7、仲間と裏切り
信頼登録を終えた俺は奥の部屋から戻り、あの仲間を求める広場へと戻っていた。そして、そこにある受付カウンターを見つけて歩こうとした時、俺は不意にも声を呼び掛けられた。
「よぉ。終わったみたいだな」
その野太い声で話し掛けてきたのは同い年の仲間『ガルバス』だった。彼は後ろには同じ仲間の『グレイナ』に『リズ』そして『ノーヴィス』を連れていた。
「ほら、やっぱ見間違いじゃなかったでしょ?」
そう言ったのはリズ。二十歳になってもワンパクさが残る元気な女だ。
「リズは相変わらず目が良いわねー」
今度はグレイナ。ツヤのある藍色の髪を持つ妖艶な彼女は、先の元気な彼女と打って変わって、落ち着いて様子でガルバスに肩を抱かれていた。まんざらでもない様子で。
「まぁ、とりあえずは登録までお疲れ様です」
そしてノーヴィス。聡明な彼は、相変わらずの感情を見せない口調でそう言った。
実は彼等は皆、既に【職業】を手にした人間だ。ここにいるのだから当然と言えるのかもしれないが。しかしともあれ、俺が彼等と会うのは半年振り程だった。
彼等は皆、俺より半年以上早く生まれている。
彼等は自分達が【職業】を手にした時、俺が【職業】を手にするまで何もせず待っててくれると言ったが、俺はその時こいつらに悪いと思い、断っていた。そして、このガルバスも珍しく「お前が二十歳になって【職業】を手にしたら必ず迎えてやるよ」と言ってくれた。
俺は、どこかむず痒さを覚えたが、それでも嬉しかった。
それくらい俺等は良い仲間同士だった。
それを――、
今、ここで彼等が約束を破るまでは。
「でな、イルフェース。悪いんだけどさ、お前今日から一人でやって欲しいんだわ」
「はっ?」
俺は、こいつの言ってる意味が分からなかった。
「ほら、こういうのは早いほうがいいだろ?」
「い、いや、だからどういうことだ?」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 【職業】によっちゃ仲間に入れていいって言ったじゃん!」
「あぁ、言った。でも、やっぱこいつ仲間から外すわ。だって面倒だろ? 一からレベル上げるの手伝うなんて」
「たしかに大変だよ!? でもだからって仲間なら――」
「なんだ、面倒って」
リズとの会話でガルバスの言いたいことを理解してきた俺は、静かに怒りが込み上げていた。
奴は人を馬鹿にしたように鼻で笑うと、
「俺等、もう皆Lv60越えてるからさ、またお前の手伝いするのも面倒なんだわ。お前はそれでも付いてくるかもしれないけど、正直、Lv1の奴を連れて歩くなんて足手まといで仕方ねぇんだって」
「なんだそれ······っ!」
他の奴等に目を移すとリズだけが俯いて、グレイナは艶然と笑い、ノーヴィスは、これが最善でしょう、という冷静な目。
俺はようやく、失望にも似た激しい怒りを覚えた。彼等――いやリズを除いてかもしれないが、今の彼等が欲しいのは『俺』ではなく『職業』だと知った。そしてそれは、今までの『俺』そのものの存在をどうでもいいと言っているようにしか思えなかった。
実際そうだろう。グレイナにつられガルバスは哄笑し、ノーヴィスも口元に手を当てては、その滅多に表に出さない感情を漏らしそうにしているのだから。半年、柄にもなく待ち遠しくしていた俺が馬鹿みたいだった。
「リズ。試しにこいつに聞いてみろよ! 俺等より圧倒的に強い【職】だったら考え直してもいいぞ!」
下卑た笑いをしながら言うガルバス。リズは泣きそうに黙って俯いていた。だがしばらくして、申し訳なさそうながらもリズはその顔をこちらに向ける。
「ねぇイルフェース、教えてよ。本当は、すぐ私達に追い付けるほど強い【職業】なんだよね······?」
分からない。
それが率直な思いだった。
しかし、俺はわざと無言を返した。
それは【死神】という、自分の職が打ち明けられないだけではなく、仲間だった奴を、まるでコケにするように笑うこいつらが許せなかった。
「はっはっはっ、ほらな? こいつは俺等に何も言わねぇと思ったんだ」
リズが「どうして!?」と俺の服を引っ張り訴えるが、そんなことはどうでも良くなっていた。
こいつ等を信じてた、俺が馬鹿だった。
それからの事はあまり覚えていない。覚えているのは、無理矢理、身体を翻してリズの手を解いたこと。そのまま真っ直ぐ協会を出たこと。そして、その際「一人じゃロクな依頼もこなせねぇけどな」と笑う、ガルバスの皮肉だけだった。