54、浸透
通路には、真っ二つになった盾が落ちていた。
まさか、本来自分の身を守る物を投げてくるとは思わなかった。せめて、あっても負傷覚悟の体当たりぐらいだろうと。しかしともあれ、
無事、片付いたか――。
やはり【ピンポイント】は、仕掛けておいて正解だった。
背後を取られたのは、完全に、未熟な戦闘経験によるものだった。仮に、奴が何らかの攻撃方法を持っていたのなら、俺は間違いなく負傷をしていたことだろう。【無痛】と【再生】はいつでも発動出来るようにしていたが、頭部が粉砕されてなかったとも限らない。
もう少し、スキルがなくても戦えるようにしておくべきか······?
レベルが上がりました。
Lv95→Lv217
スキル【絶対零度】を獲得しました。
スキル【部分透過】を獲得しました。
スキル【浮遊】を獲得しました。
今回は、大分レベルも上がったほうだろう。
しかし、一つ疑問に思ったことがある。
スキルは元来、そこまで手に入らないものなのだろうか? 王といい今の男といい、もう少しスキルを見せていいものだと思うが。······いや、王はそれなりに使用していたか。そう考えると、もしかしたら奴等は、あれ等の他にもスキルを保有していたかもしれない。
先手さえ取れば確実に殺せる自信はあるが、くだらない無駄話も程々にしないとな······。
『この値が0になると貴方は消滅します。残り:53年分』
そして、その下にはこんな表示が出ていた。
『※ノルマ達成済。ノルマは0時にリセットされます』
こんな表示は初めてだった。
確かに、思い返せば寿命を確認したのは、いつも日を跨いでからだった。
こんなのがあったなんてな。
これに気付いていれば、幾らかの命を無駄にすることはなかっただろう。俺の欲する命とて有限だ。そう簡単に育つものでもない。山賊狩りの夜を振り返れば、あの日必要だったのは親玉とあのタンクトップ男だけで十分だった。いや、どちらか片方でも十分だった。
今更、省みた所で戻りはしないが――。
ともあれ、こちらも問題なさそうだった。
スクリーンを消し、左手に持っていた鎌も消滅させる。
白い光に黒い蛍が飛んで、やがて溶けた。
······。
それにしても――。
久々に、満たされた気分だった。
このまま目を瞑って寝てしまいたいと思えるほど、落ち着いた気持ちだった。しかし、一部、静かに興奮しつつもあった。右の口角が不器用に吊り上がっていた。王とあの老人が報いを受けたことに、嘲りのような想いを持って。
肩が、静かに笑った。
やはり······俺は死神だ。
居場所を見つけたような幸福感。自分は間違ってないという肯定感。心からやり遂げた達成感。重りを与えてきたこの【職業】はようやく、俺の“この身体“に馴染み始めたようだった。
これなら、もう、迷うことはなさそうだ。
俺は、これからの寿命の伸ばし方を意志を持って決められた。そしてそれを決めた時、兵士の声が微かに聞こえた。後方から――まだ遠くだが、確実にこちらへ向かっていた。
そろそろ行くか······。
俺は【透過】を使って、再び城のほうへと戻っていった。




