第18話 稽古3
あれから一週間が経った。
そして現在彼らが何をしているのかと言うと……。
アルス=マグナはスライムに追いかけられいてた。
「なんだこの魔物わー」
その言葉に感情は無く、棒読みであった。
そんな彼を見て、エリナは呆れ顔でため息を吐く。
「何をやってるんですか魔王様……」
そしてエリナは容赦なくスライムに魔力球を複数撃ち込み絶命させる。
「この魔物を瞬殺だと!」
そんな事を言いつつも、アルス=マグナは襲いかかってきたスライムを、片手で握り潰す。
「私より魔王様の方が瞬殺してる気が……」
「まあ、それはさておき。魔力球の操作がだいぶ身についてきたみたいだな」
「まだまだだよ。スライム相手でも拡散させないと命中しなかったし……」
「最初は誰しもそんなもんだ。魔力制御と魔力操作を精密に出来るようになればこの通りだ」
アルス=マグナは、いくつかの魔力弾を生成して自在に動かす。
「まずは魔力球を魔力弾に昇華させてみろ。昇華させることが出来れば、魔力制御と操作の二つが身についてる証になるからな」
「だいたいどれくらいで昇華できるの?」
「平均でみると大体一週間弱だけど、マスターの場合は体質の影響があるからもう少しかかる。でも、俺の見込みより二日早くここの段階まで来たから、大したした時間はかからねーと思うぞ」
「なるほど。とりあえず頑張れってことだね」
彼女は張り切りながら、魔力球の生成に取り掛かる。
練習を始めた当初よりも魔力球への魔力供給は安定してきており、展開時間も伸びて来ていたが、彼女はまだ気がついていないようだ。
そして彼も魔力量を少しでも増やす為に、木に向かって木剣を打ち込みながら魔力だけを常時消費してさせていた。
さらに数秘術で、自身の周りの酸素濃度を低下させてることで、稽古の質も向上を図る。
「魔王様、今よりも早く魔力量や回路の質を上げる方法って無いの?」
「あるにはあるが、まだ今のマスターには早いから教えてないだけだ。……知りたいか?」
「うん!」
「まあそう来るよな。……手っ取り早く上げる方法は、魔物を殺すことだ。正確には魔力を持つ生き物を殺すって言った方がいいかな。強ければ強いほど成長率も当然高くなるが、その逆に自身より弱ければ弱いほど成長率は悪くなる」
「じゃあスライムをたくさん倒せば手っ取り早いってことだね」
「流石にスライムだと意味なからな」
「あはは。だよね……」
しかし、最高効率とまではいかないが、一つだけ成長率にあまり左右されずに安定して稼げる方法が存在する。
「でも、一つだけ今のマスターでも効率よく魔力回路とかを向上させる手段があるぞ」
「ほんと!?」
だが、彼女の喜びはぬか喜びで終わる事になる。
「ああ。やり方は簡単だ。人間をたくさん殺せばいいだけだからな」
「え……」
エリナは一瞬遅れて言葉の意味を理解し、戸惑いを隠せなかった。
「……人殺しはよくないよ! 絶対にダメ!!」
「ははは。良識人の答えだな。でもこれは本当の事なんだ。俺も詳しくは知らないが、何故か同種の存在を殺すことが成長への一番の近道なんだ。やっぱりマスターは嫌がるよな」
「当たり前だよ! 人を殺してまで強くなりたいとは思わないもん」
至極真っ当な意見である。
そしてこの意見はアルス=マグナも理解している。
だからこそ、この世界の仕組みを極々一部だが知っており、なおかつ神と言う存在を知っている彼から見ると、この世界は人間が争う様に作られているように思えて仕方がないようだ。
「それなら、今みたいにコツコツとやるしかない」
「そうだね。でも、私が魔物を倒せるようになったら倒し方を教えてね!」
「ああ、もちろん」
こうして地獄の様な昼の部は、終わりに向かって進んで行くのだった。
それからしばらくが経ち、夜の部が始まった。
夜の部はいつも通り、アルス=マグナが読み書きの勉強を行っており、エリナも魔法について書かれた教科書などを読んだりと、魔法の勉強を行うことがある。
そして彼は二日後に迫った入学試験に向けて最終調整を行っている最中である。
エリナから渡された問題を解き、一週間の復習を行っている。
「クッ! 頭が痛い……」
「魔王様、勉強嫌いなんだね」
「当たり前だ! 勉強好きな奴なんてこの世界にはいない!!」
