第8話 契約
それから数分が経過した。
「マスター、手の甲を出してくれ」
「??」
エリナは言われるがまま、アルス=マグナに向かって手を差し出す。
すると、彼は彼女の手の甲に魔力を込め、何かを描くように指を動かす。
くすぐったそうにしていたのも束の間であった。
ものの数秒で、何かを描き終える。
「こ、これは?」
エリナの手の甲には、紋章らしき物が描かれていた。
魔力を込めて描かれたにも関わらず、それからは魔力的な物は一切感じられなかった。
そしてその形は禍々しい物ではない。
「それは契約の紋章だ。俺とマスターの間にパスを繋いだことで、俺の保有する力の一部を使うことができる。紋章の力を通して魔力を行使する際は、俺の魔力は消費されず、マスターの保有魔力量を一時的に増やせす効果になる」
「え!? 凄い! 私も魔王様の魔法が使えるってこと!! あ、でも契約ってことは――」
「安心しろ。契約内容は白紙だ。何か契約したいなら後で付け足せるが、契約時は互いの了承が必要になる。契約破棄の際も同じくな」
それを聞くとエリナは、ワクワクしながら攻撃魔法以外の魔法を試しに行使しようと、紋章に魔力を込めるが、アルス=マグナから制止の声が掛けられる。
「力を使うのはやめておけ。今のマスターだと俺の力のほんの少しでも使えば、一秒以内に死ぬぞ」
「……え?」
「使えるのは俺の保有する魔法ではなく力だ」
その言葉に不思議そうに首を傾ける。
「いくら紋章を通しても魔法は使えない。そしてここで言う力ってのはマスターに召喚された時、俺が纏っていた闇、そして身体能力などを強化している各種超能力だ」
「たしかに、今の私だとそんなもの扱えないや。でも、それなら何でこの紋章を?」
「一応、俺を転生させるトリガーを作ってくれた恩人だ。簡単に死なれたら目覚めが悪い。だから有事の際に一か八か悪足掻き出来るように与えただけだ」
「ふふ、ありがと」
アルス=マグナは力を与えると言ってはいるが、現在の彼は転生の影響でかなり弱体化している。
現在と最高神との決戦前に比べれば、保有魔力量も含め全ての力が天と地程の差があるくらいだ。
そんな状態だからこそ彼は、エリナに力を与えたのだ。
もし仮に全盛期の力なら彼女は紋章をかなり精密に制御出来ない限り、存在ごと闇に呑み込まれ、この世界から消滅している。
「まぁ、本来なら眷属印または眷属紋と呼ばれる物でないと俺の力を借り受けることは出来ない。だから今回は特殊なケースだな」
「特殊?」
「ああ。転生召喚魔法の影響で本来出来ないことが可能になっている。詳しく調べれば他にも何かありそうだが、現状はこれくらいしかわからん。もしかしたら本来あり得ない、俺の保有する魔法の行使とか出来たりな」
「新しい発見が出来るかも! 今から調べるのが楽しみ!!」
「俺も同じことを思っていた」
エリナは目をキラキラと輝かせており、アルス=マグナも早く魔法が与えた影響について記録したいとうずうずしている様子だったが、現在の機材では調べるにも限度がある為、当分先になるのだと悟ると少しガッカリしているように見える。
そして彼には、もう一つ確かめておきたいことがあった
「マスターこの近くに人がいない場所はあるか?」
「うーん……王都を出ればあるけど、どうして?」
「転生の影響でどれほど弱体化したか早急に確かめたい。主に使うのは攻撃魔法だな」
その一言でエリナは大体の事を悟り、快く頷いたはいいが、外に出るのには一つ問題があった。
現在二人がいる場所は貴族の家、つまりエリナの実家である。
貴族の娘が知らない男といるのを使用人などに見られると、かなり面倒な事になる。
外出先でなら学友で済ませられるが、流石に家の中だとまずい。
そんな事に頭を悩ませていると、アルス=マグナから声を掛けられる。
「何か問題でもあるのか?」
「え……あ、うん。実は――」
そこで事情を伝える。
だが、流石元魔王である。
それを解決する手段を持っていた。
「それなら問題ない。数秘術で光を屈折させれば、姿くらい魔法を使わずとも簡単に消せるし。音に関しては防音の魔法とかを使えば大丈夫だろ」
「流石!!」
そして二人はこっそりと、屋敷を抜け出すのだった。
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