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ルネサンスの女神様 - 明るい未来を目指して!  作者: 亜之丸
復興を目指して [1か月後]
14/45

1-12 カノ屋

「すみません、どなたかいらっしゃいませんか?」


 鍵がかかった小さな農家の玄関扉を叩く親子。


 大きなリュックを背負った母親は、やはり小さなリュックを背負った男の子を連れ、軽トラックくらいしか通れそうにない細い山道を、2時間近くをかけて歩いて登って来ていた。


 大きなリュックには食料に交換してもらうための衣料品がほとんどであったので、その大きさの割には重くなかったが、それでもこれだけ昇ってくるとぐっしょりと汗をかいていた。

 子供一人を家に残してくるわけにはいかず、一緒に連れて来れば時間はかかることは承知であったが、今日もここまで一緒にやって来た。


 ここに住む老人が、以前は軽トラックの荷台に採った野菜を乗せ、週に一度ほど麓の町にまで売りに来ていた。

 老人は自分の家の周りで作っている野菜を持ってきていると話し、その女性もその野菜を時々購入していた。

 大失電から1月半ほどが経過しており、世の中で食料品を購入することができなくなり、老人の事を思い出し、以前聞いていたその農家の場所をめざして親子は山道を登ってきていた。


 しかし、見つけたその農家には既に人はしばらく住んでいないようであり、周りの畑にあったと思われる野菜も既にすべて採りつくされていて、たとえまだ人が住んでいても食料品となる野菜とは交換してもらえるような状態ではなかった。


「ごめんね、ゆうくん。 せっかくここまで歩いて来たけれど、ここも食べる物はもうないみたい。 本当にごめんね」


「お母さん、 僕は楽しかったよ。 ねえ、だったらさっきの白い石をもっと集めていい?」


「そうね。 食べることは出来ないけれど、残念賞で拾っていこうか」


 母親は期待してきた食料が得られず、他にあてはもうないので、ひどく落ち込んでいたが、無邪気な子供に少し元気をもらったような気がした。

 ここまで歩いて来た時、山道の脇に大きなコンテナのような物が置かれている場所があり、そのコンテナの外に白い石の事が書かれていたのだ。



「お母さん、これなんて書いてあるの」


 コンテナの壁に貼られていた紙を指さし、子供が聞くと、


「これにはね、この写真のような白い石を拾って集めてきて、そこの四角い箱に入れるとね、なんとカードがもらえますって書いてあるわね。

 何かしらねこれ? 昔何かに使っていたのかしら? お母さんも見たことも無いわ」


 そして、山道の途中で沢の水を水筒に汲もうとした一休止の時、子供が何かを見つけたようで河原を走ってきた。


「ねえ、ゆうくん! 大きな石が沢山落ちていて、足元が危ないから、お願いだから走らないでね!」


 子供はそんな母親の心配など耳に入らず、


「ねぇねぇお母さん、これさっきの写真の石じゃない? もっと拾ってもいい?」


「そうね、でもこれからまだ山を登るのよ。 重くなると歩けなくなるから、その一個だけにしなさい」


 山を登って来る途中に、そんな会話があったのだ。



 子供を連れて食料を捜し、毎日いっしょに町を歩いてばかりで、いっしょに遊んであげられる余裕などは無かった。

 宝物を見つけ、それについて何度も楽しそうに話す息子をつれて、山を降りる時に、もう一度さっきの沢にまでやって来た。

 農家までは坂が続き、二人とも喉が渇いていたので、さっき沢で汲んだ水は、農家の前ですべて飲んでしまい、帰りにもう一度沢によって汲んで帰る予定であった。

 家に戻っても水道は出ないので、飲める水はとても貴重なのである。


「お母さん、ここにも落ちているよ!」


 さっき子供と一緒に石を探してみたのだが、残念ながら母親は1個も見つけることは出来ず、ちょっと大きな石に腰掛けながら、これからどうしようかと元気な息子を見つめながら悩んでいた。

 男の子は石に目が慣れてきたようで、あちこちで白い石を見つけては彼のリュックに入れている。



 ここは、奈良盆地の東。 大きな盆地を囲むような山の麓に近い場所には、そこを南北に通る古き道があった。

 この地は、かつて初代天皇である神武天皇に繋がる地であり、その道は大和路と呼ばれており、そこから山に続く沢沿いの脇道を通って、ここまでやって来ている。

 この山道は、農家の老人が軽トラックで通っていたのであろうが、道がどこかにつながる街道ではないので、ここを通る人はほとんどおらず、地元の人でも存在すら知られていないと思われる。


