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ルネサンスの女神様 - 明るい未来を目指して!  作者: 亜之丸
復興を目指して [1か月後]
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1-1 摩導コンテナ

 この小説はパラセルシリーズの『ルネサンスの女神様』に属する作品になります。


 この話の前となる『ねえ、電気つけてよ!』[https://ncode.syosetu.com/n1240hf/] では、電気を失う大失電と言う災害発生に対し、如何に人類が生き延びるかという話でした。

 ここからの『明るい未来を目指して!』では、カノ国の不思議道具である摩導具を使い、新たな文明社会を作るという話です。


「来たわね」


「いよいよだな」


 夜を迎えた東京では、閉鎖されている浜離宮の庭園の中を巡る人はいなかった。

 浜離宮は日比谷公園からほど近い、隅田川が東京湾に流れだす場所にあり、その暗い堤防の上には何人かの人が集まっていた。


 一人の女性が腕に嵌めた金色の腕輪を操作すると、堤防の脇にまで到着した、その大きな四角い箱は隅田川の水面からゆっくりと上昇し、彼らの目の前にふわりと着地した。


「うーん。

 目の前の来ると、やはりちょっと大きいわね」


「マリーは子供のころ摩導シートを折りまげて、よく箱を作って遊んでいたけれど、大人になってもこんな箱を本当に作るなんて、思ってもみなかったよな」

「マリー、早く中を見せてよ」


 腕輪で操作を行った、マリーと呼ばれた女性は、カノ国から東京に留学して、そのまま遠藤建築都市計画事務所でアルバイトしているマリエの事であった。

 ここに集まっていた人はカノ国の人であるために、正式名称であるマリーと呼んでいる。


 そして、この暗闇の突堤にひっそりと集まって来ている男女は、全員カノ国のIDである金のバングルを腕にしていた。

 彼らもマリエ同様に、カノ国からの留学生やその後も日本に住み続けている人たちで、今回もマリエの呼びかけで集まって来ていた。


「みんな、そんなに急がせないで。

 私も実際に見るのがこれが初めてなんだから、まず最初はチェックよ。

 といっても特注品なので、いまさら返品は出来ないけどね」


 そういうと、マリエはその四角い箱、摩導コンテナの周りをまわりだした。

 それぞれの人も腕のバングルを箱に向けることで、目の前が照らされて明るくなった。

 普通のコンテナに見えるその箱であるが、それコンテナ自身が船を使わずに、直接水の上に浮かんで海の上を走ってきた。

 摩導力でシールドされているので、波などに対して防水加工はされている。

 いや、もともとこのコンテナは北極でマナクリスタルを積んで、海中を高速に移動する為に作られた物なので、防水は完璧だ。


「外観は良し。 なかなか良い感じ。 これだったら地面に置いてあっても摩導具に見えないわね」


 コンテナ外部は、一般的な貨物コンテナに見えるような模様で表面を偽装してある。

 そもそも12mほどの長さがある大きなコンテナなので、こんなものがドンと置かれていたら、コンテナ港以外だったら目立つのだけど。


「で、入り口はこっちかな?」


 全員は、長いコンテナの端、トレーラーに積んで走る際、一番後ろとなる部分にやって来た。

 その場所でマリエがバングルを操作すると、入り口と言われた側の壁の右下の一部が開き、壁の中からは何かの機械なのか、ステンレスっぽい四角い箱が出てきた。


「その箱に、拾ってきた石を入れるのね」


「そう。 誰か持って来てくれた石、マナペブルをそこに入れて見て!」


「じゃあ、俺のを最初に入れてみよう」


 その四角い箱の上は開いており、そこは傾斜がつけられたホッパー形状をしており、天面から投入された物は真ん中の底の穴から、箱の中へと滑り落ちるようになっていた。

 そして、箱の上から一気に投入されたマナぺブルは、ガラガラと穴の底に飲み込まれていった。


 『マナペブル』とは、大失電発生した時、しばらくしてから空から降ってきた、例の白い石の事である。

 マリエのバングルにより、この石にマナクリスタルと似た反応がある事に気が付き、カノ島で計測してもらったところ、確かに同じ成分が含まれていることが先日わかったのだ。

 そして、このマナペブルからそのマナクリスタルの成分を抽出・精製することで、カノ島で枯渇しているマナクリスタルの材料としようとしているのであった。


 全ての石が穴の中に入ると、箱の前のあるスリットからカードのようなものがピョンと出てきた。

