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第28話 死闘決着

「まさか、これを使うことになるとは思わなかったよ。……本気で行かせてもらうね」


 魔力を解放した。

 莫大な魔力が放出され、彼女の額に紋章が浮かび上がる。

 そう、ユリウスと同じものである。

 しかし、性質は同じでも効果は違う。


「それを発現させられる量の魔力を残していたとはな。想定外だ」

「だからこその奥の手だよ。じゃあここからが本番」


 時間経過とともに周囲の温度が上昇していく。

 砂漠の様な暑さ。

 この場にいるアリス以外の者が汗を浮かべ始める。

 そして刻一刻とアリスの体温も上昇していき、身体能力などの全てのステータスが強化されていく。

 更に先ほど切り落とされたはずの腕が炎を纏い再生していく。


(とは言ったものの、やっぱりこの体だと負荷がすごいや。早々に決着をつけて体を冷却しないと。長引けばこっちが不利……)


 正真正銘の時間制限ありの奥の手を使うと同時に、焦燥感に支配される。

 だが、すぐに冷静さを取り戻す。

 焦れば機を逃すことを彼女は知っているからだ。

 

 そして戦闘が再開する。

 

「――ブレイズ!」


 アリスに遅れてユリウスも同じ魔法を放つ。

 威力はユリウスの方が上だが、それ以外のスペックはアリスが上回っていた。

 同じ魔法でも熱量が桁違いに違い、アリスの魔法は周囲を小規模だが融解させていた。


 スペックの違いを威力でカバーしているおかげで、魔法は相殺された。

 しかし、相殺した際に発生した爆発の中からアリスが勢いよく斬りかかってくる。

 それを予測し、完璧なタイミングで剣を受け止める。

 

「絶対耐性か」

「そういう事」


 互いに距離を取る。


 瞬きをした瞬間、互いに鍔迫り合いになっていた。

 剣を受け流すと同時に、高速戦闘が繰り広げられる。


「動くな!」


 ユリウスが言葉を発した瞬間、アリスの近くに魔法陣が展開され、彼女の左腕を鎖が拘束した。


「ッ!?」


 瞬時に腕を切り落とす。

 大量の血が噴き出した。

 高速戦闘での一瞬の停滞は命取りとなる。

 切り落とされた腕は瞬時に再生するが、振り切った剣を戻しきれず、強力な一撃をもろに食らってしまう。

 咄嗟に盾代わりにとした剣は折られ、肉体は深々と斬り裂かれていた。

 だが、致命傷になりえる傷を負ってもなお、彼女は苦痛の表情を浮かべることはない。

 そして傷は瞬時に炎により再生していく。

 

「あー折れちゃったか~。仕方ないこれを使おうかな」

 

 虚空から一本の剣を取り出す。

 その剣身は炎の如き赤色で莫大な魔力と熱を発していた。


「魔剣ケルビスか」

「正解だよ。よく知ってるね」

「そりゃお前の愛剣だから……なっ!?」


 紙一重の所でアリスの剣を避ける。

 この魔剣の熱量はあらゆる金属を容易く融解できる程だ。

 もしまともに触れれば、ほとんどの金属は溶断される。


 これにより戦況は逆転し、防戦一方となる。

 隙を見て攻撃を仕掛けるが魔剣を盾にされた瞬間、剣を寸止めして触れない様心掛ける。


「クソッ! わかっていたが厄介だな」

「これからどうするの?」


 ユリウスは数秘術で思考を加速させて体感時間を遅くし、打開策を練る。


(どうする? こっちも魔剣を使うか? いや今の魔力量だと魔剣に食われかねい、か。それよりも弱体化の影響で所有者として相応しくないと判断され、選ばれない可能性もあるのか……。ならここは魔法で押し切る!!)


