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69、金の市場(マーケット)

 人がきんになるスキルなんてのはどういうものかと思えば身体中に金の斑点が浮かび、それがやがて全身に及ぶというものだった。


「馬鹿な女よ。妾に楯突こうとは身の程知らずじゃ」


 テントの中は一面、金の絨毯じゅうたん。滑車のついた無数の檻があり、そのどれにも人が入っており、その一つがテント中央に居る女の元へ運ばれていた。


 その檻から出されていたのは一組の母娘おやこ

 二人は首輪をはめられ、紐で繋がれていた。


 その二人······いや、今は()()()()()。その前に立つのは、肩まで伸びた白い髪で、金のネイルと金の装飾、至るところに宝石を身に付けた若い女。多くの男が好むであろう容姿端麗のその女は、屈強な男共に囲まれ、まるで女王のようにその身を守られていた。


「いやあああああぁーっ!!」


 叫び声は、年端もいかぬ娘のものだった。


 娘は、自分を守ろうと、その女王のような女に掴み掛かっては男共に()()()()()()()()()()()()母に泣きすがっていた。左手は拳だが、身体を起こそうとした姿勢の母親は、自分が変わり果てていく様に恐怖したままの顔だった。


「おかあさん······おかあさん······っ!」


 母親の服はそのままではあるものの、まなじりに貼り付いた涙までもが金色に変わり果てていた。


「どうする、商人よ。妾は金になった者は戻せぬぞ?」

「へっへっへっ、構いません『キュベリィ』様。この像を好事家こうずかにでも売れば、支払いした以上のかねは軽く戻ってくるでしょうから。へっへっへっ······」


 黒のターバンとストールを纏い、目元だけを見せる商人だが、下衆な笑みを浮かべているのが細くなった目だけでも分かった。


「ふむ、そうか。ならば約束通り、さっきのダイヤとかねはもらって行くぞ。······安心せい。ちゃんとその娘にも仕込ませておいてやる」


 再び、ターバンの商人は下衆に笑って「ありがとうございます」と頭を下げた。


「ほれ、お前達。妾の前に娘をひざまずかせよ」


 すると、指示を受けた屈強な男達が二、三人動き出し、娘を母親の像から引き離す。「やめてっ! おかあさんっ!」と娘は助けを求めるように叫んだが、首輪もあり男一人でも簡単に剥がれるほどの華奢な身体は、瞬く間に女の前へ座らされた。娘が乱雑な扱いを受けているものの、母は、ただ自分の姿に恐怖した顔で何も言わなかった。一ミリとして動くことなく。


「お主は、妾の手を煩わせるでないぞ?」


 娘の母親が唯一抵抗出来ていたことと言えば、白髪はくはつの女がしていた真っ赤なルビー。それを左拳からチラつかせるだけチラつかせ、その開かぬ手で、まるで二度と取り出せぬようにしていることだった。しかし、そんな些細なものはこれから行われる“契約“にはなんら関係なく、娘を守るというものには程遠いものだった。


「ほれ、母の姿を見ていただろう? 口を開くだけじゃ」


 女が使う契約――【スキル】は指先から生まれた金の滴を対象に飲ませることだった。そうすることで「彼女」または「彼女が譲渡した者」に逆らえなくなるというもの。一滴でも口にしてしまえば、もう、その時点で女の物。先の母親は意表を突いて掴み掛かったものの既に滴を飲まされていたため、やがて文字通り、完全な物と変わったのだった。


「んんーっ! んむぅー! んー!」


 娘は、男等に両腕を拘束されては顔を押さえられ、鼻まで摘ままれながらも、僅かに動く顔を必死に左右へ振って抵抗していた。そして、その娘の口の上では、女が、指先から今にも垂れそうな金の滴を生み出していた。


「んんんっ、んんーっ!」


 娘は涙目になり、必死に口を閉じていた。

 だが、それも限界が近いよう。


 身体が呼吸をしたいと強張り、唇も震えていた。


「んんっ! んんーっ!」


 本当に、気分が悪い······。


 おおよその契約方法、こちらが殺られる心配はないだろうと感じたのに、これ以上、本気で拒絶する娘の姿を見るのはただ気分が悪いだけに思えた。しかし、それよりも前に、とっくに、俺は非常にむしゃくしゃとしていたのだが。


 ······そろそろるか。


 俺は、自分にだけ見える“透明の鎌“を発現させた。

 ふと、このテントから現れた【聖女】等を思い出す。


 なにを信じればいいんだろうな······。


 そして俺は、ただ()()()()()()()()()()()で、鎌を振り下ろした。

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