15話目 スイーツ巡り2
「アルフさん。いつもお世話になってます」
三人でケーキを堪能しているとエプロンを付けた癖っ毛の男性が声をかけてきた。
クイナさんに紹介してもらい私もアルフさんを紹介してもらった。
どうやらここのお店のパティシエらしい。
「昨日のチョコは…………どうでした?」
「あは…あはははは…」
「やはり美味しくなかったですよね。申し訳ない」
クイナさんとイリスさんはアルフさんの問いに愛想笑いを返した。
「カカオって難しいですよね」
「カカオを知ってるのかい?って渡り人だもんね」
私がこっちの食材を知らないようにアルフさんはあっちの食材の調理がうまく出来ないらしい。
そりゃそうだ。
「参考になればですが…」
アイテムボックスからチョコのレシピ本を取り出した。
失敗してしまう私よりきっとアルフさんの方が使いこなせるはず。
「これは…」
「カカオからのレシピじゃないんで役に立たないかもしれませんが…」
ペラペラとページを捲るアルフさん。
「…いえ……大変参考になります…」
心ここに在らずといった様子で熱心に読み込んでいる。
絵付き凄い…と呟きが聞こえた。
すり潰す過程でドロドロになるのは正解だった?冷やせば固まるのか?…いやあのままだと口当たりがザラザラしてるし…濾すのか?液体に牛乳を入れて固まるのか?これだと固まってるし………とぶつぶつ呟いている。
「…ついでに…食べてみます?」
「っあるのかい?!」
魔法を使用しチョコレートケーキのオペラを取り出した。
これも名作だよね。小さくともお高い。これで魔力2000だもんね…。
10cm×10cmくらいなのに。
クイナさんとイリスさんと自分の分もついでに出す。
「私達もいいの?」
「やったー!」
「取り寄せられるので美味しい物はみんなで食べましょ」
イリスさんは魔法を気にせず役得役得と言いながら美味しそうに食べ始めた。
アルフさんは魔法よりもオペラに夢中で四方八方から眺めている。
クイナさんは素直に魔法にびっくりしてた。
「そんな…嬉しいけど…ホイホイ使っちゃダメよ」
オペラと私を交互に見ながらオロオロしてた。
「美しいケーキだ…」
うむ。と頷いて呟くアルフさん。
フォークでチョコを叩いてる。固さを確認しフォークを突き刺しケーキを切り取る。
目を閉じてゆっくり咀嚼をしている。
「…これもチョコなのか……」
とても美味しいと舌鼓を打っている。
「クイナ。食べないなら貰うよ?」
自分の分を食べ終えたイリスさんがクイナさんのケーキにフォークを伸ばす。
「これは私の!!」
慌てて容器を退けるクイナさん。
「ちぇっ」
「イーリースー!!!」
あんた懲りてないのか!!!と頭にチョップを喰らわせたクイナさん。
「あ痛っ!!」
「毎度毎度人のもの勝手に食べて!昨日のチョコも勝手に食べて!!いい加減にしなさい!!!」
凄まじい怒気を纏わせている。チョップを喰らったイリスさんは頭をさすっている。
「だって美味しかったんだもん」
美味しいのはわかる。
と言うわけで昨日ハンスさん達に出したお得用のチョコを出してイリスさんに渡した。
クイナさんには甘やかしちゃダメよ!と言われたが。
というか見られながら食べるの落ち着かないんだもの。
イリスさんがチョコに夢中になっている間にケーキを完食した。
久しぶりに食べたオペラはやっぱり美味しかった。
飲み物を飲み干すとちょうどいい感じに小腹が満たされた。
「一軒目なのに食べ過ぎちゃったわ」
「本ありがとう、返すよ」
私たちが食べ終えるまでじっと本を眺めていたアルフさん、文字は読めないので所々質問に答えたりした。
名残惜しそうに本を差し出してきたのでやんわり押し戻した。
「この本はアルフさんが持ってて下さい。わからない言葉があれば私含め渡り人に聞いて下さい」
「え……」
「これはアルフさんに差し上げます」
「いやいやこんな貴重な本貰えないよ」
首を左右に振るアルフさん。
「っ軽々しくあげないの!」
辺りをキョロキョロ見渡して慌てて本を隠すクイナさん。
「あちらの本の価値は別格なのよ!!」
小声で星金貨は行くわと教えてくれた。
「だってアルフさんの作るチョコレート菓子食べたいじゃないですか」
それでもダメよと言うクイナさんの表情には迷いが見える。
それどころか新しいケーキを作り出すかもしれませんよと言うとクイナさんは陥落した。
「アルフの新作ケーキ?!食べたいー!」
イリスさんは食の僕だった。
困惑しているアルフさんに追加でもう一冊スイーツのレシピ本を渡し、三人でそれぞれ食べたいスイーツをリクエストしてお店を後にした。
アルフさんのレパートリーが増えることを願って。
後は表通りのスイーツ屋台を巡った。
焼いた果物やクレープっぽいお菓子や飲み物なんかを購入し満喫していった。