 複数の魔法を展開し発動させた。

 しかしアリスはユリウスの放った魔法を斬り裂き、前へと進む。

 剣で受けざるをえない状況になり受け止めた。

 案の定魔剣は容易く接触面を溶かしながら切断していく。

 そして勢いのまま眼前まで魔剣が迫るが、超人的な反応速度でそれをギリギリのタイミングで回避した。


「あっぶね~。容赦ないな」

「だって容赦なく斬るつもりだったからね」


 魔剣を振り下ろす。

 だがそれも紙一重で避けると、アリスから距離を取る。

 そして剣を握ったまま転がっている自身の腕を拾い上げると、切断面にくっつける。

 闇が溢れ出し、腕は修復され接着する。


「二人とも今の見てた?」

「あれはやばいですね。剣が一瞬で溶かされてました」

「やばいってもんじゃないわ。あの剣、いや魔剣は、おそらく途轍もない熱量を誇ってるわよ」

「そんなの食らったらひとたまりもないよ! それにあんな武器、序列対抗戦で使って無かったよね?」

「ワタシも見たことありません。多分ですけど、今回が初のお披露目だと思います。あれが彼女本来の武器だと考えるべきでしょうね」


 アリスの魔剣を目の当たりにし、驚きを隠せない様子。

 

(まずいな。こっちの魔力が先に尽きそうだ。……さっさと勝負を決めないと)


「仕方ない。俺も少し奥の手を切らせてもらうか」


 闇が腕を這うように移動し、刃折れの剣と無傷の剣に纏わりつく。

 形状を剣の形に変化させる。

 これにより、やっと魔剣を受け止めることが出来るようになる。


 戦闘の本番が始まった。

 卓越した剣技がぶつかり合い、周囲は斬り裂かれた跡や溶解された跡が残り、悲惨な事になっていた。

 両者の魔法は破壊と焼却の限りを尽くし、その余波だけで周辺の建造物に亀裂を入れ倒壊寸前である。


 アリスは魔剣の熱量で自身の周囲を屈折させたことで、視覚では捉えることは出来ない。

 だが空間感知の魔法により、位置や挙動が全て把握される。

 そして姿こそ見えないが、鋭い眼光が交差した瞬間、ユリウスが周囲の熱を吹き飛ばす程の魔法を放つ。


(今ので打ち止めだな)


 魔力切れになり、魔剣の熱を払う手段を失う。

 それと同時に闇が揺らぐ。


(闇がもう実態を保てなくなってきたか。弱体化の影響なのか、はたまた転生後初の使用だからなのかは知らんが、ここまで能力ダウンしてるとはな……)


「もらったよ!!」


 闇の制御に意識を割いた一瞬の隙を突き、アリスがユリウスの剣を一本弾き飛ばし、剣を握っている腕を切断した。

 懐に入られ、回避運動が間に合わない。

 そしてアリスは勢いのまま心臓を貫き、横に薙ぎ払う。

 大量の鮮血が飛び散るかと思いきや、飛び散るはずの血は全て蒸発していた。

 心臓を貫かれたと同時にユリウスもまた素手で彼女の胸を貫き、その手には心臓が握られていた。

 心臓を握りつぶす。

 潰れた心臓からは大量の血が溢れ出した。


「悪いな肉体性能の差だ。だけどこの勝負、アリサお前の勝ちだ」

「……ふふ…………」


 アリスの手から剣がスルリと滑り落ち、満足そうな微笑みを残してそのまま絶命した。

 倒れ込んでくるアリスだった物を優しく抱きしめると、地面に横たえる。


 駆けつけてくるエリナ達を横目に、空間収納から魔力回復ポーションを取り出して一気に飲み干す。


「まさか殺したの!?」

「ああ、死闘だからな」


 青ざめるルナに対し、ユリウスの口調は変わらない。


「ユ、ユリウスさん。まさか……」


 アリスだった物を見てヴィオラもまた、顔が青ざめていく。

 人が殺される瞬間を見るのは、彼女たちにとってはこれが初めてであった。

 ユリウスが蘇生魔法を使えることを知らない二人は軽蔑の眼差しを向ける。

 そしてアリスの友達は目に涙を溜めていたが、ついに決壊した。 


「何でそんな顔してるんだ? 別にただ殺しただけだろ」


 軽蔑の眼差しを向けられようと動揺はしない。

 戦場で敵から向けられ過ぎて、生活の一部の様な感覚で慣れてしまっていた。


「それが――」

 

