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48、成立

 隣で目を見開いているノーヴィスを見遣った。


「どうだ?」


 すぐに返事はなかった。もとい、返せないようだった。


「これは、現実ですか······? 貴方のスキルの延長を見ているようです············いえ、まだ此方こちらのほうが優しいですが、それでもこれは······狂っている······」


 拍手喝采を浴びながら両手を広げる王の左右に広がる、死体の群れ。それに喜ぶ観衆。モズの早贄はやにえさながらのその光景は、王を映えさせるためだけの赤い花にも思えた。


「分かってもらえたようで、よかった」


 俺はその串刺しになった人間に対して、何も思わなかった。感覚が麻痺しているのだろうか、決して王の言葉に惑わされたわけではないが、人の死を平等に感じていた。最初から、理想の場所なんてあるわけがない。それを追おうとするなんて馬鹿げている、と。


「貴方は、これを知っていたんですよね?」


 観衆を侮蔑して見る俺に、ノーヴィスは普段の冷静さを取り戻しつつ尋ねる。


「あぁ、今朝方にちょっとな。軽蔑するか?」

「いえ、軽蔑したというよりは引いたほうです。あの取引とスキルを見た後ですから、もしかしたら、貴方なら止められたのではと思いまして」

「多分、止められない事もなかっただろうな。だが、さっきのバリアを見ただろう? 銃弾がそっくり返ったのを。俺は恐らく無事だと言えるが、仮にも撒いた“不幸“が俺の周りに返ったとしたら――お前も嫌だろう?」


 俺は【透過】を使えば、仮に攻撃を返されても回避できるだろう思えた。しかし、その場合対象は何処へ行くのか。また、それまでの攻撃が観衆の誰かを襲わない保証はなかった。


「そうですね。その不幸とやらがどんなものか分かりませんが、とばっちりで死ぬなんてのは御免です。ともあれ――」


 ノーヴィスは一度、自分達より遥か高くにある、遠い台座のほうを見る。王はまだ花と拍手をの中、国民に手を振っていた。


「私の答えは決まりました」


 ノーヴィスはこちらへ目を滑らせる。


「いいでしょう。貴方の要望に応えましょう。ただし、貴方の思うような結果が出るとは限りませんよ?」

「俺のスキルだと見抜いたんだ。きっと望む答えは出るさ。――これで、お互い立派な犯罪者だな」

「明日には、私は素知らぬ顔ですがね」

「お前らしいな」

「どうかくれぐれも、私には害がないようにお願いします」

「あぁ、保証しよう」


 手を振り終えた王は、締めの言葉を述べていた。


「それで、どんな結果だ? お前のことだから、王が狙撃される前から見てたんだろう? その目で。取引のネタにふさわしいかどうかを」


 見透かしたような俺の言葉に、ノーヴィスはこちらを一瞥してから軽く溜め息をし、


「お互い、よく知っているのも嫌なものですね」


 と、前置きしてから答えた。

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