 マナぺブルを入れたことでコンテナが動作を始めたようで、それまであったコンテナの扉が消えて、中の明かりが見える半透明の入り口が現れた。


 箱から出てきたカードを見ると、それはトランプのような大きさのカードであり、大きな数字が中央に書かれており、その裏面には何か記号が書かれている。

 裏の記号は、半円の上に3本の並んだ波線が書かれた、いわゆる温泉マークの下の半球部分がひっくり返ったようなデザインが書かれていた。

 何を隠そう、それはカノ国の人には良く知られた、このマークこそがカノ国の国旗シンボルであった。


「それが、マナペブルをチャージする券なのね」


「そう、この摩導機械は、持ってきてもらったマナぺブルの質と量を計測し、一定以上の品質のマナペブルの個数をこの摩導カードに記録するのよ。

 集めた石の数をカードにチャージする、プリペイドみたいなカードシステムね。

 でも参考にしてもらうマナペブルがまだほとんどないから、システムを作ってもらうのに思ったより時間がかかっちゃったのよ。

 でも、これでようやくマナペブルを集める事が出来るわ!」


「なんか、そう聞くとマリーが苦労して作ったみたいじゃない。

 これって、カノ島の賢二が作ったのよね」


「ふふふ。 でも、こんなのが欲しいなって、賢二に頼んだのはわたしよ。

 今後世の中にコンテナが増えてきた場合、このカードはどのコンテナでも共通で使用できるようになるの」


「マリー、プリペイドカードって、いわばお金よね?

 あんた勝手にお金を作っちゃっていいの?」


「それは大丈夫よ!

 だって、これカノ国では使えないし、そもそもこの数字はカノ国通貨のパラスじゃないし。

 そもそもその数字はマナぺブルの持つ価値なので、お金じゃないわよ。

 地面に落ちている、勝手にマナぺブルと呼んでいる石を評価し、品質や重さから決められている数値に変換し、単に記録しているだけなのよ。

 あくまでこのカードは、このコンテナでしか使えないし、お金じゃなく単なる数値だから」


「はいはい、マリーの屁理屈は解ったわ。 日々査定額が変化する金の買取みたいなものね。

 お金じゃないかもしれないけど、価値が有るのだったらそこにセキュリティは有るの?」


「使う前、最初に登録すると、その人の所有になるわ。

 あとは、その人にしか反応しないけど、登録者が別の人を許可すれば、その人も使えるようになるわ。

 そうしないと、家族が使えないからね」


「でもそれがお金のように使えるのであれば、混乱しないようにカノ国の通貨単位のパラスではない、別の単位が必要じゃない?」


「私はマナぺブルを買い取った際に支払う数値は、とりあえず『カノン』って言う単位にしようかなと思っているの。 カノ国なので」


「いいんじゃない、カノンで」

「私も、そのカノンでいいと思うわ」


「じゃあこれからこの券は、『カノンカード』で決定ね。

 カノンカードは1個分のマナペブルと交換で発行する事にするわ」


「通貨と考えると大げさになので、拾ってきた石の評価値を記録するポイントカードと考えれば、確かにそんなところでいいわね」


「じゃあ皆! マナぺブルを拾ってきた人はカノンカードにチャージしてから、この中に入ってね。

 マナぺブルを持っていない人は、最初にその機械でカノンカードを新規発行してから、そのままバングルのパラスをカードにチャージしてね。

 適当に、そうね100パラスぐらいでもチャージしてみて。


 コンテナの中に入ると、そこで実際に商品が買えるから、集めてきたマナぺブルが少ない人も、パラスを追加してもいいわよ!

 中に入ってしまうと日本円もパラスも使えないから注意してね。 カノンカードしか使えないから!」


 それを聞くと、皆はカノンカードに引き換えて、入り口からコンテナの中に入って行った。

 しばらくすると、長いコンテナの反対側にある出口から出てきた人たちは、一様に手に透明な袋を持ち、その袋の中にはいろいろな商品が入っていた。

 さっき引き換えたカノンで、実際に中で買い物を試してみたようだ。


「なかなか使い勝手はいいね。 このコンテナの内装デザインはカレンかな? うん、俺は満足だよ」


「置いてある商品もいいわね。 確かに今必要な物が揃っているし、何よりこのパンが1個1カノンなのがいいわ。

 これだったら、小さい子供でも買えるわね」


 マリエの想定では、例えばこのパン。 コッペパンほどの大きさのパンは、1個あれば十分大人の食料ともなり、以前食べた事が有るカニの形のパンの食感にも近く、パンだけで食事に出来る。