 しかし、何も知らないルナは彼の瞳が無慈悲のそれに見えて、怒りを覚えていた。

 掴みかかろうとする彼女をエリナが止める。


「止めないでよエリナ!!」

「大丈夫だから見てて!」


 ユリウスに視線を送ると、何も言わずに彼は頷いた。


「――リグルド!」


 淡く優しい光がアリスだった物を包み込む。

 胸に開いた傷が塞がっていき、傷もだんだん薄くなり消えていく。

 魔力解放状態が解除され、額の紋章もいつの間にか消えていた。

 数秒もしないうちにアリスが目を覚ます。


「おはようアリサ」

「うん。おはよう」

「どうだ? アリ……ス、俺を本物だと証明できたか?」

「十分だよ。お兄ちゃん……」


 アリスは泣いて喜びそうになりながらも何とか平静を保つ。

 彼女に手を差し伸べ、立ち上がらせる最中に小さな声で耳打ちする。


「この続きは夜に俺の部屋で」

「うん」


 何事も無かったかのように互いを称え合う。 


「今のってまさか!?」


 驚くルナにユリウスの声が掛ける。


「このことは他言無用で頼む。面倒事は嫌だからな」

「わかったわ」

「ヴィオラもそれで頼む」

「了解です!」


 一同が同意したのを確認するとこの場はお開きとなる。


「蘇生魔法が使えるなら使えるって先に言いなさいよね!」

「言ったとこで信じないだろ……」

「確かにそうね。あんな御伽噺の魔法、実際に見ないと信じられそうにないわ」

「ワタシも同意見です」


 蘇生魔法を使えることを知っていたエリナは、驚くような素振りを見せない。

 だが、ここではあたかも知らなかったように振る舞っていた。


「蘇生魔法と言い、戦闘中の魔法と言い、見たことない魔法ばかり使ってるけど、あんた一体何者なの?」

「ん? 俺は俺だ。……じゃあな」


 部屋の前に着くと、扉を開けて中に入っていく。


「ちょっとまだ答えを――」

「いつか教えてやるよ。まあその時が来るのを、首を長くして待つんだな」


 それだけを言い残すと背中越しで手を振り、部屋の奥に去って行く。

 ルナはもやもやする思いを胸にしまい込む。

 そしてダンジョンでのエリナの活躍ぶりを思い返していた。

 

