第22話 序列戦
翌日、ユリウスは初日から遅刻していた。
「やっべ遅刻だ!! ……あ、でも、まいいか。遅刻は確定したんだし、もうひと眠りしてから行くか」
そして昼過ぎに教室に到着した。
昼休みなので、教室にクレアがいないだろうと踏んだユリウスは、何事もないかのように教室に入っていく。
しかし、教室にはちゃっかりとクレアが待ち伏せていた。
「初日から遅刻とはいい度胸だな。ユリウス」
「は、ははは……」
彼女は準備してあった、そこそこの量のプリントをユリウスに手渡す。
「明日のホームルームまでに終わらせて提出しろ。もし提出しなかったら倍の量を追加するから覚悟しとけよ」
「いや、無理だこの量わ!! 流石に半日でどうこうなる量じゃないぞ先生!」
「やっておけ。いいな?」
圧をかけるような強い口調で言い放つと、クレアは教室を後にした。
そしてユリウスは、自身の机に向かって歩いて行き、机の上にプリントを無造作に置く。
「ふぅ。とりあえずこれ、どうするか……」
彼はプリントの山を呆然と見つめていると、背後からよく知る人物が話しかけてくる。
「ユウ君、私は起こしたからね」
「まだ何も言ってないぞマスター」
「どうせ、『何で起こしてくれなかったんだ?』って言うんでしょ」
「何故わかった」
「何となくそんなこと言いそうな人だからだよ」
見透かされていたことに納得いかない様子の彼に、声を掛ける者がいた。
「うちのクラスで初日から遅刻なんて勇気ありますね~」
「たしかお前は……そうそうバイオリンか!」
「ヴェオラです! 人を楽器の名前で呼ばないでください!」
「すまんすまん。……それで、このクラスの担任はやばいのか?」
その問いに二人とも頷いた。
「まあ、これ見れば何も言われなくても納得できる気がする」
「普段はノリと勢いで何とかしてる感じの先生なんですが、変なところで厳しいかったりするんですよね」
「普段はここまでしてない気がするけど……」
「多分、初日から遅刻が一番の原因って感じしますね」
二人もプリントの山を見ながら、話していた。
「ユウ君、コレどうするの?」
「燃やすか」
「絶対殺されますよ!!」
「ははは。流石に冗談だ。一応策はある」
ユリウスは呑気に笑っていた。
すると、昼休みの終わりを告げる鐘が学院中に鳴り響いた。
そして授業が始まるとユリウスは、血眼になってプリント山の処理を始める。
授業で指名されれば、受け答えもしながらプリントの処理をしている彼だったが、次第にめんどくさくなってきたようで、数秘術を発動させた。
このプリントの山が行き着く先の未来を計測し、未来予測を行うとそこには解答が書かれた全てのプリントが演算結果として彼の脳内に映し出される。
未来予測で得た情報をもとに、終わっていない全てのプリントの解答を魔力を使って一瞬で書き記した。
しかし、書き記された言語は古代文字の方であった。
「全部できたぞ先生」
「早かったな」
クレアは確認するようにプリント飛ばし飛ばしで、確認していく。
「おい、読めない言語で書くな!」
「文字指定はされていなかったので」
してやったという顔でユリウスは、彼女を見つめる。
クレアはイラっとしたようだが、深く息を吐く。
「次は認めないからな。ほらさっさと帰れ! 仕事の邪魔だ」
「それ教員が言っていい台詞か?」
「そんなの知るか」
そしてユリウスは帰路に着くのだった。
翌日、実戦授業でダンジョンに潜ることが伝えられ、彼らは仮のパーティーを汲むことになった。
「決まった奴らはここにある紙に、パーティーメンバーを記載して今日は解散だ。各自、明日に向けて装備を整えておくように」
それだけを言い残すと、クレアは教室を去って行く。
そしてパーティーは次々と組まれていき、少なくなっいくメンバーからユリウスは組む相手を探していた。
「マスター組まないか?」
「いいよ。私もそのつもりだったし。……それより、早く決めないとどんどん人がいなくなっちゃうよ」
「と、言われてもな~。入学して二日目だから、誰が何を得意としてるか俺にはさっぱりだし」
そんな会話をしていると、一人の男子生徒が彼らに近づいてくる。
「おい無能。オレも混ぜろ」
男子生徒は鋭い目つきでエリナを捉える。
エリナもそれに怯まず、彼の視線を受け止めた。
「マスターを無能呼ばわりするのはやめてもらおうか」
ユリウスは彼女と男子生徒の間に割って入る。
「無能を無能呼ばわりして何が悪い? ユリポス・アルフラワー」
「ユリウス・アルバートだ!! 変な名前に改変するな。で、お前は?」
「オレの名はアレスだ。よろしく。……お前が無能のおつきになった所で呼び方を改める気はない」