 これは包装を開けなければ、1か月以上日持ちする長期保存が可能なパンだ。

 ちょっと懐かしく、ほんのり脱脂粉乳の香りで少し甘みが有るので他の食料が無い時には諜報である。

 そして、ふんわりではなく、どちらかと言うと少し固めであり、リュックなどに入れて移動する場合にも都合がよい。

 このパンが1個1カノン、11個入った大袋は10カノンである。

 小さな子供であっても、頑張って落ちているマナペブルをいくつかでも拾えれば、それで何日か命をつなぐ事が出来る。


 また、衣類は服よりも下着が多く、パンツや靴下など、それらのほとんどは10カノンと言う値付けがされていた。

 服に関していえば、多くの服が各家庭で眠っていたため、それらは大量に物々交換で取引されて、服に関しては簡単に手に入った。


「このコンテナショップの価格は、カノ国での販売価格や日本の物価との連携は考えていないわ。

 カノ島での物価と異なり、生活に必要な食料や物品はなるべく安くして、逆に嗜好品や贅沢品に近いものは高めにしようと思っているの」


「うん、いいわねその考え方」


 このパンは命にかかわる最低限の食料として安く、1個のマナペブルで買える。

 しかし、生活必需品であっても、消耗品の多くの商品は10カノン以下とそこそこの値段がする。

 消耗品を安くすると、使い過ぎてしまうために、例え必需品であっても高く設定されている。


 商品にもよるが、日本での金銭感覚で言うと、1個のマナペブル、すなわち1カノンが10円から100円くらいの価値となるように設定されていた。

 最初は拾って集めたマナペブルの数も少ないであろうから、高額の商品は買うことが出来ないので、最初は安価な物を中心にそろえている。

 しかし、これは時期を見て商品構成は変えていく予定だ。



「そうしてコンテナショップで集めたマナペブルを、今度はカノ国に売ろうってことなのか?」


「カノ国を維持するためには、何を言ってもマナクリスタルは必要よね。

 またカノ国で生産するすべての製品では、基本的にカノ島内で生産する材料を使って作られているけれど、それ以外にもマナクリスタルが必要なのは知ってるわね。

 集めたマナペブルから取り出せるエターナルの量は少ないけれど、それを精製して再結晶化させることでマナクリスタルに近い純度のエターナルを取り出せることになるわ。

 ただ、マナクリスタルと比べてしまうとその量は少ないので、多くのマナペブルが必要になるけどね。


 でも今回の太陽風が流れた際、カノ島にはシールドが有ったので、島にはマナペブルは降ってきませんでした。

 なので、マナクリスタルの原料となるマナペブルを外国から買うことができれば、カノ国としてはとても助かります。


 また身近に落ちているマナぺブルを拾い集めることで、生きていくために必要な食料や生活必需品が手に入ります。

 これで、双方にメリットが出ます。

 少しでも、人を助けることが出来るのであれば、それは幸せな事です」


「これに、救世主であるマリーも入れて、三方良しということか。

 でもマリーさんよ、カノ島の仕入れ価格より安く売ってしまうと、大量に販売になった場合、逆ザヤであんたが破綻しないか?」


「ふふふ、確かにカノ国で2パラスするパンを、国外で1パラスで販売すれば、たとえそれが安いパンであっても大量となると破綻するわね。

 でも、このショップのカノンとカノ国のパラスでは、その価値が異なるの」


「え? それって、どういうこと?」


「マナぺブルのカノ国への販売価格について、これからのカノ国との交渉にはなるけど、マナぺブルをカノンに交換する交換レートは私が自由に決められるの。

 他に入手経路はないから、私がマナぺブルの流通ルートを一手に握れるってところが重要ね。

 そして、マナペブルの価値であるカノンと、カノ国通貨のパラスとの交換比率は私が決めることができるの。

 私たちはその価値の交換の中に、僅かだけど手数料をいただくことで、そこが利益を生み出す絡繰りね」


「それって、カノ国へのマナぺブルの販売価格を高めに誘導するってことか?

 カノンの為替交換に利益を組み込んでしまうのか」


「ところでマリーさぁ、おまえ、本当にそれが僅かの額だと思っているのか? とんだ近江商人だな」


「それは将来儲かったらの話よね。

 今は最初の1台分のコンテナの商品を仕入れるだけで、これまで溜めたお金のほとんど使っちゃたから」


「ええ! これって、全部お前の自腹なのか?」


「最初は評議会にお願いしたけど、評議会ってあの調子でしょ?

 議会って言うのは、どうしてどこもだめになっていくのかしら。

 いま世界には停まっている時間などは無いのにね」


「まあまあ、難しい話は私には解んないけど、それでマリーはこれからどうするの?」


 いよいよマリエの計画が明らかになり、それはカノ島に発注していた大量の商品であり、マナペブルとカノ島の商品との交換が始まる事になった。

いつも、本小説をお読みいただきありがとうございます。

また、この作品を見つけて頂いた事に大変感謝をしております。


ブックマークと、評価ポイントの登録を頂けますと、作者のとても大きな励みとなります。

何卒お願い申し上げます。


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