第39話 エリナの初勝利
試合が始まると同時に、ゼナが先に仕掛けた。
弓の弦を引くと、魔力の矢が生成され、それを男子生徒に向けて放つ。
「我を守る盾よ! ――障壁!!」
生徒は詠唱を唱え、魔法を展開して防ぐ。
その間にゼナも詠唱を行う。
「あまねく炎よ 一矢となりて敵を貫く矛となれ!」
詠唱を終えると魔力矢が炎を纏う。
そして炎の矢を解き放つ。
生徒はそれを防ぐために再び‘障壁’を使う。
しかし、炎の矢はそれを容易く貫く。
「何ッ!!」
その言葉を発する頃には、矢が深々と左腕に刺さっていた。
「アァァ!! クッ!」
男子生徒は痛みに顔を歪ませながらも、矢が当たらぬよう走り出す。
そして早口で喋り、高速詠唱を行う。
「炎よ 我が元に集いて 敵を打ち倒せ! ――ファイアーボール!!」
詠唱中だったゼナは、詠唱を中断して火球を避ける。
そして体勢を立て直すのと同じくして、魔法を放つ。
「――ファイアーボール!!」
火球は男子生徒の進行方向に放たれていた。
男子生徒は火球が当たらないよう、一瞬だけ足を止める。
その瞬間、無数の魔力矢が男子生徒に向かって飛来した。
咄嗟に避けるようするが、間に合わないことを悟り、生徒は魔力障壁を展開した。
だが、雀の涙程度の防御力の障壁は簡単に破られてしまう。
しかし、その一瞬の間に男子生徒は短縮詠唱で魔法を使った。
「岩の壁よ! ストーンウォール!!」
未熟な術者が短縮詠唱を行ったため、岩の壁は魔力矢を防ぎ、直ぐに壊れてしまう。
「凍てつく氷の刃よ 我が言の葉に従い 敵を貫く一矢と化せ!」
その間にゼナは詠唱を終える。
そして氷の矢を放つ。
観客席は良い感じに盛り上がっていた。
「ゼナの奴、圧倒してるな」
「当たり前ですよ。ゼナさんの序列は十三位なんですから」
ユリウスはヴィオラから序列を聞き、感心していた。
「ほぉー、意外と強いんだな。だけど、魔力弓の性能は完全に引き出せてないな。いや魔力弓自体の質が悪いのか?」
ゼナの武器を見て、ユリウスは考察する。
そんな中、エリナは改めてゼナの戦い方をじっくりと観察していた。
「エリナ、ヒントは掴めた?」
「うん。やっぱり、魔力弓一筋だけあって、戦い方がすごいよ。私もゼナに近いスタイルにしたから、わかるようになってきた」
アリサの問いに、エリナは目を輝かせながら話す。
「アリサちゃん、私はまだ足止め出来るような魔法が、うまく使えないから、どうすればいいんだろう?」
「別に駆け引きに威力は関係ないよ。相手から見て、やばい! と思わせるだけでいいの。だから、こけおどしでもいい、つまり、見た目がヤバければ取り合えずなんとかなる!」
「そんなやり方でもいいんだ!」
「相手に手の内がバレるまでだけどね。でも、侮らない方がいいよ。魔力が少ない人が、それで強い人を負かした事もあるんだから」
アリサからのアドバイスをもらい、エリナはゼナの試合を見ながら、改めて自分の戦い方を模索し始める。
ゼナに着実に追い込まれる男子生徒は、切り札を切りたくても切れない状況に陥っていた。
男性生徒は正面に‘障壁’を張りながら‘ファイアーボール’を放つが、ゼナは脚力強化を使ってから跳躍し、空中から複数の魔力矢を放つ。
詠唱を始めていた男子生徒はそれを中断し、避けることに専念する。
「強い魔法は使わせないよ!」
男子生徒は焦りを感じて来たのか、仕方なく逃げながら魔法陣を魔力で描き始める。
「魔力を乱す一矢よ 構えを崩す楔となれ」
やっとの思いで魔法陣を完成させるが、魔力を阻害する矢が飛来し、男子生徒が構築した魔法陣は消滅した。
