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4話 大魔法『聖域結界』

~ ダレン視点 ~


 とんだ誤算だ!

 ミアの神聖力がなくなるなんて…。


 少し前に噂で神聖力が弱まっていると聞いたので、本人に確認したら

『少し疲れているだけです~。学期末のテストで忙しかったから~。ゆっくり休めば~元に戻りますよ~』

 と、言っていた。

 あの女……。


 これじゃ、豚女の方がマシだった。

 このままミアと結婚しても『男爵』として低い身分で生きる道しかない。

 そんなのゴメンだ!


 レイザー侯爵家には俺を含めて三人の男がいる。

 長兄と次男は双子で、とても仲が良い。

 しかも優秀だ。


 長兄は文武両道で、侯爵家の跡取りとして申し分ない男だ。次男も経済学に長けていて、王宮の宰相補佐を勤めている。

 自慢の兄達であり、俺のコンプレックスの象徴だ。どんなに足掻いても侯爵家を継ぐのは長兄、長兄に何かあっても次男が引き継ぐ。俺はスペアにもならないと、両親は俺に対してだけ放任主義を通した。

 兄達は俺を可愛がってくれたし、両親の無関心を抗議したりと、俺に愛情を注いでくれた。

 愛する兄達であり、越えられない壁として存在する疎ましい存在だ。


 優しくされるたび、俺のために両親を咎める姿を見るたび、自分が惨めに思えて虚しかった。


 兄達と並ぶくらい、いや、それ以上の地位につき、もう兄達に庇われたくない。惨めな思いはしたくない。

 見返してやりたい…。

 俺は、庇われなければならない、弱くて惨めな、何の価値もない男ではないのだと!


 その為に豚女や、バカ女に近づき婚約に持ち込んだのに、計画が台無しだ!

 

 聖女専用の特設ステージから、聖女認定取り下げにされた面々が降りてきた。

 各々家族の元に行き『お疲れ様、立派だったわよ』など家族から温かく迎えられている。

 アンバー男爵夫妻も同じようにミアを迎える。俺もにこやかに『お疲れ様』と迎えるが、内心は期待はずれだったミアとの婚約をどうやって破棄するか思考を巡らせた。


「我々は今日、歴代の聖女が成し遂げられなかった偉業を、目にすることとなる」


 いつの間にか陛下が祭壇にいた。

 よく通る声だ。

 

「ダレン様、このあとカフェに行きませんか~」

 いつもの様に甘えた声で話しかけてくる。

 男爵かいる手前、無下にすることができず

「ミア、陛下の言葉は静に聞きなさい」

 と、優しく諭した。

 男爵達も

「おしゃべりは、儀式が全て終わってからにするんだよ。いいね」

 と、まるで幼い子供に言い聞かせるような言い方だ。娘と言うよりは『孫』を可愛がる老夫婦に見える。

「は~い」

 15の女がする返事ではない。

 『聖女』という肩書きがなければ、豚女よりも価値がないバカな女だ。早々に手を切る必要があるな。


「紹介しよう、我らの救世主、世紀の大聖女。クローヴィア・フォーリー伯爵令嬢」

 陛下の声に合わせて、祭壇奥の扉が開いた。


 そこから豚女が豪華な台車に乗り、三人の騎士に運んでもらいながら登場した。

 傍らには黒髪で目元を隠す、モサイ男を伴っている。白衣を着ていることから、研究者と思われる。


 豚女は白いポンチョのようなドレスを着ている。金色の刺繍やら光沢のある上等な布を使用しているのがわかる。だが、迫力のある体のせいで優美さも神々しさもない。

 貴族達は声に出さないが


「ぷっ、豚が白ダルマになった」


 皆の心の声を代弁したのはミアだった。


「何かと思ったら~、デブス過ぎて婚約者に捨てられた豚女じゃない。あっ、でも~、今は豚女じゃなくて白ダルマね。ダレン様、あんなのとーーー」

 俺は咄嗟にミアの口を手で塞いだ。

 本人は小さな声で俺に話しかけているつもりだが、会場の静寂によって小さな声が響いてしっまた。可愛らしい顔でクローヴィアを貶すミアに回りが戸惑っている。


 俺自身ドン引きだ。

 頭が悪すぎる。


 例えどのような姿をしていようと、公の場で『聖女』を貶すことは許されない。この場で斬首、もしくは不敬罪で投獄されてもおかしくない事態だ。


 親の男爵夫妻は縮こまった。

 今更ながら、ミアを甘やかし過ぎたと後悔しているようだ。

 

 自滅するなら、俺を巻き込まないでくれ!


