第30話 ダンジョン攻略
ゾーイとの邂逅から二日が経った。
ユリウスとアリサはゾーイを強引に引っ張りだし、現在ダンジョンの第六十層、階層ボスのフロアにいる。
今日ゾーイがやるべき仕事を全て紙に書き、ソニアの執務机に置いてからダンジョンに連行していた。
そのため仕事をしようと席に着いたソニアがその紙を見て、手に持っていた羽ペンを真っ二つに折り、ゾーイに怒りを向けたのだった。
彼女の帰還後に何があったかは彼女らしか知るものはいなかった。
のちの地獄を知るよしもなくゾーイはユリウス達と共にダンジョン攻略を進めている。
「ここまでは順調に来れたな。で、ここからどうするんだ?」
「貴様らには前衛を担当してもらう。剣に関しては貴様らの戦闘速度に追いつけぬ。だから我は後方支援に徹するとしよう」
「足手まといは引っ込んでてよ」
「連れて来たのは貴様らではないか!? てか、神である我に対する扱いが雑な気がするのだが……」
事実を突きつけられ、肩を竦める。
それと同時に扱いの酷さにどこか思うところがあるようだ。
そしてユリウスは試しにボス部屋をチラリと覗いた。
ボスの容姿はサイクロプスの様な見た目だが、決定的に違うのは目が二つあることだった。
「二人ともボス部屋に入るよ!」
「ああ、いつでもいいぞ」
「我も準備は出来ている」
三人とも視線を交差させ、頷き合うとボスに戦闘を仕掛ける。
ボスがこちらに気がつく前に、アリサは武技を使う。
「――陽炎」
すると、アリサの体が揺らいだ瞬間、彼女の姿が消えた。
先制攻撃を仕掛けたのはユリウスであった。
二本の剣から放たれる斬撃は、ボスの腕を深々と斬り裂く。
ボスは痛みに絶叫しつつも、直ぐに反撃に転じる。
大きな大剣を勢いよく振られ、ユリウスの眼前に迫るがそれを跳躍して躱す。
中空から攻撃を行い、ボスの左目を斬り裂いた。
しかし、振り上げられたボスの拳がユリウス目掛けて飛んでくる。
空中にいるユリウスはその攻撃を避けることが出来ず、地面に叩きつけられ吐血した。
「ガハッ!!」
その隙にアリサがボスの背後に忍び寄り、攻撃で生まれた隙を突いて背中を大きく斬り裂く。
そこでボスは敵が三人いることを理解したのか、体に魔力を集中させ、凄い勢いで傷を回復させていく。
「そんなことはさせぬ。――クインティ・エクスプロージョン!!」
ゾーイが放った魔法は九つの大爆発を起こす。
大爆発にユリウスも巻き込まれ盛大に吹き飛ばされていた。
「お前! 誤爆を許容するな!」
「どうせ死ぬことはないのだからよかろう」
黒煙が晴れていく。
しかし、黒煙の中に佇んでいたボスはほぼ無傷である。
しかも先ほどとは様子が違う。
体は少し肥大化し、腕の筋肉は先ほどよりも発達している。
「ここからが本番って訳か」
ボスの本気に全員が武器を構え直す。
互いに睨み合いが続く。
しかし、先に動いたのはボスの方であった。
ゾーイ目掛けて一直線で突撃を行う。
その時、ユリウスとアリサの同時攻撃がボスを襲う。
彼らの攻撃はボスにダメージを与えることには成功したが、有効打にはなっていない。
「チッ!」
ユリウスは舌打ちをすると、狙いどころを変える。
ゾーイの眼前までボスが辿り着いてしまった。
だが、ボスの脚に放たれた高速の一撃で、その巨体が崩れ落ちる。
膝をついた瞬間に、アリサの追撃とゾーイの魔法が炸裂した。
「――炎牙」
「神の炎に焼かれるがいい! ――メギド!!」
そして斬り込んだ体勢のまま、ユリウスが止めの一撃を放つ。
「この距離なら外さねー。くらえ! 威力重視のダークバレットをな!!」
命中精度を捨て、魔法を即座に威力重視にチューニング。