「みんな今日はお疲れ~」

「あんたも結構頑張ってたじゃない。見直したわ」


 それだけを言い残して、背中越しに手を振りながらルナは自室に向けて歩みを進める。


「ユリウスさんの正体については、ワタシも気になりますが今日はこれで失礼しますね」

「うん。ヴィオラちゃんもお疲れ」

「エリナさんもお疲れ様です! もし彼の正体が分かったら教えてくださいね」


 こうしてパーティーメンバーは解散し、各々の部屋に戻っていく。


 しばらくが経つと、彼らの部屋に一人の少女が訪れる。

 不意に扉がノックされた。

 エリナは訪問者を確かめるべく、扉を開くとそこにはアリスの姿があった。


「入ってもいいかな?」

「うん。いいよ」


 彼女を部屋に招き入れる。

 二人で部屋の奥に行くと、ユリウスがあいさつ代わりに軽く腕を振る。

 すると、アリスは彼の元に駆けて行き、タックルをするかの勢いで飛び掛かり抱き着いた。


「お兄ちゃん! 会いたかったよ!! 会いたかった!」


 泣きながら兄の顔を見る。

 ユリウスも普段ではあり得ない様な優しい表情を見せる。


 感動の再開に水を差さない様、エリナは彼に一声かけると部屋を後にした。


 二人だけになると、本人も気づかないうちに涙が零れ落ちる。

 兄妹揃って見っともなく泣き合った。

 そして落ち着きを取り戻すと、互いに見つめ合ってから笑う。


「よかった。無事に転生が成功してくれて。また合えて嬉しいぞ妹よ」

「わたしも! わたしもお兄ちゃんにまた会えるなんて思っても見なかった」


 喜びを分かち合い、生きていることを確かめるように強く抱きしめ合う。

 しかし、急な再会に何を話せばいいのかわからず、沈黙が場を支配する。


 そんな中、最初に切り出したのはアリスだった。

 真剣な顔でユリウスに問う。


「わたしが死んでから何があったの?」

「それは――」


 説明を始めようとしたところに、エリナが戻って来た。

 抱き合う二人の姿を見て、子供を見るように愛らしく笑う。


「ふふ」

「何だよ」

「別にー」


 不服そうな顔をする傍ら、エリナは珍しい物が見れたと喜んでいた。


「……ごめんね。何か話そうとしてたとこだったよね?」

「いや、別に大丈夫だ。いずれマスターにも話そうと思ってたことだしな」

「そうなの?」

「ああ」


 ユリウスはアリスを持ち上げ、膝の上に座らせる。

 

「お兄ちゃん、いつでもいいよ」

「わかった」


 そしてユリウスの昔話が始まった。

 アリスが死んでから、今に至るまでの全てを話す。

 千年と数百年の物語を。

 全てを語り終える頃には、夜も更けていた。


「――ってことがあって今に至るというわけだ」

「わたしが死んだ後にそんなことがあったなんて……。それにあれから一万年以上経ってるなんて考えもしなかった」


 アリスは平然と話しているが、スケールの大きさについて行けないエリナは半ば放心状態だ。


「神様を殺したなんて信じられない」


 うわごとの様に呟く。


「アリサ、お前を殺したのは誰なんだ? ずっと気になってたんだ。七賢者たるお前を殺せる奴なんて俺を含めた六人を除いて存在するはずがない。それこそ神や古龍でもない限りな」

「わたしを殺したのは聖剣を持ってる新人類。名前はたしか……レイヴと呼ばれてた覚えがある」


全ての辻褄が繋がった気がした。

アリサを殺し得る可能性があるとしたら、神が作り新人類が鍛えた聖剣しかないのだから。


「だが、その頃のアイツはそこまで強くなかったはずだ」

「大して強くなかったのはよく覚えてる。でも殺したと油断してた所を両断されたみたい。首を跳ねて確実にとどめを刺してたはずなのに……。そしてそれだけに留まらずわたしは体を再生出来なくなってた」

「聖剣の権能か」

「多分ね」


 そう話すアリスからはどこか悔しがっている雰囲気を感じられた。


「悔しいのか?」

「うん。あんなやられ方したら誰だって悔しいよ」


 苦虫を嚙み潰したような表情で当時の事を、事細かに思い出す。

 そんな様子の彼女に掛ける言葉が見つからない。

 だが、アリスは気を遣いすぐに微笑を浮かべる。


「師匠なら、『あれでやられるなんて未熟だ!!』って言いそうだね」

「あー確かにな。あの悪魔なら言いかねない」


 二人で顔を見合わせると、笑い合う。

 仲の良い二人を優しい眼差しで見守っていたエリナが口を開く。


「魔王様の呼び方的にアリスちゃんって本当の名前じゃないの?」

「うーん。どうだろう? この名前は今世の名前だから本当の名前ではあるのかな? でもやっぱり、前世の名前の方がしっくりくる。と、言うわけで改めて自己紹介するね。わたしの名前はアリサ・アルバートよろしくね」


