第14話 魔法が使えない原因
日が暮れるまで魔法を撃ち続け、次は夜の部がやってきた。
「さて、他の事をする前にエリナの体を知らるぞ。……よし、服を脱げ」
「え!?」
「冗談だ」
彼女は困惑した表情をしながらも、彼の指示なのでこれは医療行為だと言い聞かせ、脱ぎかけていた。
そんな様子を見て、アルス=マグナは悪い笑みを浮かべていた。
「もー馬鹿!!」
エリナがポカポカと彼を叩く。
そして彼は愉快そうに笑いながら、彼女をなだめる。
「どうどう。……ほら、検査を始めるから少し下がれ」
彼女の納得がいかないと言わんばかりの態度に、アルス=マグナは苦笑いを浮かべる。
そして所定の位置まで下がったのを確認すると透視の魔眼を発動させる。
透視の魔眼とは文字通りの効果である。
魔力の消費量を調節することで透視の範囲を決められる。
少量なら服の下や下着の下を覗け、中程度なら内臓まで見ることができ、もう少し消費量を増やせば壁の裏を見ることが可能。
勿論、消費量をもっと増やせば二枚以上後ろの壁の裏を見ることも可能である。
そんな透視の魔眼を使い、アルス=マグナは彼女の下から上までじっくりと観察する。
彼の視線が気になり、頬を少し赤く染めて、手で大事なところを隠す。
そして魔眼に魔力で作った特殊なフィルターの様な物を付与し、魔力的な物も観察して行く。
勿論、全て丸見えである。
そんな事に役得感を覚えながらも、これは医療行為だと建前を作りながら、しっかりと検査していた。
そしてその結果、彼女自身にも原因があることが判明する。
その原因はとても珍しいものであり、流石のアルス=マグナも少し驚いていた。
「まじか!? ……」
「何か分かった?」
彼は魔眼を解除し、少し間を開けるとその原因を告げる。
「……お前はかなり珍しい体質の持ち主みたいだ」
「珍しい?」
「ああ、そうだ。その体質の名は余剰魔力体質。俺ら旧人類はそう呼称してた」
「余剰……魔力体質?」
彼女は初めて聞く言葉に首を傾ける。
アルス=マグナも何となく彼女の反応は予想しており、すぐ説明に入った。
「……この時代だと、これも知らないのか」
「今初めて聞いた」
「そうか。……とりあえずこの体質はかなり厄介な物なんだ。とにかく初期魔力量が多すぎる」
「でも魔力量が多いことはいい事なんじゃないの?」
「確かに多くて越したことはない。だが、魔力回路が魔力量に対して、品質が低すぎるのが問題なんだ」
「魔力回路?」
この時代では魔力回路についての研究は進んでいない。
その為、一般人はその様な物を通って魔力が体を循環しているなど知るよしもないのだ。
「簡単に言えば魔力の通り道だな。体内にある魔力は魔力回路を通って体中を循環したり、魔法陣に送り込まれ、魔法に変換される。そして回路の品質で魔力運用の効率が大幅に変化する。高品質であればあるほど魔力の消費量は少なくなり、低品質の回路と同等の魔力を消費すれば、火力に差が出て来たりするんだ。そして何より、この品質の状態で運用可能魔力量が決まってくる」
「最初の話を聞いた限りじゃあ、魔力量は関係ない気がするんだけど、どうして運用できる量が変わるの?」
「普通はそうだ。だが余剰魔力体質の場合は話は別なんだ。……基本的に魔力量と回路の品質は一対一の割合で構成される。個人差で二対一またはその逆もある。そして最大で六対一までが許容範囲と言われている。それを超えれば超えるほど、魔力運用に支障をきたすようになる。最悪の場合、魔法が使えなくなったりもする事例が確認されている」
「それってすごくやばいんじゃ……。でもイメージが湧かないな」
「うーん? イメージか……」
アルス=マグナは顎に手を当て考え込んでいたが、昔に聞いた説明を思い出し、ポンと手を叩く。
「思い出した! たしか昔聞いた説明だと、まずストローを魔力回路だと思ってくれ。そして魔力はバケツ一杯の水だ。魔法を使う時は、そのストローで水を吸い上げるイメージな。だけどもし、ストローの穴の直径が一ミリだとしたら水は吸い上げられるか?」
「できない……ううん。できなくはないけど、吸い上げれるには言葉に出来ないくらい頑張らないといけないと思う」
「ああ、その通りだ。だから余剰魔力体質の人間は、実際魔力切れを起こしてもいないのに魔力切れを起こしたときと似たような症状を引き起こす。この原因はさっきの説明でいうなら無理矢理ストローで魔力を吸い上げたせいで、体が疲弊し切ってしまっているからだ。魔力的原因で疲労を蓄積し続けると、これと似た現象が起きることも確認されてる。本来滅多に起きない現象だけどな。ついでにいうと、この体質で魔力的疲弊を蓄積して症状を発症すると、魔力切れを起こした人間と同じくらいの間、魔法を行使することは出来ない。心当たりはあるんじゃないか?」
「あれって魔力切れだったわけじゃないんだ……。因みに私の場合、どんな感じなの?」
