1-11 復興会議
最低人数となる国会議員が集まった時点で開かれた臨時国会では、与野党の枠を超えた超党派議員による大失電復興特別委員会が設置された。
そこは、国政として復興に取り組む場であったが、国が滅びようかというそんな事態の中でさえ、利権をむさぼろうとする人間達はいた。
通信方法などが確立し、周辺地域の行政との連絡が可能となるまで、政府としては日比谷公園で行われている日比谷会議については黙認しようとしていた。
しかし、利権を欲する彼らの目には、日比谷会議はやはり目障りな存在として写っていた。
そんな日比谷会議では、都道府県の再編成と新たな土地へ中央政府を移転させる遷都論が話し合われていた。
遷都論は、首都がある都心の復旧において、高層ビル群で構成された東京都心について、大失電後に残されている技術では、建てられている高層ビルの解体は難しく、計画の時間が読めないことから、新たな地への移転が検討されていた。
銀輪隊を中心とした連絡網を考えた場合、冬場に積雪する地域は除外された中から、各地への中心となる場所であり、さらに高度な土木機械を使わなくとも開発可能な広い土地が残されている場所がどこに有るかと日比谷会議では検討されてきた。
遷都先として、これまでにたくさんの候補地が出されてきたが、日比谷会議としては最終的に名古屋郊外への遷都案が有力となっていた。
候補地となったそこは、名古屋港に近く、愛知県に隣接している三重県である。
そこは、開発があまりなされていない広い埋め立て地が残されており、また高速道にも接道するなど、いくつもの条件に合致した限られた候補地である。
候補地として選ばれたすぐ傍にはカノ国大使館があり、この選定がカノ国の支援を意図したものなのかは判らないが。
具体的な計画図面が作られ始めた中、自分たちが築きあげた利権の基盤に対し、それが崩れてしまう可能性が高い遷都について恐れる人たちがいた。
彼らの行動は、当初は日比谷会議に文句をつける事くらいであった。
それは少しずつではあるが日々激しさを増していき、オープンで実施されている会議の場に議員の秘書などがやってくるようになり、やがて議員本人もその場に抗議に来るようになった。
しかし、その国会議員ですら実は手先にしかすぎず、その裏ではかつて霞が関のフィクサーと呼ばれていた人物が中心に動いていた。
彼らは、自分の都合が良いように日比谷会議を誘導する、それは傀儡として日比谷会議を乗っ取る事、そしてそれが出来ないようであれば日比谷会議を壊す事を目論んでいた。
誰もが参加できる自由参加の会議が裏目となり、その息がかかった黒い連中がいくつもの会議に現れるようになると、明確な政治基盤を持たない日比谷会議にとって、頭が痛い問題となって行くのであった。
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ここは、大山幹人が通う高校の地理部部室。
今日はそこに幹人と佐藤隆二、野地博実の3人が集まっていた。
いつもの地理部の部員たちは巡検に出払っているため、早々と定例会議が終了したので、3人でお茶をしながら話をしていた。
「隆二さん、私達この前隆二さんが持ってきてくれた巨大ミミズを研究所に届けたでしょ?
