表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/109

51、崩壊

 割れんばかりの歓声は、ピタリと止んでいた。

 誰一人として動くことが出来なかった。


 それは、王の力によるものではなく、()()()()()によるもの。


 誰もが息をするのも忘れ、誰もが台座を見て凍った。

 王に仕える兵士でさえ、槍を持ったまま目を見張って。


 王の身体は、王が両腕を大仰に広げた直後の破裂だった。上半身を中心に膨らんだが、破裂が終わった後に残ったのは、四方八方に散らばる飛沫と血溜まりのみ。故に、


「あ、あれも······ショーの一部······だよな······?」

「そ、そ、そ、そうに決まってるでしょ······」


 観衆は誰一人として、それが王の死だと思わなかった。


 しかし、台座の一番近くにいた――血飛沫を浴びた一人の兵隊長が震えながら、自身に付いた血をゆっくりと撫でていた。そして、その指を見て、瞬く間に顔を青ざめさせる。


 この血は、本物だ······。


 その事を経験から分かってしまった彼は、無意識に言ってはいけない言葉を漏らしてしまう。


「ギルディアス様が······殺された······」


 呟くような声だが、それは瞬く間に伝染する。兵隊長から兵士。兵士から観衆へと。波のように事実が伝わった瞬間、各方から大きな悲鳴が上がった。主に女性の悲鳴。張り裂けそうな声で、高い台座へ登るように押し寄る者も居れば、ショックで気を失う者もいた。


「ギルディアス様が殺されたってことは、俺等もヤバイんじゃねぇのかっ!?」

「いやっ! 私まだ死にたくないっ!」


 演説広場は、完全に混乱に包まれていた。


 我先にと町へ逃げ出そうとする者。逃げる波に押し倒され、踏まれる者。腰を抜かし、台座を見たまま茫然と涙を流す者。そして、人を刺したまま動けずにいる槍の兵士。


 その中で、


「ガルラ様······ガルラ様はどこだっ!?」


 この事態を受け、一刻も早く王の次に権力のある彼の指示を仰ごうと、先の兵隊長はその者を探す。だが、手の空いた兵士に呼び掛けて彼を探しても、見つかったのは双子の兄妹だけ。


「くそっ······! もしや、ガルラ様まで危ないのでは······!? 今すぐ全兵士に伝えろっ! “ガルラ様を探して守れ“と! あの方まで居なくなればこの国は壊れるぞ!!」


 その一声で、全ての兵士達はようやく動き出した。槍に刺さった遺体は乱雑に扱われ、捨てるように下へ放られた。台座のある高所から落ちる遺体もあった。だが、誰一人として観衆はそれには脇目も振らず、ただ、王の居た場所へ向かうか、逃げることかに一心不乱だった。


「こんなことに、なろうとは······」


 ノーヴィスはその地獄絵図を、しばし茫然と眺めていた。


 そして、まだ人の流れはあるが、肩にぶつかる者が居なくなるほどに流れが空いた頃、自分を避けながら左右をすり抜けていく人の中で、()()()()が居ないことに気付く。


「イルフェース?」


 ノーヴィスは辺りを一通り見回すが、その名を持つ者の影は一切見つからなかった。仮に【透過スキル】を除いたとしても、友人は、既に広場ここに姿を置いていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