第19話 入学試験
ついに入学の試験の日がやってきた。
途中入学の試験は学院が休みの日に行われる。
その理由は授業が時間を利用して実施すると言う学院の方針だからだ。
しかし、休みだと言っても学院で魔法の練習や勉強を行うため、生徒の出入りは自由なので意外と人がいる。
そして今回エリナも同席することになっていた。
勿論、試験中は教員の隣にいることが条件であった。
それでも、途中入学の試験の内容が気になった為、同席を希望したようだが、それ以外にも理由があり、それはアルス=マグナが王都について知らないため、道案内などの理由も含まれているのだ。
「魔王様! ついにこの日が来たね」
「そうだな。……後、学院ではアルス=マグナじゃなくて、ユリウス・アルバートだからな」
「もちろんわかってるよ。でも何で召喚当初に本名教えてくれなかったの?」
「そりゃ……まあ色々あるが一番の理由は魔王としての俺と、冒険者つまり本来の俺とで分けてたからだな。ほら、勇者召喚で呼び出したんだから魔王としての俺を呼んだと思ってたからな」
「なるほどね……ほら、ユウ君。学院に着いたよ」
学院は城砦を彷彿とさせる壁で周囲を覆われており、正門はそこそこ大きな門がどっしりと何かを待ち構えるかのように設置されている。
学院が壁で覆われている理由は、魔法の訓練をしているのだから、万が一があったとしても街に被害が出るのを防ぐためである。
それ以外にも学院の下のダンジョンから魔物が脱走した際に、街に侵入するのを防ぐ役割も持っていおり、非常時にはシェルターとしても学院は使われることがある。
そんな理由から、このように強固なつくりになっているのだ。
そんな学院に、流石のユリウスも圧巻の余り言葉を失っていた。
かつての時代も似たようなものだったようだが、この時代でも同じ設計になっているのを驚いている部分もあったのだろう。
そして中に入ると、少女の様な見た目の教員に試験を行う教室まで二人とも案内された。
指定した席に着くと、少ししてから先ほどの教員に声を掛けられる。
「ワタシは今回の試験の監督をするゾーイ・リ・ミッシェルだよ。よろしく」
「ああ、ユリウス・アルバートだ。今日はよろしく頼む」
「早速だけど、はいこれ。問題用紙と中に解答用紙が入ってるから確認してね」
「了解だ」
両方の確認を終えると、ユリウスはゾーイに目配せする。
「試験時間は今から一時間半だよ。それでは始め!」
合図とともに試験を開始する。
それと同時に、机の右上にある魔道具にタイマーが表示された。
エリナは、ゾーイと共に今回の試験問題を見ていた。
「ゾーイ先生、この問題、入学の時と比べると難しくありませんか?」
「そりゃあ、途中入学なんて中途半端な物を認めるからには、それにふさわしい実力がないといけないからっていう、理事長の方針だからね」
「大変なんですね」
そう言って再びエリナは、試験問題に視線を移す。
(魔王様なら簡単かも知れないけど、やっぱちゃんと読めてるか心配……)
しかし、そんな彼女の心配も杞憂に終わる。
(この時代の魔法学は予想以上に衰えているみたいだな……。いや、学生相手の問題だから優しくなってるのか?)
びっしりと書かれた問題と魔法陣についての問題を難なく解いていく。
そして読みに少し手こずりつつも、三十分残して試験を終わらせた。
「お疲れ様」
そう言いながらゾーイは、問題用紙と解答用紙を回収する。
「この後は実技試験だから、三十分休憩して試験会場に向かってね。場所はエリナちゃんに伝えてあるから、彼女に案内してもらって。ワタシはこれを置いてから合流するから」
「わかった」
それを伝えると彼女は教室を後にする。
「マスター、案内頼む」
「休憩しなくてもいいの?」
「これくらい疲れるうちには入らないから大丈夫だ……多分」
その言葉にエリナは苦笑いを受けべつつも、二人は次の試験会場に移動する。
道中、彼女は先ほどから気になっていた試験の出来栄えを訪ねる。
「ユウ君、試験どうだった?」
「フッ! 余裕だ……った……」
ユリウスは先の試験を思い出しながら、余裕気に話すがその表情が険しくなっていく。
「??」
その様子をエリナは不思議そうに見つめる。
「あ、やっちまった……」
「どうかしたの?」
「つい癖でテストの半分以上を、俺の時代の文字で書いちまった」
互いに目が点になり、その後彼の表情は絶望に変わっていった。
それから次の試験会場まで、沈黙が続く。
そして試験会場に着くと、エリナが沈黙を破った。
「多分大丈夫だよ! 試験は実技もあるから、そっちで挽回すればまだ間に合うと思うよ!」
「そうだな! 前向きに行こう!」
それから三十分するとゾーイが合流し、試験監督を始める。
闘技場の様な場所の上にはユリウスと、がたいのいい男の教員が立っていた。
