第36話 序列対抗戦開始
「はぁぁぁ!!」
エリナはユリウスに渾身の一撃を振るった。
だが、ユリウスは彼女の渾身の一撃をまるで赤子の手をひねる様にいなし、剣を弾き、足を払い彼女を転ばす。
「キャッ!」
武器を失い、地面に倒れ伏すエレナにユリウスは剣を突きつける。
「マスター、魔力の解放が二秒遅い!! 制御の精度もさっきより落ちてるぞ!」
「は、はい! もう一回お願い!!」
そしてもう一試合始まる。
その光景をルナは遠巻きに見ていた。
とは言っても、かくいう彼女もエリナと同じメニューをアリサとやっていた。
「ルナも魔力の解放が遅いよ! もっと早く!! それと瞬間解放の量が安定してないから、もっと安定させて!! ほら、立って! もう一回いくよ」
四の五の言わせないアリサの言葉に従い、ルナは構えを取る。
(あっちもかなりエグイけど、こっちも同じくらいやばいわね……。流石、兄妹ね。やること言うこと同じなんて……)
エリナはどこか呆れつつ、苦笑いを浮かべる。
そしてもう一ラウンド始まる。
二人の鍛錬が終わる頃には、ルナもエリナも顔が死んでいた。
「しんどい!」
「あはは。同じく」
エリナが青空を見上げ、苦笑いを浮かべる。
「魔力が回復したら、お前らに‘付与’について教えてやる」
「今更エンチャントなんて教える意味あるの? わたし達使えるわよ」
「ま、見ればわかる」
そうして休憩が終わるとユリウスとアリサは二人にエンチャントを教える。
「と、言うわけで、今回はエンチャントについてだ。とは言っても普通のものじゃない。アリサ!」
その言葉にアリサは小さく頷いて返す。
そして順を追って魔法を展開する。
「――フレイムボール! 絶対強制付与エクスプロージョン!!」
アリサはエンチャントを施したフレイムボールを放つ。
それが的である木に着弾すると大爆発を起こし、的を消し飛ばす。
そしてフレイムボールは火属性である為、着弾地点付近で火事が起きる。
「い、今のは!?」
驚きで目を丸くしながらエリナが問う。
「魔法名を‘絶対強制付与’と言う。この魔法は、本来付与できない物、もしくは物同士を無理矢理エンチャントする魔法だ」
「使い勝手はすごく良いんだけど、効果が強力過ぎて意外と魔力を持ってかれるのが、たまにきずなんだよね」
その言葉に先に食らいついたのはエリナではなく、ルナだった。
「それって凄い魔法じゃない!? 何で使わないのよ?」
「えーとね……この魔法はエンチャントと付与に使う魔法、この二つ分の魔力を消費するんだよ。要するに強力な魔法に強力な魔法を付与しようとすると、魔力が持たない。一応‘付与’だから消費量を軽減する効果はあるけど、それでも持ってく魔法は結構持ってくんだよ。それにわたし達なら魔力切れはないけど、流石に非常識でしょ?」
「たしかに」
ルナはアリサの最後の言葉に納得してしまった。
「ユウ君、その魔法ってルナちゃんと相性がいいとは思わないんだけど?」
「何を言ってる。ルナは召喚術師だ。なら召喚獣に爆破系魔法を付与して敵に特攻させることが出来る。つまり、被害ゼロで相手に道連れ特攻が出来るんだぞ!」
「なるほど!」
「そこ納得しない!! それにわたしの召喚獣をそんな捨て駒みたいな扱い方しないで欲しいわ」
「召喚獣は命が無いから使い捨ての戦術がシンプルで強い。実際、これが決まれば相手の行動をある程度制限できるから、実戦だと場の流れを優位に進められる」
「うっ……」
納得せざるを得ない内容にルナは言葉を失う。
「要するに道具はどこまで行っても道具だ。ならそれを有効活用すればいいだけだろ?」
ユリウスはルナの反応を見てはいるが、そのまま話を続ける。
「ま、そんな訳でこの魔法陣を覚えてもらう」
そう言ってユリウスは魔法陣を展開する。
その魔法陣は一見シンプルに見えて、書き込まれてる魔法式は途轍もなく複雑である。
