49、ノーヴィスの目
「まず、人を浮かせたあのスキル。あれは『ナギ』という者による、一定範囲の人間を浮かせるスキルのようです。そして――私達の手にある“この印“。この印のほうが『ナラ』という者の武器能力で、これが、浮遊スキルの対象から逃れるための効果があるようです。まさに、二つで一つとも言えるスキルですね」
······恐らく、あの双子だろうな。
彼等の名前を聞いたことはなかったが『二つで一つ』。そして、昨日の『いつも通りでいい』というあの会話。そこから推測すれば“あの二人“だろうと容易に考えられた。
「なるほど。王のスキルは?」
浮遊が王のスキルでないとすれば、残るは二つ。銃弾を弾いた『バリア』のほうか、はたまた『この観衆』のほうか。二つの可能性もあるが、そこは低いだろう。おおよその検討はついているが、それでもノーヴィスのスキルはそれらを絶対的なものにしてくれる。
そしてノーヴィスは、その耳で聞いたものを俺に伝えた。
「観衆······いえ、国民を操る王の、主なスキルは【催眠術】ですね。【集団催眠】や【拡声】など催眠を生かす複合スキルは幾らかありますが、ともあれ、手を打つのが発動の合図で、それが全てのスキルのきっかけになるようです。この発動契機を知らなかったら、よほど避けることは不可能でしょうね」
そう言ってノーヴィスは「少しだけ感謝します」と付け加え、「レベルが上がる毎にそれらの効果と範囲も上がるようですが、その辺りも聞きますか?」と目をこちらへ側める。俺は「いや、大丈夫だ」と返した。
消去法で残ったあと一つの能力。
ということは、バリアは“あいつ“のほうか······。
俺は今朝、もう一度城へ潜り込んだが、やはり、あの老人はあの双子と王以外に対した接触はなかった。王との会話でさえ端的なもの。まるで自分の素性は隠し通すような狡猾さがあった。
『ガルラ。それじゃあ頼むよ』
『仰せのままに』
至って見た目に特徴がないのも、あの狙撃のように、自分が“ターゲット“として、目がいかないようにするためのものだろう。実際、あれだけ近くで見た俺も、あの老人はただ“王からの指示を出しているだけ“に思えていた。
「最後にバリアですが、それは『ガルラ』という者によるものです。そのバリア――【絶対防御】は、内から外へは全てが通過し、逆に、外からの物理、魔法、そしてスキル等全ての攻撃を、時間差で対象へ写し返せるようです」
しかしそれも、ノーヴィスが演説前に口にした言葉で可能性としてゼロに近くなったが。
“故人の金は、最後に住んでいた国へ帰属される“
国税を管理している彼が、それを知らぬはずがなかった。そして仮にも彼が【催眠術】を掛けられているなら『頼むよ』という、あの会話すら必要ない。つまり、あの老人は、平然と、顔色一つ変えず、淡々と、この国を支配する一人なのだ。どうしてそこまで金が必要なのかは分からないが、それでもその事実は揺るがなかった。
「バリア自体の対象は、自分も可能か?」
「可能でしょうね。スキルが“対象にバリアを付与“出来るようですから」
「便利な力だな」
「えぇ、とても」
それにしても、こいつには迂闊に武器とスキルは見せられないな。“あの事“まで辿り着いてしまいそうだ。
「分かった。そこまで聞ければ充分だ」