そしてその後方に、もう一人男の教員が彼らの試合を眺めていた。
「試験内容は得意の近接武器での近接戦です。ユリウス君は魔法科希望なので、この試験での敗北は減点対象にはならないので安心して戦ってください。それでは両者構え――」
その言葉と同時に互いに木剣を抜く。
ユリウスは念のため貸し出された木剣を二本装備していたが、今は一本だけ抜剣していた。
(師匠に教わった剣技を使うから加減しないと、いくら木剣でも殺しちゃいそうだな……。てかこの剣、全力出さなくても折れるような……)
ユリウスは色々心配事があるようだが、それを知らないゾーイは『始め!!』と開始の合図を出す。
「ユリウスと言ったか? 先手はくれてやるよ」
がたいのいい教師が煽るように、言い放つと彼も挑発に乗って、手加減をして攻撃を行う。
「一閃!」
その剣技は横一文字に斬り裂くだけだった。
しかし、手加減したにも関わらず、木剣は砕け散ってしまう。
そして、がたいの良い教員は木剣ごと、横に両断されてしまった。
仮にも元魔王であった彼の一撃は、手加減されていても容易く相手を屠るだけの力があった。
だが、弱体化した体では精錬された剣技の反動に耐え切れなかったようで、剣を振った腕の骨が砕け、かなりの量の酷い裂傷と同時に大量の血が零れ落ちる。
がたいのいい教員も上半身と下半身から大量の血を吹き出しながら倒れ、その衝撃で内臓が零れる。
その光景に辺りは騒然なり、後ろで見ていた教員が医者を呼びに医務室に掛けていく。
エリナは初めて見た大量の血と内臓に、吐き気が抑えられず、吐き出してしまう。
そしてゾーイは慌てて闘技場に降りようとしているのがわかる。
そんな中ユリウスは慌ててはいたが剣を、納めるとがたいの良い教員だった物の所に歩いて行く。
その道中、彼の傷口からは闇が溢れ出し、傷を修復していた。
「やっぱり、剣技は使わない方がよかったか……。てか、反動でかすぎ!」
呑気にそんなことを言っていると、がたいの良い教員だった物のとこに到着する。
「死んでから大体数秒か……これなら問題なさそうだ。……蘇生魔法」
魔法を発動させると死体の上に神々しい魔法陣が出現し、淡い光が死体を包み込む。
そして両断された体がくっつき、傷が完治すると教員は息を吹き返すが、まだ気絶したまま目を覚ましていない。
「この程度の魔法で、魔力消費量は大体九割ってとこか。力が戻るまではポンポン使えないな」
エリナは信じられない物を見るように、目を見開いていた。
例にならい、蘇生魔法も伝説上の魔法と化しているのだから当然と言える。
そして事後処理をしている間に、ユリウスはエリナと合流をした。
「ユウ君今の魔法って――」
「蘇生魔法だ。とは言っても成功率百パーセントじゃないけどな」
ユリウスが言葉を遮るように、その先の言葉を言い放つ。
「それでも人を生き返らせることが出来るんだからすごいよ! でも生き返らせるとしても人殺しは絶対にダメ!!」
「ごもっともな意見だな。……せめて言い訳させてもらうけど、手加減したけど予想以上にこの時代の人間が脆すぎた」
「あれを手加減とは呼ばないよ」
彼女は壁に出来た大きく抉られた傷跡を指さす。
先の剣技はどうやら教員の体を貫通し、後方にあった壁も斬り裂いていたようだ。
「俺は手加減が苦手だから仕方ない」
「うん。何となく察してたよ……」
流石の彼女も呆れ顔である。
だが、彼女は蘇生魔法について聞きたくてうずうずしていた。
その眼差しに気がつくと、彼はフッと小さく笑ってから要望を叶えることにした。
「さっきの魔法の名前は蘇生魔法リグルドだ。完全蘇生魔法と違って、破損部位によって蘇生成功時間が変わってくる。例えば頭部粉砕なら十秒、切断なら三十秒って感じだ。この時間を蘇生可能時間ってまんま呼ばれてる。これを過ぎれば過ぎる程、成功確率は下がる。だから完全とは呼ばれていない」
「なら完全な蘇生魔法はどうなの?」
「完全蘇生魔法はそんな縛りは存在しない。死体の一部さえあれば肉体を復元して蘇生できるけど、並の人間が行使すると、足りない分の消費魔力を補うために体が魔力に変換されて死ぬ。よくて灰になるくらいだな。とは言え、この魔法は恐らくまだ上の序列があると俺は思ってる」
「なんで?」
「そりゃあ死体が残ってなくても蘇生できるような魔法があっても不思議じゃないだろ」
「そうかな? 完全蘇生だけでもすごいと思うけど……」
「まあ、そこは生きた時代が違うからそう感じるだけだろうな。俺の時代を体験すればきっとわかるはずだ」
彼の表情はどこか寂しげであり、切なそうな顔をしながら言うのだった。
それからしばらくが経ち、やっと次の試験に移ることになった。
次の試験に移るまでは、色々面倒なやり取りをしていていたのだ。