それをユリウスは「十分で覚えろ」と言い、エリナとルナの二人は悲鳴をあげながらそれを覚えるのだった。
――三日後。
ついに序列対抗戦、当日を迎える。
「マスター念のため聞くが、殲滅の魔法陣はしっかり覚えたな?」
「ばっちりだよ、魔王様」
エリナは親指を立てる。
「そうか」
ユリウスはエリナの自身に満ちた表情を見て、満足感を覚える。
「マスター、そろそろ俺を魔王様と呼ぶのをやめないか? 最初こそ気にしていなかったが、最近どうもそう呼ばれるとむず痒くてな。それに、それなりの仲も深まったと思ってな」
「まお……んん、ユウ君がそういうならこれからそうするよ」
「ありがとな。……話してる間に到着したみたいだな」
ユリウスは学院の一角にある闘技場の様な建物を見上げる。
「じゃあ、受付済ませちゃお」
「そうだな」
そうして二人が受付に歩いて行く。
その時、聞きなれた声が二人を呼んだ。
「おはよー二人とも」
そう挨拶してきたのはアリサだった。
「二人の分の受付済ませて来たよ。これが参加番号だよ」
「アリサちゃん、ありがとう」
「ありがとなアリサ」
「えへへ。どういたしまして」
アリサはユリウスに頭を撫でられ、嬉しそうにしている。
「にしても、序列対抗戦って祭りみたいなんだな」
「そりゃそうよ。全生徒、一回は強制参加だけど、あとは強い奴が戦いを楽しみ、他は応援したり遊んだりする行事なんだから。とは言っても、実技のテストの一環らしいけどね。それと序列を変動させるためとも説明してたわよ」
「へーそうなのか。……っていつの間に!?」
「さっきから後ろにいたわよ。てか、そんな驚いたふりしてるけど、実際のところ気づいてたでしょ」
「まーな」
ジト目で見てくるルナにユリウスは適当に返す。
「えーい」
アリサがいきなりルナに抱き着いた。
「ちょ、いきなり抱き着くなー!! 暑苦しいから離れなさいよアリサ!」
「別に減るもんじゃないんだからいいじゃん。ルナの猫耳、さわり心地いいんだもん」
助けを求めるようにルナがユリウスに目を向ける。
だが、それをユリウスはあえて無視する。
「そう言えばヴィオラはどうした?」
「ヴィオラちゃんなら受付の仕事らしいよ。あと新聞部の手伝いだって」
「大変そうだな」
そんなこんなで騒いでいると、ゼナと呼ばれる女子生徒が近寄ってくる。
「騒がしいと思ってきてみればあんた達だったのね」
「おはようゼナ」
「うん、おはよエリナ」
ゼナはエリナにニッコリと笑い、挨拶を返した。
「で、この騒ぎは何なの?」
「見ての通りだ」
「うん。だいたいわかったわ」
ゼナはアリサがルナに抱き着いてのを見て、全てを悟る。
「最近知ったんだが、ゼナって貴族だったんだな」
「そういえば言ってなかったわね。私の本名はゼナフォード・エル・アルフォードよ。貴族位は公爵だよ」
「お前、公爵だったのか」
「まーね。でもここじゃ家柄を出すのはアウトだから今まで言わなかったの。ま、聞かれるまで言うつもりもなかったけど。ってエリナから聞いてないの?」
「言ってたかもだが、覚えてない」
「そんなことだろうとは思った」
ゼナは呆れながら溜息を吐いた。
「ねえエリナ、今回はちゃんと参加するの?」
「そのつもりだよ。今回は行ける所まで行くつもり!」
「もしアタシとやるならお手柔らかにお願いね」
「うん」
「じゃあ行きましょうか」
ゼナのその言葉に二人は頷いて、闘技場に向かう。
「ユウ君、二人を置いてちゃっていいのかな?」
「どうせすぐ来るだろ」
「そうだね」
一行はルナとアリサの二人を置いて、屋台で軽く食事を買うと客席に向かうのだった。
それから一時間程が経過し、盛大に開会式を行い序列対抗戦が始まった。
ユリウスはいきなり第一回第二試合で出場する。
序列対抗戦が行われる会場は、副学院長二人が共同で作っているため、特殊なエンチャントが施されている。
それは現実世界を一時的に仮想世界にする魔法である。
