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第9話 魔法実験

 二人は東側の門を通り、王都を後にする。

 そしてしばらく歩くと、人気が無い森に到着した。


「ここなら街道からも離れてるから、人に見つかることはないと思う……多分!!」

「その多分が無ければ安心だったな」


 アルス=マグナは苦笑いを浮かべた。


「さて、転生後初めての魔法はうまくいくかな? ……エリナは後ろの方に離れてろよ。巻き添え食ったら死ぬぞ」


 一応は魔王の忠告である。

 下手したらシャレにならない事を悟るには、それだけ十分だった。

 エリナは背筋に寒い物を覚えながら、少し後ろへと後退する。


(とは言ったものの、何から試そうか。さっきちょっとした魔法を使ってみて分かったが、今の魔力量だと恐らく超越魔法を一発撃つのが限界そうだな。流石に試しで使うもんでもないし、戦略級魔法も広範囲すぎるし、かと言って単体特化でも威力は同じだしな~)


 長いようで短い時間、考え込むととりあえずそこそこの威力魔法から試そうと決めた。

 そして指をパチンッ! と鳴らすと無数の魔法陣が出現する。

 魔法陣から放たれた魔法は、着弾地点に小規模のクレーターを作り、木々を倒しながら整地していく。


「この規模でもかなり消費が激しいな。さて、次は……レヴィン・エクトール」


 魔法名を唱えるのと同時に、彼の前方に一筋の雷撃が迸る。

 すると次の瞬間、轟音が鳴り響くと周囲一帯にあった物が消し飛んだ。


「うーん。単体攻撃にしては火力が落ちたか? ってことは他も落ちているかもな」



 彼の後ろにいるエリナは、もはや呆然としている。

 最初の魔法はまだギリギリ驚愕の域であったが、次の魔法は耳を塞ぎながらもはや言葉が無かった。

 そして――


「あの威力と範囲で単体攻撃なんだ……。全体攻撃だとどうなるんだろう……」


 何とか振り絞って出た言葉がこれである。


 今の魔法にエリナはかなり興味を惹かれたようだが、その反面全体魔法への恐怖も沸き上がる。

 この時代に生きる人間にとって、かつての旧人類の魔法はもはや前人未踏の領域。

 更に効率よく殺せるように作られたのが、旧人類の魔法である。

 超文明の一端を悟るだけで、畏怖を覚えるには十分だった。

 そしてそれを極めた人間の一人がアルス=マグナである。

 それゆえに彼の時代では、魔王と恐れられた所以の一つでもある。


 

 そしてアルス=マグナは、再び魔法を放つ。


「――ディム」


 空間が圧縮され、即座にそれが解放されたかのように小爆発が起こる。

 そして周囲に青い炎をまき散らす。 

 炎は燃え移る対象がなく、数秒で消滅した。


「かなり火力を抑えたがそこそこな感じだな。これならこの時代でも問題なさそうだ。……さっきのエリナの反応を見るに、流石にこれ以上の火力があるのは使わない方がいいな、時代的にも、俺の魔力量的にも……」

 

 そんな分析をしているとエリナが近づいてくる。


「い、今のは?」

「空間複合魔法の下位に位置する魔法だな」

「空間……魔法!?」

「いや、空間魔法ではあるんだけど、名前の通り他の魔法を融合している」

「そ、それも凄いけど! 空間魔法って御伽噺や神話に出て来る魔法だよ!」


 この時代では空間魔法は別名空想魔法と呼ばれる程、存在が怪しまれていた。

 空間系に連なる転移魔法はあるにはあるが、もし使うとなれば超大型の魔道具を設置し、片道切符で行使できる。

 そして規模はと言うと、大貴族の大きな屋敷をもう一回り大きくしたくらいのサイズである。

 だが、現在の技術では到底作れる筈もなく、理論上のお話になっていた。

 なぜ存在が確認されているかと言うと、数千年ほど前の遺跡から一個だけそれが見つかったからだ。

 無論、風化しすぎて使い物にはならない。

 なぜか風化を防ぐエンチャントがされていなかったようだ。

 そんな理由で転移魔法だけは確認されているが、公にはされていないため、実在すると知っているのは研究者だけである。

 そのため一般人は、御伽噺や神話の魔法だと信じている。


「そうなのか? 俺の時代だと当たり前のように使われていたけどな。とは言っても皆が皆、使えたわけではないけどな」

「ええ!? それだけ知っている人がいて、何で失われてしま――」


 そこでエリナはようやく大事な事に気づく。

 そう、それは彼の前世との時代差についてである。

 彼はまだ自分が何年前の人間か、話していなかった。


「もしかして魔王様はかなり昔の人なの?」


 この時エリナは、せいぜい数千年だろうと思っていた。


「あれ、言っていなかったけ? 時間誤差も含め、約一万年くらい前から転生してきた」

「い、一万!! ……は、はは……それならこれほど魔法技術がかけ離れてても不思議じゃないや……」


 あまりのスケールに、彼女は体の力が抜ける程唖然としていた。

 どんな人間でも一万年前から人が転生してくるなど予想出来るわけがない。

 だが、起きたことを受け止めようと、彼女は必死で頭を回転させて整理していた。


 そんな彼女を横目に彼は最後の実験を始める。


「エリナ、魔眼の実験をするから死にたくなければ視界に入らない様に離れてろ」


 彼女にとっては唐突な言葉にビックリしながらも、慌ててアルス=マグナと距離を取る。

 そして魔王と自身で名乗った者が使う魔眼に興味をそそられ、固唾を飲んでその様子を見守る。

 彼女自身が見たことがある魔眼は、せいぜいが嘘を見抜くなどの最下位に位置するもの。

 所詮はこの時代に置いての物であり、彼の時代から見れば劣化品である事をこれからアルス=マグナが証明する。

 本来の力と言うやつを。


 

 彼は自身の目に膨大な量の魔力を集中させると、それを解き放って封印を解除し、魔眼を発動させる。


 ――破壊の魔眼


 それが彼の保有している複数ある魔眼の内の一つであり、最強格の魔眼でもある。


(やべっ!!!)