「使わせないって言ったでしょ」
「クソッ!!」
ゼナは一度の攻撃で無数の矢を放つ。
それを防ごうと、男子生徒は岩の壁を生成する。
その隙を突きゼナが距離を詰める。
「あまねく炎よ 一矢となりて敵を貫く矛となれ!」
詠唱を終えると、ゼナは男子生徒の側面に滑り込む。
「しまっ!!」
そして炎の矢を放ち、華麗に眉間を撃ち抜く。
そのタイミングで試合終了の合図が鳴り響く。
仮想空間が解かれ、互いの傷が消えていく。
そしてゼナはその場を後にし、控室に向かった。
控室に着くと、彼女を迎えたのはエリナだった。
「ゼナ! 試合凄かったよ!」
「ありがと。エリナも頑張りなさいよ!」
「うん! じゃあ、行ってくるね」
エリナの背を見送ると、ゼナは観客席に戻り、ユリウス達と合流した。
「練習の成果を見せつけてやれ」
闘技場に上がったエリナを見て、ユリウスは小さく呟いた。
エリナの対戦相手は序列十七位の男子生徒だ。
「よ、よろしくお願いします!」
「俺と当るなんて運が無かったな無能! せいぜい意地汚く足掻くんだな!!」
エリナはその言葉を受け流し、精神を集中させる。
(私ならできる! 私ならできる! 落ち着いてエリナ。稽古道理にやれば勝てるから)
肩の力を抜くようにエリナは、深く息を吐く。
そしてユリウスに言われたことを思い出す。
『いいかマスター。魔力弾の生成には、ほとんど時間が掛からないが、常に展開した状態を保て』
『なんで? それだと魔力がもったいないよ』
『マスターの今の使用可能な魔力量なら、常時展開で魔力切れになることはない。だから常に展開しろ。それは相手への牽制にもなるし、常時展開しておけば咄嗟の出来事に対応できる。それに生成までの隙を作りにくいからでもある。もし全弾撃ったら、その直後に展開しろ。それが魔力弾での戦い方だ』
試合開始の合図が鳴り響く。
試合が始まると同時に、エリナは自身を中心に円を描くように、魔力弾を展開する。
「そんなもので俺の魔法が防げるものか!! ――ファイアースピア!」
予め詠唱を終えていた為、即座に魔法が発動する。
炎の槍がエリナ目掛けて放たれた。
彼女は左腕に円形を縦に伸ばした形の魔力障壁を展開して防ぐ。
そして爆風によるダメージを抑える為、体の半分を覆う様に薄い魔力障壁も同時に展開していた。
エリナは闘技場内を、円を描いて回るように走り出す。
走りざまに何発も魔力弾を放つ。
「ひょろいんだよてめーの攻撃はよう!! ――障壁!」
男子生徒は障壁の魔法を使い、弾幕を突き進み、エリナとの距離を詰めて攻撃魔法を使う。
「炎よ 散弾となりて 敵を砕け! ――ファイアーショット」
エリナは再び円形を縦に伸ばした魔力障壁で防ぐ。
そして爆発による煙で姿を隠せたのを利用し、魔法で土の壁を無造作に作り上げる。
高さや場所が不規則な壁の上をエリナは身軽な動きで、走り続ける。
「――付与ディウ」
魔力弾に爆破属性を付与し、男子生徒目掛けて雨のように撃ち込む。
「チッ!」
その攻撃に舌打ちし、男子生徒は障壁で防御の一手を取る。
そして先ほどまでエリナがいた場所に、ファイアーボールを放つが、もう既にそこに彼女はいなかった。
煙で男子生徒の場所が見えなくなっているが、エリナは低位の音響魔法で、爆発音以外のものを聞き取り、索敵を行う。
「見つけた!!」
そう言うとエリナは魔力弓を作り、弦を引く。
「付与メルム」
魔力矢の貫通力を上昇させ、弦を離す。
