第34話 序列対抗戦に向けて
この日の授業も終わりが近づいてきていた。
「ユリウス、竜と龍の違いを答えろ」
「それまだ習ってませんよね!?」
「授業の一部を聞き流しているくらいだ。知っているのだろう?」
教師クレアからの指名を受け、ユリウスはめんどくさそうに立ち上がった。
「竜と龍の違いは現竜と古龍で区別した呼び方で、竜とはワイバーン全般を示しており、古龍が進化した姿だと言われている。その証拠に痕跡器官だと思われる部位が発見されているし、さらに今の時代の生物は基本的に大昔より小さくなっており、絶大な力を持つ古龍は燃費が悪く、小さい生物を喰らっても力を回復させるのに必要なエネルギーの確保が難しいため、力を捨ててまで進化したと言われてます。そして古龍とはドラゴンの事を指し、皆が知っている通り、悠久の時を生きる生物であり、天災の象徴として恐れられてい存在です。……これでいいですか?」
「余分な説明があったが、だいたいそんな感じだ。ついでだから、古龍の特徴も説明してみろ」
めんどくさそうなため息を吐くと、説明を続ける。
「古龍は常時自然に干渉するほどの力を持っているが、何故か一つの属性しか使うことができない。そして鱗の色も使う属性に近い色をしている個体が多いという特徴があります。そして彼らは自身が持つ角で莫大な力の制御をしていると言い伝えられている。……これでいいですか?」
「ああ、座っていいぞ」
クレアの指示を聞くと、ユリウスは着席した。
(この時代の勉強をしといてよかったぜ。うっかり俺の時代の研究成果も言ってしまう所だった)
それからしばらくすると授業の終わりを知らせる鐘が学院中に鳴り響く。
そして休み時間を取らずそのまま帰りのホームルームが始まった。
そこでクレアは来月開催される序列対抗戦についての説明を喋り出す。
「いいかお前ら! 一か月後に序列対抗戦が開催されることが決定した!! それまでの期間に――」
クレアの話は続いていた。
しかしユリウスは大事な所以外は聞き流し暇そうにしている。
(思っていたより開催が早いな。もしかしてあいつが開催を早めたのか? ……まあそれはどうでもいいか。強い奴と戦えるんだ。今から楽しみだな)
そんなことを考えていると、クレアが今回から試験的に追加される規定を話し始める。
「今回から試験的にだが序列対抗戦前は、授業への参加は任意となった。だがこれだけは覚えておけ、授業を休むのは今言った通り自由だが、成果が出せなかったりサボっているのが発覚したらどうなるかわかるよな?」
クレアの威圧に生徒達は畏縮している中、一人だけ堂々としている人物がいた。
無論ユリウスである。
「それなら序列対抗戦が始めるまでの間、俺とアリサは授業を休ませてもらう。ついでにマスター……エリナも一緒だ」
ユリウスは咳ばらいをして言い直す。
何も聞かされていないエリナは、勝手に巻き込まないで! と言いたげな視線を向ける。
「ほおいい度胸だな。つい最近姿をくらませておきながら今度は休むだと?」
「別に成果を出せばいいんですよね?」
ユリウスは不敵の笑みを浮かべる。
「チッ! 仕方ない規定通り認めてやる」
「今舌打ちしませんでしたか!?」
「さっさと座れ! 説明が遅くなる」
それからはこれからの事など差ほど重要ではない部分の説明が行われた。
そして一通りの説明を終えるとこの日は解散となる。
翌日ユリウス達三人は早々に朝食を済ませると、王都郊外にある森と平原の境を来ていた。
「お兄ちゃん、何から始める?」
「まずは準備運動で三十キロ走り込みでいいだろ」
「!? ……あ、あのー魔王様、私三十キロの走り込みって聞こえたんだけど聞き間違えだよね?」
その問いに対し、ユリウスとアリサは微笑で返す。
エリナが知ってる準備運動とは違い、その顔は絶望からかどこか引きつっているように見える。
「そんな顔するなって。安心しろ身体強化を使って行うから普通の走り込みと変わらない」