「あ、断言した」
苦笑いを浮かべ、エリナはとある疑問を口にする。
「軍を動かす時、作戦とか考えなかったの?」
「あまり考えなかったな。俺は単騎で敵を殲滅してたから、その辺は全部、頭を使うのが好きな奴に任せてた」
「あはは……予想通り」
「一応言っとくが、たまに軍の指揮を執ってたことくらいはあるからな」
念を押すように言い返すが、エリナの中での彼への評価は変わることはなかった。
そんなエリナだが、新しい文字を一週間で読み書き出来るようになったアルス=マグナを、素直にすごいと思っているのも事実である。
しかし、彼が文字を短期間で取得したのにも絡繰りがあった。
「まさか、昔作った魔法がここで役立つとは……」
と呟く。
「魔法?」
「聞こえてたのか?」
「うん。どんな魔法を使ってたの?」
「……まあいいか。別に知られて困るもんじゃないし、教えてやるよ。今俺が使ってる魔法に名前はない。ただ、覚えたいものを脳に刻み込んで強制的かつ長期間もしくは永続的に何かを覚える魔法だ」
「そんな魔法まで存在するんだ」
関心の眼差しを向けてくるエリナに対して、少々罪悪感を覚えながらも彼はそれを否定した。
「いや俺が初めて作ったオリジナルの魔法だから厳密には存在しないと言う方が正しい。それにこの魔法は欠陥しかないからテスト前とかしか使えない」
「作れるだけすごいと思う。それに聞いた限りじゃ欠陥なんて無いように感じる」
「ほんと欠陥だらけだぞこれは。いくつかあるけど、わかりやすいのを言うと、まず一つ目が発動中は強い頭痛を伴うこと、そして二つ目は魔力消費量がエグイことだ。さらに付け加えるなら、魔法を切ってもしばらく頭痛が続くとかだな」
「そんなデメリットがあっても使うあたり、魔王様らしいね」
ある意味で彼女は彼の事を関心した。
そしてこの魔法が欠陥だらけなのは、初めて作ったことは当然としてもう一つ原因がある。
それは次のテスト等に向け、今回やった内容を忘れない様にするため、記憶期間を増加させる効果を無理矢理追加したからだ。
それでもなお代償を放置して、勉強から逃げる為に強くなった後ですら行使するあたり、実に彼らしい。
それからしばらくして復習を終えると、エリナに頼まれていた魔法に関する講座を始める。
内容は――
「今回は魔力保護について説明するぞ」
との事。
当然、彼女は首を傾げた。
これもかつては当たり前のように知られていたことだが、この時代に置いては忘れ去られている。
そして説明が始まる。
「魔力保護とは強化魔法による体への負荷を無効化する現象の総称だ。例えば武技で筋力を強制的強化して攻撃力を上昇させ続けるとどうなるかわかるか?」
「わかるよ。確か、限度にもよるけど体の許容範囲を超えると効果が切れた後、もしくは使用中に反動が来て動けなくなったり、体が壊れたりすることだよね?」
「ああ、その通りだ。じゃあ限度を超える武技による強化をすると反動が来るのに対し、限度を超える強化をしても魔法の場合、何故反動が来ないと思う?」
「魔力保護ってやつのおかげ?」
「そういう事だ。魔法に関しての強化は反動が生まれたとしても、魔力消費無しで魔力が相殺してくれる。だけど例外として、超越魔法による強化は効果が強すぎて、相殺が出来ず、軽減もしくは激減の範囲で収まってしまう」
「だから魔法の強化って重宝されるんだね。でも、そんな事学校じゃあ説明されないよ」
「まだ教わってない可能性があるが、恐らくこの時代にはこの知識が残っていないと俺は考えてる」
「たしかに、その可能性は高そうだね。……そういえばデメリットとかはないの?」
「もちろんある。魔力保護は反動を相殺する分、武技の強化より倍率が低くなる。例えば、武技を無理矢理魔法にしたものがあったとする。その魔法と元になった武技を発動させると強化倍率は同じだけど、魔法は魔力保護の為、武技より実際に強化されてる倍率は下がってたりする」
「それだけ?」
「ああ、それだけ」
エリナはもう少し代償があると考えていたようだが、実際は自然現象のため、人工的に行われることよりも代償は少ない。
そして夜の部は終わりを迎えるのだった
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