「ごほん!」

 陛下の咳払いは心臓に悪い。

 恐る恐る陛下の顔を見ると、こちらを睨んでいた。


 最悪だ…。


「陛下。儀式を初めても宜しいですか?」

 豚女の声が凛と響いた。そのお陰で、陛下の視線が外れ、思わず止めていた息を吐き出した。


 助かった……。


「大水晶をここに!」

 陛下の号令で、再度祭壇奥の扉が開き、大人一人が入りそうな大きな水晶が、何かの装置の上に置かれた状態で運び込まれた。


「私から、この装置について簡単にご説明致します」

 豚女の隣にいたモサイ男が喋りだした。


 話を要約すると、

①大水晶の中に大魔法『聖域結界』の術式を盛り込んだ魔法陣が内臓されている。

②この大水晶はずっと昔からあった。

③起動させるには、本来、聖女10人が一気に力を注がないといけない。しかし、複数で行うと反発作用で力が相殺されて起動出来なかった。

④改良を重ね、聖女3人分の神聖力で起動出来るようになった。また、遠隔水晶とリンクさせれば王国全土に聖域結界を展開できる。

⑤豚女が聖女3人分の神聖力を体内に蓄積することに成功した。


 大魔法『聖域結界』を起動させる?

 その功績は計り知れないぞ。

 クソ!!

 こんなことなら、豚女を手放さなければよかった。デブスかバカのどちらかを選ぶなら、操作しやすいバカを選んだのが裏目に出た。


「では、儀式を始めます」

 凛とした豚女の声が響いた。

 騎士達に台車を水晶が触れられる位置に移動してもらい、両手で触れる。


 息を深く吸い、ゆっくりと吐く。

 精神を集中させているのが伺える。

 観客でさえ、息を飲むほど空気が張り詰める。

 ゆっくりと豚女の体から光が漏れだした。暖かみを感じる光はゆっくり、ゆっくりと水晶に吸い込まれていく。

 

「ーーーーーーーー」

 女は囁く声で何かを喋っているが、古代語であるためわからない。

 次第に光が強くなり、眩しさに目を開けていられなくなる。

「神よ。どうか我らに祝福を。人々に安らぎと平和をお与え下さい!」

 辺りが光に包まれるなか、女の凛としているのに優しげな声が響いた。


 瞬間。


 水晶に凝縮されていた力が大聖堂の屋根をすり抜け、天に光の柱をつくった。そしてそこからオーロラのような光が波のように辺りに広がっていった。

 体をすり抜ける光は、とても温かかった。


 目を開けられないくらいの光は、約10分ほど大聖堂を満たした。

 光がなくなり、ゆっくりと目を開く。


 水晶の中に淡い光が揺らめいており、水晶事態もキラキラと輝いている。


「成功…したのか?」

 誰もが答えを待った。


「聖域結界……成功しました」

 弱々しい女の声が響くと、大聖堂は歓喜の声で埋め尽くされた。

「「うわ~~~!!!」」

「「大聖女クローヴィア!!」」

「「万歳!万歳!」」


 成功……。

 成功だと……。


 女の姿は死角で見えないが、水晶にもたれ掛かっているようだ。

 モサイ男が女に駆け寄った。

「クローヴィア…。ありがとう、お疲れ様」

「良かった……」

 弱々しいが暖かみのある声で女が答える。そして、モサイ男に寄り掛かりながら、人々の前に女が姿を表した。


 熱気に包まれていた大聖堂は一瞬で静まり返った。

 女の姿は、この世のものとは思えない程、美しい姿に変わっていた。

 

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