「貴様、俺との実力差をわかっててよく喧嘩腰でいられるな」
するとアレスは不適の笑みを浮かべた。
「オレは自分より強い奴が相手でも臆したりしねー。戦場じゃあ臆した奴が死ぬだけだからな」
「三十六計逃げるに如かずとも言うぞ」
「確かにな。だが毎回撤退できるわけじゃねー。……口論はさておき、入っていいのか悪いのかどっちだ? 無能」
彼はユリウスを突き飛ばすようにどけると、再びエリナに鋭い目を向ける。
そして彼女は首を縦に振る。
「……入っていいよ」
「そうか。明日はよろしく頼むぞ二人とも。オレは前衛を担当する。じゃあな」
そうして、アレスは背中越しに手を振りながらその場を後にした。
「マスター、本当に入れてよかったのか?」
どこか心配そうな眼差しを向けるユリウスに対し、彼女は笑顔を向ける。
「私は別に気にしてない。いつものことだから。それに実力は確かだよ」
「まあ、マスターがそう言うなら止めはしないさ」
そして今やり取りを終えると、先ほどから機を伺っていた二人の女子生徒が彼らの元に歩み寄って来た。
その内の一人はユリウスの知る人物であり、もう一人は猫の獣人の少女だった。
「ワタシたちも混ぜてくださーい」
「俺は構わねーよ」
ユリウスの言葉にエリナも頷いて反応する。
「これで決まりかな?」
「メンバー的に決まりだろうな」
「じゃあワタシ名簿に書いてきますねー」
そう言ってヴィオラは教卓の方へ向かう。
そして彼女が戻ってくると、一行は寮の食堂に場所を移す。
「じゃあ自己紹介したいと思いまーす。改めてワタシはヴィオラ・フォン・シャルロッテ。よろしくねユリウス君」
「ああ、よろしく」
それに続き、獣人の少女が自己紹介を行う。
「わたしはルナ・エルム。よろしく頼むわ」
三人は自己紹介を済ませ、今回の目的であるパーティー構成について話し始める。
「ではでは皆さん、得意なポジション教えて下さい! ちなみにワタシは束縛や支援、回復が得意です」
「俺は前衛でも後衛でもどっちでも行けるぞ」
「私は中衛かな」
エリナに続いてルナが口を開く。
「わたしは召喚魔法がメインだから中衛がやりやすい」
「なるほどなるほど。中衛が二人と前衛が一人になりますね。そうなるとユリウス君はどうします?」
「俺は火力特化の魔法が得意だけど、今回は前衛をやらせてもらおうかな」
彼は後衛と言おうとしたが、釘を刺すようなエリナの視線に気がつき、渋々前衛を選ぶ。
ユリウスの魔法は火力が高すぎる為、ダンジョンの上層部だと魔法の余波で崩落する危険性がある。
彼もそれをわかってはいるようだが、やはり魔法で豪快に魔物を殲滅したいと思っていた。
「わかりました」
そう言うとヴィオラは、メモ帳に各自の担当ポジションを書き込んでいく。
そんな様子を見ているとユリウスがルナに対して、召喚魔法について尋ねる。
「ふと思ったんだが、ルナの召喚魔法ってどんな物なんだ?」
「わたしの? そうだね。皆には一度見せておくわ」
そう言うと彼女は腰のポーチから召喚石を取り出す。
そして取り出した召喚石を地面に叩きつけ、犬型の召喚獣を召喚した。
「ほーそんなことが出来るのか」
ユリウスは関心の目を向ける。
「ところでそれはなんだ?」
「これは召喚石って言って、簡単に言うと契約を結んだ召喚獣を呼び出す物」
「なるほど。俺の知る召喚術師とはやり方が違うんだな~」
彼の言葉に対し、ルナは首を傾げた。
「そうなの? わたしはこれ以外の召喚術師の戦い方は知らないわ」
「俺が知ってるのは召喚魔法で、直接召喚獣を使役する戦い方だな」
両者の違いに、ヴィオラが目を輝かせる。
そしてある提案を出す。
「それならお二人で召喚魔法限定で戦ってみませんか? もし戦うならせっかくですし、序列戦をしてみてはいかがでしょう? これならユリウスさんの強力な攻撃魔法も封印できますし!」
「いいわねそれ。わたしはヴィオラの意見に賛成」
「ルナに同じく」
「では場所を変えましょう!」
ヴィオラの提案に一行は頷き、食堂をあとにする。
そして闘技場までの道中、エリナが念を押すようにユリウスを説得していた。
「ユウ君、何度も言うけど絶対本気を出さないでね。しっかり手加減してよ」
「わかってる」
彼はヴィオラとルナに向かって、魔法の確認を行う。
「俺は高位の召喚魔法しか使えないが、それでもやるんだな?」
「当たり前でしょ。そんな脅しで引き下がるわたしじゃないわ」
「ルナさんもそう言ってるので、わたしは大丈夫ですよ」
確認が終わる頃、一行は闘技場に到着した。
ユリウスも二人の言質を取ったことで、使う魔法の吟味を始めていた。
たくさんある召喚魔法の中で選んだのは、まだ弱い方の分類に入る魔法を使うことにしたようだ。
