表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
8/14

8話 哀れな羽虫達

~ クローヴィア視点 ~


「レイザー侯爵令息様、申し訳ありません。久しぶりのダンスだったので疲れてしまいましたの。またの機会で宜しくて?」

 笑顔でいなす。

「それは大変ですね。休憩室にお送りしますよ」

 あちらも笑顔で追撃してくる。


 隣のネルが見えないのかしら。


「ホホホ。それには及びませんわ。『婚約者』がおりますので」

 視線をネルに向ける。

 私の行動と発言に周りがざわめく。


 まぁ、そうだろう。

 誰もが気になっているが聞くに聞けなかった存在。私の横に立つ男は誰で、何者なのか。


「ハハハ、ご冗談を。そんなモサイ男が婚約者などと可哀想ではありませんか。美しい貴女の隣に立つ身にもなってあげてください」

「元豚女にはお似合いではなくて?」

 笑顔で嫌みを言えば、一瞬男の笑顔が固まったのがわかった。

「豚は豚箱に返却、でしたわよね。フフフ、よく覚えていますよ。辛辣な別れの挨拶でしたものね」

 ニッコリ微笑むと、周りから非難の目がポンコツ男に集まった。


「ハハハ、そんな事言ったかな?誤解があるようだから、二人でゆっくり話そうじゃないか」

「ホホホ。婚約者が居るのに、殿方と二人で話すなど考えられませんわ。ご冗談が上手ですわね。あら、あちらにレイザー侯爵令息様の今の婚約者様がいらっしゃいますよ」

 視線を会場で一人佇むバカ女に向ける。

 悔しげな酷い顔でこちらを睨んでいる。


 ポンコツ男も言われて視線をバカ女に向けるが、何も見なかったかのように、また視線を私に戻した。


「では、三人で話しましょう。三年間の婚約期間の話を彼に教えてあげますよ。デートしたお店やプレゼントした品物など、いろいろとね」

 

 意味ありげな言葉でネルを牽制しているようだ。じっと彼の顔を見ている。

 時折余裕な笑みを浮かべてることから、ネルの事を侮っているのが伺える。


 本当にうざいです。

 私たちに楽しく思い出を語り合う出来事は、そう無いでしょうに…。


「どいつもこいつも私をバカにして…」

 底冷えする女の声が静かに響いた。

 女がワイングラスを片手に駆け寄ってきた。


「この陰険女!!」

 手のワイングラスを私に投げてきた。

 突然のことで反応が遅れる。

 今日のために用意した白いドレスが台無しになるな…。なんて、間抜けな事が頭を過った。

 グラスがゆっくりと襲い掛かってくるのを眺めていると、誰かが私の前に立った。


 ネルだ。

 私を狙って放たれたグラスを腕で弾いた様だが、中身が彼の頭にヒットした。

「「キャーーー!!」」


 バカ女の暴挙に周りが騒然とする。

 さすがのポンコツ男も、自分の婚約者の行動に驚いたようだ。

 

「邪魔すんじゃないわよ!!」

 女が掴みかかろうと手を伸ばしてくる。

 だが、その手はネルに捕まれ、私には届かなかった。


「人の婚約者に色を目使って恥ずかしくないの?!何が大聖女よ!可愛い私から恋人を奪い返そうと必死になって身っともないわね!いくら外見がキレイになっても、あんたの心根は醜い豚女のままなのよ!!」


 ネルから手を引き剥がそうと暴れながら、私への悪態をつきまくるミアに、会場は騒然とする。


「おい」

 ネルの声が騒然とする中で響く。

 決して大きな声ではない。

 しかし、背筋がゾッとする声だ。


「言い残す言葉はそれで良いんだな」

 ホールの温度が下がる。


 ヤバい!


「ネル、やめて!」

「こんな女を庇う必要はない」

 感情を感じさせない淡々とした声だ。

 相当頭に来ているのがわかる。

 このままでは、今すぐ殺してしまいそうだ。

「今までの暴言。君への危害未遂。この場で殺しても文句は出ない。さらに、王弟たる私への危害だ。万死に価する」


「「王弟殿下?!」」

 ネルの言葉に誰もが驚いた。


 公の場に出ることはなく人嫌いで、魔法研究者の第一人者であり、世紀の大魔法使いライオネル・シェード・グラン公爵だと言うのだから、無理もない。

 さらに


「「!!!」」

 ネルがワインで濡れた髪をかきあげ、素顔を見せると、女性達は息を飲んだ。

 至近距離にいるミアは、息さえも忘れているように見える。


 黒髪に隠れていた、ゴールドの瞳とスカイブルーの瞳が人々を魅了する。

 均衡の取れた美しい造形の顔に、神秘的な両目はまるで宗教画から飛び出した天使のようだ。

 そこに薄い微笑が加わると、女性達は天のお迎えに誘われるように意識を手放す者もいた。


「あっ……あっ……」

 ネルのあまりの美貌に、毒気を抜かれたミアは頬を赤く染めて、声にならない声を出している。


「人の婚約者に色目を使っていたのはお前だろ。学園で再三注意されても、婚約者のいる男に付きまとう節操無しの恥知らずめ」

 辛辣な言葉に、ミアの表情が一瞬で青くなった。


「お前、ヴィアの弟アランドロに懸想していたそうだな」

「なっ!誰が豚女の弟なんか!」

 突然の言葉に、ミアは大きく反応する。


「『アランドロ様をお救いして差し上げてるのよ』と周りの者に話していただろ。聖女の地位を傘に来て男どもにちやほやされていたが、アランドロだけはなびかなかった。ヴィアの存在を知り、彼女がアランドロにとって醜聞になるよう画策するため、ポンコツ男に誘いをかけて見事男を吊り上げた。ヴィアの不名誉な噂を撒き散らし、自分がどれだけ素晴らしい人物か比較対照を作り、演出。『デブスの姉を持って恥ずかしい。元婚約者を救ったように、私も救って欲しい』とアランドロが泣きついてくることを期待していたようだが、幼稚過ぎて呆れてしまう」

 ミアは顔を真っ赤に染めて、ブルブル震えだした。


 薄々感じていた事だったが、お粗末な計画である。

 その計画で肝心なのは『私とアランドロの新密度』だろう。アランドロが私をもともと嫌っているとか、恥ずかしいと思っているのが前提になければ成り立たない。


 仲の良い姉弟だった場合、その思惑とは正反対の結果になってしまう。


 調査不足?だったわね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