「だ、だよね。身体強化なしとか言われるかと思ってた」
「流石に俺らもそこまで鬼じゃない。……と、いうわけで、はいこれ」
「腕輪?」
急に渡された腕輪に嫌な予感を覚えつつ、エリナは意を決して効果を聞く。
「ま、まさかこれ、何か付与されてたりしなよね?」
「何言ってるんだ? 鍛錬用だから付与されてるに決まってるだろ」
「あ、うん、知ってた。ちなみにどういう付与がされてるの?」
「確か内容は……覚えてる範囲だと魔力拡散と強化阻害、肉体負荷上昇だな。他にも色々引っ付いてたはず」
笑顔で効果を教えるユリウスとは裏腹に、それを聞いているエリナは顔に影が落ちていた。
「大丈夫だよエリナ。これ、そこまでキツイものじゃないから」
「ホント?」
「うん!!」
疑いの眼差しを向けるエリナを安心させるように、アリサは優しく可愛らしい笑みを浮かべる。
その言葉を信じ、彼女は右腕に腕輪をはめた。
そしてユリウス達も何か負荷をかける魔道具を装着し、互いに耐性を解除すると状態異常の魔法をかける。
「んじゃ、十分以内に走り切るのを目安に始めるぞ」
「了解!」
「うん、わかった」
アリサに続き、エリナも返事をした。
それを聞くとユリウスはデバイスを取り出し、距離の測定を始めると、エリナに走った距離が分かるようにアリサが特殊な魔法をかける。
「行くぞ!」
その言葉を合図に各々自分のペースで走り出す。
体を動かすにつれ、魔道具の効果が徐々に現れ、体にかかる負荷が上昇していく。
ユリウスとアリサは少し走り込んだあたりで、いきなり全力全開でペースを上げる。
エリナもそれに追いつこうと必死にスピードを上げるが、どんどん差が広がっていく。
「もう~あの二人とも速すぎー!!」
そんな悲鳴にも似た声を上げた時であった。
彼女はいきなり体中に痛みを覚えた。
それと同じくし、身体強化が解除しかかっていることに気が付く。
「ッ! ……え? あ……」
その時、始まる前に言っていた腕輪の効果を思い出す。
そこでやっと彼女は理解したのだ。
この魔道具が運動量に応じて、負荷が上昇していくことに。
「あとからくるなんて聞いてないよ!!」
その文句が彼女がランニング中に発した最後の言葉だった。
これ以降は体にかかる負担と魔力制御の二つに意識を割かれ、言葉を紡ぐことが出来ない状態になっていた。
それ以外にも息が上がっているせいで、声を発するのが苦痛になっていたのも原因の一つである。
(あ、あと十キロ! う……体中がすごく痛い。痛みと魔道具のせいで魔力制御が難しくなって……きた……。残り三分の一、頑張らないと! ほんと魔王様は魔王様だな)
これを準備運動と言ったユリウス達に呆れた声を心の中で漏らす。
ゴールが近づくにつれ、呼吸が苦しくなり、意識が飛びそうになっていた。
そんな状態でも彼女は歯を食いしばり、何とか三十キロを十二分ちょっとで完走した。
「お疲れさん」
ユリウスが水筒を渡そうと仰向けに寝転がっているエリナに近づいて行く。
エリナは青空を見ながら達成感を覚えていた。
「…………」
彼女は息が上がりすぎ、声が出なかった。
「動けるか?」
少し離れた所から聞こえる声に、エリナは小さく首を振る。
すぐそばまでユリウスが来たことが分かると、出ない声を頑張って振り絞る。
「ト……いき……たい……」
「ん? すまん、もう一回言ってくれ」
途切れ途切れの声にユリウスは耳を傾ける。
「トイレ……いき……たい……」
エリナは運動後のせいか顔がとても赤くなっていた。
「えーと、我慢は?」
泣きそうになりながら首を横に振る。
「あ……」
小さく漏れたその言葉と同じくして、彼女の股付近に水溜りが広がっていく。
あまりの恥ずかしさにエリナの瞳から涙が流れる。
「仕方ない。今回は特別だぞ」
ユリウスがパチンッ! と指を鳴らし数秘術を使うと、水溜りと体内に残っている物が消滅した。
