第38話 休息
両者の視界は白く、そして黒く塗りつぶされた。
振り下ろされた一撃は、避けることを許さない。
互いにその攻撃をその身で受ける。
ユリウスの一撃により、仮想空間が斬り裂かれ、空間が揺らいだ。
仮想空間が崩壊する寸前で勝負が決まる。
二人の様子を見ることが出来ず、盛り上がっていた観客席は静寂に包まれ、勝負の行方を固唾を飲んで見守っていた。
そして仮想空間が解かれ、実況が結果を叫ぶ。
「測定器の破損により、記録映像による審判の結果! この勝負、引き分け!!」
映像に移っていたのは、白と黒の光だけだった。
「「おぉおお!!」」
一気に観客席が盛り上がった。
(……コンマ数秒の差で負けた……だと……)
ユリウスは超人的な動体視力で、勝負の行方をしっかりと捉えていた。
そして仮想空間が解除されたことで、消し飛んでいたユウキと体の半分以上を失ったユリウスは無事復活した。
「いい勝負だったぜ」
仰向けに倒れているユウキに対し、ユリウスは手を差し伸べた。
彼女はその手を取り、起き上がる。
「結果は引き分けだったけど、楽しい戦いが出来たよ。ありがとう」
そう言ってユウキは手を差し出し、ユリウスと握手を交わすと二人は控室に向かう。
そして仮想空間戦闘用に着けていた腕輪を外すとユリウスは、控室を後にし、エリナ達と合流した。
「あんたホント化け物よね。ユウキの本気を引き出すなんてさ」
「称賛は受け取るがあいつには負けた」
「わたしには相打ちに見えたけど?」
「コンマ数秒の差だ。そう見えても仕方ない」
そう話していると、ユリウスの背中に強い衝撃が走った。
正体を確認しようと振り返ると、そこにはアリサがいた。
「お兄ちゃんも勝てなかったみたいだね」
「剣だけなら、ユウキは超強いな。戦闘経験積んだら、絶対化け物になるぞありゃ~」
「でしょ! わたしも剣だけでユウキに勝ってみたい」
「幸いにも師匠に見られてなくて良かったな」
「うん! 見られてたら絶対殺されるよ」
二人は師の事を思い出し、背筋を震わせた。
「私達の番までまだ時間があるから、皆で屋台を見に行こう」
「さんせーい!!」
「アリサに同じく」
「はいです」
「いいわよ。付き合ってあげる」
「アタシも行きたかったとこ」
一行はエリナの提案より、屋台を見に行くことになる。
会場を出ると、外には色々な屋台が出ていた。
「これ一応は実技試験も兼ねてるんだろ。こんな遊び感覚でいいのか?」
「一試合目が終わったら、参加者以外はもう遊びみたいなものなんです。後は腕自慢の人たちの試合を見て楽しみ、勉強するのが目的らしいですよ」
「如何にも学院長らしい考え方だな」
ヴィオラの説明を聞き、ユリウスの脳裏に学院長が浮かんだ。
「お兄ちゃん! あれ食べよ!」
ユリウスはアリサに手を引かれ、食べ物が売っている屋台に行く。
遅れないように残りのメンバーが後を追う。
そして各々食べ物を買い始めた。
「この料理は見たことがないな」
ユリウスはアップルパイに似た料理を興味深げに眺めていた。
「それはパルム焼きだよ」
「パルム焼き?」
エリナに料理の名前を教えられ、アリサも屋台で売られている物を見て首を傾げた。
「アリサちゃん、ユウ君より早くこの時代に来てて知らないんだ。ちょっと意外」
「ここに来るまで研究ばっかしてたもんで、この時代特有の料理とかあまり知らないんだ。エリナ、それでどんな料理なの」
「詳しくはわからないけど、細かく切ったパルムの実を特製の生地で包んで焼いたものだよ。サクフワで美味しい」
「なら買わないとね」
アリサがユリウスに視線を移す。
ユリウスもそれで大体アリサが言いたいことを理解し、パルム焼きを注文した。
「これ三つくれ」
「あいよ。合計で三〇ギールだ」
ここでユリウスはあることに気づく。
『アリサ、重要なことに気が付いてしまった!』
『どうしたの?』
『今さら何だが、通貨がわからん』
『あはは。三〇ギールは銅貨三枚だよ』
『ありがとな』
ユリウスは通信魔法を切ると、財布から銅貨三枚を取り出し、店員に渡して商品を受け取った。
「アリサ、さっきは助かった」
「どういたしまして」
アリサが嬉しそうに微笑する。
「そういえばユウ君、よくこの国のお金のこと知ってたね」
「ああそれは、今さっきアリサに教えてもらったからな」
「あの間はそういう事だったんだ」
それを聞き、クスリッとエリナが笑う。
「笑うとか酷くないか?」
「お金について知らずに物を買おうとする人初めて見たから、つい。ごめんね」
三人はパルム焼きを食べ終えると屋台を回り、食べ歩きをしていると、どこかではぐれたルナ一行が現れた。