放たれた魔力矢は、一直線に男子生徒に向かっていくが、彼はそれを一点集中させた障壁で、ギリギリ防いだ。
「ちょこまかと! めんどうな奴だ!!」
男子生徒がエリナに向かって、ファイアースピアを放った。
エリナは一発の魔力矢を放ち、壁の後ろに落ちるように降りて、姿を隠す。
男子生徒は、魔力矢を避け、詠唱を始める。
「だからめんどいんだよ! ――全ての障害を打ち砕く一撃よ 我が声に応え その力を現出させよ! ――エクスプロード」
爆発魔法を使い、周囲の土壁を破壊する。
しかし、その頃にはエリナの強化された魔力弾が壁裏を移動し、男子生徒の四方を囲んでいた。
そして彼は、一瞬遅れてそれに気が付く。
男子生徒を囲う様に、四方から無数の魔力弾が男子生徒目掛けて襲い掛かる。
「クソッ!」
彼は跳躍し、空中に逃げるがエリナはそれを読んでおり、男子生徒を追う様に下から魔力弾が迫りくる。
それに気を取られた瞬間、空中からも魔力弾が雨のように降り注ぐ。
「ガァァ!!」
悲鳴に近い声が辺りに響く。
「はぁ……はぁ、やったのかな?」
エリナは気を抜かず、しっかりと敵をがいる方を注視する。
土煙の中、何かが煌めく。
一瞬遅れて、エリナはそれに気が付いた。
回避は出来ないと悟り、魔力障壁を正面に展開する。
火球が直撃すると、小爆発を起こす。
難なく攻撃を耐えるが、エリナはその一瞬で相手を見失った。
(どうしよう。作った壁があだになっちゃった)
彼女は敵を探すように、周囲に意識を割く。
その間に男子生徒は、体勢を立て直していた。
その頃、観客席でユリウスは弟子の成果を見るように、その試合をじっくりと観戦していた。
「さーて、ここからどうするんだ? マスター」
「ちなみにユリウスさんなら、どうするんですか?」
ヴィオラが興味本位に尋ねてくる。
「そうだな。俺なら相手の奇襲を狙うな。もちろん、罠を仕込んだうえでな」
「具体的にどんなものでしょう?」
「自分の周囲にある壁の陰に魔力弾を配置して、あとは防御に専念する」
「なるほど! 置き弾ですね。もし相手が誘いに乗ってこなかった場合はどうします?」
「簡単だ。こっちのキルゾーンに誘い込む。魔力が多い奴は無駄弾が撃てる。それを利用し、炙り出すように隠れてる場所に、爆破属性を付与した弾を撃ち込む。左右から挟むように、上から適当に爆撃していけば自ずと、向こうは逃げるしかい。それで追い込むんだ」
「そんな簡単に出来るのでしょうか?」
ヴィオラは疑問を浮かべた表情をしていた。
「簡単にいくさ。下手に受ければ少なからずダメージを受ける上に、最悪の場合、音響魔法で索敵されてたら場所がバレるからな。前までのマスターなら慢心してても勝てただろうが、恐らく相手もマスターに対しての評価をそろそろ改めているはずだ」
「そんなの一学生が思いつくわけないでしょ」
ルナの一言にユリウスは、ニヤリと口角を上げる。
それで彼女も悟ったようだ。
「まさかあんた、エリナに教えたわけ? そのやり方」
「そのヒントはな」
「抜け目ないわね」
そんな話をしていると、今ユリウスが言っていたことをエリナが実行する。
その光景を前に、一同驚愕していた。
その時である、一行に声を掛ける者が現れる。
「あ、あああの、と、隣いいですか?」
おどおどとした態度で、どこか緊張しきった声だった。
その声に反応し、ユリウスが振り向いた。
「いいけど、お前誰だ?」
「ひっ! ご、ごごごめんなさい! え、えーと……ユウキです……」
自分の名前を彼女は小さい声で言った。
「「ええぇぇぇええ!!」」
