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2話 婚約破棄後

~ アランドロ視点 ~


 姉さんとクズ男が婚約破棄して3ヶ月が過ぎた。悪いのは姉さんを騙し利用したクズ男と、婚約者がいる男にすり寄るクズ女なのに、世間一般では違うようだ。


『デブス過ぎて婚約破棄された』

『豚は豚箱に返却』

『豚、身の程を知る』


 など、言いたい放題だ。

 しかも、


『デブスと三年も付き合ったダレンは英雄』

『豚女から騎士を救い出した真の聖女ミア』


 姉さんを裏切った奴等が英雄扱いされるのは腹立たしい。僕も父上も苦虫を噛み締める思いだ。

 だが、姉さんはとくに気にしてないようだ。


 僕の方は貴族学園ではじめはからかわれたり、嫌味を言ってくるヤツがいたが、僕が反応しないから次第に何も言われなくなった。

 僕の友人達は、姉さんの事をよく知っているし『魔物に家族を殺されて、悲しむ人を無くしたい』という姉さんの夢に賛同していたので、僕を悪く言うヤツはいなかった。

 むしろ、僕に攻撃してこようとする愚か者を牽制してくれていた。

 いい友人をもったな。


「3ヶ月も経つと、お前を攻撃してくるバカはいないな」

「人の噂も75日って言うからな」

 貴族学園でよくつるんでいる二人だ。


 トーマス・ブリュッセル(15)

 ブリュッセル侯爵家の次男。

 甘いマスクで女生徒を魅了しまくる男だ。だが、かなり腹黒のため特定の女性はまだいない。


 ジャック・オーラル(15)

 オーラル伯爵家の三男。

 騎士になるのが夢の脳筋バカだが、とても明るくて一緒にいると和む。正義感が強いので、僕が絡まれてると、すぐに駆けつけてくれる。

 僕の婚約者シシリー(12)の兄でもある。


「今だに何か言ってるのはバカ女の周りだけだろ。飽きねーよな」

「常にクローヴィア嬢を悪く言っておかないと、次に噂の標的にされるのは自分だってわかっているのだろう。そういえば、また婚約者のいる男に声をかけてトラブルになっていたな」

「トーマス、よく知ってんな」

「令嬢達が教えてくれるんだよ。女性はおしゃべりだからね」

 トーマスはウインクもカッコいい。

 女子なんてイチコロだな。


「クローヴィア嬢はどうしてる?」

 トーマスはよく姉さんの現状を聞いてくる。

 心配してるのもあるが、もしかして好きなのか?と疑ってしまう。

「いつも通りだよ。研究と大魔法の準備で忙しくしてる。大魔法は予定通りだけど、遠距離水晶の生産に四苦八苦してるよ」

「大魔法の効力を増幅させるあれか?」

 ジャックだ。

「そう、数が揃わないってぼやいてた」

「全領地に配置する予定なのだろう?一気に揃えなくてもいいんじゃないか?」

 トーマスが言う。

「そうそう。クローヴィア嬢の悪口ばっかり言ってる奴等の領地は最後で良いだろ。むしろ、大聖女に無礼を働いたっつーことから、配置が遅れてるって噂を流してやれるのに」

 ジャックの意見に賛同はするが、それは出来ない。

「いや、魔物被害に合うのは領民だ。姉さんはそう言うの嫌がるよ」

「まぁ、そうだな…」

 トーマスとジャックは顔を見合せる。


「僕だって釈然としない気持ちさ。姉さんを悪く言うやつらを助けてやるなんて…。バカな貴族達に報復してやりたくても、シワ寄せは領民にいってしまう。人々を助けたい姉さんの願いとは反する…」


 落ち込む僕の肩をトーマスが軽く叩く。


「大丈夫。魔物達から人々を守りたいクローヴィア嬢の願いと、彼女をバカにする貴族に制裁を加える事は出来る。その為に教会も王宮も、魔法省も準備しているのだから」

「そうだぜ。むしろ、大魔法成功後の騒動が楽しみでしょうがねーよ。さんざん悪くいってた奴等が頭をペコペコ下げて謝ってくるぜ。まぁ、謝るだけじゃ済まないだろうな。あの人が許さねーよ」

「あの人?」

 ジャックの言葉に思わず聞き返した。


「あれ?言ってなかったか?王弟殿下だよ。今回の大魔法を利用して、腐った奴等を一掃しようって計画者」


 王弟殿下。

 ライオネル・シェード・グラン(25)

