6話 王城パーティーは
~ クローヴィア視点 ~
大魔法成功から半年が経った。
遠隔水晶との接続や、各領地の効率のよい設置場所の査定などでとにかく忙しかった。
国王陛下から『大魔法成功の祝賀会』を開きたいと再三催促があったが、王弟殿下に止められていたため、本日まで延びてしまった。
「はぁ~」
思わずため息が出る。
今はパーティーの為、王城に設けられた大聖女専用の一室に居る。とても豪華な部屋だ。
ドレスも白と金を基調とし、真珠やダイヤモンドなどがちりばめられ、とてもキラキラしている。
正直、こんなキラキラした服は好みではないが、これからの作戦に『威厳』は必要要素の為、おとなしく化粧台の前に座っている。
「ついにこの日が来たのですね」
私の髪をセッティングしながら声を弾ませるのは、昔から私に使えてくれるアンナだ。
燃えるような赤毛。翡翠の瞳は少しつり目気味でキツそうな性格に見えるが、本当は涙もろくて、心優しい姉のような存在だ。
神聖力を体内に備蓄するためとは言え、ブクブク太っていく私に変わらず使えてくれた。
使用人の中には、私の変化を『聖女になったから傲慢になり、食欲の化け物になった』なんて陰口を言う者もいたわ。
けれどアンナは『お嬢様は何か考えがあって、このように変化されたはずです。それに、太るにしても食べた量と比例しません。きっと魔法の研究の何かなのでしょう。ただ、体調に異変がありましたらすぐにお止めしますので、くれぐれも無理をなさらないで下さい』と私を肯定してくれた。
「これからが大変よ…」
「お嬢様はただ笑っていてくださればいいのです。あとは王弟殿下が腐った貴族に鉄槌と、調教を施してくださるわ。フフフ」
アンナのほの暗い笑いに思わず苦笑いしてしまう。
デブスだったとき、相当悪口を言われたわ。でも私としてはそんなに重たく受け止めていない。当然の反応だと思うわ。むしろ、悪く思われるためにあえてデブスだったのだから。
ただ、元婚約者のやり方は気に入らなかったし、男を誑かすバカ女に吠えずらを描かせてやりたいって思っただけだ。
まぁ、バカ女は案の定神聖力がなくなり聖女認定取り下げになった。『聖女』だったから太鼓持ちしていた輩は早々に手の平を返し、彼女の周りからいなくなったらしい。
学園で一人佇む姿や、高位の令嬢から厳しい制裁を受けたりする姿を、弟が目撃したらしい。さらに、彼女と親睦があった男性達からは見向きもされなくなったようだ。
なんとも哀れな女だ。
でも、身から出た錆。
可哀想とは思うが、助けたいとは思わない。
そういえば、恥知らずの元婚約者は懲りずにアプローチをかけてきていた。
実家の伯爵家に突然乗り込んできたり、手紙やプレゼントを大量に送りつけてくる。
本当にうざい。
実家に乗り込んできたときは、お父様にこっぴどく追い返され、プレゼントや手紙はレイザー侯爵様に送り返したと連絡が来ている。
侯爵様は『愚息が申し訳ない!』とお父様に頭を下げたらしい。
ボンクラ息子に『二度とフォーリー伯爵家に手紙やプレゼントを贈るな!』と厳しく言いつけたと聞いている。しかし、家がダメなら魔法省に。魔法省がダメなら教会を通して、手紙やら花束、プレゼントを贈りつけてくる。
本当に迷惑!
まぁ、各部署もお父様と同じように侯爵様に送り返しており、可哀想に侯爵様は方々に謝りに行っているそうだ。
御愁傷様。
近々廃嫡されるともっぱらの噂だ。
もともと、私達に恋愛感情はなかった。
薄っぺらい口説き文句。
趣味の合わない帽子や手袋のプレゼント。
彼は『クローヴィア』を見ておらず、『聖女』『大魔法聖域結界の研究者』として私を見ていた。私にかかる付加価値に利益を見いだしていた人物だ。
ただ、話はちゃんと聞いてくれる真面目な人ではあった。
研究に行き詰まり、専門用語を連発して、きっと何を言っているのかわからなかっただろうに、彼は黙って聞いていた。
まぁ、わからなすぎて口を挟めなかっただけだと思うが…。
私が話し終わるまで、ただじっと聞いてくれていたのが、今でも印象に残っている。
『専門的過ぎるから、その話はしないでくれ』
『そんな話より――』
太る前、強制的に招待されたお茶会や、晩餐会で男性達に散々言われたセリフを、そう言えば一度も彼は口にしなかったわ。
三年間の婚約は、私としては悪くなかったと、振り替えると思う。
ただ、別れは最悪だったけど!!
何で婚約破棄する話を、あの男の昇進祝いで、私が予約したレストランで、されなくちゃいけなかったのよ!!
浮気相手連れてくるって、頭がイカれてる!
知り合いからの情報では『ミアにそそのかされて、あんな酷い別れ方をさせられたんだ!あの女の口車に乗らなければ、今でもクローヴィアと仲を深めていられたんだ!』と酒場でぼやいていたらしい。
本当にクズよね。
大方クズ女は、衆人観衆の元、アランドロの姉である私が惨めにフラれる姿が見たかったのだろう。
自分に冷たくしたアランドロに報復したかったのだと推測している。
湾曲した攻撃……。
まぁ、どうでもいいわ。
私が何かしなくても、自分達で墓穴を掘って、水を張って、泥舟に乗り込んで溺れてるんだから世話ないわ。
コンコン。
ドアをノックする音がした。
「ヴィア、私だ。入っていいか?」
「どうぞ」
ネルだ。
今日はネイビーのスーツに身を包み、紳士の装いなのだが、前髪を下ろしたままなので目が見えない。
「こんな日でも通常通りなのね」
「下準備は全て終わってる。私達は高みの見物をするだけだ。それに、素顔を出すと女どもがうるさいから、これで良いんだよ」
ネルが手をさしのべてくる。
「準備はいいかい?婚約者殿」
「ええ。行きましょう」
さぁ、フィナーレを飾りましょう。