「あ……あり、がとう」
「最初は仕方ない。体がピクリとも動かねーだろ?」
エリナが首を縦に振る。
彼女をお姫様抱っこすると話を再開した。
「俺らに合わせようとよく頑張ったな。俺の予想だと一時間くらいかかると思ってたぞ」
「だって、限界を……超えるのが強……くなる秘訣だって言ってたから」
「そうだったな」
アリサの元までエリナを連れて行くと、一行は小休憩を挟む。
そしてそれから三十分が経った。
「動けそう?」
アリサが心配そうにエリナの顔を覗き込む。
「大丈夫だよ。二人の魔法のおかげでさっきよりマシになったよ」
「よかったー」
アリサが安堵するのを見て、エリナはつい微笑を溢す。
「早速だが、次はいきなり模擬戦と行こうか。エリナは魔力弾の命中精度を上げる鍛錬だな」
「私は別メニューってこと?」
「いや、実戦を想定してエリナは模擬戦をしてる俺ら二人に、じゃんじゃん魔力弾を当てる気で撃ち込んでくれ」
「そんなのでいいの?」
「そんなのが大事なんだ。今までは制御の鍛錬だったが今回から実戦形式で基礎練だ」
「わかった!」
エリナは自分が少し強くなった事を認められ、嬉しそうな笑みを浮かべる。
「……言い忘れたが、俺らもなるべく怪我をしない程度の魔法で反撃するからちゃんと避けろよ」
「なるべくが無ければ安心できたよ」
ユリウスとアリサが剣を抜き、互いに睨み合う。
彼が投げた石が地面に落ちると同時に、二人は素早く距離を詰める。
「速い! これじゃあ……でも見えないわけじゃない!!」
エリナは二人の動きを先読みし、魔力弾を放つ。
しかし、高速戦闘をしている二人には当たらない。
「エリナ! 殺す気で撃ってきていいよ!! そうしないと鍛錬の意味が無い!」
一瞬躊躇う素振りを見せるが二人を信じ、エリナはこれまでユリウスから教えられたことを思い出しながら、魔力弾を状況に合わせて変化させる。
しかし、単発で何回も撃ち続けるが一向に掠る気配すらない。
それ横目に見ていたユリウスが口を開いた。
「マスター! 一発で当てれないなら複数発同時に撃て!! 一発の魔力弾を敵に当てるのは、実戦でもかなり難しい!! だから基本は複数発同時に撃つんだ! 一発の威力が高いものを当てたいなら、その中に混ぜるようにして敵に悟らせない様に戦うのが肝だ!」
「試してみる!!」
それを実践するようにエリナは魔力弾を作成し、それを細かく分散していく。
そしてそれを二人目掛けて撃ち込んだ。
狙いは大雑把だが、それでも何発かは二人に向かっていく。
ユリウスとアリサはそれを的確なタイミングで斬り裂き、再び攻防戦が始まる。
二人は攻防戦に入ると同時に、エリナに反撃する。
エリナは、彼らの近くで何かが光るのを見ると、即座にその場を離れる。
そしてまた散弾状の魔力弾を撃ち込む。
次第に反撃は厳しくなり、魔力弾を撃つために立ち止まる余裕がなくなった。
(どうしよう。走ってると攻撃が出来ない。考えるんだエリナ! 私なら出来る!!)
自分を鼓舞しながら、魔力弾を牽制代わりに適当に撃ち込んだ。
「あ、これなら!!」
エリナは何かを思いつき、それを実行に移す。
走りながら魔力弾を複数生成し、それを細かく分散する。
そして中には威力重視の物を混ぜていた。
それを放つと、ユリウスとアリサの二人も無数の魔力弾でそれを迎撃し、全て撃ち落とす。
それを繰り返していく内にエリナの魔力弾の精度が上がっていき、戦闘中に射線を引き、無数の魔力弾で攻撃する術を身に着け始めた。
「いいぞマスター! その調子だ!」
そして手本と言わんばかりに、ユリウスが途轍もなく細かく分裂させた無数の魔力弾をエリナに向かって放つ。
エリナはそれを魔力弾で迎撃したり、魔力障壁でやり過ごす。
こうしているうちにあっという間に一週間が過ぎ去るのだった。
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