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第33話 帰還後

 彼らはまだダンジョン内にいた。

 階層は第七十三層である。


「やっと七十三層か……。もうボス戦は勘弁してほしいぜ」


 七十階層まで残り三層になった所で、ユリウスは疲れ切った表情で呟いた。


「九十層のワイバーンと八十層のミノタウロス結構強かったもんね」

「それに雑魚も階層ボス並みの強さと来た」


 アリサとユリウスの二人は小さく溜め息を吐きながら先を進む。


「帰ったらお風呂入って、ゆっくり休みたいよ~」

「同感だ」


 二人で帰宅後の事を考えていると、先を進んでいるゾーイが催促してくる。


「貴様ら、早く行くぞ」


 それに促される形で、二人は早歩きでゾーイに追いつく。

 そして襲ってくる魔物を片っ端から倒しながら、マッピングを行う。

 足を止めたのは七十階層のボス部屋手前に到着した時であった。


「これで依頼達成か?」

「ああ、そのはずだ。確認するから待て……」


 ゾーイはこれまでの未探索エリアだった部分の地図を出し、一通り確認していく。


「問題ない。大丈夫そうだ」

「ってことは、あとは帰るだけだね」


 それだけを言い残すと、ユリウスとアリサは張り切った様子でボス部屋に向かっていく。

 それを見たゾーイが制止の声をかける。


「二人とも待て!!」

「どうしたんだ神トカゲ?」

「その言い方は……はぁぁ、それはもういいや」


 ゾーイはどこか諦めた様子で溜め息を吐くと、空間収納から不思議な色をした一個の石を取り出す。


「それは刹那の飛石か?」

「よくわかったな」

「昔はよく世話になったからな。……もしかして――」

「お察しの通りだ。我の周りに集まれ」


 ゾーイは二人が飛石の効果範囲に入ったのを確認すると、飛石を天井に当たらないように真上に投げた。

 すると、まばゆい光に覆われ、視界が真っ白に染まる。

 光が収まると一行は副学院長室にいた。


 そして執務机には二人目の副学院長であるソニアが、山のようにある書類を捌いていた。

 ソニアが帰ってきたゾーイに気が付くと、殺意の混じった笑みを向ける。


「お帰りなさい」

「今戻った白いの」


 挨拶だけ交わすと即座に逃げようと、ドアノブを掴むがそれが動くことはなかった。

 その光景にゾーイは青ざめる。


「逃がさんぞ黒いの。吾に仕事を押し付けたのだ。あとでたっぷりとプレゼントを受け取ってもらうとしよう」


 ソニアは勝ち誇ったような態度を取っていた。

 それを横目にアリサが口を開く。


「ねぇバルキアス、刹那の飛石はこの時代だと物凄く貴重な物なのに、こんなにあっさり使っちゃってよかったの?」

「あ、ああ、在庫は少ないが問題ない。流石の我もかなり消耗していたからな。七十階層も登るのはめんどうだ」


 拘束しようとしているソニアに抗いながら、返事を返す。


「どうせ前者は建前なんだろ。お前が消耗とかあり得ない」

「貴様! ちょくちょく思っていたが我の扱い酷くないか!?」


 ユリウスはそんなゾーイの抗議を無視し、アリサに手を差し出した。

 そして彼女はユリウスの意図を汲み、その手を取る。

 互いの手が触れると同時に、アリサはユリウスに少量の魔力を供給した。


「――ディバイン」


 ソニアから必死に逃れようとしているゾーイに、束縛魔法を使う。

 魔力不足で中途半端な状態で展開した魔法は、ゾーイを不完全な黒い鎖で束縛した。

 

