


 あ、すみません。

 結論から言いますと、カノンで支払われるのであれば、時間が掛かるけど何とかしてもらえるようです。

 そして、分納でよければ10万枚は先行してすぐに貰えるようです。 しかしそれ以上の残りは一ヶ月以上待ってくださいとの事です。


 ここのカノ屋で集めた多くのマナペブルがカノ島に届いているようで、それを使ってカノ島ではマナクリスタルの増産体制に入っているそうです。

 でも、カノ島の工場で作っているカノ屋に納める商品の生産が間に合っていなくって、今すぐであれば、商品で使うはずであったマナクリスタルをカノンカードの製造に廻してくださるそうです。

 それでも、それは1か月先の納期のカードになりますので、それが必要であればすぐに白い石を揃えて発注をお願いしますって言われました」


「耕平君、でも最初の10万枚分の白い石すら、まだ集まっていないわよ。 どうしましょう⁈」


「わかりましたわ。

 1枚のカノンカードは1個の白い石があればよろしかったわね。

 でしたら、最初の10万枚個の白い石は私が集めます」


「え! どうやったら、そんなことができるのですか?」


「そこは鹿児島県人の力を結集します。

 一人で100個探すのは無理であっても、10万人で鹿児島中を探せば、一人1個を見つければ良いだけの事ですわね。

 それであれば、何とかなると思いますわ」


 簡単に言うが、この人はいったいどういう人脈を地元に持っている人なんだろう。


「耕平君。 申し訳ありませんが時間が有りませんので、明日の早朝、私の鹿児島の実家まで私を送って頂けませんこと?」


「それはいいですが、カノ国にはいつまでに返事がいただけますか?

 今のところは残っているカードの在庫も限られているようですので、あまり待たせることは出来ないと思います」


「それは、明日鹿児島に戻って相談し、その次の朝にお伝えしますので、すこしお時間を頂けないかしら?」



 そうして、鹿児島に戻った美穂は実家の力を借り、いつ集まるかを聞きにその翌朝訪問した耕平に、既に集めた数百個の袋が手渡された。

 その袋の中には、白い石がそれぞれ1000個詰められており、僅か1日で10万個をはるかに超える白い石が集められており、耕平たちを大いに驚かす事になった。

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