第16話 元魔王、勉強する
昼の部の訓練を終えると二人は実験室に戻ってきていた。
もちろん転移魔法で移動している。
そしてエリナは夕食を済ませ、戻ってきた。
だが昼の部でいつもは使わない量の魔力を使ったせいで、ヘトヘトのようだ。
「そういえば魔王様、ご飯どうしてるの?」
「ん? 魔力を栄養源に変換しるから特に何も食ってないぞ」
「そんなこと出来るの!? ってことは飲まず食わずでも死なないってこと?」
「いや、流石に死ぬときは死ぬ。この方法は普通は使わないし、限度もある」
「だ、だよね。……ごめんなさい。これからなんか用意するよ」
反省しているようだが、やはり好奇心には勝てず、ついその事について聞いてしまう。
「……昔の人ってすごいんだね!! そんな方法があれば遭難しても生き残る確率が上がるわけだし」
「確かにそうだが、遭難場所が迷宮なら話は別だ。いつ襲われるかもわからん場所で、魔力を無駄に消費すれば、逆に生存率が低くなるから基本は使わない」
「言われてみれば確かに」
彼女は納得と言わんばかりに頷く。
ちなみにこの方法での平均生存日数は二か月である。
個人差はあるものの、大体それくらいで体に異常をきたし死に至る。
最初に発見したのはとある研究者であった。
このやり方を編み出し、いつ限界が来るのか調べていたことで、生存日数を判明させたのがこの研究者の初めての快挙でだったが、この研究者は実験を行った際に死んでいる。
理由は簡単である。
研究者は映像記録用の魔道具で記録を常に取り続け、いつまで生きていられるか試したからだ。
死因は肉体の魔力的疲労であった。
そして少しの沈黙が訪れるが、すぐにそれは消え去る。
「……さて、夜の部始めるぞ」
夜の部が始まった。
アルス=マグナは、現代の文字と昔の文字を照らし合わせながら文字を学んでいく。
幸い言語体系が同じの為、文字の取得に長い時間は要さなかった。
とは、言ってもそれは一週間後のお話である。
そしてエリナは彼に現代の文字を教えつつ、古代文字を教えてもらいながら少しづつ理解を深めていく。
それから時間は経ち、夜が更け始めた所で夜の部が終了する。
「あーやっぱ頭使うのは嫌いだわ」
「あはは。でも覚えないと生活できないよ」
「はぁぁ」
そんな彼の言動に苦笑いを浮かべる。
「そういえば昼間に何かやってたみたいだけど、あれって何やってたの?」
エリナは彼が昼間に行っていた事について思い出す。
あの時、遠目で彼女はアルス=マグナの実験を観察していたのだが、魔法陣を使っていなかった為、何をしていたのかずっと疑問を抱いていた。
「ああ、あれは呪言の言霊がちゃんと発動するか調べていた。……とは言ってもわかんねーよな?」
コクコクと頷く彼女を見て、説明を始めた。
「呪言の言霊ってのは文字通り言葉に魔力を載せて、言葉通りの事象を発動させるものだ。昔は簡易魔法とも呼ばれていたらしい」
「え!? じゃあ『消滅しろ』見たいなこと言ったら消えるの?」
「出来るには出来るけど――」
「代償が必要?」
その時点で彼が何を言おうとしているのか彼女は察した。
「ああ、例外はあるがその通りだ。……まず呪言の言霊を使うには呪言の刻印を体に刻み込まないといけない」
「??」
アルス=マグナは服の袖を捲り、自身の腕を見せた。
そして右腕に刻み込んだ呪言の刻印に魔力を込め、浮かび上がらせる。
「これが呪言の刻印だ」
「す、凄いとしか言えない。こんな高度な刻印初めて見た」
「だろうな。この刻印は俺の時代でも割と難しい分類だったからな。……っと話がずれたな。そんでこの刻印を刻んだ分だけ、呪言の言霊は強化される。『消滅しろ』みたいな代物を使うには体中に刻み込まないといけない」
「魔王様がそれをやってないってことは……」
「ああ、お察しの通り。代償がでかすぎるからだ。この刻印は正確には魔力回路に刻み込んでいる。だから腕一本なら支障はないが、もし全ての回路に刻み込んだら呪言の言霊以外の魔法は完全に使えなくなる」
「どういうこと?」
エリナは不思議そうに首を傾ける。
「魔力回路は前にも説明したが魔法を使うための役割もある。だから、これに刻印を刻み込むと回路がズタボロになるんだ。一部だけなら刻印と同化して、新たな回路として確立されるが、全ての回路に刻印すると、もし仮に魔法が使えたとしても回路の品質は上がらなくなる。そして何故、呪言の言霊だけが使えるかと言うと、呪言の刻印が魔力回路の代替物になるからだ。まあ、当たり前だがついでに言っとくと魔法の方が呪言の言霊より強い。それにこれを刻むときは、半端なく痛いと教えておく」
「なるほど。確かにそれなら少し使える程度が便利ね」
エリナにとってはほとんど要らない者であったが、新しい知識が増え嬉しそうにしていた。
「……そういえば話は変わるんだが、マスターって学校に通ってるんだろ? それなの毎回俺といて大丈夫なのか?」
「大分話が変わったね。ってそれよりなんで学院に通ってるの知ってるの? 私、言った覚えないよ」
「俺を召喚した時、制服だったじゃねーか」
「あー。……それに関しては大丈夫だよ。体調不良って事にしてるから。だって学院にいるより、魔王様といる方が勉強になるんだもん」
「優等生だと思ってたから意外だな」
そしてアルス=マグナはある事を閃いた。
「なぁマスター。マスターの通ってる学院? ってのは途中入学出来るのか」
「え!? どうしたの急に……」
この質問に驚くエレナだったが、彼はこの時代に置いての常識や文明レベルを詳しく知っているわけではない。
だからこそ学院に通い、その辺を調べようと考えていた。
一万年間の空白の歴史についても調べ上げる必要あるため、彼にとっては割と重要事項なのだ。
ついでにどんな風に自分が語り継がれているのか興味があったからでもある。
そしてエリナの返答は――
「結論から言うと出来るよ。でも通常入学よりかなり難しい試験があるらしいよ。魔王様の事だから実技は大丈夫だと思うけど筆記が……」
――とのこと。
そして最後言葉を噤んだのは、彼の現在の状況からだ。
この時代について知らないのはまだしも、一番重要な部分である文字が書けないことからだ。
「まあ、安心しろ何とかなる」
そんな状況なのに、彼は呑気に言い切った。
「わかった。書類は用意してあげる。でも何で学院に入学したいの? 魔王様なら冒険者になればお金には困らないと思うけど」
「ああ、それも考えた。だけど普通に考えて、この時代を知らなさすぎるから、それを知る為ってのが目的だ。あと学院のほうが面白うそうだから」
「確かに、魔王様この時代の常識とか知らないもんね」
「そういう事だ」
こうして夜の部が終わり、この日は解散となった。
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