 手を叩くと可愛らしい笑みを浮かべながら自己紹介を行う。


「ってことはアリ……ス? ちゃんが転生魔法の開発者ってこと?」

「アリサでいいよ。……そうだよ! まだ未完成だけどね」

「未完成?」


 エリナは不思議そうに首を傾げ、ユリウスに視線を移す。

 溜め息を吐き、口を開く。


「言ったろ。作ったのはこいつだから、詳しいことは俺にもわからんってさ」

「そういえばそんなこと言ってたっけ」


 初めて出会った頃の時を思い出し、納得の色を浮かべながら頷く。

 

「でも流石お兄ちゃんだよね。土壇場で転生魔法を成功させるなんて!」

「だろ! と、言いたいところだが、これに関しては運が良かっただけだ。結果的には成功したが当時の俺には成功か失敗かなんて実際わからねーわけだし」

「それでも成功させるのがわたしの自慢のお兄ちゃんなんだから!!」


 兄に向ける絶対的な信頼は凄まじい。

 エリナもちょっと引くほどである。


(これがアリ……サちゃんの本当の姿なのかな。学院じゃ凛とした感じだったのに)


 ギャップに驚きながらも、エリナは一番聞きたかったことを切り出す。


「そういえば偶に会話に出て来る七賢者(セブンクラウンズ)って何?」

「それは――」


 ユリウスの言葉を遮り、アリサが話始めた。


「――魔法を極めた人に贈られる称号みたいなものかな。賢者の称号を持つ人が七人いるからそう呼ばれてるだけ。人によって魔道の王と言う意味で魔道王とか、略して魔王と呼ぶ人もいるし、二つ名をつける人もいた」

「魔法を極める?」

「そう。魔法概念を極めること、つまり火属性なら誰にも負けない! みたいな感じかな。もっとわかりやすく言うなら、神域魔法を会得すること」

「神域魔法!? でもそれって人間は使えないんじゃ?」


 当然の疑問に首を傾げていると、アリサに変わりユリウスが説明を行う。


「ああ、普通はたしかに使えない。だが不可能を可能にしたからこそ、魔道の王なんて呼ばれ方をするんだ。歴史に名を残す偉人もそうだろ。普通は出来ないと思われてたことをやってのけたから偉人として後世に語り継がれる。これと同じだ」

「じゃあセブンクラウンズの人は神域魔法をたくさん使えるんだ」

「いや、いくら七賢者でもそれは無理だ。神域魔法は一人一つまでしか使えない。正確には人の身でそれ以上の量を覚えることは出来ない。七賢者全員で様々な実験を繰り返した結果、そう結論ずけた。所詮は人の身に余るものってことだ」


 エリナはそこまでの話を聞きあることに気がつき、驚きの声を上げる。


「もしかして二人はそのセブンクラウンズなの!?」

「元な」

「??」


 不思議そうに首を傾げるエリナに対し、今度はアリスが口を開く。


「転生の影響で神域魔法を行使出来るだけの魔力が残ってないから、もうわたしたちは賢者じゃないってこと。魔法陣自体は覚えてるから魔力を取り戻せば話は変わるけどね~」


 軽い口調で話す。

 しかし、その言葉には悔しさが籠っていた。

 自身の油断が招いた結果への悔しさだ。

 そんなアリサの頭をユリウスは優しく撫でる。


「悔やむなよ。また二人で高みを目指せばいいだけの話だ。幸いな事に、俺たちは高みへの道筋を知ってるだろ」

「そうだね。あの時の失態はいつか役に立つ!!」

 

 元気で明るい微笑をして見せた。

 後悔はある。

 でも、得られた経験の方が大きい。

 だからこそ、再び最強を目指そうと彼女は心の中で誓った。


 それから少しの間沈黙が部屋を支配した。

 そしてそれを破ったのはエリナだった。


「二人の神域魔法について、聞いてもいいかな?」

「いいよ。でも効果や能力は教えられない」

「え?」


 不思議そうにしているエリナに対し、答えは直ぐに返って来た。


「悪いな。これは俺たちの切り札だから効果は教えられないんだ。もちろん他の賢者の魔法もな。知っていても他言しない。そういう取り決めをしてるからな。ま、あいつらが生きてる保証なんかないけど」