 現国王(53)の年の離れた弟で、魔法の天才と言われている。国王は弟を溺愛しており、彼が18歳の時に王太子に任命しようとしたらしいが、王弟殿下が『そうなったら国を捨てて旅に出る』と国王に進言したのは有名な話だ。18歳の成人の儀式で王位継承権を正式に辞退し、グラン公爵として爵位と領地を賜った。

 ただ、本人は極度の人嫌いで、公の場に出たことはない。姿絵も出回らないから『幻の殿下』など言われている。


 そんな大物が居たとは知らなかった。


「あら、アランドロ様~?ご機嫌よう~」

 背後から女が声をかけてきた。

 甘ったるい声と、背後から声をかける非常識な女はバカ女しかいない。

「アンバー男爵令嬢。僕は君に名前を呼ぶことを許可した覚えはない。何度言わせれば覚えてくれるのかな」

「フフ、デブスの弟は~、体じゃなくて態度が大きいのですね~。姉弟ですもの~、何かしら似てしまうのでしょ」

 バカ女は僕を見かけると、必ず絡んできて姉を侮辱する。

「偉大なる姉に似ているなんて光栄だね」

「巨大なでしょ。噂だと、ダレン様に捨てられてから更に巨体になったらしいじゃない。やけ食いなんて惨めよね」


「姉は美食家だからね。美味しい料理に舌鼓しているだけさ。それに、粗悪品は食べない主義だよ。君と違ってね」

「なっ!ダレン様を侮辱しないで!」

「おやおや、食事の話をしているのに勝手に勘違いされては困る。しかし、君が婚約者を粗悪品と思っているとは驚きだ」

「そんなこと、思ってるわけないでしょ!」

「大声を出すのは淑女として、どうなのかな?あぁ、婚約者のいる男と親しげにする君に言っても意味はないのか」

「ふん!デブスの姉を持つと、僻みが激しいのね。私が可愛いから、殿方が放って置かないだけよ」

「可愛い、ね~…。他人の趣味嗜好はそれぞれだからな。そう言うことにしておこう。あぁ、そう言えば最近『聖女のお勤め』に行ってないそうじゃないか。知り合いの神官がぼやいてたいたよ。前は頻繁に来て、これ見よがしに力を見せつけていたのに、最近パッタリ来なくなったと」


 『聖女のお勤め』

 聖女は月に何度か教会に行き『お守り』に神聖力を注ぐ義務がある。『お守り』とは一定時間魔物を遠ざける魔法アイテムだ。

 教会の資金源であり、人々が聖女を敬うキッカケになったものだ。


「最近は忙しいのよ!ダレン様とデートもあるし、他にもお友達と約束があるもの。それに、貴方にはわからないでしょうけど、あれをやると疲れるの」

「ハハハ、それは良かった。いや、知り合いが『神聖力が枯渇したのかもしれない』なんて言うから、心配してたんだ」


 僕の言葉にバカ女は顔色を悪くした。


「そんなわけないでしょ!本当に失礼ね」


 まるで脱兎の如くバカ女はきびすを返して去っていった。


「あんなのが聖女なんて、世も末だな」

「彼女、神聖力が弱まってるって噂だろ」

「姉さんに聞いたけど、新人聖女には良くあることみたいだよ。神聖力が少ないと、認定されてから数年で力が消えるらしい」

「男爵家の分際で威張り散らしてたからな。聖女じゃなくなったら、あいつ、ヤバいな」

「本人も自覚してるから、少しでも身分の高い男にすり寄ってるのさ。とくに嫡男狙い」


 トーマスとジャックに目線を向けられた。

 

「クズ男が居るだろ」

「クズは三男だろ。結婚しても騎士伯(男爵より下の地位で、一代限り)にしかなれねーじゃん。『聖女』と結婚したら『勇者伯』(侯爵家と同じくらい権力を持つ地位。聖女を国外に流失させなかった功績で賜る)になるが、認定されてから10年以内に『聖女』認定が取り消されたら、本来の騎士伯に降格になるじゃねーか」

「……そう言えば、そうだった……」


「お互い、次の寄生先を探してるって噂だよ。まぁ、次々聖女を鞍替えする男に引っ掛かる間抜けはいないし、神聖力がなくなるかもしれない欠陥聖女に肩入れするバカもいない。まさに泥船だね」

「次の聖女認定儀式は来月だろ。楽しみだよな~」

 ジャックは意地悪い笑いをしている。

 その時に起こる、世紀の大革命を考えているのだろう。


 来月の聖女認定儀式で、姉さんが大魔法を披露する予定だ。

 姉さんの事だから成功は間違いない。

 そのあとの騒動が楽しみだ。

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