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1話 婚約破棄

~ クローヴィア視点 ~


「俺、デブは嫌いなんだ。新しく聖女になったミアと婚約するから、お前、用済みな」

「はぁ……?」

 王都にあるちょっと豪華な貴族御用達のレストランで、突然、婚約者に捨てられた。


 私はクローヴィア・フォーリー(20)

 フォーリー伯爵家の長女だ。

 

 昔は金髪青眼の美少女としてもてはやされていた。花の妖精や白百合に例えられるほど、可愛らしかったと言われている。

 だが、10歳の時、家族旅行中に魔物に襲われて、私と弟をかばってお母様が亡くなった。それから私は憑依されたように勉強や魔法の訓練に明け暮れた。そう、魔物が憎くいのはもちろん、無力な自分が許せなかったのだ。

 猛勉強と訓練の成果、12歳の最年少で魔法省に入ることが出来、魔物退治の研究に没頭した。


 大魔法『聖域結界』

 魔物の心臓部分にある『魔核』に反応し、侵入を許さない広範囲結界魔法だ。

 膨大な力を有するため、実現不可能な魔法と言われている。

 だが、これを実現させるのが私の夢だ。


 お母様を殺した魔物を根絶やしにしてやりたい気持ちはもちろんあるが、それ以上に私達家族のように、魔物のせいで大切な人を失う人を無くしたい。その為には魔物が侵入しない聖域を作ることが私の夢になったのだ。


 そして15歳の時、貴族学園の魔法適正審査で神聖魔法に適正があると診断され、聖女と認定された。

 大魔法『聖域結界』の基礎は神聖魔法だったので、私の研究は大いにはかどった。


 ただ、聖女になった弊害として縁談やお茶会など、自分を政治利用しようとする輩が続出し、辟易する日々が続いた。

 そこで、大魔法『聖域結界』を成功させるためと、男避けで太ることにしたのだ。


 研究に没頭する野暮ったいネクラ女が、一年かけて100キロ近い巨体の女に大変身したのだ。野暮ったいデブ。デブスだ。

 面白いように縁談やお茶会の誘いが失くなったのは良かったが、研究に出資してくれる貴族が離れていったのは困った。


 そんな中、変わらず私にアプローチしてくる男がいた。しかも、研究の出資もしてくれると太っ腹だ。それが、目の前にいるダレン・レイザー侯爵令息だった。


 ダレン・レイザー(20)

 レイザー侯爵家の三男だ。

 茶髪のサラサラな髪は目にかからないくらいで整えられ、切れ長の琥珀色の瞳が魅力的な男性だ。


 縁談話も途絶えた頃、彼から

『どんな姿の君でも構わない。どうか、この先の未来を私と過ごしてくれないか?君を愛しているんだ』

と、熱烈な求婚を受け、私が17歳の時に婚約した。

 先日まで

『私はぽっちゃりしている女性が好みなんだ』

と、言っていたのに突然の暴挙。


 まさに青天の霹靂だ。

 先日彼は騎士団の副隊長に任命されたので、今日はそのお祝いで私から食事に誘ったのに、そんな席で婚約破棄など、開いた口が塞がらないわ……。


「ダレン、急にどうしたの?」

「馴れ馴れしく名前で呼ぶな。もうお前は用済みなんだ。副隊長に任命もされたし、新しい聖女を口説き落とせたから、聖女って肩書きだけが取り柄の豚は豚箱に返却さ」


 豚箱……。

 いつも礼儀正しかった男の卑下た顔を目の当たりにして、言葉も出ない。

 私を愛してると言っていた口は、嘲笑うように歪な形をしている。


「お前みたいなデブスの相手をしてやってたんだ。有り難く思えよ。騎士団で手っ取り早く出世するのに『聖女の婚約者』って肩書きは大いに役立った。今まで実りのない研究に出資してやったんだ、慰謝料は出資した金でチャラだ」

「……騙したのね」

「騙したとは人聞きの悪い。そうだな~…、うん、投資だよ。お前、昔は美しかったらしいし、婚約中に痩せたら儲けものだろ。それに、成功するかわからない大魔法?もしも成功したら、『英雄の夫』として地位が約束されたてたからな」