そしてルナとユリウスは互いに一定の距離を開けて、向かい合っている。
「そういえば序列戦のルールってなんだ?」
「ユリウスさん昨日入学したばかりだから、当然知りませんよね。……じゃあ簡単に説明しますね」
「頼む」
「ではでは、序列戦のルール説明をします。ルールはいたって簡単です。胸元にある校章を破壊するか、校章が展開する魔力障壁を先に破壊した方が勝ちです。魔力障壁に関しては、魔法でないと壊せないので注意してください。そして最後に、相手が負けを認めた場合も勝ちになります」
「了解だ」
説明が終わるとルナがある提案をする。
「召喚獣だけってルールなら、互いに初手で出した召喚獣が先に全滅した方が負けってルールにしない? そうしないと勝負にならないし」
その言葉にヴィオラはユリウスに視線を向ける。
彼もその意図を察し、頷いて同意した。
そして追加ルールが増えた所で、序列戦が始める。
「我ルナ・エルムは、汝ユリウスに序列戦を申し込む」
その言葉に呼応し、校章が淡く光り出す。
「我、ユリウス・アルバートは、汝の挑戦を承諾する」
ユリウスが序列戦を了承したことで、彼ら二人の校章が赤く変色し、序列戦が開始される。
「本気で行くわよ!」
「かかってこい」
ユリウスは挑発するような口調と仕草を取る。
挑発に乗るように、彼女は自身が召喚できる召喚獣の中でも、飛び切りの物を限界数まで召喚する。
「来なさい! ガルム! ハウンド! マルティス!!」
召喚石を地面に叩きつけると、黒狼と狼、そしてカマキリの様な三体の召喚獣が現れる。
「そっちの番よ」
「言われなくても。――召喚・ドラゴンゾンビ」
紫色の大型の魔法陣から姿を現したのは、腐敗したドラゴンであった。
ドラゴンゾンビの肉は腐敗しているせいでドロリと溶けており、腐肉をボトボトと地面に落としながら魔法陣を抜けてくる。
肉が溶けているせいで、所々骨が抜き出しになっており、内臓を支えられず腹部から垂れ流して引き摺っていた。
翼に関しては、骨が剥き出しになっている部分が大半を占め、肉が残っているところは少なく、飛ぶことが出来ないだろうと思えるほどだった。
ドラゴンゾンビの頭部は口が裂けている部分もあり、片方の眼球が飛び出て垂れ下がっていた。
そして地面に落ちた腐肉はまるで生きているかのようにドラゴンゾンビの腕に這いより、腕を這って元の場所に戻っていき、凄まじい腐敗臭が周囲を包み込んでいく。
これには召喚した本人も顔を歪ませる始末……。
当然、彼女らも余りの臭さに鼻を抑えていた。
特に猫の獣人であるルナは、鼻が人間よりも効くので、死にそうな顔つきをする。
ユリウスの召喚魔法に内心驚く者もいたが、それよりも臭いが上回り、それを口にする者はいなかった。
(な、何この強烈な腐敗臭は!! う、気持ち悪くなってきた……。早く終わらせないとこっちが死にそうだわ)
「三体ともあれを打倒しなさい!!」
その命令に従って攻撃を仕掛ける召喚獣たちだが、いくら腐敗しているとは言え、相手は元古龍。
ダメージが通っているはずがない。
見た目では有効打を与えてるように見えるが、それはだた勝手に腐肉が落ちているからそう見えているだけ。
そして召喚獣のマルティスは、落ちて来た腐肉が鎌の部分に当たってしまった。
すると、腐肉が当たった部位は見る見るうちに溶けていく。
皮膚、筋肉と溶かしていき、最終的に骨すら残さず溶かしきる。
あまりの痛みに召喚獣は絶叫した。
ドラゴンゾンビの腐肉は強すぎる毒性と腐食の魔力が合わさったことで、並みの生物では耐えられない代物になっている。
それを見たほか他の召喚獣たちは、ドラゴンゾンビから距離を取る。
しかし、ユリウスはそれを許さない。
「殺れ」
その命令に従い、ドラゴンゾンビは内臓を引き摺りながら、その巨体からは信じられない程の速度で移動し、振り上げた爪を振り下ろし、一撃でハウンドを撃破した。
殺されたハウンドは召喚石に戻り、ルナの手に握られている。
腐龍が断末魔や絶叫とも捉えられる程の甲高い咆哮を上げ、大気を揺らす。
そして今にも零れ落ちそうな眼球がマルティアを、視界に移す。
マルティスは俊敏な動きで、腐龍の懐に潜り込み、攻撃を試みる。
しかし、ドラゴンゾンビはその巨体を優雅に動かし、マルティスを踏み潰す。
そして残り一体になった召喚獣も、腐龍の尻尾による薙ぎ払いを直撃し、一撃で沈黙するのだった。
いつも読んで下さり有難うございます。
『面白い』や『よかった』と思っていただけたら評価やブックマーク、感想等をしていただけると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。




