第32話 ダンジョンの最奥
隠し通路が現れてしばらくが経つと、一行は装備を整えて先に進む準備をしていた。
「結構ポーションも消費したな。ゾーイ、残りはどれくらいだ?」
「我もそれほど残ってない。……合計で三本だけだ」
そしてアリサに視線を移すと、装備を着け直している最中だった。
ユリウスの視線に気が付く。
「あと一本しか残ってないよ。魔力回復のために結構使っちゃった」
「ってことは全部合わせて四本……か。もし次の階層にもボスがいたら辛いな」
現状の確認を済ませ、ユリウスがポーチに回復ポーションを補充いていると、不意にアリサから声を掛けられる。
「お兄ちゃん、わたしのパンツ洗ってもらえない? 紋章の反動でまだ数秘術が使えないみたいだから……」
そうして差し出してきたのは血で真っ赤になった下着であった。
「おう、任せろ」
彼女の下着に触れると、数秘術を使って血を構成する分子を分解していく。
そして分子分解が終わると、元のチェック柄の下着に戻っていた。
「ありがとう」
嬉しそうな笑顔をユリウスに向ける。
それを見てかつての生活を思い出す。
しかし、感傷に浸る時間はなかった。
「貴様ら、準備ができたならさっさと先に進むぞ」
それだけを言い残すとゾーイは隠し通路を進んでいく。
遅れて彼らも彼女の後を追う。
しばらく歩くと次の階層への階段が現れる。
階段の作りや通路はこれまでの階層と同じだが、唯一違うのは通路の所々にアダマンタイト鉱石が他の鉱石に混じって通路に突起していることくらいだ。
一行は階段を降っていく。
もちろん何が起きるか分からないから、警戒は怠らずに。
そして階段を降り終えて一行を待っていたのはただの一本道だった。
「この先にお宝でもあれば嬉しいんだけどな~」
「宝がどうこう以前に階層ボスさえいなければ、我はよい」
「流石にこの体力で連戦は辛いもんね」
一行は思い思いの愚痴を漏らしながら、奥を目指して進んで行った。
それからすぐ遠目からでもわかる程の、明らかに大きな部屋のような場所が視界に移る。
それを見た瞬間、アリサとゾーイはつい溜め息を吐いてしまった。
「凄く嫌な予感がするよ」
「アリサに同意だ。我も何故か嫌な予感がする」
「そうか? 俺は別にそうでもないが……」
ユリウスは薄暗い通路の先にある近代文明の建築物を見て、言葉を失う。
その建築物に見覚えがあったからだ。
そして突然言葉を切った彼に疑問を持った二人は、薄暗い通路の先にある何かを見るために目を凝らし、通路の先にあるものを目にした二人は唖然としていた。
ユリウスは駆け出すように謎の建築物に向かう。
二人もおいて行かれないように、彼の背中を追った。
「ま、まさかとは思ったがこいつがこんな場所に移動してたとはな。……ここまで地形が変化してると、嫌でも時間の流れを感じるな」
目の前にある謎の建築物を見ながら、気づかぬうちに独り言を口ずさんでいた。
追いついたゾーイの耳は彼の独り言をしっかりと拾っていた。
「貴様、これを知っているのか?」
「知ってるも何も、この建造物は俺と軍の一部メンバーで作った物だからな」
「お兄ちゃん、これは何の施設なの?」
ユリウスは施設に歩み寄りながら、アリサの問いに応えた。
「これは転生時に失われる俺の力を、消滅前に保管する為の施設だ。名前は確かリベレグロウスだったはず……」
名前を覚える気がなかった為、自信なさげに声が小さくなっていく。
「じゃあこれの中に入れば、お兄ちゃん完全復活だね!!」
「ああ、完全復活だ! と言いたいところだが、この施設は全七機ある内の一つなんだ。しかもどの施設に何の力が保管されてるかは力を回収してからじゃないとわからない……」
「やっぱり簡単には力を取り戻せないんだね」
アリサにとってはそれだけで十分だった。
今のやり取りで大体の事情は把握した。
「よくもまあ一万年もの間、壊れずに原型を保っているな」
「そりゃあ建物全体に不壊属性を付与してあるからな」
ユリウスは話しながら施設の入口前まで進み、足を止めた。
「頼むから生きていてくれよ」
祈るように入口付近に設置されているパネルに手をかざした。
しかし、何も起こらない。
嫌な予感を覚えつつも、ダメ元で網膜認証装置に目をかざすが結果は同じだった。
「どう?」
アリサが心配そうに話しかけてくる。
「ダメだ。施設全体の電力が死んでる……」
「そっか……。この調子だとサブのコントロールパネルも動きそうもないね」
「……いや、ワンチャンあるかもだぞ!」
すると、指紋認証を行うパネルの下のパーツを器用に外した。
そこにあったのはメンテナンス時に使用するサブのコントロールパネル。
つまりモニターとキーボードの様な物のセットである。
そしてそれの起動ボタンを押すが、やはり動く気配は微塵もない。
「やっぱりダメみたいだね」
「みたいだな……」
頭の中で何かが引っかかるのを感じ、ユリウスは考え込む。
数十秒考え込んでいると、不意にとある武器が脳裏をよぎり、それが頭の中で引っかかっていた物なんだと気が付く。
そしてその武器を空間収納から取り出した。