 なんだそれ……。

 

「婚約して3年経つが、お前は痩せないし、大魔法も成功しない。そろそろ潮時だと思ってたんだ。で、副隊長昇格と新聖女のミアが俺に惚れてくれたからな。これで投資は終了だ。あぁ、家に慰謝料請求なんてするなよ。もしもしたら、今まで出資した金をこちらが請求するからな」


 ダレンが席を立った。

「じゃぁな、デブス」

 振り向くことなく、出口に向かっていく。


 ぶん殴ってやりたくて、私も席を立とうとしたとき、テーブルに手をついたら私の体重に耐えきれずテーブルが傾き、倒れてしまった。

 卓上にあったケーキや紅茶が、倒れ込んだ私の体や頭に襲いかかる。


 最悪だ……。


「ぷっ!ダサっ」

 これ見よがしに侮蔑の言葉をぶつけられた。ダレンは助けようともせずに遠ざかる。

 周りからもクスクス笑う声が響いた。


「無様ですわね」

「このテーブルが倒れるって、相当だせ」

「お前、助け起しに行けよ」

「無理だよ。こっちの腰がやられちまう」

「違いない!」

「あれじゃ、女じゃなくて豚だな」


 酷い中傷の言葉が私を更に傷つけていく。

 そしてーーー。

「ダレン様!」

「ミア!」

 出入り付近でダレンに駆け寄る女がいた。


 ミア・アンバー(15)

 最近聖女と認定された新人だ。

 ピンクゴールドの髪を二つに結い、流れる髪が二本の尻尾に見える。瞳もローズピンクで、なんとも可愛らしい容姿だ。背も低く、幼女体型。

 高齢なアンバー男爵夫妻が奇跡的に授かった子供で、ずいぶんと甘やかされて育った問題児。

 

 弟が貴族学園に通っているので、会話で何度か出てくる女だ。

 話によると、マナーや一般常識が欠落しているらしい。好みの男を見つけると、相手に婚約者が居ても可愛らしい見た目を利用して、男にすり寄るそうだ。『可愛い妹キャラ』を全面に出して、バカな男はコロッと引っ掛かっているらしい。


 弟も言い寄られたことがあるらしいが、婚約者が居るので話しかけるなと冷たく突き放すと

『デブスの姉を持つと、家族も不細工になるのね!美意識が欠落しているなんて、可哀想ね』

と、捨て台詞を残したらしい。


「お話は~、終わりました~?」

 甘ったるい声がする。

 男受けは良いだろうが、女からは嫌われるタイプね。

「あぁ、待たせたな」

「これで人の目を気にせず、ダレン様と一緒にいられるのですね!ミア嬉しい~!」

 ミアははしたなくダレンに抱きついた。

 人前で異性に抱き付くなど、貴族令嬢としてあるまじき行為だ。


「こらこら、人前だぞ」

 口では嗜める言い方だが、考えていることがわかるくらい鼻の下を伸ばしている。

「ごめんなさ~い。つい嬉しくって~」

 舌をペロッと出し、右手で自分の頭を軽く小突く仕草はアザとい。

「可愛いやつめ」

 バカなカップルの茶番劇に辟易する。


「そういえば~、ダレン様の元婚約者って~、どの人なの?」

 ダレンが視線を向けた。


「やだ、アランドロ君のお姉さんじゃない」

 嘲笑う顔がむかつく。

 弟の名前を出すと言うことは、この女……全部わかっててダレンに近づいたな。

 大方、アランドロに冷たくされた腹いせか何かで、ダレンの誘いに乗ったのだろう。


「ダレン様可哀想。あんなデブスの相手をさせられてたなんて~、お辛かったですね。今日から豚の世話は飼育係に任せて、ミアとう~んと幸せになりましょうね」

「そうだな。では、これから人気のカフェに行こう。ここは家畜の臭いがして不愉快だからな」


 そう言ってダレンとミアはレストランを出ていった。

 静まり返る店内に不気味な笑い声が響いた。


「婚約破棄?…上等じゃない」

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