これを読めば、これまでの話も判るかも?
夏至にも近い6月、各国の天文台ではこれまで観測されたことが無いような、異常な太陽フレアが確認されていた。
天文台が注目している中、そのフレアの中から巨大な金色のプロミネンスが吹き上がり、それは宇宙嵐として宇宙空間へと飛び去って行った。
公転軌道で太陽を廻る地球が、そのプロミナンスが飛び去り残した金色の軌跡の中を通り抜けた時、これまで経験したことが無いような変化を地球にもたらした。
その時、地球をぐるっと覆うように宇宙空間を取り巻いていた荷電粒子帯が消滅してしまったのだ。
地球の外側の宇宙には、地磁気に沿った形でバンアレン帯と呼ばれる放射能帯があり、さらにその外側には荷電粒子帯と呼ばれる薄い層があった。
荷電粒子は、その名のごとく電荷を帯びた微細粒子であり、宇宙空間を満たしているエターナルとは、電荷により互いに反発をしていた。
宇宙を流れているエターナルは、それは緩い反発ではあるが、荷電粒子帯により地球の外側で堰き止められ、エターナルは地球の周りを取り巻いた磁気の流れに引きずられ、地球の磁力線が集まる磁束である北極の磁極へと運ばれていた。
地球がプロミナンスの軌跡の中を通過した事で、その長きに渡り地表へのエターナルを遮断してきた荷電粒子帯が、宇宙空間から無くなってしまった。
黄金の磁気嵐は荷電粒子とは逆の極性である陽の電荷を持つため、それらは宇宙空間で引き合うように結合し、物質化した。
荷電粒子であった物は、物質となったことで原子間引力が発生し、宇宙空間で他の物質と引き合う力が生まれ、無重力空間で塊へと成長するまでにそれほどの時間はかからなかった。
また、その塊は成長する事で地球の引力の影響を受ける事になり、発生した重量により地球へ引き寄せられていった。
無数の塊となって地上へ落下したことで、地球を覆っていた荷電粒子帯であった物は完全に消滅した。
黄金の磁気嵐は、地球を覆う荷電粒子が無くなると、そのまま地上にまで到達し、今度は地上にある金属中の自由電子と結合した。
電気が流れるのは、金属内の自由電子の流れであるため、自由電子を失った金属は、電気を流すことが出来ない、ただの絶縁体に変化してしまった。
また、自由電子を失った金属は、その表面から輝きすら失われ、鉄や銅などは光を反射しない炭のような、黒い金属になってしまった。
その金属の反射を利用していたもの、鏡は人や物の姿を映す事をやめ、メッキされた製品はそれまでの美しいメタリックな輝きを失い、黒くなっていた。
電気という物は、はるか昔から使われているように錯覚しているが、家庭に電気が届くようになってからは、ほんの100年すらもまだ経過してはいない。
卵で例えると、それは殻の厚みほども無い、長い人類の歴史から考えると、電気文明はほんの一瞬の出来事であるが、それまで積み上げてきた文化を塗り替えてしまう物であった。
そして、現代世界で生きている人や、その根底となる現代文明のすべてには電気が係っており、例え電気を使っていないと思われるような物であっても、それを生み出すどこかの過程では電気が必要となっていた。
黄金の宇宙嵐は、それ自体は生物への影響などはなく、また建造物や物体が破壊や損傷されることも無く、人々は大災害が起きたことにすら当初、気が付かなかった。
地上では電気が消え、それは単なる停電かと最初は思われたが、やがて地球が電気という現象を失った事が判ると、それは『大失電』と呼ばれることになった。
電気が失われると、明かりが消えてしまう事や電気製品が動かなくなることはもちろん、車や飛行機などエンジンは動かなくなり、移動方法が無くなり、互いの連絡は出来ず、全ての社会インフラは停止した。
地球上の全人類は、これまで享受してきた電気の恵みから、それに別れを言う時間も与えられず、永久に決別する事となってしまった。
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太平洋の真ん中に、丸い形をした一つの島がポツンとあった。
その直径が100kmほどの島は、カノ島と呼ばれており、そこには10万人ほどの人が暮らし、王国であるカノ国が存在していた。