「貴様! それはもしかして……いや、もしかしなくても超電磁砲ではないか!?」
「へー神トカゲでも知ってるのか」
ユリウスは、神龍が人間の武器について知っていることに驚いていた。
「何で知ってるんだ? お前らの脅威にもならない武器なのに……?」
「ふむ、当然のことを聞くでない。ロマンがあるからに決まっているではないか!!」
「お前らにそんな感情があったことの方が驚きだよ」
隣でアリサも頷いていた。
ユリウスは雑談をしつつも、ケーブルをコントロールパネルに繋ぐなどの作業を行う。
そして超電磁砲に備え付けられている魔力を変換し、電気として蓄える特殊な電池がある部分を開き、そこに先ほどのケーブルを繋いだ。
「これで良しっと。あとは魔力を流すだけだ」
「なるほど。我がやれと……」
差し出されたそれを見て、ゾーイは即座に彼の言いたいことを理解する。
溜め息を吐きつつも、彼女は嫌な顔をせずに少量の魔力を超電磁砲に流し込む。
「そのままで頼む」
超電磁砲が起動したことを確認すると、ユリウスは再度コントロールパネルの起動ボタンを押す。
すると、今回はちゃんと立ち上がり、モニターに光にともる。
「あとは……」
小さな声を溢し、パーソナルと呼ばれるノートパソコンのような機械を空間収納から取り出して、コントロールパネルにケーブルを繋いで接続する。
「アリサ、これ持っててくんないか?」
「いいよ」
二つ返事で返事を返し、ユリウスからパーソナルを受け取る。
そしてユリウスは、コントロールパネルにあるキーボードで施設全体の状態を探る。
しかし、流石にメイン端末ではないので全ての情報は探れなかったがパーソナルに断片的な情報が書き込まれていく。
それを確認するとシステムの起動を試みる。
モニターには無数の数字と一文字の古代文字で構成されたシステムの全てが下から上へ流れるように表示されていた。
ユリウスは数秘術の演算を駆使し、システムの一部を再構築して施設の再起動を行うコマンドの制作を行う。
「ところで貴様、超電磁砲は使わぬのか? もちろん武器としてだ」
「ん? ……使いたのは山々だが、如何せん弾が残り三発しかない。だからここぞというとき以外は使うつもりはない」
「弾は作れぬのか?」
その問いにはアリサが応えた。
「今の状態だと作れないの。素材に関してはこの時代だとかなり貴重な物を使うし、もし仮に錬金術で素材を確保しても特別な製法で作るからちゃんとした施設じゃないと作れないんだよ。仮に自作しても本来の火力が出なかったり、弾が加速時の負荷に耐えれなかったりする」
「我らなら簡単にほいほい作れるから、似たようなものだと思っていたが違うのだな」
「「神と一緒にしないで!」」
二人の声が重なった。
「ここまで聞いたついでに教えてほしいのだが、弾の素材には何を使っているのだ?」
「劣化ウラン」
ユリウスが作業を行いながら、淡々と応える。
「あー……確かにこの時代では手に入らないものだな……」
返ってきた返事を聞き、苦笑いを浮かべる。
「今更だがこの時代の世界観には合わぬ武器だな」
そういうゾーイの表情はどこか呆れ顔だった。
「わたしたちが生まれる前に栄えた時代の武器だから仕方ないよ」
そんな雑談を行っていると、ユリウスの作業が終了した。
「アリサ、施設の状況はどうだ?」
「ダメみたい。炉が停止してるから施設全体が死んじゃってる。AIも落ちてるみたい」
「了解だ」
施設の状態を確認するとユリウスは先ほど作成したプログラムを実行し、施設全体、主に発電炉を中心に再起動を行う。
一瞬だけ起動したような挙動を見せたが、すぐに施設全体が元の状態に戻ってしまった。
「あーやっぱダメか!」
ユリウスが悔しそうな声を上げる。
「それで原因は?」
ゾーイの問いに即答で応える。
「心当たりがあると言うか十中八九、起動キーがないからだろうな。……裏技的な事は出来ないように設計してたの忘れてた」
起動できないとわかるとユリウスは片づけを始め、すぐに来た時の状態に戻した。
「アリサ、一年以内に‘白雪の森’に向かうぞ。そこに起動キーを持ってる人物がいる」
「ってことは久しぶりに会えるんだね!!」
「まあ生きていればな」
ユリウスは小声でボソリと呟いた。
そしてアリサが隣で喜んでいるのを目尻にユリウスはゾーイに問う。
「白雪の森は今どうなっている?」
「この時代だと聞かなぬ名前だぞ」
するとユリウスはデバイスを取り出し、昔の地図を見せる。
「ふむ。……多分だが、この時代だと‘凍結の森’と呼ばれている場所と一致している」
「ってことはそこが‘白雪の森’か」
「断言は出来ぬが恐らくそうだろうな」
その言葉を聞き、ユリウスは旅の最初の目的地を決めた。
「旅に出るなら……」
「わかってる。準備とかもあるからしばらくはここにいるつもりだ」
「ならよい」
こうしてユリウスは今後の方針が決まり、旅に向けて準備を始めるのだった。
そしてゾーイはユリウスから龍脈石と呼ばれる特殊な石柱を受け取り、この階層に設置して一行は来た道を戻るのだった。
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