あれを食べなきゃいけないとなったらどうしようかな?って、せっかくの食事もあれからしばらく喉を通らなくって……」
「博美さんったら、あの施設の見学中、ずっと青い顔して震えていましたからね。
寒かったのですか?」
年上の二人であるが、始終顔を合わせ、幹人はそんな冗談すら言い合えるようになっていた。
「私はあの研究所の視察に行ってから、しばらく鳥肌が状態が続いていて、そう言えばあまり暑さを感じていなかったわね」
「俺もコンビニ店舗を巡回していても、今年は体温を超えるような猛暑はまだ無いようですね。
エアコンが使えなくなってしまいましたが、木陰に入ればそこそこ過ごしやすいので、みんな助かっているのじゃないですかね。
今年は異常気象ですか?」
「ひょっとすると猛暑の状態の方が異常だったのかもしれませんよ。
僕が生まれてからは、夏はずっとこんな感じですが、僕のお父さんが子供のころはもっと涼しかったと聞いた事があります。
お父さんが小学生の頃やった、夏休みの宿題の日記では、気温が30℃を超える事はひと夏に数回しかなく、それも高くても31℃や32℃くらいだったと聞きました。
暑い日の午後には大きな入道雲がやって来て、夕立が通り過ぎると涼しくなって、エアコンなど無かったけど、開け放った縁側で涼しく過ごせたという話を聞きました」
「そうですね。
私も以前研究していた中に気象データもありましたので、ここ100年くらいの気象庁の観測データからでは、平均や最高など気温的には熱帯化と言えるほど高くはなっていないのですが、確かに体感的には暑くなった気がします。
その時、南国の植物が東京で育てられるているのを聞き、確認の為に実際にトロピカルフルーツが育っているのを視察に行った事が有ります」
「以前、俺もエアコンなど都市が排出する排熱が、夏の気温を高めていると聞いた事があります。
コンビニ店舗では24時間大きなエアコンや冷蔵装置を使っていますので、俺達も温暖化の原因の一端を担いでいたようでちょっと心苦しいですね」
「まあ、人類の行動で地球の気温に影響が出るってことですよね」
「そうですね。
私も研究で確認していましたが、オゾンホールや南極や北極の気温が上がるなど、地球規模の気象が変化していることは確かにあるようですね」
「これからの問題は、この冬寒くなるかですよね?
地球全体の平均気温が下がり、満足に暖房装置が使えない状態で極寒になるのはまずいですね」
「どうして人類は冬を恐れているかも考える必要がありそうだね」
「僕が考える冬の一番大きな問題は、気温が下がると人間は生きていけない事ですよね。
さらに植物が育ちにくくなるために、食料が不足にもなりますよね。
しかし、植物が育たないのは、気温と日照が減ることが原因なの以外に、植物自身も気温のサイクルを持っているので、一度寒くなった後、暖かくなると発芽する植物も多くありますから、常に暖かければいいわけじゃないですよね」
「そうですね。
植物の生育に影響が出るようでは、人間も冬を越せなくなってしまいますね。
私は、東京でも凍死者が出るのではないかと考えています」
どうも野地博実は、そうですねって言うのが口癖のようだ。
「じゃあ、博美さんはどうすれば凍死者をもっと減らせると思いますか?」
「そうですね。
暖かな暖房があればいいのかな?」
「温かな服もいいんじゃないですか?」
「温泉もいいな!」
「だったら、思い切って地球ごと温めるというのもいいかもしれませんね?」
幹人は何か真剣に考え始めたようで、明らかに冗談と思える隆二の話に対して真面目に答える。
「いや、今暑い夏とは言っても、地球の残り半分は冬ですから。地球ごと温めると大変な事になっちゃいますね」
「そうですね。
以前私が行っていた研究なのですが、この話はちょっと地球規模ですので、そう言う感覚で聴いてください。
まず、この地球全体の地表の平均温度ってどれくらいあると思いますか?」
「地球全体だと、赤道から南極まであるから、だったら20℃くらいなのかな?」
と隆二が答える。
「いや、昼だけじゃなくて半分は気温が下がる夜もありますから、もっと低いんじゃないかな?
15℃くらいですか?」
と幹人の答え。
「はい、正解です。
だいたい地球の地表での平均温度としては15℃くらいと言われています。
ところで宇宙の温度は絶対零度に近いマイナス270℃と言われています。
こんな極寒の冷凍庫の中に置かれた地球の地表が、なぜ15℃もあるのでしょうか?」
「地球の中に熱い塊である、マグマが入っているからですか?」
「さすが地理部のお仲間ですね。 でも違います。
それは今回の大失電をもたらした太陽のおかげです」
「へえー。 地球は太陽温熱器で思いっきり温められているっているってことか」
「ヒーターの熱線と言うよりは、太陽からは主に強い可視光線が届いています。
虫眼鏡で集めると、黒い紙が焼けますよね。 それだけ強い光と言う事です。
そして、光を受けた星はその光を反射しています。 自分で光っていない惑星であっても、宇宙から星を見ると輝いて見えますよね。
この地球も惑星自体は光っていませんが、太陽から受けた光を反射していますので、その反射面は青い星として宇宙空間から見ることが出来ます。
これはアルベドという惑星の反射率で計算され、地球では30%位の太陽光が宇宙空間に反射されています」
「じゃあ残りの70%は地球がそのまま受け取っているのですか?
