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61、涙

「獄中」を「独房」に変更。

リングの説明を少しだけ追加しました。

リングの意味:スキルや武器の発現が出来なくなる

 優しく肉体を包むような艶めかしい彼女の声は、独房で低く響いた。


「どうやって入って来たの? こんな豚小屋よりもひどい掃き溜めになんて――」

「先に一つ答えろ」


 彼女は左手に白いリング――“未判決“の証をしていた。

 だから、俺はまだ、違うと思いたかったのだろう。


「リズは······お前か?」


 しかし、彼女は平然と言ってみせた。


「えぇ、そうよ」


 そして、反省の色もなく髪を触りながら、


「ちょっと黙らせようと思ったら、死んじゃった」

「――っ!!」


 血が沸き立つような怒りが込み上げ、俺は自然と掴み掛かっていた。だが、ベッドに倒れた彼女は変わらぬ様子で、


「ちょっと痛いじゃない。そういうのは好きだけど雰囲気ムードは大事よ?」

「ふざけるな······っ!」

「なに、あなた。あの子が好きだったの?」

「んなことだけの目に見えるか!?」


 そう。そんな単純な話じゃない。

 俺は確かにリズが好きだ。人として······だが。


 しかしそれでも、表裏のない彼女の実直さは、通り魔に親を殺され、人を疑って生きてきた俺にはとても綺麗に見えた。子供のようなあの純真さは、俺の孤独の猜疑心さいぎしんをゆるやかに融解してくれた。


 だから、俺よりもリズと付き合いの長いグレイナがあんな事を出来たのか理解出来なかった。考えられなかった。信じたくもなかった。


 なんで、お前はリズを殺した?

 なんで、あんな痕が残るまでやらなきゃならなかった?

 

「あら、泣いてるの? あなたにも涙はあるのね」


 あいつだって······ノーヴィスだってこんなのは望んでなかっただろう。予期すらしなかっただろう。俺やあいつが居れば何か変わったか······? いや、それともガルバスが居たのなら······。


 頭の中がグチャグチャだった。

 何も考えが纏まらなかった。


 今すぐ殺したいほどに怒りもあったが、それ以上に頭は混乱していた。どうしていいか分からなかった。


 ただ、復讐をしていいのか······?

 こいつを今まで通り、殺せばいいのか······?


 しかし、ドロドロと溢れ出る憎悪と悲痛な感情は、すぐにそれを行動にすることさえ許さなかった。そしてまた、今の俺にはこいつの声を聞く余裕さえなかった。


「くそっ······!」

「なに? 私じゃたない? あなた、なんか前よりずっといい匂いするから、少し濡れてきちゃったんだけ――」

「黙れっ!」


 しかし、その時だった――。


「誰か居るのか?」


 カンテラの明かりがこちらへ向かっていた。

 そして看守が、覗き窓の側に明かりを寄せる。


「気のせいか。······おい、女。あまり独りに耽るなよ。ここはお前だけの場所じゃないんだ。······それとも、俺が慰めてやろうか?」

「······お断りするわ。あなたの匂いじゃ、感じそうにないもの」


 看守は、へっ、と笑うと「生意気な女だ」と言って元来た道を帰っていった。その遠ざかる明かりが覗き窓から見えなくなると、グレイナは身体を起こし「残念」と呟いた。だが、その言葉を向けたであろう【死神】は、既に、この独房から消えていた。





 月光が降り注いでいた。


 なにを······やってるんだ······。


 俺は、ベッドの上で仰向けになっていた。

 目頭に乗る右腕が、いつもより重く感じた。


 結局――誰も殺せずに、日付が変わっていた。


 何も考えたくなかった。この腕の重みに潰されてこの世から消えてしまいたいと思った。


 俺はどうしたらいい······? 誰か、教えてくれ······。


 だが、誰も答えてくれなかった。


 机に残る()()の手紙が、グシャグシャにしわを寄せて泣きそうにしていた。

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