 苦笑しながら話す。


「まあ、少しだけ概要を話すなら、俺の魔法は超広範囲を破壊する魔法だ」

「破壊?」

「ああ、森羅万象その全てを等しく破壊する魔法だ。これ以上は言えないな」

「とは言っても、お兄ちゃんの魔法はそれだけが効果みたいなもんだけどね」

「どういう事?」

「おーっとアリサ、それ以上はダメだぞ」


 ユリウスはアリサの口に人差し指を当てる。

 しかし、それを無視するかの様に一言付け加えた。


「魔法本来の効果が発動する頃には破壊の力に耐えきれず、わたし達も含め皆消滅しちゃうから。とは言っても神は例外だよ。あれは次元が違う」

「セブンクラウンズの人たちも消滅しちゃうの!?」


 驚く彼女とは裏腹に、エリナは当たり前だと言わんばかりに胸を張る。


「お兄ちゃんは賢者(クラウンズ)の中で最強の火力を誇るからね。とは言え、賢者(わたし達)なら頑張れば耐えれる可能性はある……と思う。賢者(クラウンズ)同士の戦闘に神域魔法の全力展開はやったことが無いからあくまで可能性だけどね」


 それだけを語ると後の問いには一切答えることはなかった。


「じゃあこれが最後の質問。二人の二つ名ってどういうものなの? それと極めた属性って何?」

 

 好奇心からか彼女の目は輝いている。

 ユリウスについては何となくの想像がついていた。

 

「わたしは煉獄の魔女って呼ばれてたよ。煉獄の魔女カース=マグナってさ。そして極めた属性は火属性。だから火属性の神域魔法を習得してる」

「かっこいい二つ名だね! ってことは魔王様も!」


 予想通りの答えが返ってくると知っていながらも、少しワクワクしていた。


「俺は――」

「お兄ちゃんは脳筋賢者が二つ名だったよね」

「おーいアリサ! それは昔の二つ名だぞ。てかそれが二つ名として認められてたことに驚愕を隠せないのだが!?」

「え……?」


 アリサから語られた予想外の二つ名に驚愕していた。

 そして不思議そうにしているエリナに対して、その所以を話す。


「お兄ちゃんは計略や戦術とかそういうのを、火力だけで押し切って台無しにしてたから。気づけば不名誉な二つ名がついてたんだよ」


 苦笑いを浮かべながら話していた。


「あー」

 

 エリナはどこか納得したような表情をしていた。

 それを訂正すべくユリウスが口を開く。


「アリサよ。聞いて驚け! 今の二つ名は殲滅の魔王だ! 不名誉な二つ名はとうの昔に無くなっている。ある意味新人類には感謝だな」


 その言葉を聞きアリサは感極まる程、喜んでいた。

 そしてエリナもやっと予想通りの二つ名を聞けてどこか安堵していた。


「そういえば魔王様の極めた属性って?」

「言われてみれば言ってなかったな。俺は魔法の火力を極めた。だから会得した神域魔法もさっき言ったように超広範囲を破壊するものだ」

「属性じゃないの?」

「言ったろ。賢者は魔法概念を極めた者の事だって。つまり、属性特化じゃなくても、俺みたいに魔法の別の部分を極めても神域魔法を会得すれば賢者と呼ばれるんだ。……とは言え火力を追求した結果、闇属性を極めたとも言えなくはないのか?」


 自分で言ったことに対し、首を傾げていた。


「意外と基準がガバガバなんだね」

「仕方ないよ。賢者はわたし達しか居ないから、基準となる物がほとんどないんだよ」

 

 そして話が終わる頃には月が傾き始めており、今日は解散になるのだった。

いつも読んで下さり有難うございます。

『面白い』や『よかった』と思っていただけたら評価やブックマーク、感想等をしていただけると嬉しいです。


これからもよろしくお願いします。

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