そしてその魔法は難なく背後から胸部を貫く。
ボスの体には大穴が開き、そのまま流れるように倒れ伏して絶命した。
「意外と楽だったな。お前らがやられたとか言ったから、身構えてたけど無駄に終わって損したな」
「ほんとだよ~」
アリサが言葉を発すると同時に、空間の一部が揺らぐとその姿が顕わになる。
「貴様らが魔法無しでも十分化け物だったからだろ!」
「神が人間をそこまで評価するとはな」
「実際の所、認めたくはない。だが、あんな技を見せられたら認めざるを得ないだろう」
悔しそうな表情を浮かべていた。
神らしからぬ表情を浮かべるゾーイを、ニヤニヤして見守る兄妹がいた。
「……ほら行くぞ!!」
彼らの態度が不服だったのか、どこか腹を立てている様子。
ユリウスとアリサは互いに顔を見合わせると小さく笑い、後を追う。
それからは強い敵と遭遇することなく、一階層ずつ着実に踏破していった。
余りにも退屈過ぎて、油断を招きそうなほどだ。
次のボス階層までの折り返しを過ぎてそこそこ経った頃、ゾーイがユリウスに問いかける。
「ユリウス、これからどうするつもりだ?」
「これから?」
「貴様が黙って、ここを卒業するまで居座るタイプではない事くらいわかっている」
「ああ、そういうこと」
質問の意図を理解すると、少しの間思考を巡らせる。
これから何を成すかを順にリストアップしていた。
あらかた考えをまとめた所で、口を開く。
「一年以内にはここを出ていくつもりだ」
「つい最近入学したばかりなのにか?」
「まあ入学目的がこの時代の情勢と文明水準の把握だったからな。魔法の文明レベルについては大体調べ終わったから、もう長居する意味もない。……だから旅に出て、実際に文化に触れた方が有意義だ」
「そうか」
小さく呟くとゾーイはチラリとアリサに視線を移す。
視線に気づくとアリサが返事を返した。
「わたしは、お兄ちゃんについて行くよ」
「貴様、一応は貴族だろう。そんな簡単に決めていいのか?」
「わたしは家を継ぐ資格をもってないから大丈夫! 仮に資格があったとしてもわたしはお兄ちゃんについて行く。あの頃の旅の続きがしたいから」
どこか遠くを見るような目には、何かを悲しんでいるようにも見えた。
彼女の意思はどんな言葉をかけても曲がることはないと悟ると、ゾーイは小さく溜め息を吐く。
「はぁぁ、そうか。……なら出ていく前にせめて、序列対抗戦でもやっていけ。楽しめると思うぞ」
「そうだな。旅の準備もあるから、それまでの退屈しのぎにはちょうど良さそうだ」
「序列一位のユウキって子がすごく強いからお兄ちゃんに戦ってほしい! 剣だけならわたしよりも強いよ」
目を輝かせながら言うアリサを見て、ユリウスは多少ワクワクを覚えるのを感じる。
(こういう感情を覚えるのは何年ぶりになるんだろうな)
感傷に浸っていると、ボス階層の階段が見えてくる。
いよいよ第七十階層である。
階段を下りて行くと、通路がある。
そして少し進むと全ての階層ボスがいたフロアと同じように、すぐボス部屋が現れる。
敵を観察するため、少し近づく。
ボスの容姿は筋骨隆々のオークといった感じだ。
しかし、普通のオークと違うのが筋骨隆々にも関わらず、重武装の鎧を身に纏っているという点だ。
武器は大剣だが、それを片手剣の様に握りしめている。
「見て分かる強い奴だな」
「貴様ら何か策はあるか?」
ゾーイが二人を見る。
しかし、二人とも首を横に振るだけだった。
全員で策を考えるが思いつくのは脳筋的な作戦だけである。
「何故我らはこうも真面な策を思いつかぬのだ!」
「そりゃー全員脳筋だからな」
「まあ否定はせぬ」