誰であれそんな話を聞かせられたら、自分の状態が気になるのは当たり前だ。
興味本位で聞いたことを後悔することになる。
「魔力量と回路の割合はざっくり二十五対三だ。よくこれで魔法が行使できるな。ここまで離れてるとギリギリのライン超えてるぞ。ついでに言っとくと、もし全魔力が使える状態なら第一から五位階魔法程度なら無尽蔵に打てる量だと言っておく」
「私そんなに魔力あったんだ……。それより、魔法が使えなくならなくてよかった」
エリナは今の魔法が使える奇跡の様な状態に、胸をなでおろしながら安堵の息を吐く。
この時代に置いて、最下位魔法に当たる生活魔法が使えないと生活にかなり支障が出る。
例えば火を点けるにもファイアと呼ばれる生活魔法を使うし、魔法を使わず魔道具で火を点けるにも多少の魔力を消費しなくてはならない。
余剰魔力体質の場合、最悪な状態だと魔力すらまともに使うことが出来ないため、魔道具を使うことが出来ず、何も行えない状態になってしまうからだ。
彼の時代であれば、専用の機材を使うもしくは、体質の治療用魔法が開発されており、それらを駆使すれば魔力を行使できる程度には治療できた。
その為、生活に支障をきたすことは余り無かったが、この時代は察しの通り治療法が存在しない。
「治療法はないの?」
「ん? ああ、魔力が全く使えない状態ならお手上げだったが、今のマスターなら何とかなるぜ。ざっくりいうと魔力を使いまくれば治る」
「ほんと!?」
エリナは目を輝かせ嬉しそうな笑みを浮かべる。
「これに関しては嘘を吐く意味がないだろ。……とは言うものの、魔力量と魔力回路の品質の差がでかすぎるから一朝一夕とはいかない」
「それでもちゃんと魔法が使えるようになるなら何でもやる!!」
「それなら成長の仕組みも教えとくぞ。まず、魔力総量と魔力回路の成長のさせ方は同じだ。魔力を消費しまくれば自ずと勝手に成長する。だけど、魔力総量に関しては少し違う点があり、魔力を使い切ると使い切らないかった時に比べ、成長効率が大きく変わる。どっちが効率いいかは言わなくてもわかるよな?」
「当然だよ!」
「まあ、今のマスターには魔力回路以外は関係ないけど、体質が改善すれば多分役立つはずだ」
これでアルス=マグナは一通りの説明を聞き終えた。
聞いた説明を整理していると、エリナはふと一つ疑問が生まれる。
「魔王様、一つ聞きたいんだけど、私の体質の逆ってあるの?」
当然の疑問であった。
魔力量が多すぎる体質があるのなら、その逆で魔力回路の品質が高すぎる体質があると思っても不思議じゃない。
そしてその答えは――
「ある。体質の名は過剰回路体質。回路の品質が高すぎて、本来消費しなくていい魔力量を消費する体質だ」
「へー、やっぱあるんだ。……因みにどっちの方が治しやすいの?」
その答えは簡単である。
「もちろん、過剰回路体質だな。治療法はマスターの体質と同じだが、治療期間がこっちの方が短い」
「なんで?」
「そうだな~その説明をするなら制御の話をしておくか」
「制御って魔力が暴走しないように、しっかり操って魔法を使うことじゃないの?」
「ざっくり言えばその認識で間違いはない。だけど制御と言ってもいくつかパターンがある。まず一つ目は魔法陣側が多少なりとも制御を行っているということ。そして二つ目は術者の無意識下で制御が行われており、三つ目が術者が意識的に行っているパターンだな。今の話を聞く限りこの時代だと三つ目しか知らないんじゃないか?」
「三つ目が魔王様が言う通り共通認識だと思う。……魔法陣が多少制御してるってのは何となく理屈はわかるけど、無意識ってどういう事?」
「じゃあ逆に聞くけど、何で魔力が暴走しないで体内を循環してるんだ?」
「あ、言われてみれば」
「そういう事だ。わかりやすい例えを上げるなら、生き物が生きるために心臓を無意識で動かしてるのと同じ原理ってこと」
「なるほど。その説明だとなんだかしっくりくる」
「まあそう言うことだから、ただ魔力を多く消費してるだけのこの体質は、制御の感覚を覚えれば近いうちにすぐ治るってわけだ。逆にマスターの体質はどう頑張っても運用可能魔力量が回路の品質で上限が設けられるって理由だから厄介なんだよ」
これを境に説明が終わった。
そしてエリナは、新しい知識を覚えられるこの瞬間がとても新鮮な時間だと感じていた。
この時代ではまず知る事の出来なかった古代の知識は、彼女の知識欲を刺激し、魔法を真面に使えるようになるための訓練へのモチベーションに変わっていた。
これから先触れるであろうアルス=マグナが使う魔法を考えるだけで、彼女はこれからが楽しみで仕方なかった。
とは言った物の、流石に今の説明で少し頭痛を覚えているのだった。
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