7話 断罪パーティーでした
~ クローヴィア視点 ~
パーティーは順調に進んでいく。
「クローヴィア・フォーリー伯爵令嬢に『大聖女』の位を授与する。これは王族に匹敵する位である」
陛下より特別なティアラを授かった。
「大聖女に感謝と敬意を」
貴族一同が一斉に頭を下げる光景は圧巻だった。
その後、高位貴族から陛下夫妻に挨拶、少し下に設けられた私の席に来て、むず痒くなる感謝を述べていく。
あの日、レストランで私を笑っていた面々は酷く青ざめた顔をしながら挨拶に来ていたわ。
「こっ、この度は、大魔法成功、おっ、おめでとうございます。大聖女様にかっ、感謝と敬意を捧げます」
「ありがとう」
出来るだけ優しく、満面の笑みを浮かべてるのに、みんな更に青ざめたり、カタカタ震える令嬢も居るから困ったわ。
「自業自得だ」
ネルがボソッと呟くのが聞こえた。
その後、そのままホールに向かう人と『陛下が後程お話したいと申しております。別室でお待ちください』と宰相様から、別室に向かうよう言われる人で別れた。
貴族の1/3が別室に呼ばれるとは…。
ずいぶん多いなと、後ろに立つネルを見る。
前髪で目は見えないが、口元が微かに笑っている。
悪い顔ね。
粗方挨拶が終わると
「後程重大発表をするので、しばしパーティーを楽しんでくれ」
と、陛下は宰相様を引き連れて別室に向かった。
「これでチェックメイトだな」
ネルの呟きを聞く。
「思ったより多かった気がするけど、そんなにいたの?」
「大小様々だが、腐ったやつらさ。横領・横流し・情報漏洩・他国との非合法取引など、罪状を上げたら切りがないくらい。遠隔水晶設置ついでに、全ての領地を視察出来たのは僥倖だった」
「証拠集めも抜かりなし?」
「もちろん。領地の屋敷の家令や都市の長に、魔法で話を聞けば早いもんだ」
「…自白魔法を使ったのね」
「そんな強いものを使ったら、秘密調査がバレるだろ。催眠魔法で自白させて、証拠を自ら提出させたんだよ。ヴィアもまだまだだな」
小バカにする言い草にムッとする。
天才魔法使いには敵いませんよ!
「ネル。そんな言い方ではヴィアに嫌われますよ」
王妃様が会話に割り込んできた。
「魔法以外はてんでダメね。もっと人の機微に敏感にならなくては。ねぇ、ヴィア」
ウインクされた!
同性だけどドキドキしてしまうわ…。
マリアンヌ王妃様。
陛下の幼馴染みで、確か今年で50歳。
しかし、まるで30代のようなに美しい。
社交界をまとめる女帝。
女神のごとき笑顔で、不埒な者を社会的血祭りに上げ、家を破滅に導く悪女。餌食になった貴族は数知れない。
ただ、破滅させられた貴族はそれ相応の悪事に荷担しており、世論では正義のヒーローと好評価されている。
「世直し業務も終盤でしょ?ほら、哀れな虫が迷い混んでるわよ。ついでに掃除してきなさいな」
王妃様の視線がホールに向いた。
人混みの中にピンクの髪を見た気がした。
「はぁ~。相変わらず悪趣味ですね」
「あらヒドイ。花にたかる羽虫は、何度払い除けても、その甘い蜜を求めて戻ってくるのよ。鬱陶しい程にね」
「羽虫の掃除は風に任せておけば良いんですよ。わざわざ相手にしなくても」
「そんな事では足元を掬われますよ。とくに道理のわからない害虫は、こちらの常識が通じないですからね」
ホールでダンスのワルツが流れた。
ファーストダンスは『妻』か『婚約者』もしくは『家族』と踊るのがルールだ。
しかし、例外がある。
妻や婚約者、家族以外で踊る場合、それはプロポーズを意味し、ダンスを承諾する=結婚を承諾すると捉えられる。
何組かが踊り始める。
そんな中、こちらに歩いてくる男がいた。
レイザー侯爵令息(ボンクラ元婚約者)だ。
「ほら、常識が通じない」
「はぁ~。ここが一番安全だと思ったのに。バカの相手は疲れる…。仕方ない。ヴィア、踊ってくれますか?」
ネルが手の甲に軽いキスを落とす。
貴公子のような振る舞いに、思わず笑いそうになる。
普段はサバサバしており、悪態と毒舌のオンパレードの男が、こんなキザったらしい仕草をするところは見たことがない。様になってはいるが、普段とのギャップがおかしくて、笑いを噛み殺すのが辛い。
「ヴィア」
あっ、普段の意地悪な顔になった。
マズイ、マズイ。
「はい、喜んで」
二人でホールに下りると、周りがざわめく。自然と中央が開けられた。
ダンスのレッスンは太る前に基礎を習い、大魔法成功後に仕事の合間をぬって練習しただけだから、ちゃんと踊れるかしら…。
一抹の不安がよぎる。
「大丈夫。俺に任せろ」
ネルが耳元でささやく。
普段の小憎らしい物言いなのに、とても落ち着く。
うわ……。
私、踊れてる。
ネルの巧みなエスコートのおかげで、体が勝手に動く。どうしよう、とっても楽しい!
自然とネルと見つめ合い、微笑んでしまう。
「そんなに楽しいのか?」
「フフ。えぇ、とっても。ネルがこんなにダンスが上手だとは意外ね。魔法ばっかりなのに」
「俺は天才だからな」
自信満々な態度に笑ってしまう。
あっという間に曲が終わってしまった。
「俺から離れるなよ。王妃の所に戻るぞ」
ネルが囁く。
私達は次の曲が始まる前にダンスホールから離れ、王妃様の居る壇上に向かった。
だが向かう最中、子息子女に囲まれてしまう。
「大聖女様、とても素敵でしたわ」
「幼い頃、お茶会でご一緒したことを覚えていらっしゃいますか?」
「弟君と同じクラスです」
王妃様の言葉を借りるわけではないが、まるで羽虫が蜜に吸い寄せられるようだ。
本当に反吐が出る。
「次は私と踊っていただけませんか?」
いやに耳につく声がした。
本当に懲りない男だ。
「やだ、レイザー侯爵令息様だわ…」
誰かの囁きが聞こえた。
今や社交界で悪い意味で有名になった男。
『大聖女をフッた愚か者』
『元サヤを懇願した厚顔無恥』
『大聖女につきまとうストーカー男』
など、様々言われている。
私の名誉の為に言っておくが、私はそんな噂や悪口を口にしていない。むしろ関係を絶ちたいのだ。
もちろん、家族やネルにも構わないように伝えているから、私の関係者が言っているとは思いたくない。
「元婚約者をダンスに誘うなんて…」
「噂は本当なのね…」
「恥知らず」
レイザー侯爵令息をヒソヒソと非難する声が聞こえる。
調子が良いことね。
自分達も大して変わらないくせに。
やり玉が現れたら容赦なく叩き割る。
まぁ、この中の何人かは、しばらくすれば目にすることも無くなるわ。




