59、リズ
◇
『ねぇ、暇そうだね! ちょっと私達の遊びに付き合ってよ!』
『クマ、ひどいよ? ちゃんと寝てるの?』
『あーっ! ほら、また人を馬鹿にしてる! やっぱノーヴィスとイルは嫌いっ!』
『へっへー。私【風使い】の【職業】もらっちゃったー』
『イルも一緒に依頼こなせるの楽しみだね! えへへ······』
◇
医者である、彼の言うことが信じられなかった。
リズが、亡くなった······?
彼女はほんの数日前まで元気だった。最後に会ったのは「どうして!?」と俺を説得しようとする姿。目には涙が浮かんでいたのも覚えている。
そして、あの手紙――。
遺書とは程遠い、あれは、彼女がその日まで生きていた事を示していた。
「大丈夫か? 顔色悪いが······」
医者の声は、少し歪んで聞こえた。
「リズのことを、言ってるんだよな······?」
「······あぁ。明るい茶色髪の子だ」
心配に答えられなかった俺は、間違いない――と思った。
しかしそれでも、やや猫背で、無精髭を生やしたマルクは、その証拠があるとでも言うように、その先に現実があるというように、一言付け加えた。
「······来るか? 彼女はまだ病院にいる」
覚悟はしてたが、目を疑った。
数日前まで元気だった彼女は、病院の、冷えた薄暗い地下室で安らかに眠っていた。真っ白な台の上で、この地下室のように、静かな白のシーツを掛けられて。蝋燭に照らされる仄かに照らされる彼女の青白い顔は、とても、ワンパクさのあった人間とは思えなかった。
「俺が呼ばれた時には手遅れだった。いや、あれは誰がどう見ても、手遅れだった」
その言葉は耳に届かず、俺は彼女に近付こうとした。
すると、
「身体は見ないほうがいい。とても、その子に有っちゃいけないものばかりだ」
医者は、俺にそう忠告をする。
しかし、俺は――シーツを静かにそっと持ち上げた。
······。
あちらこちらに縫合の後があった。
それ等の全てが、鋭利な何かで裂かれたのを、繋ぎ合わせた痕だと分かった。
痣やカサブタもあった。
「······犯人は?」
直前に彼の言った“手遅れ“の意味がやっと分かった。僅かに、自殺なんじゃないかと、どうしようもない救いを抱いていたが――そうではなかった。
リズは間違いなく······殺された。
誰もが、手遅れと思う程に、傷を付けられて。