これには一同驚愕していた。
先程までの堂々とした態度は消え、全くもって真逆の態度になっていからだ。
「ほ、ホントにユウキなのか?」
ユリウスは思わず聞き返してしまった。
「は、はいぃぃぃ。そ、その、私、剣か、かか髪飾りが無いとダメなんです……」
その声からは序列一位の覇気が感じられない。
「その二つはどうした?」
「ま、また、し、試合があると思うので控室にお、置いてきてしまって……」
「なるほどな。ほれ」
ユリウスが空間収納から剣を取り出し、ユウキに投げ渡した。
「ありがとう! ボクも、君たちと一緒に試合を見てもいいかな?」
剣を受け取った彼女は堂々とした態度になり、声に覇気が戻る。
「俺らは別に構わねーよ」
ユリウスの言葉に一同頷いた。
その時、アリサが興味本位でユウキから剣を取り上げた。
「あ、あありがとうございます。 わ、私なんかの為に……」
そして剣を戻す。
「どうだ? 俺が鍛えてやったマスターは?」
「彼女はすごいよ! 弱いなんて呼ばれてたのに、こんなに強くなって。いつかボクとも戦って欲しいくらいだ。きっと、ユリウスの鍛え方がよかったんだね!」
その言葉を聞いた時、ルナは地獄のような稽古を思い出し、顔を歪めた。
「あんな地獄みたいなことしてれば、嫌でも強くなるわよ」
トラウマを語るように、ルナは小さな声で呟いた。
ユウキが喋ろうとした時、アリサが剣を渡したり奪い取ったりする。
「これはエ、エエリナさん、の勝ちで、き、き決まりだね」
二つのモードが順に入れ替わるユウキ。
「やめなさい。ユウキが壊れる」
ルナが制止の声を掛けると、アリサは素直にユウキに剣を渡した。
エリナが爆撃で男子生徒を追い込んでいた。
生徒はダメージ覚悟でそれを受け、炙り出されないことを選択する。
だが、それは悪手だった。
エリナは再び低位の音響魔法で、周囲の音を聞いていたのだ。
今ので男子生徒の位置が完全にバレた。
「見つけた」
しかし、男子生徒はやり過ごせたと安堵の息を吐き、詠唱を始めた。
だが、詠唱を終わらせる時間はなかった。
「付与メルム&ガーム」
エリナは魔力矢に貫通力強化と、威力強化の魔法を付与して放つ。
魔力矢は壁を貫きながら、一直線で男子生徒の元へ向かった。
それに気づき、男子生徒は紙一重で避けるが左腕を持ってかれる。
その傷口からは大量の血が噴き出し、彼は手で傷口を押さえる。
「痛みを切ってなかったら、これで終わってたぜ。あの無能……いや、エリナだったか。癪だが、俺より強いな。だからと言って、負けてやるつもりはないが!」
男子生徒は不敵の笑みを受けべ、最後の一撃を放つため、壁を利用してエリナに近づく。
確実に当てれるよう彼女の背後を取ると、分厚い魔力障壁に阻まれないよう男子生徒は一気に距離を詰め、魔法を放とうとする。
「ファイアー――」
その瞬間、エリナが攻撃した。
「――魔力剣。幻刀一閃!!」
彼女は攻撃の手順を確かめるように口ずさむ。
そして放たれた一撃は、男子生徒が魔法を放つよりも早かった。
「チッ! 剣も使えたのか!?」
その言葉を残し、男子生徒は両断された。
それと同時に試合終了の合図が鳴り響き、仮想空間が解除される。
「見直したぞ。今まで無能だのなんだの言っててすまなかった」
「いいよ。慣れてるから」
エリナは認められたことが嬉しくてたまらない様子。
そして二人は握手を済ませ、控室に戻るのだった
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