第1話 召喚者
二冊の本を抱えらながら、学園の廊下を走っている金髪の少女がいた。
少女は何かを楽しみにしながら、帰路を急ぐ。
だが、そんな少女の前に三人の少年が立ち塞がる。
「おい無能! 何をそんなに急いでるんだ?」
少女が足を止めた瞬間、少年達のリーダーらしき人物が悪い微笑を浮かべる。
「水よ我が元に集え! ウォーターボール!!」
その人物の詠唱と同時に、取り巻きの二人も同じ詠唱を始める。
少女は詠唱が終わる前に本を魔法障壁で守り、庇う様に少年達に背を向けた。
放たれた水球には殺傷能力はなく、嫌がらせ程度の威力だった。
しかし本を持った少女を苛めるのにはちょうど良い加減である。
「ろくに魔法も使えず、こんなちんけな魔法さえも防げない奴に、魔導書なんて似合わねーよ!」
リーダーらしき少年は少女が持っていた二冊の本の内、どう見ても年季が入っており、かなり古い時代に作られたのがわかる希少な本に手を伸ばす。
「ダ、ダメ! 触らないで!!」
少女はリーダーらしき少年の手を払いのけ、力ずよく本を抱く。
その態度が面白くなかったのかリーダーらしき少年は、声を荒げる。
「無能の分際でよくも俺の手を――」
「エリナから離れなさい!!」
リーダーらしき少年とエリナと呼ばれる少女の間に、一人の少女が割って入る。
「またあんた達はエリナを!」
「何が悪い? 身の丈にも合わず、そんな魔導書を持ってるくらいなら、俺が有効に使ってやろうとしたのだぞ」
睨む様にリーダーらしき少年を見つめると、少年は一つ溜息を吐た。
「わかったって。そんな怖い顔で睨むなよ。……ったく、興が覚めた。いくぞお前ら」
その言葉を最後に少年達は去って行く。
少年達が去って行くのを確認すると、エリナは大切な本が無事なのを確かめると安堵の息を漏らす。
「もうエリナ、本ばかりじゃなくて少しは自分の心配もしてよ」
「えへへ、ごめん。でも今はこの本の方が大切だから……」
いつもと変わらないエリナの態度に少女は溜息を吐きつつも、明るく笑う。
「ほら服がびしょびしょでしょ。乾かしてあげるから、立って」
「ありがとう」
少女は魔法の詠唱を始めた。
そして先の一部始終を離れた場所から見守る人物がいた。
その人物は腰に剣を装備し、どこか魔導士っぽい雰囲気がある少女であった。
「いつまでも自分で立ち上げれない者は、弱者のままよ。弱くても立ち上がりなさい。それが強者なんだから」
少女は小さい声で呟いた。
「どうかしたんですか?」
「いや、何でもないよ。行こ」
剣を装備した少女とそれに付き添っていた少女はその場を後にした。
あれからすぐエリナは帰路に着き、実家に帰って行く。
彼女は普段、学園の寮で生活しているが、今日だけは魔法の行使をする為に、魔法実験室がある実家に帰ってきていた。
外に持ち出していた道具を揃えると、エリナは地下にある魔法実験室に向かう。
実験室に着くと、棚から魔法陣を書くための材料と、召喚魔法に必要な道具を取り出す。
一通りの調合などを終えると近くの机の上に先の二冊の本を広げる。
古い本は魔法陣が記載されたページを開き、もう一冊は古い本に記された古代文字を訳したページを開いて並べるように置く。
「よし! 始めようかな」
エリナは特殊な材料で作られた白いチョークの様な物を使い、古い本に記された魔法陣を床に描き始める。
その魔法陣はエリナが当初想定していた物より大きくなり、少し驚愕していた。
約一時間程かけて魔法陣を描き上げた。
そして先程、特別な材料で調合した魔力水を入れた白いポットを手に取る。
魔力水を先に描いた魔法陣に沿って垂らし始めると、魔法陣は魔力水を吸収し淡く光り出した。
魔力水を垂らし終えると、エリナは白いポットを本が置かれた机とは別の机に置く。
「よし! これで完成!!」
魔法陣を描き終えたことに達成感を覚えつつも、すぐに詠唱を始める。
「世界の理を守りし者よ。我が名を以って顕現せよ! 勇者召喚魔法!!」
魔法陣が淡く光り出す。
その光景にエリナは感動と達成感を覚え、目を輝かせていた。
淡い光が神々しい光に変わり、辺りを包み込む。
しかし、それもほんの一時である。
神々しい光は徐々に禍々しき光に変わっていく。
黒き光は次第に強くなっていき、周囲を包み込んだ。
エリナはその光景を目にすると、嫌な予感を覚えた。
背筋に冷や汗を流し、固唾を飲んでその顛末を見守る。
黒き光が収まると、魔法陣の中心に漆黒の装備に身を包んだ男がいた。
だが、男の装備は傷だらけであり、今さっき戦闘を終えたような姿である。
「我が名はアルス=マグナ。貴様が我を召喚したのか?」
その言葉と同時に男が内包していた魔力が解放され、大気を震わせ、周囲にあるガラスなどが割れる。
そしてエリナがいる部屋には、途轍もないほどの死の重圧と殺気が漂うのだった。
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