でも、それって変じゃないですか。
長い時間で考えると、地球に太陽からのエネルギーが溜まり、地球はどんどん熱くなっていきませんか?」
「そうですね。
その通りで、もし受けたエネルギーが溜まると熱くなり、放出し過ぎると寒くなり、地球全体の温度が変わってしまいますね。
実際は地球は日中に太陽から受けた可視光域の光のエネルギーのうち、反射せず地球に溜まったエネルギーを、今度は目に見えない赤外線として、宇宙空間に向けて放射しています。
それは日中や夜間に限らず地球からの放射は行われており、溜まったエネルギーは夜間にも宇宙へ放出され続きます。
基本的に地球が受けたエネルギーは、最終的にすべて宇宙空間に放出されています。
そうでないと地球内部にエネルギーがどんどんと溜まってしまいますからね。
その吸収と放出のバランスが取れた時、それが今の地球環境である地表の平均温度として15℃くらいになっています。
そしてその温度帯で生息できる生物が発生し、生き残っているわけですね。
太陽のように自分で光り輝く恒星が近くになければ、その惑星は宇宙の温度であるマイナス270℃に近づくことになり、そんな星には生物は存在できませんね」
「地球の平均気温は、太陽光の影響から来ているのですね。
でも、そこに地球環境の影響はないのですか?」
「そうですね。
地球と月は太陽の公転軌道上を、互いに引力で引きあいながらグルグルと回っていますので、両惑星が太陽からうける光エネルギーとしては同じ条件となります。
海が無く空気が薄い月では地球と異なり、太陽光を受ける月面表面では最高110℃に達し、受けない面はマイナス170℃まで下がるようです。
シュテファン・ボルツマンの法則というものがあって、地球を真っ黒な惑星として太陽との距離から単純に計算すると、地表の平均温度は今よりももっと低くなります。
今の平均温度と言うのは、地球の周りに対流する空気や地表の多くを覆った海水の存在により、この温度となっているようですね。
同じ太陽条件であっても、地球と月では惑星表面の環境が違うので、その環境によりこのような大きな差異が生まれます。
また環境の影響と言う事であれば、地球の地表を覆う大気には水蒸気や二酸化炭素などの分子が含まれており、地球が放出する赤外線をその分子が受けると、水や炭素の分子は遠赤外線を発し、空中から再び地球表面を暖める事になります。
空気が乾燥し、雲が無く晴れた冬の夜だと、エネルギーはそのまま宇宙空間に放出されてしまうために、そこでは放射冷却が発生しますし、環境による温室効果も気温に影響があると言う事になりますね」
「博実さんは、とても難しい研究をされていたのですね。
要は、今の地球の気温は、それらのバランスが取れた結果と言う事ですね」
「あ、すみません。
どうすれば、冬の凍死者を減らせるかでしたよね。
つい自分の専門分野だったので、語っちゃいました。
でも、日中に太陽からの恵みを一杯に受けた後に夜間となる時、冬となる地域に人為的に温室効果を作りだし、エネルギー放射を地球内部に閉じ込める事ができれば、冬の平均気温はかなり高くなるはずね。
以前で言う環境破壊の手法を集中的に使って、地球規模の気温バランスを崩し、強制的に何年かの間を温暖化させることが出来れば、それは私も面白いと思うわね。
そして、真冬にインディアン・サマーとか冬日和などみたいな夜になれば、凍死者はかなり少なくなるでしょうね」
「なかなか面白い話ですが、僕らじゃちょっとそれの実現は出来そうもありませんね」
そんな雑談がされていたのであるが、これらの会議とは関係ないと思われる話も、隆二からマリエに伝えられていた。