「あんた達、結構買ったわね」
三人が抱えるように持っている食べ物を見て、ルナが苦笑いをしていた。
「あのーそんなに食べて、試合大丈夫ですか?」
「わたしは問題ないよ! 受付の人いわく、ほとんど最後の方だって言われたから」
「あ……」
アリサは親指を立て、余裕そうに振る舞うが、エリナは言葉を失っていた。
「エリナ、また周りに流されたでしょ」
ゼナがやれやれといった様子で、エリナを見ていた。
「そういうゼナだって、たくさん買ってるじゃん」
「アタシは……ほら、まだ対戦が組まれてないから!」
ゼナはエリナから目を逸らす。
「それを言うなら私もだよ!」
エリナとゼナがあーだこーだ言っている所に、受付をしていた一人の男子生徒が息を切らしながら、ヴィオラに話しかける。
「はぁ、はぁ……ヴィオラさん……やっと、見つけた」
「どうしたんですか?」
「もうすぐ、三位が戦うのでそれの記録をお願いしたくて」
「わかりました。それまでには戻りますね」
「すまない、助かる。ああ、それといいところにいました。ゼナさんにエリナさん、三位の対戦後、一試合目と二試合目に対戦が決まりました。では、ボクはこれで」
男子生徒はエリナを蔑むような目を一瞬向けたが、ゼナ達の視線に気づき、そそくさとその場を後にする。
「どうしよ、これ」
「エ、エエエリナ落ち着いて! ここは一旦冷静に! とりあえず席に戻りましょ」
「ゼナこそ、落ち着いて」
ゼナはエリナに宥められながら一行は観客席に戻る。
その道中、ユリウスとすれ違いざまに一人の女子生徒がユリウスにだけ聞こえるよう囁いた。
「フフ、やっと見つけましたわ。アルス=マグナ」
ユリウスは直ぐに後ろを振り返るが、その女子生徒は消えていた。
「どうしたの?」
「いや、何でもない。知り合いに似てる奴がいただけだ」
(この時代で俺の事を知っている奴はいないはず……)
観客席に着くまで、ユリウスは謎の少女について考えながら、歩みを進めていた。
そして観客席に着くと、各々荷物の整理していた。
「そういえばヴィオラはここに居ていいのか?」
「大丈夫です! この魔道具で戦闘の一部を撮ればいいだけですから」
「なるほど。カメラか」
「カメラ? とはよくわかりませんが、これはカメレオと呼ばれているラクリマです」
「ラクリマ?」
よく知っている単語だが、時代が違うだけにユリウスは首を傾げた。
「アーティファクトの一個下にある魔道具の総称です。昔は作ることができませんでしたが、一部の魔導士が作れるようになったアーティファクトだと思ってくれれば大丈夫です」
「数はどれくらいあるんだ?」
「そんなに多くはないと思いますよ。いくら作れるようになったとは言え、まだ貴重なものですから」
「たしかに、量産できれば別称なんていらないもんな」
ヴィオラの説明にユリウスは昔との意味差異を理解した。
(意味はさほど変わらないみたいだな。もし違いがあるとすれば、運用法が兵器かそうでないかくらいか)
「あんた達、始まるみたいよ」
ルナの声を聞き、一行は闘技場へと視線を移す。
いつも通り、実況が何かを言った後、試合開始の合図が鳴り響く。
序列三位とランク外の戦いは、始めは互角だった。
しかし時間が経つにつれ、ランク外の生徒が押され始めた。
「序列三位と言ってもユウキ程じゃないな」
「当たり前でしょ。序列二位と三位との間には、埋めきれない程の差があるんだから。一位と比べたら、そりゃ物足りないものになるわ」
ゼナがユリウスの独り言に反応した。
「そこまで言うほど、差があったとは知らなかった」
「アリスとユウキは規格外の化け物ってことよ。ここ最近は、二人のせいで一位と二位は変動してないのよね」
どこか呆れた様子で話すゼナを見て、ユリウスもだいたいの事を理解した。
「ところでゼナ。もうすぐお前の番なのに控室に行かなくていいのか?」
「あ、そうだった! 皆、アタシの荷物見といて」
そう言い残し、ゼナは慌てた様子で走って行く。
それから少しして、序列三位の試合が終わる。
終わってみると、意外とあっさりした試合だった。
「ヴィオラ、良いのは撮れたか?」
「十分の撮れ高です!」
「こんなに呆気なかったのにか?」
「編集で何とか出来ますから!」
「そこは言わないのがお約束だと思うんだが?」
そんな事を話していると、ゼナが闘技場に上がった。
対戦相手は杖を装備していた。
「ほう、ゼナの武器は魔道弓か」
そして試合が始まった。
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