第7話 よろしくマスター
メモを終えたエリナは、その紙を大切そうにポケットへとしまう。
アルス=マグナにとっては紙屑に等しい物を大切そうに扱っている彼女を対し、彼はたかが魔法の断片を書き記したに過ぎない物を、そこまで大切にする必要があるのか? と思うのと同時に、嫌な予感を覚えた。
それはこの時代における、魔法のレベルについてであった。
もしかしたらと言う思いを抱きつつも彼は、彼女がきっと学生であり、この時代では転生魔法が神話クラスの魔法だったからだと自分に言い聞かせて、思い込むことにしたのだった。
そしてアルス=マグナは先ほどから抱いていたことを口にする。
「マスターって意外と肝が据わってるな」
「ど、どういう事?」
「俺と出会って直ぐの時は恐怖でいきなり漏らしてたけど、少し時間を置いて、俺から殺気が消えていたこともあるだろうが、それでも何の警戒もせずに普通に話してる当たりさ」
先ほどの事を掘り返され、エリナは顔を真っ赤に染める。
「!! あ、ああああの時の事は忘れて! お願い! だから……」
魔法の事に夢中になり、すっかり忘れていた事だけに、エリナはあまりの恥ずかしさに悶えていた。
そんな様子の彼女を見て、アルス=マグナは妹との日々を思い出し、懐かしそうにしながら見守っている。
「……あ、あの……私のお……あ、あれは?」
「数秘術で消滅させたから安心しろ」
「あ、ありがとう」
エリナは小さな声で呟くようにお礼を言うと、少しの間沈黙が部屋を支配した。
そしてその沈黙を破ったのはエリナである。
「私は魔王様が思うほど肝は据わっていないと思う。……ここに戻ってきたときは、あれでも結構警戒してたんだよ」
「そうなのか? 俺には全く警戒してない様に見えたけどな」
「……あれほどの力を見せられたら、どんなに警戒してても一瞬で殺されることは私でもわかる。だから、少しでも殺されないことに集中してたんだ」
彼女は実験室に戻ってくる少し前から、かなり警戒していた。
だが、戦争を生き抜いてきたアルス=マグナにとっては、彼女のそれは無いに等しい物だった。
戦争を基準に考えれば無理もないだろう。
この時代おいて、一万年前に匹敵する大戦は起こっておらず、あったとしても彼の時代と比べれば、国同士の小競り合いという規模に見えるくらいである。
ましてや彼女は学生なのだから、死と隣合わせになることなどそうあることではない。
だからこそ、死に対する警戒方法を知らなくて当然である。
それに彼女は部屋に入室してからは、警戒よりも生き残る手段を考えることで必死だった。
実力差は明確、蟻と古龍程の差があれば警戒は無意味だと悟るには十分。
言葉を間違えない様に彼女は全力を注いでいた。
しかし――
「……でも、私の数年間の研究成果が違うと知って、それどころじゃなくなってた。それに魔王様の気配が違ったのもあって、つい神話の魔法について興味が湧いちゃった」
最後、彼女は可愛らしく笑った。
「ハハハ! お前も生粋の魔導士ってわけか」
アルス=マグナは愉快そうに笑うと、彼女は少し不満そうにするが、彼につられて笑う。
「これからよろしくな。頭のおかしいマスターさん」
「女の子に向かってそれはひどいよー!!」
この短い間に色々あったが、やっと落ち着くことになるのだった。
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