第31話 第100層
ユリウス達は階層ボスの情報を得るために、ボス部屋をチラリと覗き込んだ。
「マジかよ……」
「階層ボスがドラゴンなんて聞いてないよ!!」
そこに居たのは赤い鱗を身に纏った屈強のドラゴンであった。
「ダンジョン産のドラゴンだ。流石に古龍じゃないと我は思うが、貴様らはどうだ?」
「まあ、古龍じゃないと願うしかないな」
「うん。そうだね。もし古龍だったらわたし達に勝ち目ないもんね」
現実に目を向けたくない気持ちを抑え込む。
倒さなくてはダンジョンの攻略ができないからだ。
依頼達成に向け、一行は気持ちを切り替えることにした。
「ここでうだうだ言っても仕方ねー。取り合えず作戦を決めるぞ」
「貴様、このメンバーで作戦とか考えられないことが証明されたの忘れたのか?」
ゾーイはやれやれと呆れたようなに言う。
「動きだけでも把握しとけば連携できるだろ」
「決めないよりはましか。……具体的にどうする?」
その言葉を聞くとユリウスはアリサに視線を移す。
それだけでアリサはユリウスの言いたい事を理解したようだ。
「わたしは開幕から紋章を解放して全力で行くよ。……でも、魔力消費が激しいから、発動時間を延ばすために魔法は極力使わないからフォローお願い」
「了解だ。……なら俺は高火力の魔法をメインで攻撃する。ゾーイは好きなように動け」
「わかった。なら我は支援に徹する。前衛は任せたぞ」
ゾーイの言葉に二人は頷きで返す。
「始めるぞ!」
ユリウスの言葉を合図に一行は同時にボス部屋に踏み込む。
ボス部屋に入った瞬間アリサは魔力を解放した。
すると、額に紋章が浮かび上がり、青い瞳が深紅に染まる。
「――蜃気楼」
アリサが武技を使い、実像分身を作り出して姿を消した。
それと同時にゾーイが魔法を使う。
「――エレクションインペル」
魔法により全員の身体能力が上昇し、身体に薄い魔力障壁が展開された。
その間にユリウスは魔法の構築を済ませ、いつでも放てる状態でボスとの距離を詰める。
「――紫電極閃!」
だが、ユリウスが放った剣技は強固な鱗に弾かれてしまう。
「クッ!! 硬すぎだろ!」
ボスはユリウス目掛け、鋭い爪を振りかざす。
それを間一髪の所で避けることが出来たが、鋭利な爪先が腕を掠めた。
ただ掠めただけで彼の右腕が地面に転がった。
切断された腕を即座に空間収納で回収し、後ろに跳躍して距離を取る。
それと入れ替わる形で、アリサが追撃を行う。
「――炎狼陽炎撃!!」
分身体とアリサ自身との連携技が綺麗な形で決まった。
しかし、硬い鱗の表面を斬り裂くことしかできず、硬直の隙を突かれて分身諸共、尻尾の薙ぎ払いを直撃し、壁に叩きつけられる。
「ッ!!」
一撃で内臓の大半が破裂し、大量の血を吐き出した。
そして下からも血がポタポタと滴っていた。
そんな傷であっても瞬時に炎によって再生されていく。
「――ディメノスグランディウス!!」
ゾーイが高位の魔法を放つ。
地面を突き破るように現れた、無数の黒炎の槍がドラゴンを貫いた。
しかし、ドラゴンは怯むどころか咆哮を上げ、距離を詰めてくる。
しかもその巨体からは考えられない程の速度で……。
まずいと感じたゾーイは回避行動を取ろうとするが間に合わない。
ドラゴンが眼前まで迫り、鋭い爪を振り上げた瞬間、爆風と衝撃波共に黒い炎が巻き上がった。
「生きてるか?」
ゾーイは咄嗟に彼の魔法を魔力障壁で防ぎ、ユリウスの後方に短距離転移していた。
「これで死ぬ我ではない。それより奴は?」
「俺の魔法を直撃したくせにピンピンしてやがる」
「この階層ボス化け物過ぎ!」
何もないところから声が響く。
「全くだ。我らの攻撃を受けてもピンピンしてるとは、流石に予想外だ」
「むー。こんなの反則だよ!!」
「普通はこのパーティー自体が反則級なんだけどな」
ユリウスは苦笑いを浮かべ、皮肉を口にする。
そして雑談している間にもドラゴンは攻撃の準備を整えていた。
「来るぞ!!」
その声に呼応し、二人は防御態勢を取る。
「ここは我に任せろ。――ホーリープロテクションシール!!」
杖を構え、防御魔法を発動させる。
展開された黄金の障壁は、ボスのブレスを防ぐ。
その内にユリウスは腰のポーチから魔力回復ポーションを取り出し、一気に飲み干して回復を行う。