「ッ!?」

「協力感謝するぞ、古き人間よ。……依頼の報酬は後日に支払おう」


 ソニアはゾーイが抵抗できない程の拘束を行いながら話していた。

 そしてゾーイは何かを言いたげな殺気だった視線を二人に向ける。

 だが、ユリウス達はしてやったりと言う表情で返す。


「ねぇ、エルラッテもバルキアスみたいにしたら? その方が楽しいと思うよ?」

「そういうものなのか? 煉獄の魔女よ」

「そういうものなの! もう神じゃないんだから威厳とか捨てちゃいなよ。その方が絶対楽しいって!!」

「ふむ……確かに汝の言う通りだ。次会うときは汝らを特別な存在ではなく、吾らの友として迎えよう」


 その言葉と同時にゾーイが絞められたカエルの様な声を出した。

 締め上げられて執務机の方へ連行されるゾーイを横目に、ユリウス達二人は笑いを抑えながら副学院長室を後にした。

 そして二人が寮に到着する頃には既に日が暮れ、夜が訪れていた。

 

 寮に入ると迷わず食堂へ一直線で向かうがギリギリ間に合わず、二人は肩を落としながら部屋に向かった。

 ユリウスの部屋に到着すると二人は、気を落としながら中に入る。


 ドアの開く音に気が付いたエリナが、ユリウス達二人を出迎えた。


「おかえり魔王様! ってアリサちゃんもいたんだ」


 ユリウスの後ろからひょっこり顔を覗かせたアリサに驚きつつも、エリナは笑顔を向ける。


「ほら玄関にいないで二人とも中に入って」


 エリナに背を押されながら、二人は部屋に入って行く。

 そしてベッドに腰掛け、二人が一息つた頃にエリナがお茶を汲んで戻ってきた。

 近くの机にお茶を置くと、エリナが先に口を開いた。


「二人とも三日もどこ行ってたの? ……まあ、その様子を見ればなんとなくわかるけど」


 エリナは苦笑いを浮かべた。

 

「「三日!?」」


 ユリウスとアリサはダンジョンに長い間潜っていた感覚がなかった。

 それだけに三日も潜っていたことに驚きを隠せずにいた。


「わたし達そんなに長い間ダンジョンに潜ってたんだ……」

「長くて一日半くらいだと思ってたぜ」


 二人は息の合った動きでお茶の入ったカップを手に取り、中身を飲む。


「あれからずっと戻ってこなくて心配してたんだよ」

「心配してるようには見えないが、一応心配かけて悪かったな」

「わたし達もこんなに掛かるなんて思ってなかったから……」

「魔王様とアリサちゃんのその姿を見ればわかるよ。二人が手こずるくらいの強敵がいたんでしょ?」


 ボロボロの二人の姿を見て、どれほどの強敵がいたのかエリナは考えたくないと言う思いと、どんな魔法で倒したのか知りたいという二つの思いがあった。

 しかし、疲れ切っている二人にそれを聞こうとはしなかった。


「まあな。あれはしんどかった……」


 ユリウスは百層のボスを思い出し、渋い顔をした。


「話は変わるけど、二人はご飯食べたの?」

「いやーそれが――」

「――目の前で食堂終わっちゃったんだよね」


 二人は同時に溜め息を吐く。


「それなら簡単な物で良ければ何か作ってあげるよ」

「いいの!?」

「うん」


 アリサは嬉しそうに笑顔を浮かべた。


「じゃあ待ってて、作ってくるよ」

「わかった」

 

 ユリウスが返事を返すと、エリナは彼らに笑顔を向けるとそのままキッチンに消えていった。

 そしてエリナが飯を作っている間にユリウスは風呂に向かい、髪と体を洗って湯船に浸かっていた。

 アリサも彼と一緒に風呂に入っていた。


「一緒にお風呂入るの久しぶりだねお兄ちゃん」

「そうだな。あれからお互い色々あったもんな」

 