これにより魔力が切れたり、手足が吹っ飛んだり、運悪く首を切り落とされる等のことが合っても、仮想モードを解除すれば全て元通りになる。
だが、戦闘による疲れが解消されることはない。
ちなみに、痛みの設定は対戦前の控室で行うことができ、当然ユリウスは痛みの設定を現実と同じにしている。
そしてユリウスの一回目の試合が始まった。
彼は開幕と同時にM一九一一ガバメントを抜き、男子生徒の眉間を正確に撃ち抜いて試合を終わらせた。
「ま、最初はこんなもんか」
そう言い残してユリウスはその場を後にする。
序列対抗戦は序列が近いもの同士で最初の一回戦は対戦表を組まれる。
だが、ユリウスとアリサの対決は正式に行ったものでは無い。
それ故に正しい実力者と当らず、瞬殺と言う結果になった
そしてルナやエリナ達も順調に一回目の試合を勝ち上がっていた。
「なあルナ、この後はどうすればいいんだ?」
「あんた説明聞いてなかったの?」
ルナは溜息を吐き、やれやれといった様子で呆れていた。
「まあな!」
「そこは胸を張らなくていいわよ!! ……この後は任意になるから、受付に行って対戦したい人を指名すれば戦えるわ。もちろん、向こう側の了承あってこそだけどね。まあ、ランキング入りの連中なら断りはしないと思うわよ」
「なるほど。善は急げだな!」
ユリウスは早速対戦相手を指名しに、観客席を後にした。
それと入れ替わるように、アリサとエリナがルナに合流した。
「ユウ君はどこに向かったの?」
「受け付けよ。早速対戦を申し込むんだって」
「ユウ君らしいね」
「それであんた達は申し込んできたの?」
その問いにアリサが首を縦に振る。
「もちろん! とは言ってもランダム対戦だけどね。わたしもエリナも」
「そう。まあアリサは納得ね。挑まれる側だから、対戦相手に困ることは無さそうだし。でも、何でエリナまで?」
「私はほら、弱いじゃん。だから、今の実力を知りたいから、たくさんの人と戦ってみたいの。そうすればきっと成長にも繋がると思うから」
「なるほどね~。確かに理に叶ってはいるわね。頑張りなさいよ」
「うん!」
話がちょうど切れたタイミングで、第二回第一試合が始まる。
三人は誰が戦うのか、確かめるようにステージを眺める。
そして対戦の組み合わせが発表された。
「――今回の選手は! 途中入学と言う厳しい門を潜り抜けた期待の入学生! ユリウス!! そして! 彼が挑むは、全ての挑戦者を悉く打ち破った我らが学院最強!! 序列一位ユウキ!!」
観客席が一気に盛り上がった。
「ブッフー!! はぁぁ!? ユリウスは馬鹿なの!? いきなり序列一位に挑むとか!」
ルナは飲み物を半ば吹き出しながら驚いていた。
「流石お兄ちゃん!!」
「そこ褒めない!!」
「ま、まあ、ユウ君らしいといえばらしいよね」
エリナは何となくだが、こうなるのではないかと予想していた。
そしてそれが現実になったためか、驚いてる素振りは一切見せない。
遅れてゼナとヴィオラが三人に合流した。
「はぁ……はぁ……何とか、間に合いました……」
ヴィオラは息を切らせながら言う。
「まさか、しょっぱなから序列一位に挑む奴がいるなんて予想してなかったわ。しかもそれが知り合いとか……」
どこか呆れながらゼナが言う。
「普通おおらすを飾る物でしょこういうのは!」
「ああ、そっちが論点なんですね。ゼナさんは……」
そして一行はユリウスの試合に目を向ける。
「魔法無しじゃ、あいつが勝てるとは思えないわ」
「ユリウスさん、魔法使わないんですか!?」
「うん。学院長がお兄ちゃんに使うなって言ってた。試合にならなくなるからだって」
それだけでその場にいた彼女らは何かを察したようだ。
そして序列一位とユリウスの対戦が始まる。
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