51話目 灯里と飲み会3
「あ…ありがとうございます?」
「ごゆっくりどうぞ」
お礼を言い受付カウンターから離れた。
私の隣には同じく混乱している灯里が居る。
「どう言うこと?」
「なにこれ?」
「これ…日本だよね?」
「ホテルみたいだね?」
辺りを見渡すと普通の日本のお客さんがいっぱい居た。
「どう言うこと?」
立ち止まるのもなんなので受付の女性に言われた通りにお風呂に入りに行くことにした。
「エレベーターだ…」
「そりゃこっちの世界だもん」
「あっちの世界が夢?それともこれが夢?」
そう灯里に言われてストンと納得いった。
あぁ…そうか。夢か。
「…なんか飲み過ぎたみたいだね」
私がそう言うと灯里も考えるのを止めたみたいだ。元々酔っ払ってたんだもの。頭が回らないよね。
「…そうだね。いい夢だね…」
「せっかくだから久しぶりの温泉楽しむぞ~」
「うん!!」
嬉しそうに灯里は笑った。
大浴場に着くと脱衣所で服を脱ぎロッカーに仕舞い鍵を腕につけ浴室へ行った。
「あ…ここって……」
浴室に入って目についたのは一面の新緑。
硫黄の香りにお湯が流れる音、立ち上る湯気、湿った石畳。
広々とした浴場には壁一面に大きな窓が設置されそこからは新緑に彩られた山々が見えた。
「カタログギフトに載ってた写真と一緒……」
ポカーンと窓を凝視し我に帰ると体を洗い湯船へ移動した。
「あーーーーーいい湯だね」
「気持ちいい~」
湯船に浸かると伸びをする。異世界に行く前から数えても温泉は久しぶりだ。
隣の灯里を見ても幸せそうだ。
のんびり湯に浸かり窓の外を眺め視線を動かしていくと看板が目に入った。
「…あ、灯里。あっちに天空露天風呂があるよ!行ってみる?」
「うん!行く!」
二人で露天風呂に行く。
外に出る扉を開けると木々の香りに少しひんやりとした風、火照った体には気持ちいい。
暗めの室内とは打って変わって明るい太陽の光が降り注ぐ露天風呂。
そこには陶器と檜の二つの浴槽が並んでいた。
「露天風呂久しぶり」
「開放的で良いね」
私が檜のお風呂に入り灯里は陶器のお風呂に入った。
お湯は露天風呂だからか少し熱めだった。
「なんか癒されるね」
「うん…」
しばらく二人で景色に見入った。
「あー長風呂した」
「あっついね」
二人でロビーで寛ぐ。
アイテムボックスは使えたのでロッカーの中で着て来た物と新しい物とゴソゴソ交換し着替えた。
「そう言えば何かお土産見る?売店あるよね」
「行きたい!」
それぞれアイテムボックスには元々持ってた財布が入ってたのでお金は大丈夫。私は約2万円が所持金だ。
この宿はATMが無さそうだから下ろすこともでき………この場合下ろせるの?
まあ夢なら下ろせるか。と言うか中途半端な夢だな。アイテムボックスは使えるけど魔法は使えないみたいだし。
どうせならどどーんとお金持ってる夢にして欲しかったな。
そんなことを思いながら売店に移動した。
「北海道のお土産いっぱいある!」
「ハスカップ使った水?あ、生キャラメルあるよ」
地元のお土産品から北海道名物等色々あった。
地元の牧場で作ったアイスやお店とコラボしたインスタントラーメンもある。
地酒なんかも良いな。魔法で取り寄せられる日本酒も少ないから欲しいところだよね。
おつまみコーナーもある。冷凍の鮮魚の加工品なんかもある。
カゴを手に取り悩みながら入れていく。
日持ちしない物でもアイテムボックスに入れれば良いよね。
夢なのにそんなリアルなことを考えて少し笑ってしまった。
買い物を終えると食事の時間になった。
「確か2階だよね?」
「うん。どんな食事だろう。楽しみ」
すっかり表情も明るくなった灯里と共に食事処へ移動した。
「橋沼様と本宮様ですね。ご案内いたします」
そう言って案内された席に着く。
白いテーブルクロスが引かれた席が沢山あり、そのテーブルの上には名前が書かれた紙が置いてあった。
壁際には料理が沢山並べてあった。
「バイキングだ!何があるかな?」
灯里が楽しそうに話す。
その表情はここに来る前とは全く違っていた。気分転換にはなったみたい。良かった。
「なんかワクワクするね」
二人でふふっと笑う。
先に灯里に料理を取ってきてもらい戻って来たら今度は私が料理を取りに行った。
「流石北海道だね」
「私ビックリしちゃった。ジンギスカンなんて初めて」
「私も初めて!思わず持ってきちゃった。結構量多いね」
「うん。二人で半分でちょうど良かったかも」
二人の目の前にあるジンギスカン。キャベツやもやし、ピーマンが乗った上にジンギスカンが乗っている。
結構量多めな食べ物だ。
その他にも天ぷらや毛蟹、お寿司、ステーキ等とりあえず色々取ってきてしまった。
「…食べ切れるかな」
「食べ切れるかな…じゃなく食べ切るんだよ。まだデザートが待ってるよ!」
「う、うん。頑張る!」
気合を入れる灯里。
「では「頂きます!」」
「お腹苦しいー」
「流石に食べ過ぎたー」
ロビーで休憩する事にした。
結局あの後おかわりをしてさらにデザートのケーキも3つ、フルーツも数種類食べ切った。
少し休憩してもう一度お風呂に入ってホテルの入り口にやってきた。
「あー良い夢だったね」
「うん。とても楽しかった」
そうしてホテルの入り口を抜けると元の部屋に居た。
飲みかけのコップに大量の果実酒の保存瓶、窓の外は真っ暗だ。
「さてもう一寝入りするかなー灯里も泊まってく?」
「お言葉に甘えて泊まる~」
欠伸をし二人でベッドに横になった。
 




