小道具屋爆破事件の捜査(2)
「しっかし酷い有様だなぁ…爆発が起きたら周囲二、三軒の店舗が吹き飛ぶ程の威力を持っているなんてなぁ?歩きにくて仕方がねぇ。クロード悪ぃ、爆発した原因は何だっけ?」
ヴァレンが頭を掻きながらぶつくさ小言を呟いた後にクロードに問いかけた。クロードはため息をつきながらコートの中をゴソゴソと手探りで探してある物を見せた。それはあの小道具屋に置いてあった猫人形だった。
「これだ、現在製造が禁止されている爆薬だ。ヴァレンも知っているだろう?」
「ああ、一度見た事がある程度だが…」
「これはスキャスターと言われる厳重管理指定物質の火薬だ。しかもそれは管理庫から盗まれた物だと断定した。」
ヴァレンは目を思いっきりかっ開いて驚いた表情で猫人形を見続ける。そして青い顔へと段々と変化していく。
(スキャスターとはごく少量の爆薬でも条件を満たせば辺り一帯を完全消滅させるほどの威力を持った爆弾である。)
「王国一の警備を誇っている管理庫から何者かが持ち出したというのか!!」
「その可能性が高い。そして盗んだ爆薬で計画を練っている裏組織の名前まで特定することが出来た。」
クロードから出てきた言葉は衝撃的なものだった。
「おい、まさか…」
「そのまさかだ。秘密結社「夜鴉」が裏で手を引き、何か企んでいると睨んでいる。」
秘密結社「夜鴉」は国際指名手配されている組織で世界を闇から浄化するという理念を掲げ、世界各地で工作員が暗躍し、結社員がテロを頻繁に起こす過激派組織である。名前は知られているが結社についての情報がかなり少なく、別名「静寂の竜」とも言われる程の戦闘力と情報統制を持っている。国が手を出そうにも返り討ちにあう為、手をこまねいている状態が続いている。
「あいつら一体何をしようとしていたんだ!!」
「現状では何を目的に行動しているのかは分からない。こっちも調べる時間があったら逐一報告させてもらう。」
興奮するヴァレンに冷静のクロード。顔が真っ青になっているジェーンがクロードに話しかける。
「すみませんクロードさん…その情報どっから仕入れてきたんですか?」
「どうしたジェーン?顔色が悪いぞ?明日休み入れたらどうだよ?おめー最近休暇入っていないからこっちで入れておくよい♪」
「団長は黙っててください!!今クロードさんに聞いているんですから現場の指揮をやってください!!周りみてくださいよ!!団長の声が大きいせいで団員がずっとこっちを見ていますし(団長の)変化の激しさに付いていけずに困惑しているんですよ!!近所のオバサンの雑談じゃないんですから仕事するのかサボるかどっちかにしてください!!」
部下に怒られたヴァレンはしゅんとしながらも何か言いたそうな素振りを見せるが黙って作業に取り組んでいる。
「先程は団長が迷惑をかけてすみませんでした…」
「いや、いいです。さっきの質問に答えますので謝らなくて結構です。」
内心ヴァレンの行動に怒りを覚えていたクロードはジェーンに文句を言いたかったが面の皮を厚くして営業スマイルでやり過ごす。
咳払いをし、一呼吸空けてからクロードが口を開く。
「おほん、では答えます。私に依頼してきた女性が気になりましてね…それで私はユーリに猫探しを丸投げした後その女性を探偵社近くの大通りから尾行していたんですよ。けれど尾行に気づかれてしまいまして、少し離れた裏路地に逃げていったから追いかけたんだけどそのまま行方をくらませたんです。」
ジェーンは驚いた表情でクロードを見つめる。
「クロードさんの追跡能力は専門の私達でも目をみはる程の実力があるのにその目をかいくぐるとは…その人、相当な手練ですね…」
「ああ…当時は私も信じられなかったよ。けど実際にやってのけているからあの依頼人を訳あり以上の何かと感じるようになった。」
「その後痕跡が落ちていないか探していたら目の前に不健康そうな男性が目の前を通り過ぎたんだ。けどおかしかったんだよ…」
クロードの話を相槌を打ちながら聞いているジェーン。クロードは声を抑え、話を続ける。
「体格も顔も違うのに気配は一緒だった。気づいて後ろを振り返ったんだが既に姿を消していた。そこは窓も横道も無い一本道なんだけどね…」
「魔法で姿を消していたのでは?」
ジェーンは問いかけるがクロードは首を横に振る。
「魔法の痕跡は探知出来なかった。走る音や壁を登った跡がなかったから素の身体能力で天井まで飛び乗ったんだろうと推察するけどね。」
二人で雑談をしているとヴァレンから声がかかった。
「ジェーン、クロードこっち来い!妙な物見つけたぞ!」
手を振り回し二人を呼ぶ。到着すると瓦礫の中から不思議なものがゴロゴロと出てきた。それは文字みたいな記号が幾何学的な羅列になっており、その外周を星型と四つの丸型が折り重なった奇妙な絵柄が十個近く平たい石に張り付いていた。
「さっきA班の団員が見つけたものなんだが俺にはさっぱりわからんものでな…何だか解るか?」
「いや…これは私にも分からない。何かの言語かこれ?」
「うーん、見た事がないですね。」
三人で首をひねっていると後ろから足早に駆けてくる音がしてくる。振り返ると息を切らした団員が近づいてきた。
「ゼーハー、ディ、D班から報告があります!!、ゼー、聞き込みの最中に現場をうろついてハーいた不審者がおりまして、ハァー、職務質問をしようとしたらその場から逃走したとの情報です!!」
息を切らした団員が呼吸を整えながらも団長に報告をする。ヴァレンは報告を聞いた後口を開いた。
「なら追わんか!何故情報だけを伝えるんだ!!そいつを縛り上げで…」
「団長、報告はまだ終わっていません!最後まで聞いてください!」
厳しい口調で話すが途中で遮られた。再び口を開くとジェーンとヴァレンが混乱するほどの内容であった。
「裏通りに逃げた不審者を追いかけたんですが見失ってしまいました。けれど私と1人の団員が気になって後ろを振り向いたら不審者を目撃したのです。目撃したもう片方の団員は気絶してしまいました。あれは化け物です…」
団員は青ざめながら話を続ける。
「追いかけていた不審者が二十メキル(二十メートル)以上の高さもある時刻の鐘鳴らしの教会の上に地面から一飛びで乗り越えていったのです!!そして衝撃的だったのは不健康そうな体をしているのに右腕におおよそ体の二倍ほどの大きさを持つ鉤爪が見えたのです!!後、顔が見えたのですが目と鼻と歯が全く無かったのと、背中に一対の黒く大きな翼が生えた何かが笑いながらこちらを見つめ続けてきました…更に笑顔になったと思えばその場からスっと静かに消えていったのです…」
あの時の状況を思い出したのか報告をした後その場から崩れ落ちた。余程怖かったのだろう、青を通りこして白くなって気絶している。それを見た他の団員が慌てだす。
「おい!大丈夫か!!」
「そっとしておいた方がいい。アフターケアも忘れずにな…謎が何個か出てきたからこっちでも情報を集めて見る。何か分かったら報告する。」
クロードはヴァレンの肩を叩き、そう話すと現場を離れていく。ヴァレンとジェーンは現場の混乱を収束させる為、指示を出す。彼らは気づかなかった。まだ近くにその不審者が潜んでいることを。