 そんな山道の途中に、その大きなコンテナは置かれていたのだ。

 ちょっと古そうなコンテナであったので不法投棄かとも思われた。


 知っている人が見ると、それは『40フィートコンテナだな』と呼ばれる、長さが12メートルくらいもある、四角く大きな輸送用の鉄箱であった。

 それは大型のコンテナ船に積み上げられていたり、大型トレーラーで道路を運ばれているあの大きな箱だ。

 貨物列車など鉄道では、このコンテナの半分の長さの20フィートコンテナもよく見かけたが、これはフルサイズであったので、それをどうやってこの山中まで運んだのか不思議であるが、母親にはそこまでの考えは無かった。


 長いコンテナ端の案内書が貼られたその壁の上には、『カノ屋』と手書きされた紙も貼られていたので、以前は何かの店舗として使われていたのかもしれない。

 壁に書いてあった案内の通り、同じ壁の下の方にはステンレスのように銀色(・・)に光る金属っぽい四角い箱が取り付けられていた。


「ねえ、お母さん。 ここにさっきの白い石を入れるんだよね?

 僕が入れてもいい?」


 子供が自分で拾い集めた石なので、それを入れても良いと言ったが、その箱の形を良く見ると、一度入れてしまうと、取り出せないようなので、大丈夫かな?と母親は少し心配していた。

 どこも電気が来ていない状態なので、動かないかもしれないと母親は思ったのだが、子供はそんな親の心配をよそに、箱の上でリュックをひっくり返し、集めてきた白い石を一気にガラガラと入れてしまった。


「あっ!」


 母親が止める間もなく、その箱はホッパー形状をした、底に向かったスロープとなっており、白い石はその四角い箱の穴に、すべて流れ落ちるように消えてしまった。


 すると石を入れた箱の前には音もなく、カードのような物がピュッと顔を出し、心配していた停電による故障などは無かったようである。


 男の子は嬉しそうに、箱の前からそのカードを引き抜くと、それを母親に見せてくるが、そのカードの表面には大きく2桁の数字が書かれており、裏返してみると知らない記号が書かれていた。


 母親は、壁に描かれた説明をもう一度見ると、その数字は入れた白い石の評価値であるとの事が書かれていた。


「お母さん、リュックの底に白い石が2個残っていたので、これはお母さんにあげるね」


 さっき、リュックをひっくり返して箱に入れた為、リュックの底にはまだ石が残っていたようだ。


「ありがとう。 じゃあお母さんもやってみるわね」


 そう言って、子供にもらった2個の石を箱に入れると、今度は『1』と書かれたカードが同様に箱から顔を出してきた。

 壁の説明書きによると、このカードの発行に石が1個必要になるらしい。


「お母さんもカードが貰えて良かったね!」


「ありがとう。 じゃ、そろそろ帰ろっか」


 男の子にとって新たな宝物となったカードが、自分のリュックに残っていた石で、お母さんにも貰えたことが嬉しかったようだ。


「ねえねえ、お母さん。 あそこにこのカードの模様が書いてあるけど、あれはなあに?」


 男の子は、コンテナの壁に描かれた模様を指さすと、


「ほら、これと一緒でしょ!」


 縦にいくつかその模様が付いており、男の子はそう言ってその壁の模様とカードの模様を並べた。


「わっ!」

「きゃ!」


 カードを並べた瞬間、それまで壁だと思っていたコンテナの一面が、いきなりふわっと消えて、コンテナの中から明るい光が漏れてきた。

 子供は何も考えずに、誘われるようにその中に飛び込んでいってしまうと、今あったその入り口がすっと消えてしまった。


 慌てたお母さんは自分用にもらったカードを同じように壁に当てると、壁の一部は再び透明になり、子供を追いかけるように慌てて中に飛び込んでしまうと、壁の入り口はやはりすっと消え、二人はコンテナの中に閉じ込められてしまった。



 しばらくすると、長いコンテナの反対側の壁から、おおきな透明の袋をぶらさげた二人は無事に出てきた。



「お母さん! ここ凄いね!」


「えぇ、これでしばらくご飯が食べられるわね」


「お母さん、明日は朝から石を拾いにこようよ!

