第2話 我は魔王
エリナは、男からの問いかけを聞いた瞬間、ガタガタと震えながら腰を抜かした。
死と言う存在を前に、一言も言葉を発することが出来ず、恐怖で失禁し、水溜りが出来ていく。
「再び問おう。貴様が我を召喚したのだな?」
「!! ……」
声にならぬ悲鳴を上げる。
涙を溜め込んだ瞳を見て、男は最高神と戦う前に見た光景を思い出す。
そして何が原因かを察すると、両手に握っている二本の魔剣を手放し、指をパチンッと鳴らす。
すると纏っている漆黒の装備は霧状に霧散し、剣もまた床に落ちる寸前で霧散する。
それにより周囲に立ち込めていた重圧が薄れていく。
エリナの震えも先程よりかは収まっていたが、それでも恐怖は拭えていなかった。
「ふむ。話せそうな状態ではないようだな。……娘よ、その格好では気持ち悪いだろ? 気晴らしに服でも着替えてこい。それまで我はここで待とう」
「……」
エリナはコクコクと頷き、ゆっくりとその部屋を後にする。
アルス=マグナは彼女が去ったのを確認すると、数秘術で先ほどまでエリナがいた場所にある、水溜りを消滅させた。
「これは勇者召喚の魔法陣か……」
彼は小さく呟き、自身の周りを見渡すと、近くの机に置かれていた本に目が留まり、古い方の本を手に取る。
そして魔法陣が記されていないページを適当に開く。
そこにはこう記述されていた。
――僕らが国に帰ると、魔王を倒した英雄として国中から歓迎された。
……だけど、実際には魔王アルス=マグナを倒してはいない。
そのせいなのかはわからないけど、仲間たちは態度こそ喜んでいるけど、内心ではこの状況をどう受け止めればいいのか、悩んでいるようだった。勿論、僕もそうだ。
魔王と分かり合えるような未来なんて、想像もしていなかった。
彼と話し合う前は、魔王とは残虐無慈悲の存在だと言うことが、僕らの共通認識だった。
だけど、彼が行ってきた蛮行が他者を守る為だったとしたら、あの無慈悲さも納得できる。
話し合いの後、彼はその強大な力を行使し、魔族を……いいや、旧人類という種を守るために自ら犠牲になる事を選んだ。
そして、その事実を知るのは彼らと僕らしか居ない。
今、僕達の身に何も起きていないということは、彼が最高神を倒す事に成功したからに違いない。
そのおかげで戦争の終わりが見えて来た。
僕は魔王の遺言通り、戦争を終わらせるために各国を渡り、何とか終戦締結までの道筋を立てることに成功した。
だけど、それから暫くして、ある重大な出来事が起こった。
僕はその時、魔王が僕個人に残した言葉の意味を知ることになった。
その出来事とは……
アルス=マグナが呼んでいたのは勇者の日記であった。
その日記に読み更けていると、不意に扉がノックされる。
「この状態だと召喚主とまともに会話出来そうにないな。どの道、今の状態ではこの力も維持できそうにない。仕方ない、力を抑え込んでみるか」
現在のアルス=マグナは最高神との戦闘と、転生を行った事で力のほとんどを失っている。
そのためか、召喚直後に比べると額にある魔王の紋章が小さくなっていた。
そして自身の意思で力を抑え込んだことで、紋章が一気に小さくなり、それに合わせてアルス=マグナの瞳にも感情が宿り始める。
紋章は額の端に存在しており、その形も先程までの禍々しく変質した形ではなく、本来の姿に戻っていた。
「勝手にしてくれ」
力を抑え込んだ後、アルス=マグナは返事を返す。
その言葉に反応し、扉が恐る恐るといった感じで開かれるのだった。
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