この国には、地球の他の国とは少し異なる事情や生い立ちがあった。
カノ国は鎖国を敷いている訳では無いが、他の諸国とはほとんど交流がなく、かつて日本国と友好国の条約等があり、日本にはカノ国大使館と領事館は残ってはいるが、今となってはその日本国との交流もほとんどなくなっていた。
カノ国では摩導具と呼ばれる異次元世界の技術道具が導入されており、それは地球の文明を置き換える程優れた物であり、かつては輸出もされ、爆発的に世界に普及するものと思われていた。
しかし、それまでの利権を奪われることを恐れたエネルギー輸出国が扇動し、石油や電気などエネルギー関連会社や電気を使った製品メーカーなども賛同し、全世界のマスコミによる強力なネガティブキャンペーンが展開される事になってしまった。
多くのマスコミのスポンサーとなる彼らの影響は甚大であり、その結果、摩導具は闇へと葬り去られてしまい、人々の記憶からカノ国の存在までもが消えて行った。
もともとカノ国は、この次元の地球にしかないといわれる薬草を探し求め、異次元の地球から、命を顧みずに次元を超えて渡って来た人、彼女らを保護するために、カノ国の初代国王となる人達により太平洋上に作られた島であった。
そして、摩導具なるこの地球にない文明も、その異次元の地球から来た人によりもたらされた技術であった。
この辺の詳しい経緯は、『パラセル - 俺が異次元娘の身元引受人になった件』という一冊の書物に残されているとの事なので、ここでは詳しく語らない。
そして、電気を失った世界では、摩導具こそが従来の電気に置き換わることが出来る唯一の物ではないかと考えられるが、その摩導具を作ることが唯一できるカノ島も、今回の太陽風の影響により打撃を受けてしまった。
カノ国では、地磁気の磁束点である北極の北磁極に工場を持ち、そこで宇宙から流れ込んでくるエターナルを結晶化させ、これまでマナクリスタルを製造してきた。
これまでもカノ島では摩導具があるため電気は使っていなかったので大失電の影響はなかったが、北極工場でのマナクリスタル生産が停止してしまったことで、摩導具の材料入手ができなくなるという大きな影響を受けていた。
摩導具にマナクリスタルを組み込むことで、結晶から取り出したエターナルの力を用いて、さまざまな摩導具を動かしていた。
電気で言うと、バッテリーにチャージされたエネルギーを電気の流れとして取り出し、その電流を力に変えているのと同様の事である。
摩導具はしっかりした摩導理論に基づき、正確に描かれた摩導回路で動く、目に見えることが出来、誰でも利用できる純粋な技術であった。
摩導技術は現代のコンピュータやプログラミング技術との親和性が高く、この世界の技術と組み合わせる事で、伝わった元の次元世界には無いような急激な進化をこの世界で遂げ、今に至っている。
この世界で産み出された摩導具の基本である摩導チップは、マナクリスタルを基材としたウェハ上に、露光・エッチング処理された、この世界の半導体の製造方法を用いて製造されている。
ベース材となるマナクリスタル自体が摩導具を動かすフォースを発する為に、外部にエネルギー源は特に不要である。
電波や光は太陽から地球に届くまでに約8分かかるが、宇宙空間を満たすエターナルの中を伝わる伝搬速度は速く、宇宙全体から見た場合それくらいの極々短い距離であれば、ほぼ0秒で信号は伝搬する。
そのエターナルを結晶化させて出来たマナクリスタルを、スイッチングデバイスとした摩導チップの演算速度は、エターナルの伝搬速度が基準で出来ているために、それで作られた摩導サーバがいかに高速装置であるか想像できると思う。
そして、すべての摩導チップは摩導サーバと常に通信を行っている。
摩導通信は、摩導チップのマナクリスタルを発振素子として、空間のエターナルを振動させ、それにより遠く離れた宇宙空間の場所との通信を可能にしたものである。
摩導チップは摩導通信を持つことで端末となり、摩導サーバで計算処理された内容が、摩導通信により各摩導チップに配信されている。