 僕頑張って、たくさん集めるから、明日は競争だよ」


「うん、ありがとうね。

 これも、ゆうくんのおかげね!」


 そう言うと、母親は持っていた荷物を地面に置くと、息子をぎゅっと抱きしめ、ちょっと涙するのであった。



 ―・―・― ―・―・―



 コンテナの中に入った親子は目を見開いていた。

 白くまばゆく明るいコンテナの中に、『カノ屋』はあった。


 天井には照明装置こそ見当たらないが、壁全体が白く光っており、久しく感じる人工的な明るい店内に、それだけでも すこし懐かしく嬉しくなってしまう。

 両側の壁の商品棚には、多くの見知らぬ商品でぎっしりと埋め尽くされており、ここには買い物かごではなく、この店では入り口に置かれていた透明の大きな買い物袋に直接商品を入れていくようだ。

 店内の商品は、食料品や衣服、日用品などが並んでおり、それぞれの商品の前には数字が書かれており、買い物袋に商品を入れると、白い石と交換に受け取ったカードの数字が減っていく。

 どうやら、そのカードに書かれている数字は、買い物袋に入れることが出来る商品を示しているようであった。


 家の冷蔵庫は動いていないので、母親としては、なるべく日持ちがしそうで、なおかつ腹持ちが良さそうな食料品を選びたかったのだが、ほとんどのポイントは子供の持つカードに入っていた。

 そして、このカードのポイントを使うときは、カードの持ち主でないと、透明な買い物袋に商品を入れる事が出来ないのであった。

 そのため、子供が好きな商品が中心に選ばれ、それは玩具など、当面生きるために必要で無いものも多く含まれていた。


 母親は明日に石をまた拾えばと思い、石を見つけた子供にお願いして、今日のところは幾つか商品を買ってもらう事にした。

 まあ、それでもあの短い時間だけでも拾い集めた石はそこそこの量が有ったようで、お菓子を中心ではあるが、食べ物も多く含まれていたのは幸いであった。


 このカノ屋で取り扱っている商品は、カノ島で生産された物であり、カノ島でコンテナに商品をセットした状態でカノ島から日本に運び込まれたものである。

 子供はパンやお菓子などを中心に選んでしまったようだが、パッケージを開けるだけでそのまま食べられる、出来立ての熱々食品が出てくるパッケージもカノ屋の店内には多く陳列されていた。

 以前から知っている食品メーカーの商品とは異なり、日本では全く知られていない商品のため、例え母親が買い物をしたとしても、それら食品は選ばれなかったと思われるのは、とてもおいしいだけに少し残念である。


 親子以外誰もいない店内でゆっくりと商品を選び、細長い店内を入り口とは反対まで歩いて行くと、そこは出口となっているようであった。

 出口に会計のレジなどは無いようであるが、既にカードから数字が引かれているので精算はこれで済んでいるらしい。

 ここでは拾って集めた白い石がお金替わりであり、それで店内の商品を買うことができる事がはっきりとしてきた。

 そして、カードを見ると残額はいつでも表示されているので、二人ともそれが0になるまで買い物を続けた。

 もっとも母親は最初から1しかなかったので、ほとんどなにも買えなかったのではあるが。


 カノ屋から外に出てから、改めてもう一度壁の説明を読むと、さっきは意味が解らなかったことも何となく理解できるようになっていた。

 このカードは『カノンカード』と呼ばれる物であり、拾ってきた白い石がマナペブルであり、入り口の交換機により『カノン』と呼ばれるポイントがカードに溜まり、溜まっているポイントが数字として表示されているとの事が書かれていた。


 さっきは読んでも意味が判らなかったが、このカードには石を交換した者が所有者として登録されているようで、所有者が登録されたカードからは、カノンを他人に譲り渡すことが出来るとの事であった。

 さっきそれを知っていれば、息子のカノンを店内で少し分けてもらったのだが、入場前に説明書を読んだだけでは、カノンすらそれが何のことなのかさっぱり理解できていなかった。


 この母親は最初は説明書を理解できなかったが、とりあえず一度店内で使ってみると、何となく使い方もわかってきたようである。

 やはりオン・ザ()・ジョブ・()トレーニング()のように百聞は一見に如かずである。

いよいよカノ屋が登場したところで、この章はお終いとなります。


現在、執筆活動以外が超多忙となっており、執筆に廻せる時間が限られており、しばらく定期更新は滞る日があるかと思いますが、可能な限り更新は続けたいと思っています。

やむなくお休みいただく事になるかとは思いますが、しばらくご了承ください。


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