 慌てて彼は魔眼を解除した。

 時間にしてわずか〇・六秒。

 それだけの時間で視界内にあった物は全て破壊され、消滅していた。

 それは命の有無に関係なく全て平等に……。

 大地は砂漠と化し、山は消え、勿論生物など跡形もない。


 彼は弱体化した影響で魔眼の制御が出来なくなっていたのだ。

 本来なら破壊する対象もコントロールが可能であり、魔力消費量も多少は制御できる。

 だが、今回は魔眼が暴走したこともあり、残存魔力のほとんどを使い切っていた。

 その惨状に流石のアルス=マグナも言葉を失くす。


(……こりゃー当分封印だな。ピンチになったとしても、使いどころを考えないと味方ごと消し飛びそうだし、何より今の俺にとって魔力消費量がえげつない。まともに運用できるようになるまで、しばらくかかりそうだな……)


 当然、魔眼が暴走したとは知らないエリナは、もはや棒立ちである始末。

 

「あ……やっべ! 逃げるぞエリナ!!」

「!?」


 アルス=マグナは我に戻るとエリナの手を取る。

 すると、地面に魔法陣が出現し、視界が真っ白に染まる。


 次の瞬間、先ほどまでいた平原でなく、よく見慣れた実験室へと風景が変わり視界に映り込む。

 エリナはもはや無表情であるが、気配で驚いてることがわかる。


「……え……ここは?」

「お前の家の地下だ」

「……魔法……だよね?」

「ああ、転移魔法レティムだ」


 彼の時代では、高位の魔導士なら大体使うことが出来た移動魔法の定番である。

 無論、中位の魔導士でも使える人は一応いた。

 ある意味、高位の魔導士への登竜門的存在だった。

 そして超魔法文明時代の頃は、もはや使えない者はいなかったらしい。


 転移魔法を始めて体験したエリナは、感動していた。


「わ、私、神話の魔法を体験したんだ……」

「そ、そんなに感動するものか? たかが転移魔法だぞ」

「だって神話だよ! 神話! そんな魔法を体験できら誰でも感動す……あ、そうか、魔王様の時代じゃ珍しくなかったんだよね」

「ああ。……なんかすまん」


 彼女は魔法の実験を行っていた時の会話を思い出し、少しテンションが落ちていた。

 それと同時に魔眼の件も思い出し、再び気持ちに火がつく。


「……って、それよりもさっきの魔眼は何!? 途轍もない威力だったけど!!」

「お、落ち着け。……さっきの魔眼の名は破壊の魔眼。文字通り視界内にあるものを破壊する能力がある」

「それって凄いけど使い勝手悪い気がする。さっきも一瞬にして山とか消滅してたし……」

「いや、本来は破壊対象を選択できるけど、弱体化の影響で暴走させちまった」

「あーなるほど! だからあの広範囲を消滅させたんだ。たしかに開眼と同時に問答無用で視界内の物を破壊してたら魔力消費量もそうだけど、それ以前に味方も死んじゃうもんね」


 この時アルス=マグナは、心底実験しておいてよかったと安堵の思いを抱く。

 もし実験せずに、いつも通りの感覚で実戦で使っていたらと思うと、流石の彼もゾッとするものがあったらしい。


「そういえば何でここに転移してきたの?」

「そりゃ、すぐに来るであろう調査隊もしくは兵士に見つかりたくなかったからだ。王都の近くの山が消し飛んだと知ったら普通は派兵とかするだろ?」

「たしかに……。見つかってたらいきなり国家転覆罪とかで処刑されちゃいそう……」


 もし見つかっていたらと思うと、冷や汗が止まらないエリナだった。

 

「ねぇ、あの魔眼の範囲ってどれくらいなの?」

「俺は魔法を使わなくてもかなり視力いい方だから、結構広いんじゃないか……もしかして村があったとか言わないよな?」


 その時彼女は、何も言わなかった。

 その沈黙こそが答えである。


 もし村があったとしても、アルス=マグナにとっては今更である。 

 数えきれない程の新人類を屠ってきたのだ。

 たかだか数十もしくは数百殺した所で、今更であることに変わりはあるまい。


「実は……あそこから離れた所に一つある。約三十キロくらい先かな……」

「あーそれなら安心しろ。障害物があったんだ流石に数十キロ先の村なんか見えるわけない……多分」

「最後の言葉が無ければ、安心できたよ」


 一応アルス=マグナも責任を感じたのか千里眼を使い、魔眼で消滅した範囲を調べると、村のかなりギリギリまで消滅していることがわかった。

 そして村が残っていることをエリナに伝えると、安堵の息を溢す。


 後に、山へ狩りに行ったまま戻ってきていない者がいることが、発覚した。

 そしてその人間がどうなったのかを、知る者はいないのだった。

いつも読んで下さり有難うございます。

『面白い』や『よかった』と思っていただけたら評価やブックマーク、感想等をしていただけると嬉しいです。


これからもよろしくお願いします。

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