事実をありのままに受け入れるが、「こいつだけには言われたくない」と顔に出ていた。
「わたしは魔剣を使うために、魔力を温存したい。ゴールまでもう少しかかりそうだから……」
「我も同じ意見だ。ここで消耗しすぎても後が辛くなるだけだろう。……とは言っても、あれは生半可な攻撃が通じるタイプではなさそうだがな」
そこで二人の期待に満ちた瞳がユリウスに向く。
「わかった! 俺がやる! お前らは俺から離れない様に陣を敷け。魔法使用後の硬直をカバーしてもらう。それでいいな」
二人が頷くのを確認すると陣形を整え、ボスに挑む。
ボス部屋に入ると即座にボスが攻撃を仕掛けてくる。
重装備を着けた巨体のくせに途轍もない突進速度である。
しかし、ボスの攻撃は一歩遅かった。
「消し飛べ!!」
ユリウスはもう既に魔法を展開していた。
だが、彼の頭上にある黒き極大の太陽を見るや否や、アリサとゾーイが顔色を変える。
「お兄ちゃん、ちょっとまっ――!!」
「それはやめろ!!」
二人が大声で制止の声を上げるが時すでに遅し。
漆黒の太陽はボス目掛けて放たれていた。
漆黒の太陽はボスを呑み込むと、階層を抉り取る。
ボスは瞬時に蒸発し、着弾時に爆発を起こす。
その威力と衝撃で階層全体に亀裂が走る。
そして底が抜けるように床が落ち、第七十階層が崩落を始める。
無数の岩石が降り注ぐ中に、三人の悲鳴がけたたましく響き渡った。
穴の底は光がない暗闇。
いつ地面に着くのかわからず、落下していく。
時間が経つに連れ、落下速度は上昇していった。
三人が地面を認識した瞬間、体が勢いよく叩きつけられ、真っ赤な花が咲く。
「お前ら無事か?」
「わたしは大丈夫だよ! ちょっと頸椎が砕けて、内臓が破裂してるくらいの軽傷だから」
「我も無事だ。頭蓋骨と脊髄が砕けた程度だから問題ない。……そういう貴様はどうなんだ?」
「頭部の三分の一と下半身が岩石に潰されて、頸椎と脊髄が砕けて内臓が破裂してるだけだ。……全員軽傷で何より」
三人は各々の能力で傷を治していく。
ユリウスは闇で傷を修復させ、岩石を魔法で吹き飛ばす。
アリサは炎で傷を再生し、ゾーイは元が元だけに途轍もない治癒力で回復していく。
「にしても貴様! 魔法を使う場所を考えろ!! こんなとこで使ったら崩落するのは目に見えてただろ!」
「いやーほんの少しアダマンタイトの成分が混じってたから、大丈夫かなーと……」
「豪快に階層を崩落させるなんて流石お兄ちゃんだね!」
「だろ!」
「そこ! 褒めるな!!」
ゾーイは馬鹿二人を見ながら溜息を吐く。
(パーティーの人選、間違えたなこれりゃ……)
自身の軽率な判断を呪いたくなるくらい、後悔していた。
無邪気に騒いでいる二人を見て、少し怒りを覚えていたことは内緒である。
「で、ここが何階層かわかるか?」
「ちょっと待ってろ」
そういうとユリウスは空間収納から、一台のデバイスを取り出す。
そしてデバイスの機能を駆使し、現在地を割り出す。
「ここは恐らく第九十七層だな。崩落に巻き込まれた地点の下がちょうど崖になってたらしく、そのまま落ちてきたようだ」
「ショートカット出来てラッキーだったね!」
「貴様ら依頼の内容を忘れてないか!?」
あっ! と言う顔を二人して浮かべたが、知っていると言わんばかりに胸を張る。
「帰りにすればいいだろ」
「雑すぎるにも程があるぞ……」
呆れながらゾーイは歩みを進め、ダンジョンの奥へ進んで行く。
その後遅れて二人がついて行くのだった。
そして第百層に到着した。
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