例えば、先の蘇生魔法についての解説を駆け付けた教師陣にして、がたいの良い教員はもう大丈夫だと伝えて安心させるなどである。
そしてやっと魔法の実技試験が始まる。
「ユウ君、ちゃんと手加減してね」
「善処する……」
二人は小声でやり取りし、ユリウスは試験会場に入る。
エリナと採点係のゾーイは少し離れた所で、彼を見届ける。
「先生! これ絶対に壊れないんだよな?」
「大丈夫だと思いますが、手加減はしてくださいね!」
彼は軽快に頷いて返事をする。
「さーてと、何を使おうかな。流石に戦略級はまずいから第八位階前後かな」
ユリウスは、試験開始前に消耗した魔力を回復させるため、魔力回復ポーションを飲んでいたため、様々な魔法が使える程度には魔力が回復している状態である。
そのため少しの間、使う魔法に悩んでいる様子だった。
しかし、すぐに決めると魔法を発動させる。
「――ゼノ・ブレイズ」
極大の黒き太陽が出現し、ユリウスはそれを的に向かって解き放つ。
黒き太陽は射線上にある悉くを呑み込みながら、目標に向かって直進していく。
そして着弾と同時に爆発し、途轍もない熱量で周辺を融解させる。
試験場の一部は吹き飛び、残っている部分はドロリと溶けている。
周囲の地面もブクブクと沸騰しており、城壁の様な壁は衝撃波で吹き飛んでいた。
的については言うまでもなく、跡形も残っていない。
「あ、壊れた……」
「ユウ君、先生も手加減してって言ってたじゃん」
「これでも手加減しるぞ。神に有効なダメージを与えられない火力まで落としている」
「神様と比べちゃだめだよ。次元が違うから!!」
「そうか? 当時のここみたいな施設は難なく耐えるし、それに壊れないって言ってたからそれを信用したんだけどな……」
「たぶんこの時代の魔法ならって意味だと思う……」
彼らは『あ……』と言うような表情を浮かべていた。
そしてゾーイは溜息を吐き、二人の元に歩いて行く。
「ユリウス君、手加減って言葉知ってる?」
「流石に知ってますよ。現に手加減したから、この街が残ってるんじゃないですか」
「…………」
彼女からの返答は返ってくることはなかった。
(手加減って一体なんだろう?)
エリナはそんな疑問を抱くが、それに答えをくれる者はいない。
流石のユリウスも少しは悪いと思ったのか、少しは直そうという気持ちは持っていたが魔力の大半を消費したせいで、そんな魔法を行使する余裕はないようだった。
そして試験項目のチェックを終えたゾーイから試験終了の旨を知らされ、今日は帰宅するように言われ、彼ら二人は帰路に着く。
「魔王様、そういえば今回の筆記試験ボーナス問題があったね」
「そうだな」
その問題とは、魔法は何位階まで存在するかと言う問題で、これは魔導士志望の学生なら誰でも知っている内容なのだ。
「「答えは」」
「第八位階までだよね」
「第十三位階までだな」
二人同時に応えるが、やはり二人とも別の答えを応える。
「いや、神域魔法を除いて十二位階までが正解だったのか……マスター今何と?」
「魔法って第八位階までじゃないの?」
二人ともえ!? という表情を浮かべる。
「まじか……。ここまで魔法学が後退してたとは……」
「魔王様の時代だとどんな区分だったの?」
「俺の時代だと――」
彼の時代では、魔法序列は全て合わせると第十二位階まで存在した。
そして中でも別格だったのが超越魔法である。
超越魔法とは、第一から第十一位階まである魔法序列の更に上に位置する第十二位階魔法の総称である。
そしてその更に上には神域魔法と呼ばれる第十三位階魔法が存在するが、これは神のみが使用でき、人間ではとある七人を除いき、基本的には使用することが出来ない。
初級魔法や中級魔法などの総称は、この位階を特定の場所で区切った範囲の総称である。
さらにこれらを大まかに区切った三つの分類があり、第一階梯魔法から三つ続く。
そして第一階梯魔法は第十一位階までの魔法の分類に当たり、第二は超越魔法や新しい魔法、未確認の異世界の魔法などが分類され、第三は神域魔法の分類と分けられる。
「――ってな感じだな」
彼の長々とした説明を聞き、エリナは今の時代との差をひしひしと感じていた。
「そ、そんなにあるんだ。じゃあ今の第八位階ってもしかして、本来の位階じゃないってこと?」
「可能性はあるが、実際に見てないから断言は出来ない」
「魔王様でもそんなことがあるんだ」
「俺も万能じゃないってことだ」
「私が魔法を使えるようになったら、高位の魔法を教えて欲しいな」
「それもいいかもな。じゃあご褒美に向けて精進したまえ」
「うん」
こうして今日と言う日が終わりを迎えるのだった。
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