灼熱のブレスが一行を襲うなか、アリサはブレスを物ともせず、ドラゴンに向かって一直線で駆けて行く。
それと同時に分身がドラゴンの体を利用して跳躍すると、右目を狙って剣を突き立てる。
ボスの鋭い眼がそれを捉えると同時に、瞼を閉じた。
剣が砕ける音が鳴り響く。
それと同時に分身は、ドラゴンの爪に斬り裂かれ、鮮血を吹き出しながら消滅した。
だが、ボスの気を引くのには十分だった。
アリサがボスの首の真下に潜り込み、剣技を使う。
「――炎天・昇り飛竜!!」
炎を纏った攻撃で周囲を斬り裂き、その勢いを利用して跳躍し、飛竜の如き一撃でドラゴンの首を斬り裂く。
本来は刀の剣技。
それ故に威力が減衰しているが、それでも元賢者の一撃は伊達ではなかった。
ドラゴンは苦痛の咆哮を上げ、ブレスが収まる。
「――ゼノ・ディマイズ!!」
ユリウスが放った魔法は空間を極限まで圧縮する。
そして圧縮された空間が一気に解き放たれ、ダンジョン全体を揺らす程の空間爆発を起こす。
爆発が収まると遅れて黒炎がドラゴンを包み込んだ。
魔法の余波で空間に亀裂が入り、天井や壁の一部が崩落する。
黒き炎に焼かれるドラゴンに彼は追撃を加える。
「――秘剣・桜吹雪!!」
二本の剣から放たれる舞い散る桜の花びらの如き剣技が、ドラゴンを斬り刻む。
「こいつもプレゼントだ! メギド!」
神の炎がボスをこれでもかと焼き尽くす。
ユリウスとアリサはボスから距離を取るように離れ、最終的にゾーイと合流する。
「これで殺せたかな?」
「だと良いな。妹よ」
そうは言いつつも三人はわかっていた。
これで倒せるほど楽じゃないことを。
ドラゴンがもがいている内に、一行はポーションで魔力を回復するなどして態勢を立て直す。
だが、そう悠長に回復している時間はなかった。
ドラゴンはまだ体の一部を黒炎に焼かれながらも、翼を広げて咆哮を轟かす。
それは反撃の合図とも受け取れるほどの咆哮である。
「奴も本気になったようだ」
「みたいだね。……お兄ちゃん、魔剣を使うから援護お願い!!」
ゾーイの言葉に頷き、空間収納から一本の魔剣を取り出す。
それは死闘の時にユリウスに向けたものである。
「任せろ! だけど、火属性以外の魔法も使うから気をつけろよ!!」
「うん!!」
それだけを言い残すとアリサは再び‘蜃気楼’を使い、実像分身を作ってボスに向かって駆けて行く。
ユリウスは無数の魔法陣を展開した。
その魔法一つ一つが着弾と同時に大爆発を起こす高位の魔法である。
「おい元トカゲ、何か支援魔法を使ってやれ」
「トカゲ言うな!! ――フェイクステータス・オーバーロード!!」
ユリウスとアリサに超強化の魔法を付与する。
魔力消費が激しく、ゾーイが一瞬だがフラついた。
魔法の付与を確認すると、ユリウスは展開してある魔法を放つ。
「――エクスプロジオンアロー!!」
解き放たれた爆破矢は標的目掛けて飛んでいく。
そして無数のけたたましい轟音が鳴り響く。
ボスはその攻撃に怯みつつもしっかりとアリサを迎撃する。
口から放たれた火球は、分身に着弾した。
だが着弾前にそれを分身だと見切ると、姿を消している本体を本能的に察知し、彼女目掛けて再度火球を放つ。
アリサはそれを避けることも斬り裂くこともせず、正面から突っ込んでいく。
絶対耐性により、火球によるダメージはない。
火球の中から現れる頃には、透明化も解除されていた。
ボスは何ともないアリサの姿に驚きつつも、彼女の視線を読んで次の攻撃を予測し、その位置に咬みつき行う。
しかし、彼女は空中を蹴り場所をずらしてそれをやり過ごすと、ドラゴンの腕目掛けて自身の全体重をかけて剣技を放つ。
「――無尽ノ太刀・紅!!」
赤き流星の如き一撃が、ボスの腕を容易く斬り飛ばした。
ボスが苦痛の叫びを上げる。
そして容赦なくアリサはドラゴンに追撃を入れる。
そのタイミングでポーションにより、魔力を回復したユリウスの魔法が炸裂する。
背中を貫通した黒き槍が腹部を貫く。
アリサが魔力消費が少ない魔法を放つ。
「――フレイムバースト!!」
ボスが炎に包まれる。
先の黒炎が再びその勢いを取り戻す。
怒涛の攻撃から逃れようとボスが翼を羽ばたかせ、宙に逃げる。
「そんなことをさせるとでも?」