カノ島で生産されたすべての製品に摩導チップが組み込まれており、農産物など摩導具でなくとも、そのパッケージには摩導チップが必ず組み込まれている。
これにより、カノ島では摩導チップでショップの販売は管理されており、物流や生産現場も常に摩導サーバで把握されている。
さらに島全体や人々の生活までもが摩導サーバーで管理されている。
カノ国での通貨、パラスは摩導サーバー内にある仮想通貨としてすべて管理されているため、実物の貨幣や紙幣は発行されていない。
そして、カノ国人がIDとして用いている腕に付けた摩導バングルにて、個人の財産であるパラスや生活にある摩導具はコントロールされている。
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大失電により文明が破壊された地球の人々は、従来の災害のような対応が行われるものと期待をしていた。
それは誰かがやって来て、被災地を支援し、他の地域から多くの物資が寄せられ、自分たちの生活を助けてくれるものだと信じていた。
しかし、この災害は地球規模であり、どれほど大きな都市であっても、そこに支援は何も行われることは無かった。
いや、情報が遮断され、他の地区の情報も一切入ってこないため、自分たちだけが世界から取り残されてしまったような不安にすら見舞われていた。
しかし、情報遮断は悪い事だけではなく、逆に更に悪い情報すらもすべて遮断されていたため、地域でのパニックや暴動が発生しなかったのは幸いである。
そんな中、考えることを諦めなかったリーダーがいた地域では、他からの支援を待たずに、自分達だけでなんとか復興を開始していた。
また、政府が動き出さないため、中央官庁や学者などの中には止まっている政治になど頼らず、自分たちで復旧を行うという旗印を掲げて、それは日比谷公園にて日比谷会議と言う復興対策委員会みたいなものを起ち上げた。
それに賛同した多くの人たちは、日比谷公園のテントに詰めかけ、連日連夜に渡って復興に対して真剣に討議を行っていた。
カノ国の王族であるマリエは、カノ島を離れて日本の高校に留学に来て、その高校卒業後もカノ国に帰らず、友達の父親の設計事務所でアルバイトをしていた。
彼女の本名はマリーであるが、日本ではそのままローマ字読みしたマリエと名乗っていた。
その時大失電が起きるが、彼女が住むカノ島の領事館である東京ブランチには日本のインフラは届いておらず、摩導具を使っているので電気などは使用していなかった為、停電の影響は受けなかった。
マリエは設計事務所の所長である遠藤とともに、日比谷会議に参加することで今の日本の現状を知ることになる。
そんな中、日比谷会議以外にも復興に向けて動き出す人もいた。
そこでは、摩導具提供などマリエだけでも出来る小さな協力を受け、マリエの支援を得た人は独自に動きを始めていた。
マリエの周囲にいた彼らは、大失電以前の倉庫に残された物資を使ったコンビニや、都心に新たな農地を作る作業など、思い切った事業をひっそりと行っていた。
さらにマリエ自身も、彼女がいま住む日本を援助しようと、母国のカノ国からの支援は受けられない中、彼女が貯めていた僅かな私費をすべて使って、独自の支援を考えていた。
それは、空から降ってきたマナペブルと呼ばれる白い石を集める方法で、カノ国の危機をも救う事にもつながるからであった。
こうして復興は少しずつ進んでいくのであった。
ここでまとめました部分が この小説はパラセルシリーズの『ルネサンスの女神様 Season1 ねえ、電気つけてよ!』(https://ncode.syosetu.com/n1240hf/)です。
第1シーズンでは、電気を失う大失電と言う災害発生に対し、如何に人類が生き延びるかという少し重いテーマでした。
ここからの『Season2 明るい未来を目指して!』は、カノ国の不思議道具である摩導具を使い、新たな文明社会を作るというテーマとなります。
そして物語はシーズン2へと繋がっていきます。 ご興味あればシーズン1もご覧ください。
Season1は、2021年10月から投稿を開始しました。
Season2は、2022年1月から投稿を開始します。