 二人は昔を思い出しながら、疲労を癒す。


「お兄ちゃん、明日から一緒に鍛錬しない?」

「いいぜ妹よ。俺もお前を誘おうと考えてたところだ」

「やったー! 明日から一緒に頑張ろうね」

「ああ」


 今回の件で二人は自身がどれほど弱くなっているのかを再認識した。

 だからこそ、全盛期の力を取り戻すべくこれから互いに鍛え上げようと考えていた。


「なあアリサ、マスターも参加させていいか? すぐに俺たちと模擬戦は出来なくても魔法の鍛錬にはなると思うからさ」

「いいよ! わたしもエリナを鍛えてあげたいと思ってた所なの」


 同じ事を考える辺り、さすが兄妹である。

 こうしてエリナは知らないところで、化け物二人組の鍛錬に参加することが決まるのだった。


 ユリウスとアリサが風呂から上がると、丁度いいタイミングでエリナが飯を運んでくる。

 それを二人はすごい勢いで平らげると、三日分の睡魔に襲われこの日はこれで終わるのだった。


 ――翌日。

 早朝からアリサとユリウスの二人は、走り込みや筋トレといった基礎的なものを準備運動として行っていた。

 すると、偶然ルナと鉢合わせた。


「あんた達が朝練なんて珍しいわね。……って二人とも三日間どこ行ってたの!?」


二人が行方をくらましていた事を思い出し、驚愕と心配が混じった声を上げる。

そんな彼女に対し、彼らは今までの事を掻い摘んで説明する。

それを聞いて呆れたような溜め息を吐きつつ、ルナは口を開く。


「心配して損したわ!」

「へ~、ルナが俺らの心配をするとは意外だな。てっきり、そういうのはしない質だと思ってたんだが」

「べ、別にそういうのじゃないから!! 次会ったとき、知り合いが大怪我してたら目覚めが悪いってだけよ! 勘違いしないでよね」


 ルナは何処か膨れ気味で、ユリウスから視線を外す。


「こういうのをツンデレっていうんだっけ? お兄ちゃん」

「ああ、そのはずだ」

「ち・が・うわよ!!」


 アリサのからかいにルナは少し顔を赤くし、声を荒げて否定した。


「はぁぁ、朝から疲れたわ。……あんた達も朝練頑張りなさいよ」

「言われなくとも」


 それだけを言い残し、ルナは再びランニングを再開した。


「わたし達も始めよう」

「そうだな」


 ユリウス達は空間収納から木剣を取り出すと、それに魔力を無理やり流し込む。

 しかも、尋常ではない程の量を。

 木剣は流し込まれた魔力に、悲鳴を上げるように内側からミシミシと音を立てて、自壊を始めた。

 自壊を精密な魔力操作で防ぎ、自壊しないように疑似魔力回路を生成し、魔力を循環させる。


「懐かしいなこれ。昔はこれで色々鍛えたな」

「そうだね。魔力操作とか魔力量を増やす目的だったよね。最初は……」

「それから色々付け足して幅広い鍛錬が出来るようにしたっけな」


 昔を懐かしむ互いの視線が交差した瞬間、互いに距離を詰めて木剣を振りかざす。

 互いの木剣が当たろうとした時、剣を覆うように外に放たれた魔力がぶつかり合う。

 そのまま鍔迫り合いになるが、すぐにそれを受け流すと次の一撃を入れる。

 延々とそれを繰り返し、模擬戦形式で鍛錬を積む。


 剣に流す魔力の属性を変質させたり、様々なことを行いながら剣を交える。

 互いに属性を変えると、押し負けないようその属性を相殺出来る属性に切り替えていた。

 高速戦闘中での観察力と状況判断を養う為の鍛錬でもあった。


「激戦区から退いてもしっかり鍛錬してるみたいだな。偉いぞアリサ」

「お兄ちゃんこそ、転生したばかりの器でここまでやれるくらい経験を積んでて凄いと思うよ」


 互いに称え合いながら鍛錬を続ける。

 そして食堂が開く時間になると、二人は鍛錬を切り上げるのだった。

いつも読んで下さり有難うございます。

『面白い』や『よかった』と思っていただけたら評価やブックマーク、感想等をしていただけると嬉しいです。


これからもよろしくお願いします。


更新は毎週木曜日の予定です。

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