ゾーイが魔法を放つ。
アリサの攻撃でドラゴンの装甲が弱体化しており、彼女の魔法が容易くボスの両翼を切断する。
絶叫と共に地面に叩き落され、凄まじい音が鳴り響く。
「これで終わりだ!」
そう言ってユリウスが全魔力を消費して魔法を放とうとした時、轟音を伴う咆哮を上げた。
近くにいたアリサが吹き飛ばされる程の咆哮を。
そして最後の足掻きと言わんばかりに、大暴れを始める。
下手に近づくと、並みの人間ならミンチになるほどの暴れ具合だ。
好き放題ブレスを吐き、今まで使っていなかった魔法をむやみやたらに、四方八方に撃ちまくる。
次第にブレスは収束していき、光線状のものになる。
「「まずい!!」」
アリサとユリウスの言葉が重なる。
ゾーイも言葉にはしていないが、危機感を覚えていた。
アリサ自身にブレスは効かないが、天井が崩落する可能性があったからだ。
息を合わせたかの様に、アリサとユリウスはボス目掛けて突っ込んでいく。
それを見た瞬間、ゾーイが支援魔法を使う。
「――ホーリープロテクション!」
彼らの体が黄金の障壁を纏う。
そしてユリウスはドラゴンからの重い一撃を容赦なく食らう。
障壁が破られ、何発もわざと食らい続ける。
体が壊れると同時にそれを闇が修復するを繰り返し、耐え続けた。
アリサも一撃を食らうが障壁がそれを肩代わりし、ダメージを追うことはなかった。
二人が合流すると同時に、剣技が放たれる。
「――炎天・昇り飛竜!!」
「――紫電極閃!」
ダメージを食らい続けたユリウスの剣技は、先ほどよりも威力が大幅に上昇していた。
アリサも魔剣を装備したことで、その一撃の威力は比較にならない程上昇している。
二人の攻撃をまともに食らい、ボスが崩れ落ちる。
「今度こそ、これで終わりだ! ――ゼノ・ディマイズ!!」
魔法が放たれる瞬間、アリサは即座にその場を離脱する。
ユリウスが全魔力を消費して放った魔法は、先ほどとは比べ物にならない威力だった。
これこそが彼本来の力である。
先程までは魔力を温存するため、力をセーブしていたがその必要がなくなり、かつての力を引き出したのだ。
だが、それでも今のユリウスでは、魔力を全消費しないとかつての力の再現は出来ないようだ。
彼の魔法を直撃したドラゴンの体は三分の二が消し飛び、ギリギリ素材として回収できる程度の品質の物がそこには残っていた。
そしてユリウスの魔法の余波で入り口付近の天井が崩落し、しばらく前の階層に戻ることができない状況になっていた。
「何とか勝てたな。……あーしんど」
「相変わらず、貴様のその力は難儀なものだな」
ゾーイもしんどそうな顔をしていた。
「お兄ちゃんの場合、傷は修復してもダメージは残るから紋章との相性はいいんだけどね」
アリサも近づいてくる。
三人とも今にも倒れそうなくらい疲労困憊のようだ。
「この先の道が無いってことは、ここが最終階層ってことだな」
「みたいだな」
「ならここで休んでこうよ。入り口も埋まっちゃってるから当分戻れそうにないし……」
アリサの言葉に二人は同意の返事を返した。
そしてアリサが装備を脱ぎ始めた。
「アリサ、ダンジョン内なんだから装備は脱ぐなよ」
「だってもの凄く暑いんだもん。体を冷却しないと死んじゃいそう……」
今にも死にそうなくらい、へばってることがその表情から読み解ける。
そんなアリサを見てユリウスは、‘まあいいか’と思いそれを見逃す。
「ボスを倒したのだ。ここを離れない限り、また沸くこともない」
「だな」
ゾーイの言葉にユリウスが同意する頃には、アリサは全裸になっていた。
「その体も不便だな、妹よ」
「でも、もう少し紋章の力を使い込めば、昔みたいになるからそれまでの辛抱かな」
そう言ってアリサはユリウスの腕に抱きついた。
「おいトカゲ、魔力が残ってるならアリサに氷属性の魔法を使ってやれ」
「トカゲって言うなと戦闘中でも言ったはずだが!?」
不服そうな声を上げつつも、アリサに冷風程度の魔法を使う。
そして一行が休息を始めると、ゴゴゴゴと言う音共に隠し通路が現れた。
「「え?」」
一同、勘弁してと言いたげな表情で通路の先に視線を移すのだった。
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